第一志望がかなわなくても、腐らずにいれば必ず「次の夢」が見つかる|厳しい意見は相手からの期待の表れと理解しよう
LibWork 代表取締役社長 瀬口 力さん
Chikara Seguchi・先代である父の病気により、大学院法学研究科在学中にエスケーホーム(現:LibWork(リブワーク))を継いで以降、現職。創業以来、デジタルマーケティングを強みとした住宅施工販売の事業に取り組み、2014年には経済産業省主催の「ダイバーシティ経営企業100選」に選出される。2015年には福岡証券取引所Qボードに上場、2018年に現社名に変更し、2019年に東京証券取引所マザーズに上場を果たす
大半の夢は実現しない。それでも常に「その時点でのベスト」を尽くしていこう
「これも運命だ。運命を受け入れて、次の夢をつくろう」大学院2年生の時期に父が倒れ、この決心をしたことが、私のキャリアにおける最初のターニングポイントです。
新築や増改築を手がける町の工務店を経営していた父は、現場監督はもちろん営業も設計も自分で担い、毎日夜遅くまで顧客先に出かけるなど仕事熱心な人でした。「お客さんに喜んでもらえて、こんな良い仕事はない」というのが父の口癖でしたが、お葬式にはたくさんの顧客が足を運んでくださり、「仕事を通じて一生の友も得られる、こんな素晴らしい仕事はない。父の言っていたことは間違いない」と確信を得て、この道に入る決心をしました。
弁護士を目指して勉強をしていたので、後ろ髪を引かれる思いはなかったわけではありません。当時は4名ほどの小さな会社でしたし、母も「大変な仕事だから、父と同じ道を歩まなくてもいい」といってくれていましたが、自ら会社を継ごうと決めました。そのときに頭に浮かんだのが、「会社を成長させて上場するぞ! 」という夢でした。
それに法律の勉強をしていたことは、決して無駄ではありませんでした。問題の出どころを探る「法的思考」を学べたことは、仕事のなかでも大いに活かせています。そしてなんといっても、夢だった上場を果たす際にかなり役立ったのです。
上場審査では申請後に複数回のヒアリングや実地調査がありますが、商法を学んでいたことで詳細を理解しやすかったですし、最後の関門である「社長・取締役面談」においては大学院入試とほぼ同じ問題が出たのです。このときには「今までの頑張りが報われた、神様のご褒美だ! 」などと感じたことを覚えています。
こうした経験からも、学生の皆さんには「常にその時点でのベストを考えて行動していれば、キャリアは案外開けていくよ」ということを伝えたいです。
社長という仕事をしていると、若手社員からも「なんでも順調にうまくいってきた」というイメージを持たれがちですが、とんでもありません。第一志望の大学にも受かりませんでしたし、夢だった弁護士にもなっていません。当社を継いでからも、実現できていないことは山ほどあります。
私に限らず、学生時代の夢がそのままかなっている人など、世の中に1%以下ではないでしょうか。ほとんどの社会人が夢に敗れた経験があるはずで、私が思いつく限り、大リーグでピッチャーも4番バッターも任される………なんて夢の人生を歩んでいるのは大谷翔平選手くらいではないかと思います(笑)。
ただひとつだけ誇れることがあるとすれば、決して腐らなかったことです。夢がかなわなかったときに腐ってしまえば、その先はありません。就職活動でも第一志望の企業に入れる人はほんのひと握りでしょう。ただその結果は運命だと思っていったん受け入れてみて、縁あった会社で前向きに頑張っていれば、必ず次の夢が生まれてきます。ワクワクできることが見つかり、次のステージが見えてきます。
それに「今この時点で一番の会社」に入れなくても、ガッカリする必要はまったくないと思いますね。10年後も20年後も、その会社が業界トップであり続ける保証はどこにもありませんし、「成長著しいベンチャー企業に入って、そこから業界トップを目指していく」というキャリアのほうが私などは楽しいです。
当社がそのようなビジョンを持っているベンチャーマインドの企業だからということもありますが、就職活動ではぜひそのような視点も持って考えてみてください。
ちなみに私は中学まで野球をしていましたが、「団体競技でトップになるのは難しい」と感じ、高校では硬式テニス部に入りました。個人競技は自分の実力次第なので「頑張ればトップを目指せるのではないか」と考えたのが理由です。
結果は県大会のベスト8進出で終わりましたが、夢をかなえる可能性を見出せていたこと自体がとても楽しかったです。「一番を目指せることでなければ、おもしろくない! 」という考え方は、今の仕事のスタンスにも通じる部分です。
ファーストキャリアでは特に「社のビジョンや想いに共感できるか」に注目を
キャリアにおける2つ目のターニングポイントは、社員20名弱の段階で新卒採用をスタートさせたことです。
創業期は中途採用で社員を増やし、ある程度、基盤が安定してから新卒採用を迎える………というのが、ベンチャー企業の既定路線だと思います。しかし当社の場合は、小さな会社のうちに先に新卒入社組を迎えて、びくともしないカルチャーをつくり上げてから中途採用を増やす、という逆の順番で会社を大きくしてきました。
新卒採用を始めたきっかけは、「中途採用のメンバーと想いを共有できず、社内がバラバラの方向を向いている」と感じたのが理由です。「社のビジョン自体を共有できる社員を増やしたい」「当社のカルチャーを作りたい」という思いが大きくなり、思いきって新卒採用に舵を切りました。
しかし当時の当社はコンビニエンスストアまで30分もかかるような立地で、福利厚生制度なども大企業などには遠く及ばない条件しか提示できない状況。「当社のような会社に来ていただけるだろうか」と心配はありましたが、自分の足で近隣の大学に出向いて「今はこの規模ですが、会社を成長させて上場企業になって、日本一給料が高い会社にします! 」といった思いやビジョンをプレゼンして回りました。
すると「こんな会社はなかなかない」と面白がってくださり、8名もの学生さんが入社を決めてくれたのです。彼らは今も当社にいて、管理職として成長してくれています。
会社のビジョンを共有できるかどうかは、「社が下すビジネスの決断に納得ができるかどうか」という部分にもかかわってきます。たとえばですが、最初から「全国展開を目指す」というビジョンを掲げている会社であれば、何年か後に転勤が発生しても「想定内のことだ、よし頑張って新しい街を開拓していこう」と納得ができると思います。
しかしビジョンに共感できない状態で入社すると、「県内で良い業績が出ているのだから、安定路線に舵を切ればいいのに」「このエリアで働けるから入ったのに、話が違う」となってしまうことでしょう。
新卒入社というのはまっさらな状態で、会社のカルチャーにも一番なじみやすいタイミングです。ファーストキャリアというのはその点で特別だと思うので、だからこそ「会社が掲げているビジョンや想いに共感できるかどうか」は必ず確かめたうえで、就職先を選ぶことをオススメします。
真の「顧客重視」は簡単ではないけれど仕事の楽しさややりがいは大きい
また当社が何より大切にしている企業姿勢として「顧客重視」があります。「顧客重視」と「社員重視」の両方を打ち出している企業もありますが、厳密に言えば、この両者は相反することが少なくありません。
たとえば顧客の住まいで何かトラブルがあったとき、前者であれば休日でも駆けつけるでしょうし、後者であれば「休日は対応しません」となりますよね。「お金や生活の手段のために働く」という方にとっては、前者の会社とはマッチしない可能性が高いです。
当社は前者の会社なので、採用前に「うちは本当に顧客重視だけど良い?」と必ず確認しています。「ただその分、仕事でのワクワクする感覚や会社が成長する楽しさはあげられるよ」ということも伝えていますね。
実際にイチ社員という位置づけではなく、オーナーシップ経営を導入しており、社員には毎年自社株を付与しています。自分の仕事の頑張りが「株価上昇」という形でも還元される状況になってからは、社員たちの目線も経営層に近い目線に一段上がった気がします。
顧客重視の考え方は、父の時代から大切にしているものです。ただし一度だけ、「この方針で本当に良いのだろうか」と本気で悩んだことがあります。2016年、熊本地震が起きたタイミングです。
このとき多くの顧客宅が被災し、社員総出で顧客の家に被災ボランティアに出向いていました。顧客に連絡をしてみると「水道が止まっているので、とりあえず水が欲しい」という要望が多く、序盤は水を届ける場面が多かったですね。その後は住宅の被害箇所を調査して順次、修繕対応をしていきました。
ただ自宅が被災している社員もおり、避難所から会社に通ってくれていた社員もいました。「社員の家がままならない状態なのに、顧客の家を優先させる方針で良いのか」ということには、苦しいくらいに悩みましたね。もしかしたら被災直後は、社員たち自身も「なぜ顧客先に出向いているのだろう」と思う瞬間があったかもしれません。
ただ実際に出向いてみると、逆に顧客から力をいただく場面が多かったようです。「来てくれてありがとう、本当に助かった」と多くの方が涙を流しながら感謝の言葉をくださるのを見て、自分たちが大事にしてきたものの価値を改めて感じた社員も少なくなかったと聞いています。
「会社がどういう考え方をしているか」は、こういった不足の事態の際の判断にも現れてくるので、自分の価値観とリンクしている会社に勤めたほうが、長く幸せに働けると思います。
厳しい意見は期待の表れ。スキル偏重にならず「見識を広げること」にも注力してみよう
サービス業においては、「どうしたら顧客が喜ぶか」ということを常に考えながら動いている人は、どのような業種でも活躍できると思います。
そうした目線を持っている人は、仮に顧客から厳しい意見をいただくことがあっても、落ち込むことが少ないです。なぜならクレームは期待の表れだからです。本当に呆れている顧客は、何も言わずに去っていきます。
厳しい意見をいただいた顧客に向き合って前向きに取り組んだ結果、長期的なお付き合いに発展したケースは、当社でもかなり多いです。他の顧客まで紹介してくださるような良好な関係に発展したケースも少なくありません。「いろいろあったけど、あなたに頼んで良かった」なんて言っていただけると、最初からスムーズに進んだ案件よりもグッときたり、心に残ったりするものです(笑)。
「厳しい意見をもらうのは、相手から期待をされているからだ」と理解する習慣を身に付けておくと、そうした場面が訪れたとき、自己成長や相手との関係を深めるチャンスにつなげていけると思います。
また最近の学生さんと話していると「スキルを身に付けたい」「効率よく仕事をこなしたい」という考えの方が増えているように思います。自分の手を動かす仕事をしたい方にとってはそれも大切なことかもしれませんが、コンセプトや課題解決など”上位概念”に携わる仕事がしたい人の場合は、あまり効率やスキル重視になりすぎず、「人生の幅を広げること」に時間を使うことを勧めたいです。
仕事は学業や仕事以外の経験からヒントが生まれることも多いので、いろいろな人と話し、いろいろな考え方を学んで見識を広げておくと、それが社会人になってからの土台になります。
「学生時代という貴重な時間を使って、こんなおもしろい体験をしました!」と語れるような出来事も、ぜひいろいろとやってみてください。そういう人は仕事でもおもしろいことができると思います。そして「仕事が好きな人」になることも、社会で活躍する人材の共通点です。
絶対に諦めない姿勢で上場を達成。「世の中を変えている感覚」がキャリアの充実感に
冒頭でも触れましたが、当社は2019年に東京証券取引所マザーズに上場しました。社長になった日からの夢がついに実現した、という意味で、ここがキャリアにおける3つ目のターニングポイントになりました。
しかし上場に至るまでには、数々の壁がありました。そもそも当時の熊本には上場企業が5社しかなく、一番新しい企業でも「10数年前に上場した」という状況で、上場経験のある経営者に話を聞くことも難しい状況でした。
2017年の時点で「2年後に上場したい」旨を監査法人の担当者に伝えたところ、「99.99%無理です」と断言されました。及第点からほど遠い社内体制であること、期間的にも短すぎることを指摘されましたが、「では数年先に伸ばそう」とはどうしても思えなかったのです。
しつこく食い下がり、しまいには上長の方も呼んでいただき、「0.001%でも可能性があるんですよね? 」「どうやったら審査を通過できるか具体的に挙げてください、私が先頭になって動きますから! 」と説得しました。
リストアップしていただいた課題は数百項目あり、初めてそれを瞬間は「マジか、これを全部やるのか! 」と思ったのも事実ですが(笑)、一つひとつの項目を棚卸しし、半年間をかけて自分の手で解決していきました。
普通の会社であればIPO部門や担当者がいて、社長は最後の面談だけ登場するのが一般的で、「社長自ら上場審査担当者になって取り組んだ」というのは、当社くらいかもしれません(笑)。すべての項目を改善し、監査法人の方に「OKです」といっていただけたときの手応えは、本当に大きかったですね。
この例からも分かるとおり、私はかなりのポジティブ思考です。「諦めるという選択肢はない」くらいに思っており、常に「どうすればできるのか」を考えるほうに意識を向けます。この前向きなマインドが、日々の行動におけるすべての核になっているように思います。
以前は「熊本でNo.1」を目指していましたが、県外に進出していくにあたっては、全国区のハウスメーカーがライバルになります。上場を果たしたことで、「そうした会社と同じ目線に立たなければならない」と私自身の目線も一段上がった気がします。
会社の格が上がった実感もあり、AfternoonTea(アフタヌーン・ティー)と戸建て新ブランド「AfternoonTeaHOUSE」を立ち上げたり、アパレルブランド「nikoand…(ニコアンド)」と戸建て商品を開発したりと、有名企業とコラボレーションをする機会も数多くいただけるようになりました。
最後に、私のキャリアにおける充実感の変化についてお話しします。会社を継いだ頃は顧客の住まいに対する夢を実現することに、何よりの充実感を感じていました。もちろん今もその目線は持っていますが、それに加えて「業界そのものを大きく変革したい」ということも考えるようになりました。
そのうちの一例ですが、YouTubeチャンネル「LibWorkch」を活用して販売促進をおこなう取り組みが好評をいただいています。ITブームの頃に当社を継いだこともあって当初からインターネットの活用には注力しており、デジタルマーケティングにも長年コツコツと取り組んできていました。
最近ようやくその成果が目に見えてきており、動画1本あたり平均約5万回再生されるように。動画をきっかけに全国の顧客から「家を建てたい」という相談もいただけるようになっています。
また現在は「いろいろな住まいの形を提供して、住宅業界のAmazonになるぞ! 」という野望も掲げており、「3Dプリンタを使った住宅を開発し、全国に販売する」という新規事業の調査で、近々ヨーロッパにも出張予定です。このように一つひとつのアイデアがカタチになり、「世の中を変えているぞ」という感覚になれる瞬間が、今はとても気持ちいいですね。
取材・執筆:外山ゆひら