カンボジアで起業しキャリアの目標を見つけた│明確なビジョン設定が行動指針となる
クルイト 代表取締役CEO 大濵 裕貴さん
Ohama Yuki・高校時代から起業家を志し、大学では教育ベンチャーでのインターンから、中国でのクリニック開業に携わる。その後、カンボジアでのサロン経営を経て、帰国後の2013年、イトグチを設立。さらに教育関連のメディアを運営するCluexを設立。2020年、両社を束ねるHDであるクルイトを設立し、現職
大学生で中国への事業進出の責任者を経験!
思い返せば高校生の頃にはすでに、将来経営者になりたいと考えていました。きっかけは友人の父親でした。
友人の父親は会社を経営しており、遊びに行くといろんな話をしてくれました。地域の雇用を作っていくとか、ビジョンが明快かつ社会貢献度も高くて、人間性も素敵な人でした。その影響もあり、自然と京セラの稲盛和夫氏やソフトバンクの孫正義氏にも憧れを持ちました。
それで、大学在学中には起業しようと考えました。なんのビジョンもなかったんですが、とにかく起業を目指して東大の起業サークルに行ってみたんです。
しかし、このサークルにはなんと入部選考があって、入れませんでした(笑)。
それならと、今度は慶応大の起業サークルに足を運び、無事潜り込むことができました。そこで企業インターンの存在を知り、早速手をあげたのが現在のキャリアにつながるきっかけです。
インターンでは武田塾の社長と知り合い、さまざまなことを経験させてもらいました。その一つが中国での起業です。
大連で日本人向けのクリニックを作る計画があり、当時20歳だった自分がその一切の実務を任されることになりました。ビジネスのビの字も知らない、ただの大学生に全てを一任するなんて、信じられないですよね。でも責任者を任されたからには、なんとか形にしようと必死でした。大学も休学して、必死でもがいていたことを思い出します。
憧れていた経営者という存在が、身近なものになり、目指すべき道に変わった経験でした。
憧れとかぼんやりした夢はバカにするものではありません。ぼんやりしていても、夢があるから行動できるし、切り開かれる道もあると思います。
思い切ってカンボジアで起業! 異国での挑戦
経営者の手足としてですが、クリニックの立ち上げを経験したことで、自分の起業も夢物語ではなくなってきました。とはいえ信用も資金もないので、親戚に頭を下げてお金を借りて、起業のためカンボジアに向かいました。親は起業なんて猛反対でしたね。
当初はカンボジアでもクリニックを開こうと考えていたのですが、なかなか難しく、エステサロンを開業することにしました。カンボジアには日本人の観光客が多いのに、日本人向けの施設が少ないという理由で決めたので、国のことも、エステのことも、全くの素人でした。
勢いまかせの出たとこ勝負で開業しましたが、オープン時は雨季。突発的に土砂降りがあるので、観光はローシーズンで、お客さんが一人も来ない日が続きました。実はカンボジアに雨季というものがあることさえ、知らなかったんです。4〜5カ月は全く売上もあがらず、一緒にやっていた人も仕事を離れ、苦しい日々でしたね。
そうは言ってもビジネスを存続するために、なんとか稼がないといけないので、観光客向けのマーケットでお菓子を売る露天商のようなことをしたり、日本からやってくる観光客のアテンドをしたりして、しのいでいました。
一方でWebの運用を徹底的に見直し、しっかりとマーケティングしたことで、ようやくエステサロンも注目を浴びるようになり、半年後にはお客さんもいらっしゃるようになりました。
その後、このサロンは手放し日本に帰ったのですが、初めての起業を通して「行動」の重要性を痛感しました。
どんなに立派な構想があっても、実行しなければただの妄想です。行動することで、初めて次のステップが見えてくるでしょう。
経験がない人間が考えられることなんて、たかだか知れています。まずは行動。それだけが自分を先へと進めてくれると知りました。
「教育を変えたい」。ビジョンを持つ重要性
カンボジアでは現地の人を雇用したのですが、エステサロンでマッサージなどをする人は、総じて高等教育を受けていない場合が多いんです。
礼儀やサービスを理解できなかったり、お金を持って逃げてしまったり、日本では想像できないようなトラブルも頻発しました。その時初めて、教育の重要性を強く感じました。
一方でツアーのアテンドでは、日本の学生のスタディーツアーに同行し、カンボジアの学校を訪ねることもよくありました。日本の団体や個人がカンボジアに小学校などを設立することも多いので、それを視察に行くスタイルですね。日本人が海外でこんなに学校を作っているんだと誇らしく思うと同時に、実は存続できる学校は少ないと知って残念にも思いました。
こうした経験を経て、自分が追い求めるテーマは教育だと初めて確信しました。
お世話になった経営者の方や憧れている起業家の皆さんは、皆ビジョンを掲げていたし、ビジョンのない事業は永続しないと気づいていましたが、私はそれまで起業をしたいという一心で、ビジョンを持ったことがなかったんです。
自分の心の奥底にしっかりと根差すような目的意識を作れずにいたのが、カンボジアでの経験を経て、「教育」というビジョンを得ることができました。
思い返せば自分の親が教師で、それまで教育について考える機会も多々ありました。自分にとって身近な分野でもあったんですよ。「教育格差をなくし、社会問題を解決する人を増やしたい」というビジョンを得て、本格的な起業への道を意識することができました。
ゴールを設定して行動に移す。ゴールを設定するためには環境を選ぶ。
日本に帰ってきて、まずは武田塾のFC事業(フランチャイズ事業)を始め、自分のビジョンを達成する企業作りに向け、動き出しました。
思えばいつもゴールを意識しながら、行動していたと思います。
「起業する」というゴールを叶えるために、サークルやインターン、海外起業を経験し、次は「より良い教育」を目指して、事業を動かしていく。ゴールと行動があれば、人生は前へ進んで行きます。
ゴールなんて設定できない、という人もいるでしょう。その場合は、ぼんやりとした方向性を設定し、良い刺激を与えてくれる環境に身を置いてみるというのはどうでしょう。
よく言われることですが、進学校の良さは必ずしも教育内容の良さではなく、環境の良さも重要なのです。
より上位の学校を目指すことが普通の環境、勉強を頑張ることが当たり前の仲間、その中にいると自分も自然と引き上げられることがメリットだと言われます。ゴールを設定するために、環境を選ぶというのは一つの手です。
それは、ファーストキャリアを選ぶ際も同じです。明確なゴールがある人はそのゴールを目指して歩めば良いですが、そうでない人は環境を選ぶと良いと思います。
自分が成長できて、ゴールを見出せる環境。若いうちにチャンスがあって、目標を設定できる機会がたくさんある場所から、キャリアをスタートできれば最高です。
最初の一歩が踏み出せない人は「情報収集」が足りないことが原因
ゴールと行動の大切さを繰り返していますが、最初の一歩が出ないという人も少なくないでしょう。何かを始める勇気がない、決断して行動に移せないというのは、性格の問題ではないと思います。
行動に移せず悩んでしまうのは、端的に言って情報不足だからです。
行動のためのステップ、リスクから、ベネフィット、その後の展開に至るまで、情報があれば然るべき行動が取れます。情報があふれる社会で、情報に惑わされる側面もあるかもしれませんが、そんな時にはその問題に詳しい人に、直接聞けばいいんです。
誰が発信したかわからない情報ではなく、肉声に近い一次情報を聞き出す。それが解決のヒントとなり、挑戦の後押しにもなります。
また、今はDMひとつで繋がれる時代です。「教えて」「助けて」の一言で誰かが情報を与えてくれることもあるでしょう。
自分がこの年齢になってみると、学生時代は本当に恵まれていたと感じます。
学生であるというそれだけで、社会人から応援されるのは、学生の特権です。失敗や失礼も、ある程度許容されますし。自分は学生だと宣言して、どんどん挑戦してみると良いですよ。
歳を重ねて曲がりなりにも経営者になってしまったので、学生という立場が今ちょっと羨ましいです(笑)。
学生時代からトライアンドエラーを繰り返し、2018年からはクルイトの経営者として奮闘する日々です。これまで数え切れないほど失敗や困難があったし、大小さまざまな壁を乗り越えてきました。でも思い返すと、そういう困難に向かい合っている時が、結構楽しいんですよね。
大変な時ほど楽しい、という心持ちになれたのは、経営者の先輩の言葉で事業への向き合い方が変わったからです。
カンボジアで起業していた際、何かトラブルが起こると、「カンボジアの市場がまだ成熟していないから」「雨季で観光客が少ないから……」などと、環境のせいにしていました。周りにできない理由をもとめていました。しかし、先輩経営者より、「環境のせいにするな。あなたが優秀じゃないからダメなんだよ」と諭し、私の目を覚まさせてくれました。
人のせいにしたところで始まらない。自分の周りで起こっていることを、自分ごととして捉え、向き合う。
マインドセットが変わっただけで、見える世界も一変しました。自分がどうにかしようという意欲、幅広いことに対するコミットメントが生まれ、充実感が段違いになったんですよね。
ひとごとから自分ごとにすることの価値
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フラストレーションが溜まりにくい
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より意欲が湧く
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コミットメントできるようになる
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未来を変える喜びを味わえる
何事も人のせい、周りのせいにするのは簡単です。でもそうやってコミットメントを放棄すると、さまざまな出来事がすごくつまらないものになってしまうのではないでしょうか。
今では、ちょっと大変な時の方が楽しいんです。大変だけど、自分が責任を持って変えることができる未来の方が、意味があると思いませんか。
21世紀の松下村塾を目指し教育と社会を変える
クルイトは21世紀の松下村塾を目指しています。教育を変えることで、社会を変える人材育成につなげていきたいと思っています。
そのためには自分だけではまだ、力不足なことばかり。自分より詳しい人、優れた人に教えてもらい、考えてもらい、導いてもらいながら、このビジョンを達成したいですね。
起業に反対していた両親も、会社のオフィスを見て多少安心したようです。全力で応援して欲しいとは思いませんが、結果でわかってもらえるように、もう少し安心してもらえるように努力を続けたいですね。
自分は吉田松陰でも高杉晋作でもないのですが、彼らの生き方を模倣しながら、自身のビジョンを体現できる経営者でありたいと考えています。
取材・執筆:鈴木満優子