キャリアを切り拓くために不可欠な「パッション」を育てよう|自分が思っている弱点は、実は長所である可能性も!

ラクフル 代表取締役社長 野田 哲郎さん

Tetsuro Noda・大阪大学外国語学部(旧大阪外国語大学)を卒業後、大手家電メーカーにて海外向けの携帯電話開発事業に従事し、システムエンジニアとして3年間の経験を積む。その後、個人事業主として独立し、Web制作事業を手がける傍ら、大手予備校の管理者や外資系生命保険の営業職も経験。2015年にラクフル株式会社として法人化し、代表取締役社長に就任

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就職活動で挫折を経験。自分を評価し直せたことで1社目にたどり着けた

キャリアにおける最初のターニングポイントは、就職活動での挫折経験です

高校から大学時代はバスケットボール部やラグビー部でチームスポーツに勤しみ、仲間と協力してひとつのことを成し遂げる経験ができました。また語学に興味があったので、大学では外国語学部に進学し、英語、スペイン語、アラビア語などを専攻していました。

しかし、いざ社会に出ると考えた際に「これから何をすればいいの? 」と先が見えない感覚を覚えたのです。文章が得意だったので、マスコミ業界の記者職を目指して就職活動を始めてみたものの、まったく良い結果を得られず、人生で初めてとも言える挫折感を味わいました。

一緒に面接を受けていた学生たちの知識量にも圧倒され、「自分は井の中の蛙だったのだな」とマスコミ業界に対する憧れの気持ちには、自然と見切りをつけることができました。「私のやりたいことが定まらない限り、会社も自分をもとめてくれないのだな、会社側もちゃんと見定めているのだな」と気づくことができ、そこからゼロベースで将来を見つめ直すことにしました。

まず最初に取り組んだのが、両親や友人、部活仲間など身近な人たちに自分の長所・短所について率直に尋ねてみることでした

すると自分が短所だと思っていたことが、他の人には長所だと思われていることもある、ということに気付けたのです。自分ではこだわりすぎる性分だと自覚していたのですが、複数人の方から「自分で決めたことを突き詰めていけるし、最後までやりとおすよね」と言ってもらえたことで、この性格を強みとして発揮することもできるのだな、と思い直すことができました。 

この経験から学生の方にアドバイスできることがあるとすれば、「自分のことは意外とわかっていないものだよ」ということです。自分を評価し直すことができると、次の一歩につながってくるはずなので、同じような状況で悩んでいる方はぜひ試してみてください

結論から言って、ファーストキャリアのこの選択は大正解でした。海外向けの携帯電話開発事業に携わっていたのですが、1年目の頃からいろいろなプロジェクトに顔を出し、リーダーとの折衝役など責任ある役目も担わせていただきました。

ワンフロアに500名もの社員がおり、優秀な先輩たちがたくさんいる環境だったので、非常に多くのことを学ばせてもらえた実感があります。常に納期が迫ってくる日々だったので、効率よくプロジェクトを回していくトレーニングができ、現在につながる“納期厳守”の意識を身に付けることができました。

自社の事業を続けながら教育・保険業界の仕事も兼務。すべての経験が今に活きている

3年間、充実感をもって働いていましたが、入社4年目の頃、会社が携帯電話開発事業から完全撤退することに。そのタイミングで、兼ねてから考えていた独立をすることにしました。

25歳で個人事業主となってからは、まずWebサイト制作を請け負う事業をスタートさせました。のめり込みがちな性分なので、ハードワークで体を壊してしまったこともありますが、ありがたいことに良いお客様ばかりに恵まれ、事業自体はスムーズに軌道に乗せることができました。

しかし人を雇ってみた頃から、なんだか会社がうまく回らなくなり始めたのです。その経験を経て次の事業展開を考えるようになり、湧いてきたのが「教育」分野への思いでした。大学時代は塾講師や家庭教師のアルバイトをしていたこともあり、長年、興味をもっていた分野のひとつでした。

早速、大手予備校に迎えてもらって講師マネジメントの業務をスタート。仕事もやりがいがあっておもしろかったですし、事業展開を間近で見られたり、学生と触れ合うなかでさまざまなインスピレーションが湧いてきたり、得るものは非常に多かったです。自社の事業も並行して続けてはいましたが、3年間ほどは予備校の仕事にかなりリソースを割いて、熱中して取り組んでいました。

さらにその後の3年間は、保険の営業職も経験しました。知人からスカウトをいただき、こちらも兼業で始めたのですが、このときに学んだ知識・スキル・経験値もすべて現在の事業に生かされています。

予備校や保険の仕事との相乗効果もあってか、自社の事業も少しずつ大きくすることができ、いよいよ自分だけではやりきれない、というフェーズが訪れました。「このままでは全部どっちつかずになってしまう、大変だけど会社としてやっていこう」と決意して2015年にラクフルとして法人化し、現在に至ります。

コロナ禍での苦労はありましたが、法人化後の事業展開はとても順調です。会社の基盤ができ、第二創業期と言えるフェーズに差し掛かっています。創業8年目になる今が、キャリアにおける2つ目のターニングポイントを迎えている実感がありますね。

当社の強みは時流に乗ること。「二番煎じでもいいので、流行っているものには敏感でいよう! 」というスタンスで、世の中が今もとめていることを知るための情報収集には、時間・労力・コストをかなりかけています。

社会の出来事を多面的に捉える視点なども意識していますし、近年はNFT(エヌエフティー)やWeb3.0など新しいキーワードも出てきているので、向上心の強い社員の育成にはしっかり投資して、積極的に新しいことも学んでもらっています。

「この人に仕事を任せたい」と思われる人物に成長するのに企業の規模は関係ない

大企業、個人事業主、そして中小企業という組織を経験してきて思うのは、「社員の成長に、会社の規模はあまり関係ない」ということ

ベンチャーのほうが1名あたりの責任が重くなる、という側面はあるかもしれませんが、入社3〜4年目になった頃に「この人に仕事を任せたい」と思われる人物に成長できていれば、大企業だろうとベンチャーだろうと、やりがいのある仕事にアサインされる可能性は高いです。

やりがいのある仕事は、その人の素養プラス、入社後の数年間で身に付けたスキルに応じてやってくる……と考えると、最初の心構えはかなり重要です。入社の時点で「1年間で一人前に成長するぞ! 」などと決意し、なんでも素直に学ぶ姿勢を持って仕事に取り組んでいれば、その後活躍するためにスキルや経験値は自然と身に付いてくると思います。

素直に学ぶためには、その会社のコンセプトやビジョンと自分の価値観がマッチする就職先を選ぶことも大切です

たとえば当社では、企業の信条として6つのクレドを明確に提示しています。全社員がまずは与えることを率先しておこなう全社員が常に新しいことへ挑戦し続ける全社員が「One for All , All for One」の精神を共有する……といったことのほか、「長期的な視点で困難な選択肢を選ぼう」といったことも明確に打ち出しています。

これは「短期的な視点で選ぶ単純な選択肢は、成果や効果が長続きしない」という、私個人のキャリアの判断軸にも通じるものです。先輩社員や社風とのフィーリングも大切ですが、意欲的に学んでいくためにも、こうした企業側の考え方に共感できるかどうかは入社前に必ず確かめておくことをおすすめします。

大企業とベンチャー企業の違いをあえて挙げるならば、教育制度の充実度でしょうか。個々の企業を見ていけばいろいろと違いはあるとは思いますが、全体的な傾向としては「戦力になる前の期間」をくれるのが大企業「いきなり実戦」となるのがベンチャー企業、という傾向はあるように思います。

私がいた1社目は大企業でしたが、入社1年目からいきなり太平洋のど真ん中に落とされた感覚になるくらい(笑)、さまざまなチャレンジをさせてくれる会社でした。しかし今思えば、要所要所でいろいろな教育の仕掛けがあり、大事なことを学ばせてもらったな、という実感があります。この環境下で多くのことを吸収させていただけたので、「ファーストキャリアに大企業を選んでよかったな」と思えています。

40代でグローバル展開、50代では教育事業に本格チャレンジしたい

当社はベンチャー企業ですが、会社の方針として教育・育成にはかなり力を入れており、新卒採用も今年で3年目を迎えます。

最近の日中はほぼ新人育成に費やし、それから自分の仕事をしているので、今がキャリアの中で一番忙しいのではと思うくらいです(笑)。育成のノウハウに関しては、塾業界に携わった経験も非常に活きており、あらゆるキャリアが無駄ではなかったなと実感していますね。50代になったら、本格的に教育事業にも挑戦したいと思っています。

現在41歳ですが、40代のうちには「グローバル展開」を成し遂げたいです。当社はEC事業やWebコンテンツ制作、Webコンサルタント事業などインターネットに関わるさまざまな事業を展開していますが、現在特に注力しているのが、オリジナルのコスメや健康食品の企画開発・EC販売事業です。アジア特有の希少な素材を使い、和テイストで好評をいただいています。外国籍の社員も採用しており、日本にとどまらない展開をおこなっていきたいと考えています。

就職活動では一度、挫折を経験しましたが、そこから「将来こうなりたい」と決めた姿になれている実感はあるので、それなりに一貫したキャリアを歩んでこられた実感があります。26歳のときに芽生えた「教育の仕事をやりたい」という思いも変わっていません。

とはいえ、まだまだキャリアとしては道半ば。私の父は今も自分の会社を経営していますし、母も73歳にして未だソプラノ歌手として現役でリサイタルをやっており、自分のやりたいことに邁進する両親たちからも刺激をもらっています。

パッションがなければ何事も実現しない。「いつ何に熱を入れるか」を考えて行動しよう

キャリアを切り拓いていくために一番必要なのは、情熱やパッションだと私は思います。仕事やビジネスに関する計画・戦略などはいかようにも考えられますが、その戦略に命を宿すためにはパッションが必要です。実行に移すパッションがなければ、頭でっかちなだけで、自分の考えたことや思いを形にすることは決してできません

生まれつきの性格もあるとは思いますが、パッションは後天的に育んでいくことも可能です。毎日、自分ができた「小さな成果」に焦点を当てながら生活してみてください。小さなことでも「昨日の自分よりもよくなっている」という前進感が次の行動のモチベーションとなり、ひいてはパッションにつながっていきます

これから社会に出て活躍したい! という方には、熱の入れ方を考えながら行動することをオススメしたいです。

もう少しわかりやすく言うならば、「今はここに注力することが大切ではないか? 」といった”頑張る方向性”について、自分なりに考えて動くといいよ……という感じでしょうか。

たとえばの話ですが、説明会に参加したときに「一生懸命メモを取る」よりも、集中して話を聞きながら「次にどんなことを質問しようか? 」と考えている人のほうが、有意義な熱(エネルギー)の使い方をしているな、と私は感じます。

資料にも書いていることをメモするより、資料にも書いていない情報を得られるよう自分から働きかけよう」という考えがあるからこそ、そのような行動を選択しているのだな、と映るからです。

私自身が学生だった頃にそれができていただろうかと考えると、おこがましい助言で恐縮ですが(笑)、ただ一生懸命な姿をアピールするより、自分が持っているリソースを効果的に使おうとしている姿を見せたほうが、企業側には響く可能性があるよ……ということは老婆心ながらアドバイスできる部分です。

そしてもうひとつ、仲間を大切にすることもオススメしたいですね。世の中の仕事ができる人は、総じて「かかわる相手を気持ちよくする人」だなと感じますし、その力を養うためには、身近にいる人を大切にすることから始めてみるのが最善だと思います。

私にとって、同僚は家族と同義です。大切な同僚たちにいかに成長してもらうか、いかに一緒に楽しく、気持ちよく仕事に取り組めるかを日々考えながら仕事をしています。身近な人を大切にできる人は、将来の同僚も大切にできる人。採用面接にも、そんな目線で臨んでいます。

取材・執筆:外山ゆひら

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