夢の実現方法は一つではない! 東日本大震災を経験し「働く意味」を痛感した
クリエイト礼文 代表取締役CEO 大場 友和さん
Tomokazu Ooba・ 1976年、山形県上山市生まれ。日大山形高校では野球部に所属、3年時は補欠ながら夏の甲子園出場を果たす。青森大学に進学するも2年時の1997年、帰郷して父の一夫氏が創業に参画した住宅建設のクリエイト礼文(山形市)に入社。建築、賃貸部長、売買仲介部長、仙台営業所長、関東営業所長、常務、専務を経て、2020年4月に現職
父の誘いで建築の道へ。大学を中退し突然スタートしたキャリアとは
学生時代は、野球一筋でした。小学校からはじめてずっと目標としてききたのは、やはり甲子園出場です。つらい練習も途中で投げ出すことなく最後まで続けられたのは、このブレない夢があったからでした。
高校ではチームとして甲子園出場を果たしたのですが、私自身は甲子園での出番はありませんでした。それでも、甲子園に出たという結果が残ったことは自分にとって大きかったと今も強く感じています。
野球を通して身に付けた継続する力、継続すれば必ず結果がついてくるという成功体験は何物にも代えがたい財産であると思っています。
一方で、就職するまで、将来について考えたことは全くありませんでした。
チームとしてみんなで目標に向かって頑張る、ただその一点を追いもとめていた私にとって、高校生ながら将来やりたいことが決まっている人、専門学校などで専門性を極めている人がいるのは本当に不思議でしょうがない、というのが正直な感覚でした。
野球を続けることを前提に、大学もスムーズに入学したので、いざ大学に進んでからも将来のことを考えたことは全くなかったです。
それよりも、地元・山形県から親元を離れて青森県で一人暮らしを始めたことで、その自由を謳歌することに夢中となってしまって。親の監視の目がなくなったのをいいことに毎晩アルバイトに明け暮れ、そのお金で好きなだけ遊ぶ、そんな生活を楽しむ学生生活でした。大学2年生に上がった頃には、野球への情熱も段々と薄れていったのを覚えています。
そんな頃です。不動産会社の社長を勤める父から「新たに建築の仕事を始めるので、山形に戻ってきてフレーマー(大工)をしてみないか? 」と声を掛けられたのです。
それまで、就職先をどうしようかと考えたことは一度もありませんでした。さらに父の会社に入ることなど1ミリたりとも考えたこともなかった。そもそも、父は不動産会社の創業者ではなく、長年プロパー社員として働いた後に社長に就任したので、「父の経営する会社」という意識を私自身は全く持っていなかったのです。
父からの突然の誘いを受け、あまり深く考えることもなく「はい、わかりました」と大学を辞めることにしました。理由は特になく、不思議とその時は流れに乗ろうと決めたのです。そのため、大学は中退し、地元・山形に戻り社会人としてのスタートを切ることになりました。
夢ややりたいことは常に心に抱き続けていれば、いつか実現することもある
入社後は、建築事業を一から立ち上げるという仕事を与えられ、一生懸命働きました。それまでまったく思い描いたこともなかったキャリアではありますが、フレーマー(大工)として住宅建築工事業務に携わり、その後営業の仕事に移り、賃貸部門や売買仲介部門に移り、その後仙台支店の立ち上げ、関東支店の立ち上げ等に携わりました。
かかわったすべてがゼロから作り上げる仕事で、正解がない中でも自分で考えて意思決定することを繰り返し続けてきました。大変さはあったものの、充実感を感じることができました。将来を考えることなく、ただフラフラと遊んでいたあのとき、父の誘いを受けて本当に良かったと今振り返って心から思っています。
ただ、実は、ぼんやりとやりたいことはあったのです。それは、発展途上国への支援活動でした。
母親が福祉活動を積極的におこなっており、幼い頃から後進国の支援を身近に感じて育ちました。意識はしてないものの、自然とその影響を受けていたのでしょう。漠然とではありますが、青年海外協力隊やその母体であるJICA(国際協力機構)などに入れたらいいなと興味を持っていました。
そのために何か行動したわけではありません。しかし、そのような想いはずっと自分の心の中にあったようです。最近、地域課題の解決に取り組む社内ベンチャーを立ち上げました。漠然と描いていた夢が、ほんの少し実現できたなと感じています。
私からぜひ伝えたいメッセージは、自分のやりたいことは、いつでも、どうにでも実現できるものだということです。私のように思いがけず夢が実現することはあるでしょう。ぜひ夢ややりたいことは心に抱き続けてみてください。
今までで一番辛い体験は、裸の王様であることを自覚したとき
これまでの私のキャリアを振り返って最も辛かった出来事といえば、関東支店立ち上げのときのことです。
関東支店として埼玉に拠点をつくることとなり、現地で2人の社員を採用したのですが、採用してわずか数か月後に、2人から同時に「辞めたいです」と言われたのです。
20歳で父の会社に就職してからずっと、その時々で一生懸命頑張ってきた自負がありました。それまでも部下を従える立場にもいましたが、実は威張っていただけだったんだなと気づいたのがこのときです。二人から出された辞表を前に、頭を殴られたような気がしました。
思えば、それまでの部下も私自身の魅力に付いてきてくれていたわけではなく、社長である父の息子だから付いてきていただけだったのです。
ずっと野球部の縦社会で育ってきたので、自分の中では上から力で抑えこめばうまくいくという思い込みがあったのだと思います。上司・部下という関係性を曲がって捉えてしまっていて、実はまったく信頼関係を築けていなかったことを思い知りました。
当時の私にとっては本当につらい経験でしたが、あの挫折の経験がなければ一生裸の王様だったに違いないと、考えるだけで恐ろしくなります。失敗が今に生きていると強く感じています。
それからです。常に肝に銘じているのは、企業の成長の根幹は「人の成長」であるということ。人軸経営の徹底こそが、社長となった今私が考える経営理念の柱となっています。
東日本大震災を経験し、働く意味・価値を知った
働き始めると、仕事を通して何を成し遂げたいのか、誰のために働いているのか、何のために働いているかと自分に問う場面が出てくると思います。私の場合、突き詰めて考えていくとやはり、幼い頃からぼんやりと描いていた「発展途上の国に貢献したい」という夢を持ち続けていた部分があります。
一方で、就職してから長く取り組んできたのは、輸入住宅やローコスト住宅の営業です。住宅を通して幸せな新生活を送ってもらえるようにという想いを持って働いてきましたが、日本は豊かな国なので住宅を通して私が貢献できることなど多くはないだろうとずっと思ってきました。
そんな私の考えを覆す大きなターニングポイントとなったのが、東日本大震災です。
仙台支店をゼロから作り上げるというミッションを実現するために、コツコツと準備を進めやっと支店のオープンにこぎつけたのも束の間、その5カ月後に大震災が起こりました。私の目の前で、豊かな日本の日常が一瞬にして失われることとなったのです。
被災した町、家族や家を失ってしまった人を目の当たりにしたとき、私が心の底から思ったのは「目の前で悲しんでいる皆さん、困っている皆さんを、住宅という分野で救いたい」ということでした。
被災地で新たに家を建てて引き渡しをおこなう瞬間というのは、普通の引き渡しとは違います。
住む場所や職場が変わったりと、全く新たな場所で不安な中、何とか再スタートを切ろうとする方々に引き渡しをおこなうわけです。その場に立ち会ってはじめて、「私の仕事は、人の人生そのものに寄り添って伴走させていただく仕事なのだ」とはっきりと理解することができました。
それまで長く住宅に関わる仕事をしてきました。会社のスローガンにも「私たちは家ではなく幸せな生活を販売しています」と掲げてありました。それでも、それって本当にできるの? とどこか疑問を感じていたんです。
しかし、被災地で仕事をすることで、「誰のために仕事をしているのか? 」「何のために仕事をしているのか? 」という核心部分がクリアになったことを実感しました。仕事の意義というものが完全に腹落ちしたのは、仙台支店で働けたからこそだと思っています。
最初からやりたい仕事に巡り合える人は少数派。働きたい理由は後付けで大丈夫
「こういう仕事がしたい」とはっきりしていて、さらにその思い描いていた通りの希望の会社に就職できる人もいるかもしれませんが、それは一握りの人に限った話です。私自身のキャリアがそうだったのですが、その仕事をやりたい理由、やる意義などは後付けでいいと思っています。
大切なのは、入った場所でがむしゃらに働くことです。与えられたミッションに対して一所懸命取り組んでいれば、必ず成果はついてきます。そして、視界がどんどん広がっていくものだということをまずはお伝えしたいです。
それと同時に、空いた時間を活用して色々な人と会ってほしい。なぜなら、人生を変えるような多くの出会いが待っているからです。とにかく人に会って会って、会いまくってほしいと思います。
大場さんからのメッセージ
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その仕事をやりたい理由、やる意義などは後付けで大丈夫
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入った会社でがむしゃらに働けば、成果はついてくるし、見える世界が変わってくる
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人生を変えるような出会いもある。たくさんの人と会う努力をしよう
私自身が大切にしていて、若い世代へのメッセージとしてもよく伝えるワードがあります。それは、
Hard Work(ハードワーク)
Honesty(オネスティ)
Good Luck(グッドラック)
の3つです。勤勉たれ、素直になれ、最後は運が待っている 。皆さんもこの3つをぜひ意識してほしいと思います。
会社を選ぶ際は指標の一つとして「離職率」を見ることは重要です。
立派な経営理念を掲げている会社は数多くありますが、会社の旗である理念と商品やサービスがすべての企業で一致しているとは限りません。そこが一致していないと、やはり社員が幸せに働けていない状況であることが多くあるので、まずは「離職率」を見ることです。
ぜひ、社員が主役として生き生きと輝いて働いている会社に出会ってほしいと願っています。
あらゆる情報が手に入る時代だからこそ、立ち止まって「内観」の時間を持とう
Z世代の皆さんは、スマホを使って会社の口コミ情報や、面接対策などたくさんの情報を集めていることと思います。会社の情報を詳細に調べることは大切ですが、一方で、ネットですぐに情報が手に入る時代だからこその危険性を感じています。
皆さん、「内観」の時間を持っているでしょうか?
企業がもとめる人材になろうと情報やハウツーだけを入手し、違う自分になってしまう危険性があることを理解してほしいです。違う自分を演じて運よく希望の会社に入社できたとしても、いつか必ず無理が出てアンマッチがはっきりとしてくるはずです。
就職活動を前にまずやるべきことは、情報を取ることではなく、「内観」の時間を多く持つことだと伝えたいです。「私にとって一番大切なものは何なのか? 」「私が本当にもとめているものは何か? 」というセルフカウンセリングをおこないましょう。これは、個人の目標を達成するための教育プログラムを通して私自身が学んでいることでもあります。
ぜひ意識的に「内観」の時間をつくって自分と向き合い、自分が大切にしたいもの、目指す方向とマッチした会社を選んでほしいと願っています。
多種多様な考え方や価値観に触れ、自分の考えを発信できる場を作ろう
これからの時代に社会でもとめられる力は、大きく変わってくるだろうと思っています。いわゆる学校の授業でやってきたような、正解を早く導き出す力というより、課題を発見して解決の糸口を発見する力や、継続的に学び続ける力がもとめられるのではないでしょうか。
また、これからは地方発のビジネスも生まれやすい時代となるはずです。私たちのように地方から全国に打って出るには、主体性、多様性、協同性の3つが必須になると考えています。
そこで大事になってくるのが、表現力、プレゼンテーション力を磨くことです。そのために、とにかく色々な人と会って、多種多様な考え方・価値観に接して若いパワーでどんどん吸収してほしいのです。たくさん会話する中で、ぜひ自分の考えも伝えていってほしいと思います。
人前で話すのが苦手と思っている人が多いですが、私は本来、苦手な人などいないと思っています。たとえば、学校で前に出て話したときにうまく話せなかったことがトラウマとなり、プレゼンテーションが苦手だ、そんなのできない、と決めつけているだけなのです。
誰でも家族や親しい友達とは日常会話していますよね。洋服を買い物に行って店員さんとやり取りをすることもあるはずです。何も大勢の前で流暢なスピーチができるスキルがもとめられるわけではありません。たくさんの人と会って、たくさん会話して、自分自身の考えを仮説を立てて話せるようになれば自己表現力は確実に磨かれると思っています。
20代後半ごろから、私自身は1日10人と会うことを毎日の日課としてきました。
職場など仕事上で会える人の人数は限られているので、当然夜の時間も使い人と会うようにしていました。人と会い、自分の考えを表現する、ということを繰り返しやってきたことで、今はもうプレゼンテーションに苦手意識は持つことはなくなりました。
やってきたことに間違いなかったなと思っていますし、むしろもっと若い頃から始めておけばよかったと思うことが多いです。ぜひ若い皆さんには、積極的に人と話すよう心掛けてほしいです。
本当に苦しいときに助けてくれる「パワーパートナー」と出会おう
働き始めると、この先悩みがたくさん出てくると思います。私も20歳で就職してから現在に至るまで、悩みがなかったときなどありません。ただ、よく冬山に登るのですが、山に登るとその自然の壮大さから、毎回己の悩みのちっぽさに気づくものです。
そんな私にとって本当に苦しいときに支えてくれるのは、昔も今も変わらずパワーパートナーの存在です。「己が欲する所を人に施せ」の言葉通りに日々やっていると、本当に自分が困ったときにかならず助けてくれる人がいることを身をもって体験しています。
人生さまざまなことが起こるので、いつ誰にどんな試練が待っているかはわからない。付き合いの長さではないと思っています。相手が本当に助けをもとめているときにすぐに手を指し伸ばせるか、です。それが結局、自分にも同じように返ってきます。
常日頃から、「己が欲する所を人に施せ」の姿勢を持ってほしいなと思います。そして、あなたをいざというときに助ける、真のパワーパートナーと出会えるよう願っています。
取材・執筆:小内三奈