自分の人生は自身でデザインをする│経営を学ぶことでキャリアの道が開かれた
社会保険労務士法人 レクシード 代表 鈴木 教大さん
Norihiro Suzuki・大学卒業後、小売業の会社に入社した後、実家が経営する農家支援や飲食業等の会社に3代目社長候補として入社。その後、社会保険労務士を目指して勉強をスタートし、28歳で社会保険労務士資格を取得。32歳で退職。行政の仕事に2年間携わった後に、35歳で社会保険労務士法人 レクシードを設立し、現職
企業詳細:コーポレートサイト
自分がやりたいことをやるために、経営の知識を学び続けた
高校時代から経営の勉強にはまり、週に平均2冊のペースで経営に関する本を読んでいました。経営を学ぶことが素直に楽しく、大好きだったのです。大学で経営学部に進んでからはより本格的な本を読むようになり、社会人になってからは休日や昼休みなどのちょっとした空き時間を活用しては本を読み、有料の経営セミナーにも数えきれないほど足を運びました。
20代は、余暇のほとんどの時間を経営の勉強に費やし、ありとあらゆる経営本を読み漁りました。もうこれ以上読む本はないというくらい読んだので、20代後半には新刊の経営本を読んでもほぼ書かれていることは理解できている状態、正直、目新しい情報はないのであまり得るものはないなと感じるほどでした。
鈴木さんの経営の勉強法
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高校時代から平均週2冊、経営本を読む
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社会人になってからも、休日、昼休みなどの時間を活用して継続
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本で学ぶことに加え、有料の経営セミナーに積極的に参加
経営に興味をもったきっかけは、おそらく父が事業をやっていたからだと思います。ただ、いつかは継がなくてはいけないのかなとは考えていましたが、その家業を継ぎたいとは全く思っていませんでした。その理由はシンプルで、自分のやりたい仕事ではなかったからです。
私にとって経営の知識を学ぶことは、家業の道に進むためにやっていたことではなく、自分が自分自身であるために、自分でなければできないことは何かを考えるために極めようと考えていました。
頭の中に幅広い経営の知識、引き出しを数多くもつことで、自分がどう動くべきか、自信をもってザインできるようになります。一言でいうと、「自分の人生をデザインする」ために貪欲に経営を学び続けました。
今では偉そうに言っていますが、20代半ばごろまでは、このまま父の後を継ぐのは嫌だと言って、自分自身本当にやりたい仕事を探し、ひたすら迷い、悶々とする日々を過ごしました。
かつて私がそうであったように、今現在、将来どのようなキャリアを築いていこうかと考えてもはっきりと描けないのは当たり前のことだと思います。
私自身は、経営の知識というスキルを武器に迷いから抜け出し、会社や人をサポートするという、自分にとって天職ともいえる社会保険労務士という仕事に辿り着くことができました。
今将来を描けなくても大丈夫です。しかし、学び続ける、自分自身の引き出しを増やすための努力は怠らないでほしいと思います。
26歳で新たなキャリアの道を選択、「企業における人の問題をサポートしたい」
大学卒業後は、一旦小売関連の会社に就職しました。こういう道に進みたい、という明確な目標が描けていなかったので、良くも悪くも20代は修行期間と捉え色々な業界を見て回りたいと考えてたのです。
ところが、わずか1年半が過ぎたころに父が脳梗塞で倒れ、24歳で父の経営する会社に入社することとなりました。
想像してはいたものの、環境的に入社することしか許されませんでした。3代目社長候補という形で入ったのですが、親子の関係なので全くうまくいきません。周りの社員からしても、経験も能力もない若者が突然やってきて偉そうにしているのは面白くなかったでしょう。
私自身、やや天狗になっていた部分もあり、社長との関係だけでなく既存の社員とも全くうまくいかず八方塞がりのような状態でした。
農家の支援や飲食業など複数の事業をやっていたのですが、どれも強く関心のある仕事ではありませんでした。自分にしかできない仕事があるはずだ、本当にやりたいことは何なのかと考え続ける日々となりました。
悶々とした時間を過ごしながら、必死になってこの先のキャリアを模索していたところ、26歳のときにようやく「私には経営のサポートをする仕事が合っている」と気づくに至りました。
税理士か社会保険労務士のいずれかの資格を取って進んでいこう。ようやく道が少し見えてきました。
となると、どちらがより自分に合っているかです。毎日数字と向き合う税理士は性格的に向いているとは言い難い。それよりも、社会保険労務士として企業における人に関するサポートをしていきたいという気持ちが強くなりました。
私自身が3代目社長候補でありながら、社内で良好な関係を築けず事業継承に失敗するような経験をしていることから、当事者としてのこの体験も生かせる仕事である点も決め手となりました。
すぐに勉強をスタートし、28歳で社会保険労務士資格を取得しました。ただ、資格をとっただけで独立できるほど甘いものではありません。3代目社長候補から抜け出すには、資格プラスαの何らかの武器を見つけなければいけない。そう考えていた矢先に大きなターニングポイントがやってきました。
それまでも親子関係はうまくいっていませんでしたが、32歳で父と決定的な大喧嘩をしたのです。二人目の子どもがまもなく産まれるという頃で、できればトラブルを起こしたい時期ではなかったのが正直なところです。
きっかけは小さなことだったのが感情のもつれから大きな問題へと発展し、最後はまさに売り言葉に買い言葉で「そんにやりたいことがあるならやればいい」と父に言われたので、「おお、やってやるよ」となったのです。
実際に会社を飛び出すには何かしらきっかけが必要だとは思っていたので、チャンスを待っていたようなところはありました。結果的に思わぬ形で突然飛び出すこととなったのですが、これは二度とないチャンスだと思いました。やるしかない。今振り返っても、あのタイミングを逃していたら今はなかったと思います。
32歳ではじめて無職生活を体験することとなりましたが、これは思いのほか堪えました。
それまでの貯金はすべて妻に委ねたので、現実問題として子どもにジュース1本すら買ってあげるお金がありませんでした。収入がゼロになるとはこういうことか……。はじめてお金に苦労するという経験をして、これまで毎月安定的にお金が振り込まれてきたことのありがたさを知りました。
経営知識があるからこそ、自分がどう動くべきかを自信をもってデザインできる
半年の無職期間を経て、運よく行政機関の非常勤社員の求人を見つけました。労働局や年金事務所などの現場で働くという仕事であったことから、行政の現場を経験することは社会保険労務士としての大きな武器になると確信してチャレンジしました。2年間の現場経験を経た後、35歳で独立し事務所を開くことができました。
32歳で家業を捨てて飛び出したときにやったことは、それまでずっと温めてきた49歳までのキャリアプランを明確に描くことです。
社労士資格を決めた時点から、既存の社労士のビジネスモデルから脱却する必要がある、自分しかできない、自分らしい社労士を目指そうと考えてきました。社会保険労務士法人としてどういう組織を目指すのか、いつ何をやってどう成長していくのか、ひとまず49歳の時点でこうなっているというシナリオをはっきりと書き記しました。
キャリアプランのベースとなっているのは、学び続けた経営の知識です。
経営知識の引き出しを沢山もっているからこそ、自分がどう動くべきか自信をもってデザインできます。引き出しの数では周りの社労士さんに負けるつもりはありませんし、クライアントに日々関わる中でも経営に関わる幅広い提案ができると自負しています。
私がキャリア選択で迷ったときにいつも考えるのは「将来につながるかどうか」です。自分が描いたキャリアプランに近づく選択なのか、そうでないのかを軸に選択してきました。今振り返ると、すべての経験が今につながっていると感じています。
中小企業の中にこそ、若い人のスキルを大きく伸ばす環境がある
20代は、先々のキャリアが描けなくて当然だと思っています。20代はむしろ、貴重な学びの時期だと考えます。正直、給料などは後からついてくるものです。20代の間はあまり考えない方が良いと私自身は思います。最も大切なのは、自分の存在価値を高めることができる会社か、成長できる環境がある会社かという視点です。
会社の掲げるビジョンが、社長の熱い思いが込められた本気度の高いビジョンなのか、もしくは何となく響きのよい言葉を並べただけのものか、しっかり見極めることも大切です。
そして、皆さんの多くは大企業の中だけで就職先候補を探していると思いますが、「成長できる環境がある」「会社のビジョンに経営者の熱い想いが込められている」という視点では、中小企業に広げて企業探しをしてみることを強くおすすめします。
企業探しをする上で大切にしてほしい軸
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成長できる環境があるか
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会社のビジョンに経営者の熱い想いが込められているか
私自身、多くの中小企業とお付き合いをする中で、若い人のスキルを大きく伸ばす環境が用意されている会社が数多くあることを知っています。ただ、大手のように採用に予算をかけられないため、大手人材求人サイト等で検索しても出てこない会社がほとんどなので、探し当てるのはなかなか難しいことも知っています。
就職活動をしている学生さんには気づかれにくいのですが、いざ中小企業に目を向けてみると、成長性のある事業を営んでいて、社員もハイスピードで成長できる環境の会社が実はたくさんあります。ぜひそのことを知っていただき、大手求人メディアには出てこない中小企業にも幅を広げて探してみてください。
20代で、自分の価値を大きく高められる会社と出会ってほしいと願っています。
会社の本質を見極めるために、 社長と対等に「対話」をしてみよう
実際に入社する会社を見極めるポイントとして、会社と社員はイーブンの関係であるとまず理解しておくべきだと思っています。社長が上、社員が下となると、その時点で仕事がトップダウンになってしまって、言われたことをやるだけの関係になってしまいます。
本来、会社と社員はイーブンの関係なので、社員側にもいかに会社の価値を高められるかをもとめられるのも当然です。勿論、入社当初にはできることが少なく、貢献度合いが低いのは当たり前です。その後、自分のスキルを高めて会社の利益に貢献できる人材になれるかどうか、です。
会社の価値を高めることに貢献していけば、同時にその人自身の価値も高まっていくことになります。そう考えると、自分が成長できる環境があるのか、自分の人生を預けるに値する会社であるかを自ずと真剣に考えることになるのではないでしょうか。
面接のマニュアル本に書いてあるような形式的なやり取りでは、本質的なところは見えてこないと思います。真剣に会社を見極めるには、一方的に社長や人事担当者の話を聞くのではなく、対等に「対話」してみることをおすすめします。
対等に話しができる会社であることこそが、会社を見極める重要ポイントだと私自身は考えています。
今後もとめられるのは「スキルを磨き続ける人」
これからの時代には、スキルを磨いている人材がもとめられると考えます。若い人に伝えたいのは、とにかく成長意欲をもってほしいということ。そして、学び続ける姿勢がもとめられると思います。
私自身もスタッフを採用する中で、成長しようと一生懸命取り組んでいる人を高く評価します。
どんな仕事にも前向きに取り組んできた姿、与えられたポジションで最大限努力してきた姿、壁にぶつかっても乗り越えてきたであろう姿は職務経歴書からはっきりと読み取ることができるものです。そういう姿にやはり惹かれますし、それはどの企業でも同じなのではないでしょうか。
団体スポーツに熱中した経験がある人は、総じて評価が高いなと感じることも多いです。仕事をやっているとやはり、くじけそうになるときが多々あります。スポーツはそのつらさを乗り越えてこそ結果につながっていくものだと思うので、スポーツを通して壁を乗り越えてきた経験がある人は非常に強いと思います。
学び続けてスキルを磨くことがこれまで以上にもとめられる世の中になっていくと考えますが、例えばお客様からお叱りを受けて対応しなくてはならない、となったときに生きてくるのは、実はそういう精神的な部分が大きいと感じています。
タフな精神を磨くという意味では、スポーツを通して身に付けておくのが最も良い方法ではないかと思います。
20代で感じる壁は、実は本当の壁ではないと知ってほしい
20代は自分の価値を高める時期です。この時期の学びが後々に大きくつながっていくことでしょう。
一方で、自分自身の20代を振り返って思うのは、20代のときに見えている壁は壁ではないということ。もっともっと大きい壁があり、まだ見えていない景色があるのだと自覚しておくべきだと思います。
会社を辞めたい! と思うときもあるはずです。そのときどきで辞めたいと思う具体的な要因があると思うのですが、もし目の前に立ちはだかる壁から逃れたくて辞めようとしているのならば、立ち止まった方が良いと私は考えます。
何より、せっかく入社した会社を、辞めるという道を一番に選ぶのではなく、一度立ち止まって思い直してみてほしいなと思っています。
壁と感じた課題と向き合い、本当に乗り越えることができない壁なのか、一度客観的な立場になって考えてみることをお勧めします。
取材・執筆:小内三奈