働く意味を見出すことで幸せなキャリアを送ることができる|「やって苦ではない役割」を見つけていこう

manebi(マネビ) 代表取締役執行役員CEO 田島 智也さん

Tomoya Tajima・就職活動中に出会った経営者たちの姿に影響を受け、経営者を志すように。営業会社での8カ月間での経験を経て、2010年1月クリエイティブ企業を3名で共同創業し、共同代表に就任。 2013年8月にキャリア支援や教育・学習ソリューションサービスを手がけるmanebi(マネビ)を創業後、現職

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志望企業に三度落ちても腐らなかったのは「夢を与える側」になりたかったから

キャリアにおける最初のターニングポイントは、まさに就職活動の時期です。

大学時代は特別、意欲的に動いていた学生ではなかったのですが、就職を考えるようになって初めて、母のありがたみに心底気づかされました。父が52歳で他界して以降、3人の息子を女手ひとつで育ててくれた母に「早めに親孝行をしたい」という思いが芽生えてきました。

またこの時期には、いろいろな経営者の方々にお会いして憧れを持つようになり、半年間で100冊くらいのビジネス本も読み漁りました。そしてそれまでは全く考えていなかった「経営者になってみたい」という目標を持つようになりました

将来の起業を見据えたうえで、就職活動をスタートしました。周りの皆が就職活動を終えていた遅い時期でしたが、どうしても入りたい会社があり、一途に受け続けていましたが、三度トライして結局、受かることができませんでした。

こんなに頑張ったのに世の中は厳しいな」と思いましたし、その会社以外には興味を持てるところが見つからず、しばらくは途方に暮れましたね。

ただこの結果を受けても腐らずに済んだのは、ビジネス本をたくさん読んでいたことが大きかったです。

「自分は経営者の方々に夢をもらって、人生に対するやる気が出てきて、今は夢を与えられる側になりたいと思っている」「ここでくじけていたら、夢を与える側になんてなれるわけがないよな」と思ったことを覚えています。

自分は何のために働くのか、何のために生きるのか」という人生の根本的なスタンスも深く考えるきっかけとなり、その意味で、この就活経験は2つ目のターニングポイントと言えるかと思います。

この時期に見出したキャリアの方向性やニュアンスは、現在に至るまでほぼ変わっていません。「よりよい次の世界を作ってみたい」という社会的な使命感もおぼろげながら芽生えていましたし、同時に「かっこいい経営者になって活躍してみたい」というピュアな憧れもありました。

とはいえ「今の自分にはアイデアもカネもコネもない。いずれ独立するために必要なものを得られそうなところに行こう」。そんなふうに考え、保険代理店業を営む一社目への入社を決めました。

心から「いいな」と思える会社を素直に選ぶことが、幸せなキャリアへの近道

人生を一気に深掘りできたという点で、就職活動は非常に有意義な経験となりました。私の経験と反省から皆さんにアドバイスできることがあるとすれば、まずひとつは「就職活動は早く動くに越したことはない」ということです

通年採用をやっている企業も増えてきているとはいえ、日本は伝統的に新卒採用を続けている企業が大半です。その意味で新卒採用はやはり特別で、期間限定のチャンス。人気の会社から募集が終わっていく傾向もあるので、可能ならばインターンシップの時期から広く見ておき、行きたいところに目星を付けておくことを勧めます。

そして有名企業や大手企業に入れる力がある人は、ファーストキャリアではまずそこを目指してみるのも、ひとつの有効な選択肢だと思います。

大企業には優秀な人がたくさん集まっているので、早々に辞めたとしても後々につながる良い出会いや人脈を得ることができますし、「名の知られた大手にいた」ということも次のキャリアに進むうえでの武器にできます。

しかし私のように「有名企業や大手企業に受からない自信がある! 」「器用に面接を乗り切れそうもない! 」という人は(笑)、心から「好きだな、素敵だな」と思える会社を探してみることを強くオススメします。

給与などは後から上げていくことも可能ですし、条件面を多少差し引いても、自分が熱心になれそうな仕事ができるところに入ったほうが、人生は豊かになるはず。長い目で見れば、心から「好きだな、良いな、興味あるな」と思える選択肢を素直に選び続けたほうが、しあわせなキャリアを形作っていけると思います。

「一応の内定を取っておこう」という行動にも、あまり意味がないと思います。中途半端な気持ちでたくさんの会社を受けてみたところで、なかなか結果にはつながらないもの。自分に自信を付けたり、メンタルを保ったりするためには有効かもしれませんが、前向きな気持ちで働けない会社には結局、長くはいられない気がします。

また企業を比較検討する際には、その会社の現在・過去・未来を調べて「主張に一貫性があるかどうか」を見てみるのがオススメです

ビジネスのライフサイクルはどんどん短くなってきていますし、変化に適応することで生き残っていくのが企業なので、事業内容で見るよりも、事業になる前の”思惑”の部分に注目したほうが、その企業の本質に近づけると思います。

ミッション、理念、ビジョンなどがコロコロ変わっている会社に入ると、いずれ「なぜここで働いているのだろう? 」などと気持ちが揺らいでしまう可能性もあるでしょう。逆にやっている事業は少しずつ変わっていても、昔から言っていることの大筋が変わっておらず、かつそこに自分が共感できるのであれば、入社後に“一緒に喜び、成長しあいながら歩んでいける会社”の有力な候補になると思います。

理念には強く共感できるけれど現状の事業内容に興味が持てない……という場合は、面接などで「私は御社でこんな事業をやってみたいです! 」とアピールしてみるのも、ひとつの選択肢ではないでしょうか。

一度目の起業で「どんなことも本気でやればできる」とわかったことで、精神的な自由度が高まった

私が入社を決めた一社目は、早朝から夜中までのハードワークが当たり前の厳しい会社でした。「あまり寝ていなくても働ける」という類のタフネスは身に付きましたが、辞めてしまう同僚が多く、中には体調を崩してしまう人もいました。

私は起業のビジョンを持っていたからこそ、なんとか凌げた気がしますね。「後からもっと大変なフェーズが来るはず。これは人生の宿題だな、ここでうまくやれたら自分を褒められる」なんてことを考えていました。

8カ月間しか在籍はしませんでしたが、この会社では「人との縁」をたくさん得ることができました。今に至るまで仲良くさせていただいている方もいますし、経営者層と対峙する力量もこの時期に身に付けられたように思います。

そしてこの会社で知り合った先輩たちと、最初の独立を果たしました。ここがキャリアにおける3つ目のターニングポイントです。可愛がってくれた先輩たちに誘っていただき、「経営に関われるなら、これもひとつの起業の形だ」と思えたことから、共同経営という形で歩み出すことにしました。

ただし、事業内容はWebデザインやコンテンツ制作という、まったく未知の領域でした。先にお客さんを生み出してから勉強してサービスを提供したことも、一度や二度ではありません。毎日新しいことを学びながら、外部のパートナーやお客様と縦横無尽に仕事を作り出し、かつその仕事をこなしていく、そんな刺激的な日々を過ごしました。

有名ブランドなども担当させてもらうなかで「やると本気で決めれば、なんでもできるものだな」と感じ、精神的な自由度が圧倒的に増した気がします。

この会社での3年間の経験を通じて、新しい動きをすることへの億劫さがなくなりましたし、「失敗したらしたときだ」というある種の割り切りができました。この感覚は、現在の会社で未経験の領域にチャレンジするときにも大いに生きています。

2度目の起業までには、少し考える期間がありました。「自分の思いを形にしたい、それをやるのは今の会社ではない」ということは徐々に見えてきていたのですが、その思いをどう体現すればいいのかは分からずにいました。

ちょうどその頃、大企業の役員の方と仲良くなり、「ベンチャーの経営者に対するコーチングを試しに受けてみないか」というお誘いをいただいたのです。この経験が、4つ目のターニングポイントになります。

半年間、いろいろな角度から質問を投げかけられるコーチングを経て、私のなかの答えが導かれていきました。「数年以内には動き出したい」「想いがここまで見えているならやってしまおうか」。そんな決意が固まった途端、manebiを一緒にやっていく仲間たちとどんどん出会っていくことができました。

結果論ではありますが、気持ちを固めたからこそ出会えたのかな、という感覚もありますね。決めた力が強いときは、出せるエネルギー値が変わり、行動にもスピード感が出て、有意義な出会いにも気づきやすくなるのかなと思います。

「人が自立していく仕組みそのものを創っていきたい」という思いも明確に言語化できたことから、当社manebiを立ち上げて二度目の起業を果たしました。母親や憧れの経営者の方々など「真似ぶべき人」と出会えたことで自分が変われた経緯から、manebi(まねび)という社名を付けました。

「どれだけ成長できるか」で活躍度合いは決まる。食わず嫌いしないことが肝心!

現在、当社では「人生開発を当たり前の世の中に」というメッセージを掲げて動いています。

自分の人生をどう定義するか」「なぜ働くのか、なぜ生きるのか」など、誰もが自分が働く意味・生きる意味をきちんと見出すことこそが、しあわせな人生を送るために、かつめげずに仕事を頑張っていく秘訣ではないか――、そんな思いを込めています。就職活動のタイミングでも、この点についてじっくりと考えてみると良いと思います。

参考までに、私自身がキャリアのなかでもっとも充実感を感じるのは、自分がハマれる役割を担えているときです

人前でスピーチすること、人との出会いを掴むこと、人に思いを伝えていくことなどは得意な自覚がありますね。ピッチイベントに出場した経験も何度かありますが、毎回緊張はすれども爽快感がありますし、やり遂げたときの満足感もとても大きいです。練習のプロセスも「楽しいな、苦ではないな」という感覚があります。

一方で缶詰め状態で細かい整理整頓をする、といったことはものすごく苦手です。

多面的な側面はあるでしょうが、キャリアを歩んでいくなかでは「やっていて苦ではないこと」=「自分に向いている役割」をぜひ探してみてください。それがキャリアの充実感につながっていくと思います。

とはいえ、学生の方の9割近くは「自分に向いている役割」をまだ見出せていないのではないかと想像します。そうした方には、若手の頃はとにかく食わず嫌いせず、なんでもトライしてみて! とアドバイスしたいですね。

自分に向いていることがわかるまで、いろいろ食べてみる」という姿勢は、自己成長も促してくれます。生まれつき何でもできる人はいません。「どれだけ成長ができる人間か」によって、社会での活躍の度合いは変わってきます。

大きく成長するためには、物事を前向きに捉えられるかどうかも重要です。仕事をしていれば嫌なことや困難には必ず直面するものですが、それを「この経験にも意味があるはず」などと柔軟に解釈して励める人は、その出来事を必ず成長のチャンスに変えられるからです。

 配属先や上司に不条理や不満を感じても、すぐにサジを投げずに「なぜこの出来事が巡ってきたのだろう? 」と自分なりに意義を考えてみる。そして「自己成長のためにこの出来事が転がってきたのかも? 」などと解釈し、一旦はやってみる。それで「やっぱり違う、意味がない」と思えば、次に進めばいいだけです。

私が自分に向いている役割を見出せたのは、30歳前後の頃です。創業期は得意不得意を問わずどんな仕事でもやりましたし、そのなかで上述したような得手・不得手が見えてきた実感があります。ざっくりと全体が分かったうえで、次第に「この部分は専門の人に任せよう」という切り分けができるようになりました。

ただmanebi創業時から、エンジニアの仕事にだけは手を付けませんでした。「自分は会社の外に出ていくのが適任だろう」と思っていましたし、1からプログラミングを学んでやるよりも、マーケティングやセールスを担ったほうが会社のために良いだろうと考え、最初から役割分担をしていました。26歳でしたが、その頃からなんとなく、自分はここで活躍できる人間だ、というフィールドを見つけていたのかもしれません。

まもなく創業10年目を迎える当社ですが、まだまだやり遂げられていないことはたくさんありますし、失敗もいろいろと経験しています。しかし、日々の仕事はとても楽しいです

会社の理念や「組織を生命体としてどうデザインするか」といったことを俯瞰的に考えるのも好きですし、他社の経営書なども好んで読んでいます。「未来のことをワクワク考えながら舵を取っていく」というのはCEOだから担える役割ですし、それこそが自分で会社を経営する醍醐味だと感じています。

取材・執筆:外山ゆひら

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