得意分野を見定めてキャリアを決める|手が届く目標を掲げスモールステップで成長しよう

スポーツウィル 代表取締役 中村 勝也さん

Katsuya Nakamura・1966年大阪府出身。地元の進学校から大阪体育大学に入学。卒業後、幼稚園の体育先生として幼児体育に携わる。11年間の幼稚園勤務を含め、幼児・児童の体育指導のエキスパートとして幼児教育の全国的な研究組織の講師も務め子どもたちへの体育指導方法の普及に努める。2000年に独立し幼児・児童の体育スクール「ナカムラチャイルドスポーツ」を設立し、事業拡大に伴い2007年にはスポーツウィルとして法人化し、現職

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自分の得意分野をもとめて! 最初のターニングポイントは体育大学への進学

私のキャリア形成における最初のターニングポイントは、高校から大学への進学時だったと思います。考えた末に進路として選んだのは体育大学でした。

小さい頃から身体を動かすことが大好きで、自信が持てる分野でもありました。人前に出ることも好きで生徒会長をしたことも懐かしく思い出されます。そんな中でいよいよ進路を決めるタイミングで、自分が秀でている能力、つまり、他人に負けない得意分野は何かと自問する機会があり、やはり自信を持てる分野は体育だと思った記憶があります。

絵や彫刻といった美術分野も得意だったのですが、一番自信を持てるのは体を動かし操る能力でした。

子供時代には器械体操をやりましたし、その後は学生時代にサッカー教室で指導者をしたり、スキーのインストラクターを務めたりと、幅広いスポーツ分野で力を発揮できましたね。

体育大学へ進学したその先の未来は、それほどはっきりと思い描いていたわけではありませんが、中学や高校の体育教師になろうかなと考えていました。

両親からは「そんなにスポーツに興味があるなら普通の大学に行ってもできるのでは」と体育大学進学以外も勧められましたが、考えた末に自分が自信を持てる進路を選んだのですから妥協はしたくありませんでした

自分のなかでは専門大学で基礎からしっかり学びたいと考え、大阪体育大学の体育学部へ進学しました。もしここで妥協していれば現在の自分はなかったわけで、まわりに左右されずに自分を貫き通す大切さを感じます

大学では社会体育のゼミを選択し、コミュニティスポーツ健康増進のための市民体育について研究。授業の一環として市民参加の30㎞ハイキングなども企画しました。

バブル崩壊。内定から一転、無職の危機に

卒業後の身の振り方については、大学院への進学も考えていましたが、奨学金を頂いていたのでその返済を優先するため就職の道を選びました。ちなみに大学院への夢はその後、43歳で大学院にチャレンジしスポーツ科学専攻博士前期課程を修了することでかなえました。

大学からは卒業後に職員として採用すると言われていたので内定したつもりでいたのですが、卒業間際になってバブルが崩壊し職員採用が白紙になってしまいました。就活は何が起こるか最後まで分かりません。

当てが外れてどうしようかと思案しているときにゼミの教授から、大阪の私立幼稚園で体育指導の先生をやらないかと持ち掛けられました。

ただし、当時はまだ幼児や児童に対する体育指導の分野は確立されておらず前例も少なく、大学の授業でも習わなかった内容でしたので多少の戸惑いはありました。それでも大学職員の仕事より幼稚園の体育の先生の方が興味深く面白そうじゃないかと前向きに捉えることができたので、その話を受けることにしました。

もしも高校時代に体育大学進学を選ばなかったら、あるいは何のアクシデントもなく大学の職員になっていたら、幼児・児童の体育指導という道には進めなかったはずですし、現在のキャリアもありませんでした。

自分の「好き」と「得意」を人生の早いうちに見つけることができたこと。予期せぬ出来事に動じずに、目の前に現れたチャンスに前向きに取り組んだ姿勢がキャリアを切り拓いてくれたのだと感じています。

書き溜めた反省ノート40冊が財産に

実際に幼稚園で体育の先生になってみると苦労の連続でした。指導に関して参考にできるものが無く、前任者が残した資料も決して体系的な内容ではなかったため、一つひとつを理解するのにも時間がかかりました。そして何より幼稚園児とのコミュニケーションが難問でした。

年少組の場合は2歳、3歳の幼児がいるわけです。「みんな集まれ」と声を掛けても集まらない。「はい座って」と指示しても誰も座らない。

まだまだ年少組ですと、思い通りに言葉や意思がなかなか通じないわけです。指導を終えると毎回汗だくでした。

どうしたら幼児たちを上手に指導できるか。食事中も風呂のなかでも、その日の反省や「あのときこうすればよかった」の思いが途切れませんでした。

そうやって悪戦苦闘すること3年間。ようやくコツのようなものがつかめてきました。その頃には日々書き溜めてきた「反省ノート」は40冊ほどになっていました

せっかくの気づきや反省点を忘れてしまっては何にもなりません。こまめに継続的にノートをつけることで、後々それが宝物になることを40冊のノートが教えてくれました。 

独自に培ったノウハウを武器に独立を決意

勤務していたのは、幼稚園としては大規模で約600人もの園児がいる施設でした。これだけの人数を相手に、一人ひとりに合った指導方法を見出すことは大変な仕事でしたが、おかげさまで鍛えられました。 

どうしたら子どもたちに体を動かすことの楽しさを伝え、親にはその重要性を理解してもらえるか。どうすれば子どもの運動能力を伸ばしてあげられるか。苦労の連続のなかから自分なりの答えを見つけることができ、ナカムラ式運動理論というべきものにたどり着くことになりました。

自分の頭で考えたオリジナルなアイデアだったからこそ、この理論がその後の人生を切り拓く大きな力となってくれました。

他人と同じを意識するのではなく、逆に自分のオリジナルを追求する姿勢は、就活を含む人生の節目を乗り越えていくために欠かせないものではないでしょうか

幼児・児童の体育指導の第一人者としての自覚も湧き、自分の理論やノウハウを広く全国の先生方に知ってもらいたくなり、機会を捉えてセミナーの講師などを務めるようになりました。

本業のかたわら、全国の幼稚園・保育園・こども園による幼児教育の研究組織の講師として全国を飛び回って講師を務め、資料作成にも力を注ぎました。

そうして自分の理論が一段と整理され自信が増してきたころに、もっと大きなフィールドでやってみたいという気持ちが強くなり、勤務先の園長先生からも背中を押していただき、独立に踏み切りました。それが2000年のことでした。

そうして、地元で子ども専門の体育指導教室「ナカムラチャイルドスポーツ」を立ち上げましたが、最初は子どもが集まらず不安で仕方ない時期もありました。それでも何カ月か経つと、最初の2人が友だちを連れて来てくれて4人になり、それがまた8人になりと、次第に人数が増え教室も軌道に乗り始めました。

そうなると今度は貸しスタジオでの授業が重荷になります。時間に合わせて跳び箱などの器具を搬入し、授業が終われば搬出の繰り返しです。自前の教室を持てばもっと効率的に多くの子どもたちを指導できます。指導を手伝ってくれる人材を雇えばクラスの人数も増やせます。

教室を開くための物件を借りたり人を雇ったりするには何よりも信用が不可欠です。そのために2007年には「ナカムラチャイルドスポーツ」を法人化して法人名をスポーツウィル株式会社としました。

こうして徐々に組織を拡大し、現在は関東や九州にもスタッフが常駐し、全部で20人の指導者を抱える体制で年間1万5000人の子どもたちに体育指導をおこなっています

人に好かれるには笑顔と感謝を忘れないこと

私がスタッフの採用に当たって人材選びのポイントにしているのは裏・表のない人物です。

実は子どもたちはまっすぐな目で評価するだけに、人物を見極める力はある意味で大人以上。噓はつけないのです。誰が見ていようと見ていまいと、同じクオリティの指導ができる人材でなくてはなりません。 

それから子どもたちに人気があるスタッフには共通点があります。子どもたちは忖度なしですから人気のある者とそうでない者には露骨に差が出ます。

人気があるスタッフに共通するのは笑顔が良いことです。彼らには人を惹きつける笑顔があります。そして「ありがとう」といったポジティブな言葉がたくさん発信されることです。これは性格が素直で感謝を忘れない心が反映されるのだと思います。 

力づくの指導や上から目線の指導は決して受け入れられません。このあたりは子どもが相手でなくても、ビジネスの場でも同じではないでしょうか。

そして幼児・児童の体育指導の仕事が好きであることです。好きであることの重要性は、どんな仕事も同じではないでしょうか。

たとえば製造業でも、自分がこれから作ったり売ったりするであろう製品・商品に対し、好意的な感情をもたない人は採用されないように、その製品が好きだから、その商品をぜひとも別の誰かに手に取ってもらいたいからその会社で働きたい。そういう風に考えられる人材を採用するはずです。

就職したい企業の商品やサービスを心底好きになることも、就職活動を進めるうえで重要なポイントだと私は考えます

中村さんが考える、もとめられる人材とは

  • 裏表なく常に同じクオリティを発揮する人材

  • 良い笑顔とポジティブな発信力を持つ人材

  • その会社の商品やサービスが大好きな人材

教え子たちの成長が最大の喜び

子どもに関わる仕事の良い点は、教え子たちの成長を見られることです。逆上がりのできなかった子が、指導を通じてできるようになり、鉄棒が好きになってくれたりもします。そういうことだけでなく人間としての成長も垣間見ることができます。

子どもの体育指導を始めて34年になりますが、最近ではかつての教え子たちの飲み会に呼ばれたりする機会も増えました。親子2代でうちの教室に通ってくれる教え子の親子もいます。体育の先生になった教え子もいます。立派に成人した教え子たちを見る喜びは何とも言えません。人に直接かかわる仕事に共通する魅力のひとつだと思います。

これからは教室にくる子どもたちに100%満足してもらうだけでなく、親御さんや周りの人たちに喜んでもらい感動してもらうプラス20%を加えた120%を目指して指導に励みたいと考えています。それが自分の感動となって返ってくることが分かっているからです。

そのための体操器具の開発や、考え方を伝えるための書籍の出版、SNSでの情報発信と、まだまだやりたいことが沢山あります。そして、それらを通して「運動能力は生まれながらにして決まっているのではなく、適した環境と正しい指導を受ければ誰もが身体を動かす喜びを得られること」を伝えていきたいと思います。

手が届く目標の設定が成長のポイント

体育指導をおこなうスタッフや体育指導者を目指したいという人材には日頃から「最も大切なのは教え子のモチベーションを高め、自信を付けさせることだ」と言っています。そのために必要なのは「手の届くところに目標設定してあげる」ことです。 

スモールステップで小さな成功体験を積ませることが、大きな自信につながります。それが背中をグッと押す力になります。まずは無理せずできる範囲の目標を目指す。そのためにコツコツと努力する。それが大切なのは体育指導もスポーツもビジネスもキャリアもみな同じことでしょう。

A君は逆上がりができる子、B君はもう少しで逆上がりができる子、C君は逆上がりができない子だとします。C君はいきなりA君レベルを目指すより、まずはB君のようになることを目指す方がモチベーションは高まります。そしてB君レベルになったうえでA君レベルを目指す。それがC君にとって適したステップです。

スモールステップの考え方

  • 手の届く目標を設定する

  • 小さな成功体験を積み上げる

  • 一足飛びのステップアップは目指さない

人生も仕事も同じで小さな成功を着実に積み重ねる、スモールステップが大事なのです。ところが自分ではステップの適切なサイズが分からない。そこを指導者が設定してあげなくてはなりません。

就職活動も一足飛びに結果をもとめるのではなく、さまざまな情報を頼りに早くからスモールステップを着実に積み上げていくことが重要だと私は考えます

取材・執筆:高岸洋行

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