最も大切なことは自分の信用を築くこと│キャリアの成功に欠かせない人間関係の重要性とは
ハートコア 代表取締役社長 神野 純孝さん
Sumitaka Kanno・1965年大阪生まれ。1989年関西外国語大学卒業後、パイロットを目指し航空自衛隊入隊。数年で除隊しスポーツ用品販売会社を起業、一時は年商60億円を超える企業に育てるも倒産。借金完済の後、2001年外資系IT企業に入社。2009年にハートコアの前身企業、ジゾンを設立、2018年にハートコアへ社名変更し現職
自衛隊から企業の道へ! 事業の失敗という実体験から学びを得た
私のビジネスキャリアは航空自衛隊を除隊してから始まります。
自分で事業を始めようと模索する中、スノーボードと出会いました。まだ日本にはスノーボードはなく、これはきっと日本人にはあっていると感じスポーツ用品関連の事業をスタート。日本全国のスキー場を周りにスノーボードを展開、一時期は年商60億円を超えるまでの成功となりました。
しかし、取引先との連鎖倒産の憂き目にあい、数億円単位の借金を背負うことに。とてもサラリーマンの給与では返済できる金額ではないため、会社を起業し育てては売却することを繰り返しました。
20社ほど起業、売却し何とか借金を完済できました。それで区切りがついたので、2001年に就職先を探して入社したのが外資系のIT企業でした。 借金完済後の再スタートに起業ではなく就職の道を選んだのは、正直に言って、ちょっと疲れたからです。
何十社もの起業、売却を経験してその難しさと大変さが骨身にしみていました。起業し、しかも売却できるくらいに魅力的な企業を育てるのがいかに大変か。本当にしんどい作業でしたし、精神的にも常に張りつめた毎日を過ごしていました。
それに比べれば、私にとってサラリーマンは企業を成長させるというストレスの無い仕事でした。苦労の度合いは自分で事業を軌道に乗せるまでの道のりとは雲泥の差です。サラリーマンの道を選択したのは、借金が完済できたので少し楽をしたかったというのが本音でした。
そもそも起業が成功する確率は極めて低く、国の統計を見ても5年後に存続するのは100社中10数社、10年後となれば3、4社にまで減ります。つまり100発の弾倉に96発の弾丸を装填した拳銃でロシアンルーレットをやるようなものです。
最近では学生からいきなり起業家への道を歩む方もいますが、経験を積んだ上でならともかく、いきなりこれほどリスクの高いことに手を出すのはあまりお勧めできません。
私が起業と売却を繰り返せたのは、一度事業で失敗していたからでした。失敗の体験により、何が失敗を引き起こす理由なのか、どうすれば失敗を回避できるのか、実体験を通じて痛みとともに深く学んでいたからです。
ビジネスの成功は人間関係にあり! 人脈やコネは時間短縮のワープ装置
ビジネスを成功させるため、あるいはビジネスキャリアを形成するために、失敗を含めた経験が極めて重要だと説明しましたが、もうひとつ大切なのが信用と、その信用に裏付けられた人間関係です。
社会人としての信用を培うには自分に与えられた仕事を100%やり切るしか方法はありません。社内でも社外でも、100%全力で仕事をしている者にしか信用は与えられません。手を抜く者やサボる者は必ず見抜かれていますし、絶対に信用されないものです。
外資系IT企業で仕事をしていた時代に顧客からバグへの対応を求められたことがありました。外国人社長に相談すると「バグではなく仕様だと説明し理解してもらうように」と会社の方針を示されました。
しかし、どう考えてもバグはバグ。自分自身、納得できなかったので指示に従わずバグへの修正対応をしたこともあります。それが自分の仕事だと信じ、仕事をやり切ろうと思ったからです。
そういった仕事ぶりや、仕事への向き合い方は取引先もしっかり見ています。勤務していた外資系IT企業の所属部門がなくなりリストラされたのを機に、独立・起業した自分を救ってくれたのも、それまでに培ってきた信用でした。
顧客企業にCMS(コンテンツ・マネジメント・システム)を提供する会社を立ち上げたのですが、最初のうちは営業で苦労しました。
とくに日本の大手企業に行くと必ず「実績は?」と尋ねられます。製品には自信があったのですが、起業したばかりの会社に実績などありませんから当然採用には至りません。
ある時、前職の顧客企業だった大企業に営業した際、私を知っている担当部長が話を聞いてくれました。そこでも基本的に実績がない商品を採用するのは難しいと説明されました。
ただ、その言葉に続けて、「現段階でこの製品への信用はないけれど、神野さんの仕事は知っているし信頼している。だから製品ではなくあなたを信頼してこの製品を採用したい」と言っていただけました。
それがきっかけとなり、以降は大企業への営業も随分とやりやすくなりました。
ビジネスキャリアにおいて人間関係や人脈、コネといったものは、社会人経験がない学生さんが考える以上に重要です。いわばワープのための装置です。たとえて言うなら15万光年先のイスカンダルへ、宇宙戦艦ヤマトが短時間でワープするようなもの。
通常なら何年もかかるような商談や交渉を1カ月でまとめられる力が人間関係にはあります。その力を得るには先ほども言ったように日々の仕事を100%やり切ることしかありません。
失敗も糧にする。人生において無駄な経験は無い
私は今まで航空自衛隊への入隊、起業や倒産、借金の返済、サラリーマンとしての生活、そして現在のハートコアの前身となった会社の設立と、直線的ではないキャリアを歩んできました。
そのため、今までに誰よりも失敗を経験してきましたが、何も後悔していません。むしろ、今までのすべての失敗は一度も無駄だったと感じていません。
今までの経験から確実に言えることは、人生において無駄も失敗も無いと考えています。
私の少年時代はコンピューター系のオタクでした。13歳で初めてコンピューターを自作し、高校時代はパソコンのソフトやハードを売ってお金を稼いだこともありました。
いまでこそ、子供の頃からコンピューターに親しんでいたなどと言えば誉め言葉になりますが、当時は根暗なオタクとしか見なされずむしろ引け目を感じていました。
しかし、結果的にその後の人生でITビジネスに深く関わることになった土台を、引け目を感じていた趣味のおかげで培うことができました。そのような意味でも、人生において無駄という経験は存在しないのかもしれませんね。
失敗しない人間などいません。むしろ失敗しなければ分からないことが社会にはたくさんあります。他人から聞いたりネットで調べたりしただけでは分からない、自分でコケてみなければわからない真実に気づかされ次へ進む。ですから失敗が成功の糧になるのです。
事業で失敗し借金を抱えたのは確かに失敗でしたし精神的に辛かったのは確かです。それでも、諦めさえしなければ次は成功できると信じることができました。また、そこで諦めなかったから現在があります。
「諦めなければ失敗ではない。諦めたときが失敗したときだ」と言い換えることもできます。
神野さんの「失敗」に関するアドバイス
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失敗しない人間はいない
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失敗しなければ学べないことがある
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失敗とは、その目標、夢を諦めた時
就活を成功させるためには、徹底的に「自己分析」と「企業分析」をおこなおう
若者たちがせっかく就職した会社を数日、数カ月で辞めてしまう話を聞くと「もう少し続けて欲しい」と言いたくなります。もちろん法的に問題があれば論外ですが、そうでなければ2年か、最低でも1年は我慢すべきです。数日、数カ月で表面だけを見て会社や仕事の本質を本当の意味で理解するのは難しいと思います。
ましてや転職後の「○年後にはこういう道を進み……」といった将来設計もなく、ただ辞めたい気持ちだけで辞めてしまうのは、これほどもったいないことはありません。辞める前にすべきこと、できることに全てトライしたのでしょうか? たとえば上司と相性が良くないのなら、自分の捉え方を見直す努力など、辞めてしまう前にできる事はあったはずです。
入社前の自身のイメージとはかけ離れている企業に就職しないように、企業研究をしっかりとおこなうことが必要ではないでしょうか。いまの世の中では企業情報が広く開示されていますし、口コミを参考にすることもできます。
同時に自分についても、よくよく見つめてみてほしいですね。就職活動では自己分析も重要です。
自分の市場価値を高く見せたい、自分を認めてくれる会社を選びたいのは当然ですが、そこで自分を偽っていては意味がありません。自分の本音と向き合ってこそ、自分に合った相手、就職先に出会えるはずです。
これからは「自分で考えられる人材」と「プロフェッショナルとして勉強を怠らない人材」がもとめられる
これからもとめられる人財の条件は、自分で考えられることです。
自分で考えられる人財は、何かを判断する際に「何が間違っているか」「何をしたいのか、目標は何か」を立ち止まって考え、正しく判断できるからです。たとえば経営のトップだって間違うことはあります。会社の理念を外れた安易な選択をしてしまうことだってあるかもしれません。
そんな時に「上がこう言っているから」と流されるのではなく、自分で考えることができる人財であれば、たとえ上司や経営トップと意見が違っていても、それを修正し、正しい主張ができるはずです。
自分で考える力を身につける最良の方法の1つは本を読むことです。読書によって思考力を鍛えることはとても大事だと思います。ですから私は若者に対して事あるごとに本を読むことを勧めています。
もとめられる人財のもう一つの条件は、プロフェッショナルとして勉強を怠らないことです。家電販売店にテレビを買いに行き、性能・機能を細かく尋ねたりスペックを確認した際に、即答できなかったり曖昧な返事しかできない店員からは誰も製品を購入しないでしょう。
一方で、知識も豊富でテキパキと応答してくれる店員は、顧客からの信用を得て、販売が増えるはずです。これはどんな仕事にも共通して言えることです。まずは自分が取り扱う製品・商品やサービスを愛して深く知る。それが大前提です。
読書はプロフェッショナルとしての勉強につながります。たとえば30年かけてマッチを発明した者がいるとします。次に学ぶ者は本を読むことでマッチの製造方法をすぐに知ることが可能になり、マッチではなくライターを発明できます。そういう蓄積の上にたとえばジェットエンジンやロケットが実現しています。
もし人類が本を読まない生き物だったならば、いつまでたってもマッチの時代が続きかねません。読書は過去の人々の考えや経験、知識を一瞬にして手に入れられる最良の方法です。
ビジネスにおいても読書で知識を得ることはとても重要です。プロフェッショナルとして活躍するためにも、ぜひ若者たちには積極的に本を読んでもらいたいですね。
取材・執筆:高岸洋行