良い時も悪い時も乗り越えてやり抜く経験を築こう|30代へつながるキャリアを作る重要性

株式会社Enjin 執行役員 事業本部長 湯浅 直哉さん

Naoya Yuasa・大阪府出身。2007年同志社大学卒業後、ITベンチャー企業に新卒で入社。2008年 Enjin 創業期に入社。執行役員 事業本部長として2021年東証マザーズ上場(現グロース市場)。現在は、事業部門と事業推進部門を管掌

この記事をシェアする

学生の間に、ワクワクを経験してみよう

学生時代、思い立ってアメリカに古着を買い付けに行って販売したことがありました。思い返すと、それが自分のビジネス初体験です。思いつきで何の考えもなく勢いでチャレンジしたので、結果は大赤字。季節は秋を向かえていたのに、大量に買い付けたのがTシャツだったのが敗因です。大量の在庫を抱えて、ビジネスは甘くないと感じる一方で、ビジネスって面白いなとも思い始めました。

次にチャレンジしたのが、大学がある京都の地元企業との共同商品開発。大学生と地元の老舗企業が組んで商品を考えるもので、商品が大学の生協で売られたり、プレスリリースに反応があり取材を受けたりと、仲間と一緒に人を巻き込んでビジネスをするのは楽しいと実感する経験でした

しかし、学生時代に自分で会社を作ろうと思える勇気は出ず、成長できる環境や時代の流れやスピードを感じられる環境で力をつけようと思いました。そこで大学卒業後は、IT企業に入社しました。

学生時代にビジネスをする・しないとかは全くどちらでもいいと思いますが、ワクワクして熱中できるものを見つけられたことは、運が良かったかなと思います

どん底から這いあがるより、どん底に落ちないために

ワクワクしながらスタートした社会人生活ですが、すぐに甘い考えは打ち破られました。当時、会社は上場直後で時価総額が1000億を超え、急成長すると思っていた矢先、業績や株価が急降下したのです

会社が潰れかねない状況で、社内の空気もかなり良くなくて。成長企業で活気あふれる中で成長したいと思っていた中、いきなり社会の洗礼を浴びたわけですが、とはいえその時はそれほど辛いと感じておらず、ある種スリリングな状況を楽しめていました

なんせまだ入社したてで、責任や権限もあったわけではないので、ただ傍観していた感じです。世の中は甘くないこともあると学びましたが、まだどん底は知りませんでした。

その後、当時の会社の上司に声をかけてもらい転職をすることになりました。渋谷のマンションで3人のスタートアップ。当時の私からしたら「会社の立ち上げ」「起業」というキラキラした言葉です。自分に目をつけて呼んでくれたこともうれしかったし、ここまでのキャリアを逆転して成功したいという思いもあり、勇んで参加しました

新たにキャリアを積もうと奮闘しますが早々に旗色が悪くなっていきます。売るものが明確になく売上は立たない。固定コストだけが毎月かかってきて、このままでは数ヶ月後にはスタート時の資金がショートするかもしれない。

起業をするという本当の怖さもわからず、その覚悟もないことに気付きました。そして何より自分が一人で生きていくためのお金を生み出す力も全く無いことを痛感し、わずか半年で不安ともどかしさに押し潰されてしまいました。

成長すると思って入った会社は業績悪化し、再起しようと思ったスタートアップでは自分の無力さ非力さに打ちひしがれる。

なんの実績も出せず、なんの力も付いていなく、大学卒業後わずか1年半で無職になってしまいました。朝起きて行く場所もなく、仕事もない。安定した給与が入ってくることもない。貯金もゼロ。人生で初めて絶望を感じました

「挑戦」や「可能性」という口実で、今いる場所で頑張り続けることを避け、会社や誰かのせいにして、覚悟もないのに安易に環境だけを変え続けた自分の甘い行動の結果を全て自分で受け取ることになってしまいました。

この時に感じたのは、20代で焦らずに落ち着いて経験を積む重要性です。余程の実力や覚悟がないのであれば、最低でも3年間は同じ会社でやり続けた方がいいと思います。3年から5年あれば、実績や経験、力はそれなりのものになります。転職するにせよ、事業や会社を始めるにせよ、経験としてアピールしたり、生かしたりもできるはずです。

今の時代は、副業や転職が馴染みのある流行り言葉になっていますが、若いうちはまず自分の力を付けるために腰を据えて土台作りをすることをオススメします。20代は「これをやった」「この力がついた」と言える経験をして欲しいですね。それが全くないまま30代になったとしたら、キャリアの可能性は極端に閉ざされてしまうようにも多くのビジネスパーソンを見ていて感じています。

その後Enjinに入り、たまたま上場を30代後半に執行役員として経験できましたが、全く再現性のない経験です。運でしかありません。若い人たちに無職になって絶望する経験はオススメできますかと聞かれれば、全くもってNOです(笑)。どん底に陥り絶望しないためにも、キャリアの積み重ねを甘く見ず、20代という貴重な時間を丁寧に過ごして欲しいです。

苦難を乗り越えやり抜いた経験もキャリアになる

なんらかの積み重ねを3年から5年といったのは目安です。キャリアと呼べるには、やり抜いたと言える経験をしてほしいですね。1,2年ちょっとだけかじってみたり、やってみたら少し結果が出たりすることは、ビジネスの世界ではよくあると思うんです。でも、それは大きなキャリアにはなりません。

どんな業務も事業も、うまくいっている時とうまくいかない時があります。不調や不遇の時を乗り越えた経験、苦難や困難を乗り越えたという自信がキャリアの核になっていきます。肌感覚ではありますが、3年から5年あればそのどちらも経験することができると思っています。

転職や起業を考える人に対しては、5年間やり抜いてから判断することをオススメします。やり抜いた人は会社からも評価されているはずですので、出世や抜擢の可能性はかなり高くなりますし、一定以上の力が付いていれば転職なども比較的容易に選択肢が多い状態にもなり得ます。どちらにせよ、1,2年で私のように安易に環境を変えることはオススメしません。

与えられるより、与える幸せを

無職のどん底の自分を救ってくれたのは過去のご縁でした。大学時代にビジネスをしている際に出会った起業家の方が、たまたま電話をかけてきてくれたんです。

それが弊社Enjinの代表でした。「元気してる?」と。自分の苦境を伝えていたわけでもなく、完全な偶然です。本当にびっくりしました。事情を説明したところ「可哀想だし、じゃあウチくるか?」と仰ってくださり、とにかくなんでもやらせてくださいと縋る思いで当時10名もいなかったEnjinに2日後に入社しました。

入れてもらったからにはこれまでの自分のプライドや先入観を全て捨てて、ゼロから、マイナスから這い上がって、拾ってくれた代表や会社に貢献しようと思って必死に働きました。でもとにかく自分が与えてもらうばかりでしたね。お金のない自分を心配して、ほぼ毎日、昼も夜も代表や上司から食事を奢ってもらっていました。客先に行く時も毎回同行してもらい、ゼロから全てを叩き込んでもらいました。

本当にありがたい環境で、周囲から日々助けられる中で、いつか自分も与えてもらう側から、与えられる側になりたいと思っていました。やってもらうのではなく、やってあげる側、ご飯を奢る側、税金をしっかり払う側、感謝される側の人になりたいと。人のお役に立てる人になりたい。それは「ギバー」になるということ。弊社が掲げる理念でもあります。そのうちに、役職を与えていただき、部下や後輩ができ、お客様にも少しずつ与えられるものが増えていると感じられるようになり、とてもうれしかったですね

人は何かを与えられている時よりも、与えている時に幸福を感じるというのは真実です。自分が利益を享受することばかり追い求めるのではなく、自分が利益をもたらす方に回ったら、と一度考えてみてほしいですね

ギバーを目指す以上、しんどいことは通常運転、だから成長できる

どん底から這い上がって役職などがついてきた後は全てが順調だったかというと、そうではありません。新卒や中途社員を採用してもすぐに辞めてしまい、離職率が跳ね上がってしまい「30人の壁」という成長企業に特有の課題に悩まされた時期もありました。売上を拡大しなければならなかったり、上場した後は「ルールや制度が多く、堅苦しくなった」と社員から不満が出てしまったり。どの時代を振り返っても課題がゼロになることはありません。

でも、その困難や苦難を不幸だとは捉えませんでしたね。よく代表からも「苦しいことも楽しいことも表裏一体だからね。苦楽を共にしようよ。」と教えてもらっていますし、その苦難や困難を乗り越える最中にも幸せはあると思えると、当時の私のような絶望を感じることもありません。苦楽を共にできる素敵な仲間と一緒に社会のお役に立っていく、そんな人を一人でも増やすんだという気持ちでいれると、前向きに過ごすことができています

もちろんしんどい状況はうれしいことではないけれど、しんどいのは普通だとも思っているので、通常運転です。ギバーというのは口でいうのは簡単ですが、与える側にいこうとすると、自分だけじゃなく周りの分の負荷も全部自分にのしかかってきます。そう考えると、ギバーを目指す以上は負荷が何倍にもなるのでしんどいことは当たり前。でも振り返ると自分に力がついていて、結果的に成長していることを実感できるようになるんですね。

そしてイメージしているのは「ピークを先送りする」ということ。今がピークではなく、常に少し先に一番の成長点が来ると思っていれば、着実に成長し続けられると考えています。

学生の方や若手社会人の方にお伝えしたいことは、当時の私のように、焦って判断を早めないようにしてもらいたいということ。チャンスと思い込んでいたことが実はチャンスではないこともありますし、チャンスを生かせる自分の力が備わっていないばかりにチャンスを逃すことも往々にしてあります

また会社選びをする際にも、大企業がいいのかベンチャーや中小企業がいいのかといった議論は昔からずっとありますが、正直どちらでもいいと思っています。どちらの選択にも良いこと・悪いこともありますし、どの先にも苦難や困難、課題は待ち受けています

安易に環境のせいにせず、自分自身で考え抜いて決めた会社で、3年から5年、覚悟を決めてやり抜いて欲しいです。どんな会社に入ってもその期間を費やせば一定の実力は付きます。その実力がついたタイミングから挑戦しても遅くはないです。

40歳を目前にして今思うことは、20代で人生は終わらないということです。30代、40代、50代、60代、70代と人生は永く続いていくものです。一時の目先の感情や、点だけで判断せずに、人生を線で、そして面で考えるようにしてみると、大局的な視点に立ち、自分の進むべき道が自ずと見えてくると思います

取材・執筆 鈴木満優子

この記事をシェアする