医師の道に進んだ弟との約束からヘルスケア分野で起業|人の逆を選んで成長し続けるキャリア
メンタルヘルステクノロジーズ 代表取締役社長 刀禰 真之介さん
Shinnosuke Tone・ 2002年、明治大学政治経済学部卒業後、デロイト トーマツ コンサルティング(現:アビームコンサルティング)にコンサルタントとして入社。2004年、UFJつばさ証券(現:三菱UFJモルガン・スタンレー証券)に移り、引受審査部に配属。その後、エンジェルジャパンアセットマネジメントにてバイサイドアナリスト、環境エネルギー投資を経て、2011年、現在のメンタルヘルステクノロジーズの前身となるMiew(ミュー)を設立し、現職
多くの人が選ぶ・楽しそうな方ではなく、敢えて人が選ばない・苦手分野を選択
附属高校からエスカレーターで明治大学の政治経済学部に進んだ私は、正直、学生時代に進路についてしっかりと考えた記憶はありませんし、将来のビジョンを描く機会もありませんでした。
いざ就職活動が始まるとき、自分なりに持っていた軸は「人が行かない方へ行こう」という軸です。当時、今でいうスタートアップのような自由な雰囲気がありそうだと感じられたのは、唯一、コンサルティング業界。最も肌に合いそうだと思ったので、コンサルティング業界一択で就職活動を進めました。
他の業界は一切考えていませんでした。もしコンサルティング業界に縁がなければ、一旦留学でもしてもう一度考え直そう。そう心に決めていました。
結果的に、現在のアビームコンサルティング、当時のデロイト トーマツ コンサルティングに入社が決まりました。コンサルタントと一言でいっても、一般的にイメージしやすい戦略コンサルタントもいれば、システム構築などをおこなうITコンサルタントもいます。何となくかっこいいイメージもあって、入社後は戦略コンサルタントとしてキャリアを積みたい気持ちもありましたが、ここでもやはり「人が行かないところへ行こう」と考え、ITコンサルタントの道へ進みました。
すべてのことに当てはまるとは思いませんが、これまでずっと「人の逆を行け」というのが私の信条です。
ITコンサルタントの仕事は、私にとって正直「楽しい」と感じられる仕事ではありませんでした。そもそも、ITは苦手な領域だったのです。しかし、あえて苦手な方を選択したことは結果として良い選択だったと今は強く感じています。
ITコンサルタントとして得た知識やスキル、さらにプロジェクトマネジメントのノウハウは、起業してから本当に役立っています。サービスやプロダクトをいかにローンチまでもっていくかというとき、エンジニアと対等にコミュニケーションできるのは、私の大きな強みとなっています。逆に、ITスキルがない起業家とエンジニアがやり取りするとなると効率が悪く、意思疎通がうまくいかないんだろうなと感じることが多いです。
社会人の初期の段階でITリテラシーをしっかりと身に付けられたのは、私にとって大きな武器となりました。これまでのキャリアでターニングポイントを一つあげるとしたら、「人の逆を行け」という信条に従いITコンサルタントを選んだことだと思っています。
3度の転職を決めた判断軸は「このままここにいて成長できる環境があるか」
その後、起業するまでのおよそ9年間、短いスパンで3回転職をしました。コンサルティング会社の次は、証券会社で上場審査を担当、次に投資ファンドでバイサイドアナリストを、さらに、環境エネルギー投資という会社でベンチャーキャピタリストとしてのキャリアを積みました。
どの会社も厳しい世界でしたが、必死に働きました。知識、ノウハウを吸収し、自分のスキルとしていく過程で常に自分に問いかけてきたのは「このままここにいて成長できるか」。転職を考える前に、上司に新たなキャリアを積みたいと打診したこともありますが、なかなか異動もできなかったのが実情です。結果的に「このままここにいても成長できる場がない」と感じて、迷わず転職を選択しました。
人によって、知識、ノウハウを習得するまでにかかる時間は違います。私の場合、どの会社、どんな分野でもかなりハイスピードで身に付けられたので、常にキャリアアップのための最短距離を描きながら転職を繰り返してきました。
起業のきっかけは、「いつか兄弟で仕事をしよう」の約束
自分の中で起業を意識したのは、遊びほうけていた大学生の頃に遡ります。将来のビジョンをまったく描けていなかった私とは逆に、当時東大生だった弟が「医者になりたいから、もう一度医学部に入り直したい」と言い出しました。
弟はとにかく頭がよくて、本当に医学部を受験し合格を果たしました。有言実行で千葉大学に入学。新たに弟が医者への道をあゆみ始めることとなったとき、二人で「将来兄弟で一緒に仕事しようよ」と話をしたのでした。
その約束はずっと、頭の片隅にあるかないかレベル。私自身は金融マンとしてキャリアアップに励む毎日でした。ところが30歳を目前に、体調を崩して急遽入院することになりました。HCU(高度治療室)に入った私は弟のおかげで一命を取り留めたのですが、それをきっかけに「あのときの話、覚えている?」という話になったのです。
もちろん約束は覚えていました。大病をきっかけに、「そろそろ、自分にしかできない仕事を考えよう」と思い、真剣に動き始めることとなりました。
起業に向けて考え始めてから自然と沸いてきたのが、「医療業界の課題を解決したい」という想いです。
前職の環境エネルギー投資は、今の日本をつくってきた自負のある興銀出身者がつくった、環境・エネルギー分野に特化した日本で唯一のベンチャーキャピタルでした。「持続可能な社会に貢献できるベンチャー企業を育てる」というその明確なミッションは、当時の私の胸に大きく刺さったことは今でも覚えています。
「医療分野で、サステナブルなビジネスを生み出したい」との考えに、自分自身が生死をさまよったときにお世話になった医療業界に恩返ししたい想いも重なり、2011年に医学会向けのサービスを立ち上げ起業を果たしました。
どんな人生を送りたいかで、選ぶ企業は自ずと変わる
どんな業界、どんな企業が合っているかわからない人はたくさんいるでしょう。1つ伝えたいのは、あなた自身がどんな人生を送りたいかによって選択肢はまったく違うということです。
一番大切なのは、”どんな人生を送りたいか”をはっきりさせることだと思います。
チャレンジングな人生を送りたいと思うのなら、20代は絶対に苦労をしないといけない時期です。となると、必然的にそういう会社を選ばなくてはいけません。一方、ワークライフバランスを大切にしたい人は、そのような働き方が実現できる会社を選ばなくてはいけないわけです。
どんな人生を選ぶのも自由ですが、1つ言えるのは、20年後の日本はおそらくかなり危うい状態であるということ。私がもし今大学生であれば、そんな状況でも生きていけるように、チャレンジングでも成長できる方を迷わず選びます。もしかしたら、そもそも日本で就職するという道を選ばないかもしれません。
その上で、チャレンジングな人生を送りたいと考える人に向けて、これから生き抜くための企業選びのポイントを2つお伝えします。
1つ目は、ごく基本的なことですが、社会人としての基本動作が身につく会社を選びましょう。
2つ目は、会計、財務、ITリテラシーというベーシックなスキルが空気のように当たり前な環境を選びましょう。
この2つを兼ね備える会社はそんなに多くないと思っています。現実的には、1社で身に付けるのは難しいと思うので、1つスキルを身に付けたら次、1つスキルを身に付けたら次、と、ベストな環境へとシフトしていく、転職していく必要があると考えています。
刀禰さんが考える、必須スキルとその身に付け方
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「社会人としての基本動作」と「会計、財務、ITリテラシー」のスキルは必須
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上記2つを1社で習得することは難しいので、1つのスキルを身に付けたら新たなスキルを身に付けられる会社へ転職する
ミッションやビジョンが浸透しているかという軸も大切に
最後にもう一つ、企業選びで重要視してほしいポイントがあります。それは、ミッションやビジョン、現代的に言うならパーパスが一般社員にまで浸透している会社を選んでほしい、ということです。
大きな言葉を並べている会社はたくさんあります。しかし、パーパスが明確ではなかったり、全社員に浸透していない会社は今後競争力を維持するのは難しい時代です。逆に、そこがしっかりとしている企業は、採用力もばっちりで、若手社員の獲得も順調に進み、長く存続する会社だと思います。
一般的には、大企業になればなるほど、社員にとってパーパスは遠い存在であることが多いです。人事担当者ではない、一般の社員が企業のパーパスをしっかりと言えるかどうか、ぜひ自分の目で確認してみてください。
会計、財務、ITリテラシーをもち、謙虚に学び続けられる人は活躍できる
経営者の目線で見ていると、日本で会社員として働いている人の多くは30代前半で成長が止まってしまうケースが多いです。もちろん、中には成長し続ける人もいて、その違いは学び続けられるかどうかです。スキルに完成形はありません。スキルアップをし続けなくてはいけないのです。
私は会計、財務、ITリテラシーの3つをバランスよくベーススキルとしてもちながら、30歳以降も謙虚に学び続けられる人が、これからの時代にも活躍できる人材だと考えます。ぜひ皆さんには、学び続ける意識をもっていてほしいと思います。
学生時代には、資料作りが普通のクオリティ、普通のスピードでできるようになっていることをまずは目指しましょう。この「普通のクオリティ・スピード」に達している人が意外に少ないのです。
超重要スキルである、ExcelのピボットテーブルやVLOOKUP関数くらいは使いこなせるようになっておくだけで十分です。これができているだけで基本レベルは十分クリアしていると思います。
ぜひこの先もずっと学び続ける意識をもって、社会で長く活躍し、輝き続けられる人材となってほしいと心から願っています。
取材・執筆:小内三奈