思い描いた道の通りに進んでいく人などいない|強みと弱みを客観的に見つめてキャリアをアップデートしていこう

USEI 代表取締役社長 朝川 康誠さん

Yasunari Asakawa・ 大学卒業後、銀行に就職し本店勤務となるも約1年半で退職。見聞を広めるためにオーストラリアに渡る。帰国後、大手パチンコホール会社で2年間修行した後、父の経営するUSEIに入社、2008年に現職

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金融の知識は後々大きな強みになると考え銀行に就職するも、1年半で退職

若い頃は、かなり尖ったタイプだったと思います。今振り返って考えると、「我慢してまで迎合したくない」という気持ちが人一倍強かったような気がしています

大学は国際関係の学部に進んだのですが、将来を考えてというわけではなく「何となくかっこよさそう」という単純な理由で選びました。いざ就職活動がスタートしたときも「将来こうなりたい」というような将来ビジョンもなく、野心のようなものも特にはなかったです

友達に連れられて就職フェアに足を運んだのをきっかけに、4社ほど受けて、その内2社から内定をいただきました。1社が銀行で、もう1社は環境系のベンチャー企業。後者の経営者の方とは話が合ったし魅力を感じたのですが、正直に「銀行からも内定をもらっていて、迷っています…」と相談したら「そりゃあ銀行に行きますよね」と言われて、その言葉に後押しされて銀行への就職を決めました

ただ、もともとお金が好きだったというのはあります。高校2年生くらいから株の本を読んだりしていましたし、金融マーケットというものに興味があったのはたしかです。実は父も元々は銀行出身で、金融の知識をもっているとビジネスマンとして大きな強みになることはわかっていたので、広く世の中を見ている人事の方の「そりゃあ銀行に行きますよね」という一言は当然だったのかもしれません

入社後は本店勤務を言い渡され、晴れ晴れしい銀行マンとしての社会人スタートを切りました。ところが、わずか1年半で退職し、オーストラリアに放浪の旅に出かけることとなったのです。

今思えば、1年半で辞めたのは若気の至りだったなと思います。ただ、当時感じた銀行の気質のようなものが私には合わなかったです。体育会的にガンガン営業を進める文化自体に馴染めなかったし、そういう文化が当たり前だと思っている上司、一方で静かに耐え忍んでいる先輩、その両方の姿を目の当たりにして、銀行で働く先のキャリアを描くことがどうしてもできませんでした。

母の病気を機に「このままではいけない」と新たなキャリアを決意

この先どうしようか、一旦外国でのんびり考えようと思って、当時オーストラリアに友達が住んでいたこともあってそこに2カ月ほど転がり込みました。次の職も決めずによくオーストラリアに行ったなと、当時の自分を思い出すと恐ろしい気持ちにもなります。

「自分なら大丈夫」「何とかなる」という根拠のない自信があったのはたしかです。今は社会の厳しさというものを痛いほど知っていますから、もっと違う方法もあったのではと思います。しかし逆に、若いからこそできたことなのかもしれません。異国の街を歩き、文化の異なる人たちと英語で話をした経験は本当に貴重だったと思います。

放浪の旅を楽しんでいた私にとって転機となったのは、母が大きな手術をすることになったと知ったことです。オーストラリアで電話ごしに「命に関わることもあり得る」と聞いたとき、私の中でスイッチが入りました。「このままブラブラしていてはいけない。自分の人生をしっかりと見つめ直さなくてはいけない」そう思った瞬間です

父は、パチンコ会社の経営者でした。ただそれまで、父の経営する会社に入ろうと考えたことは一度もありませんでした。そもそも、私はパチンコを毛嫌いしていてパチンコをやったことがなかったくらいです。ずっと、自分にとって縁のない世界だと思って生きてきていました。

しかし、この先どうすべきかと考えたとき、自然と「家族の望む方向へ進もう」という気持ちになりました。特に母に感謝の気持ちを伝えるには、父の会社に入るのが一番だと考えたのです。

銀行に就職を決めたときも、その銀行を辞めたときも、オーストラリアに行くと言ったときも、両親は一貫して放任してくれました。

すぐに日本に戻ってその想いを伝えたとき、同時に父にお願いしたのは、一からパチンコ業界を学ぶことができる会社を紹介してもらいたいということです。父の目から見てここぞという会社で修行を積みたい、と素直に伝えました

幸い母の手術も成功し、オーストラリアでの放浪生活から一転、パチンコ業界という未知の世界で一から再スタートする道へと進むこととなりました。

2年の修行期間は、現在の私の背骨といえるもの

パチンコ初心者で、且つたばこを吸わない私が、父から紹介してもらった大手パチンコ会社に入り、まずはホール担当として灰皿回収など現場仕事をするところからスタートしました。

みんなパンチパーマでちょっと怖そう」。おそらく皆さんも同じかもしれませんが、これが私が抱いていたパチンコ業界のイメージです。ところが、実際は全く違ったのです。挨拶は誰もが丁寧、店長などは皆さんブレザーを着用していて、パチンコ業界ってこんなだったの?と驚いたのを覚えています

ホール担当の後は本社経営企画室に移り、パチンコ業界の全方位を学ばせてもらいました。この2年間の経験が、今現在の私を支えてくれていると強く感じます。

その後、父の会社に入り、6年を経て社長に就任しました。「パチンコファンを増やしたい」という想いのもと、他社がやらない「1円パチンコ・低貸し専門店」として、パチンコをギャンブルではなく日常の娯楽としてのパチンコへと変革させるためにさまざまなチャレンジを続けているところです。

「ロジカルな経営」「マネジメント力強化」を目指してMBAを取得

私のキャリアにおけるターニングポイントはどこですか?と聞かれたら、「今この瞬間です」と答えます。常に今が一番良くない状態だと捉え、では今何をしなくてはいけないか?という視点で考えるようにしています。社長就任後、MBAを取得したことで、さらに変革を起こすためのスキルが身に付いたと思っています。

MBAを取ろうと思った大きなきっかけは、2年間修行させてもらったパチンコホール会社の後を継いだ社長の存在です。非常にロジカルな経営をされる姿に感銘を受け、以来ずっと「いつか自分もMBAを取りたい」と思っていました

もう一つの理由は、私自身がマネジメントにずっと興味をもっていたからです。銀行勤務時代、保守的で他責な風潮が強いことから、能力のある人がうまく力を発揮できずにいること、逆に、立ち回りが上手なだけで手を抜いているのに評価されている人がいる実態を目の当たりにしてうんざりしていました。

どうすればズルを防げるか?と考えたとき、しっかりとした仕組みづくりとしてのマネジメントの重要性を認識するようになりました

今現在も、それぞれの良いところを伸ばしながら苦手なところをフォローする組織にするためには?ということを常に考えています。そういう組織が増えていけば、仕事で感じる不幸せの多くは減るんじゃないかと思っています。

あなたを必要としてくれる場所に行くことをすすめたい

これから社会人としてのスタートを切ろうとしている皆さんにまず伝えたいのは、自分にどんな能力があるか学生時代にすべてわかっているわけではない、ということです。その上で最も大事なのは、自分を必要としてくれる場所に行くことだと考えています

大勢の中の〇〇さん」ではなく、「こういう魅力がある〇〇さん」と迎え入れてくれる会社や、スキルを磨きながらキャリアアップしていく道筋のある会社、フォローアップ体制がしっかりとしていて能力を伸ばしていけるよう温かく見守ってくれる会社というような視点をもつことをおすすめします。

もう一つ、思い描いたキャリアの通りに進んでいく人などいないということも伝えたいです。私自身、学生時代にはパチンコ業界に入るなど夢にも思っていませんでした。22歳のときと30歳のときでは見える景色、働くフィールドは変わっていきます。仮に、22歳で第一希望の業界や会社に入れなくても、30歳のときには実現できる可能性も十分にあるのです。

朝川さんがすすめるキャリアを描くときの心構え

  • 自分にどんな能力があるか学生時代にすべてわかっているわけではない

  • 思い描いたキャリアの通りに進んでいく人などいない

ついつい目の前だけを見てしまう気持ちもよくわかりますが、ぜひキャリアのロードマップを長く、そして広く持ってほしいと思っています。

アピールするだけでなく、相手の話を「聞く」「引き出す」姿勢をもつこと

人気企業の面接ともなると、何とかして選ばれる側になろうと必死になるはずです。自分の魅力を存分にアピールすることはもちろん大事なことですが、相手に響くアピールをするためには実は相手の話を引き出す力も必要です

面接の場で私自身が興味をもつ学生は、我が社に興味をもってくれていることが伝わってくる学生、会社のことをしっかりと調べてきてくれている学生です。そうやってキラリと光るものを感じとったときには、なぜ志望したのか?何が得意なのか?どのようなキャリアプランを描いているのか?を詳しく聞いて、「ではこういうキャリアはいかがですか?」とこちらから提案する流れになります

世の中には、自分の話を聞いてほしいという人は山ほどいますが、話を聞くというスタンスがある人はそれだけで価値があると思います。もちろん、アピールすることも大切です。相手からの質問に対してうまく自己アピールしながら答えつつも、相手の話を「引き出す」ためにこちらからの質問もねじ込んでいく、そういう姿勢を意識してみるとよいと思います。

自己の強みと弱みを理解し、周りと比較しながらアップデートし続けよう

現時点での自分の強みと弱みを冷静に理解し、アップデートを繰り返しながらキャリア形成できる人。これが今後もとめられる人材であると考えています

逆に、自分をよく見せたい、評価されたいと現状より背伸びすると、周囲とのギャップに苦しむだけでなく、思うように評価されないとさらに苦しくなります。

自分の強み、弱みを冷静に理解するためには、細かく書き出してみることをおすすめします。次に、そのメモを隠した状態で、家族や友人に「私の強み、弱みってどんなところか教えて」とお願いしてみましょう。数人に聞いてみれば共通項が見えてくるのではないでしょうか。

自分の強み・弱みを理解する方法

  • まずは、自分自身で自分の強み・弱みを書き出す

  • そのメモを隠した状態で、家族・友人に「私の強みと弱みを教えてほしい」とお願いする

  • 共通項から、現時点の自分の強み・弱みを理解する

自分の今の弱みを受け入れるのはつらいことかもしれません。しかし、現時点の弱みは、この先いくらでも強みに変えていくことができます。弱みを理解すれば強みをより強くしていこうという戦略を立てることもできます。正しく現状を理解することこそが大事なこと。正しく理解できていれば、描いたキャリアプランとアンマッチが起こる可能性も低くなりますし、幸せな働き方ができると思っています

さらに、強みと弱みは、周りと比較を続けることで常にアップデートしていく必要があります。経済学者のデヴィッド・リカードが提唱する「比較優位」という考え方を応用すると、他人との比較をすることで自分の立ち位置がわかり、どんどん自己を高めていくことができると考えています。

自分の強み・弱みを知るためにも、学生時代にはぜひ、好きなことを突き詰めることをおすすめします。とことん突き詰めれば、得るものは必ずあるはずです。仮に何も得るものがなかったのなら、なかったという事実がわかったことが収穫です。

好きなことをやっていればプラスのエネルギーが出ますし、うまくいかなくても何かに集中している時間は何事にも代えがたい貴重な経験です。退屈だなと感じる暇もないくらい好きなことを突き詰めた学生生活であれば、それだけでもう十分すばらしいと思います

壁にぶつかったら、旅をして物理的距離をとってみよう

最後に、今後のキャリアで壁にぶつかったり、行き詰まりを感じたときにおすすめの対処法をご紹介します。

私自身は、大きな冒険はせず先を読んで慎重に物事を進めるタイプですが、これまで2度ほど、先が全く見通せず大きな谷に落ちるかもしれない、という経験もしました。

私が見い出した最もおすすめの方法は、旅行です。起きている問題と物理的に距離を置くことで、脳は問題から離れたと勘違いをするとご存知でしょうか。これは各種論文でも発表されていることなので、ぜひ覚えておいてほしいです。対象物から意識的に離れることで、短期間で冷静になれるという大きなメリットがあるのです。

物理的に距離をとっても解決しない場合は、行き詰った理由を書き出してみましょう。文字にした時点で自分のもとから離れます。次に、起きている問題が真の能力の問題なのか、人間関係の問題なのか、金銭問題なのか等のジャンル分けを行って、さらに難易度をランク付けしていきます。

そこまでできれば、重大だと思っていた問題もほとんど解決に近づいていて、後は行動に移すだけです。こうやって考えていくと、壁だと思っているどんな問題も解決できそうだな、と少し楽になるのではないかなと思います。

私自身は、思うように言葉が通じない海外に意識的に旅に出ることを心掛けています。経営者の立場になってからはとくに、周りから持ち上げられて天狗になってしまうのではないかという危機感があるので、少し不自由な海外に行き、謙虚な気持ちで自分自身を客観視する時間をもつようにしています。

この先、たとえ行き詰ることがあっても、「起きている問題と物理的に距離をとってみる」ということを意識して、一つ一つ壁を乗り越えてキャリアアップしていってほしいと心から願っています

取材・執筆:小内三奈

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