あなたの大切な時間を費やす価値のある仕事へ|達成感があれば、頑張りや苦労は報われる
アイ・ティー・エス・ジャパン 代表取締役 網屋 信介さん
Shinsuke Amiya・新卒で国内大手証券会社に就職、28歳で米国の投資銀行に転職し投資銀行本部長、取締役副会長兼投資銀行会長などを歴任。その後、上場会社の財務再構築や衆議院議員、経営コンサルティング会社を経て、2021年2月からアイ・ティー・エス・ジャパン顧問として入社し、同年7月より現職
50歳で政治家に挑戦。世の中を変えるために起業を決意
新卒では証券会社に入社しました。外回りとオフィスワークのバランスが取れた働き方が合っていると思ったからです。
その後、外資系の投資銀行を経て、投資銀行の本部長や会長などに就任し、東証一部企業の社長として、財務再構築や資本増強を実現しました。キャリアを積み重ねてきて、ふと思ったのが、「世の中に対して自分が貢献できることはないか」ということです。
父が政治家をしていたので、政治家の道へ進むことが頭に浮かび、当時、二大政党制に移り変わるという変革の時期だったため、私も挑戦してみたいと一念発起しました。50歳にして、政治の世界に足を踏み入れ、衆議院議員として活動を始めました。
実際にやってみて、政界では政治家一人が影響力を持つためには、膨大な時間が必要であると痛感しました。数百人もの政治家がいる中で、自分の存在感を大きくしていくことを考えると、50歳から始めるのでは遅かったのです。
そこで、ビジネスの世界に戻ることにしました。会社という形であれば、時間は掛かるかもしれませんが、確実に世の中の一部を変えていくことはできます。
今までは大企業に勤めていましたが、自分で起業することを決意しました。2013年、エス・エー・コンサルティングを設立。クライアントの多くは中小企業で、大企業との組織論や経営論の違いを肌で感じました。
たとえば、大企業は知名度や信用度が高く、仕事のやりやすさはありますが、若いうちから社内で大きな変革を起こすのはなかなか難しいです。一方、中小企業は仕事で苦労することは多いかもしれませんが、裁量をもって仕事に取り組んだり、社内で意見が通りやすかったりします。
「好奇心」と「目標設定」で達成感を生み出していく
仕事において大切にしているのは、常に好奇心を持つことと、目標設定をすることです。
前者については、自分に与えられた仕事をするだけでなく、周りの人が何をやっているのか、周囲ではどのような問題が起こっているのかを観察することが大切です。
そうすることで、自分一人の経験だけでなく、先輩や同期の考え方や感じ方、問題解決方法などを吸収することができます。新卒の頃から周りの人に目を向けていると、10年、20年経ったときに想像以上に大きく成長していると思いますよ。
目標設定については、最初から100点を取るのは難しいので、30点、50点、80点と少しずつ点数を上げることを意識しましょう。
特に入社して1年〜2年くらいは、仕事を覚えることに精一杯で、目標設定を意識するのが大変かもしれません。計画通りに進まないことも多いでしょう。
そんなときは、目の前の仕事に対して、「このお客様から必ず契約を取ろう」などと、小さな目標を決めてみましょう。一つひとつの仕事に向き合って、達成感を覚えていくことで、いつの間にか成長していたり、仕事へのやりがいを感じたりしていきますよ。
仕事で何をやりたいのか。何を感じたいのかを大切に
充実したキャリアを送るために重視したほうが良いのは、自分が何をやりたいかです。
会社に入ると、ポジションやキャリアを高めることに目がいく人も多いかもしれませんが、たとえば管理職になるチャンスがあったとしても、「管理職の仕事は本当に自分がしたいのか」という視点を見落とさないようにしてくださいね。
というのも、一般的に管理職になると、社内での業務が増えたり、何人もの部下を管理したりするようになります。リーダーシップを発揮したい人や、人を動かしたい人にとっては最適なポジションですが、お客様と接するのが好きな人にとっては、そうではないと思います。
自分がやりたいことと、ポジションや仕事内容が一致しているかどうかを、定期的に見つめ直すと良いと思います。
私自身は、プロジェクトを完遂したときに達成感を覚えるタイプだったので、そういう仕事をしていると、苦労することも苦ではなくなっていました。
これは部活と同じですね。練習では心身共に疲弊しながら向き合い続けて、もうダメかもしれないと思う瞬間があっても、試合に勝ったら全てが報われる。それと同じように、仕事でもプレッシャーやストレスはたまりますが、最後に達成感さえあれば、それらから一気に解放されるんです。
特に印象に残っているのは、私が中心となって進めたプロジェクトが、日本経済新聞の一面に掲載されたり、スクープニュースで取り上げられたりしたことです。世間を騒がせているこのプロジェクトは、自分が進めたものだと思うと、気持ちが高ぶりましたね。
私のように、注目を集めることに喜びを感じる人もいれば、それよりも、大きな収益を上げること、お客様に感謝されること、チームワークを発揮することにやりがいを見出す人もいるでしょう。ぜひご自身の充実感を得やすい状況を考えてみてくださいね。
また、今後のキャリアにおいては、社長として、自分と同じ判断力を持つ部下を育てていきたいです。社長はプレイヤーとは違い、社員に動いてもらうことで、初めて目的が達成されます。
正直、私がやったほうが早い仕事もありますが、そこでぐっと堪えて、部下にやってもらう必要があります。そうしないと、部下が成長しないからです。社長業にはもどかしさもありますが、それが面白さにもなっています。
基本的には、社員には一定のルールの下で好きなように仕事をしてもらい、その責任は私が取るというスタンスを取る様にしています。細かく指示をしすぎるのではなく、必要なときにアドバイスをするような感じです。これからも自分で考えることのできる社員の育成に注力していければと思います。
自分にとって価値のある仕事や、楽しめそうな仕事を選ぼう
企業や業界選びにおいて大切にしたほうが良いのは、「知・好・楽」という考え方です。何をするにしても、知っている人より好きな人、好きな人より楽しんでいる人には勝てないという意味です。
ちなみに楽しいというのは、決して楽をすることではなく、大変なことさえも楽しむということです。まずは仕事の知識を得て、好きになって、楽しんでいく。このプロセスを経ていけそうな企業や業界を選ぶようにしましょう。
選び方のポイントは、どのような人が働いているかです。特に新卒のうちは、周りの人の影響を受けながら、「知・好・楽」が進んでいくことが多いため、自分を導いてくれる人や、一緒に働きたい人、尊敬する人などがいる環境を選ぶと良いです。入社後にそういう人に出会う場合もありますが、就活をするときにも意識してみてくださいね。
また、仕事を決めるときは、「大切な人生の時間を費やしてまで、チャレンジする価値があるものか」ということも考えてほしいです。どうしても目先の給料や待遇に惹かれることも多いですが、それはあまり大きな問題ではありません。
ご自身の目指している姿や、やっていきたいこと、そして何より、その仕事を面白そうだと思えるかどうか、といった視点をもとに、ご自身にとって価値のある仕事かどうかを判断してみてくださいね。
網屋さん流 企業や仕事選びのポイント
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「知・好・楽」を実現できるかどうか
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どのような人が働いているか
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大切な人生の時間を費やす価値はあるか
就活において大切なのは、できるだけいろいろな人と会うことです。採用担当者だけに会うと、会社の良いところだけを伝えられることも多いので、本音で話してくれる社会人の先輩にも話を聞けると良いですね。
なかなか就活が上手くいかないときは、きちんと分析をして場数を踏むことで、現状を打破できると思います。たとえば内定をもらえなかったときに、そのままにせず、何が原因だったのかを自分なりに考えてみましょう。
また、これは面接官の経験があるからこそ分かることで、面接官は学生の個性を重視しています。就活の対策本やネットに出ているような内容を話していると、それは必ず気づかれます。というのも、少し深掘りをすると、その後の言葉が出てこないからです。
必要以上に模範回答を準備せずに、自分の意見や思いを伝えることを意識しましょう。その姿勢を大切にしていれば、ご自身の個性に合った会社と巡り会えるはずです。
今後もとめられる人物像は、普段から考える習慣のある人です。いろいろな情報に触れたときに、それを聞き流すのではなく、「なぜこのようなことが起こるのだろう」と思考できる人は、仕事でも活躍していけるでしょう。
お客様に対して、どうすればもっと価値提供できるのかと考えたり、お客様の言葉や反応を受けて、本質的なご要望をキャッチしたりできるようになります。
仕事をしていると、みんな必ず困難に直面することがありますが、自分にとってチャレンジする価値のある仕事ならば、すぐに諦めないことが大切です。大きな仕事を任される機会や、ここぞという場面に備えて、普段から地道に努力を積み重ねていきましょう。
取材・執筆:志摩若奈