人付き合いを大切にすると充実したキャリアになる|自分の意見を臆せず周りに伝えよう
大坂組 代表取締役社長 大坂 憲一さん
Osaka Kenichi・高校卒業後、大学で土木について学び、地元の青森に戻り、父親の創業した大坂組に入社。現場仕事や営業活動を経て、現職
人付き合いを大切にするようになった若手時代
私が土木の道に進んだのは、父親の影響でした。父親が大坂組を創業し、社長を務めていた関係で、私も同じ道に進むことになったのです。
そのため、高校卒業後は日本大学の生産工学部に入学し、土木工学について学びました。大学卒業後は、すぐに地元に帰って大坂組に入社。もう少し東京で修行したい気持ちもありましたが、早く両親の手伝いをしたいという思いで入社を決めました。
まずは先輩に教わりながらさまざまな現場に慣れていきました。たとえば、高速道路の補修工事では、青森県は積雪が多く、作業の最中にすぐ雪が積もってしまうなど、厳しい場面も少なくありませんでした。
また、若手の頃は覚えることが山ほどあり、過去の資料を数年かけて全部データ化し、大坂組の担当現場をできるだけ把握するなど、業務外でも努力を怠りませんでした。
2年目になると、営業も担当するようになり、県外を含めていろいろな人との関わりが生まれました。グループ会社に顔を出すようになり、父親の教えで、社内外問わず人付き合いやつながりを大切にしていました。仕事の合間や終業後に、青年会議所の集まりに参加することもありました。
今振り返ると、このような若手のときの地道な勉強や努力、社内外の方々との付き合いが、今に生きていると思います。若手のころから意識付けができたので、経営者となってからも、勉強し続ける姿勢や人とのかかわりは大切にできています。
経営の大先輩から得た、新たな価値観
特に印象的だったのは、イエローハット創業者の鍵山秀三郎さんと、京セラや現KDDIの創業者である稲盛和夫さんとの出会いです。
鍵山秀三郎さんは、青森県庁の監理課で若手のために事業後継者育成の会合を開いてくださり、私はその会長を5年ほど務めました。その中で、鍵山さんが創始者であるNPO法人「日本を美しくする会・掃除に学ぶ会」にも参加させていただき、若手後継者の皆さんと青森支部を立ち上げました。実際に青森県内の小学校のトイレをお借りし、皆さんとの清掃活動を通し、学びを深くできました。
稲盛和夫さんからは経営者の在り方を学ぶ「盛和塾」を通じ、様々なことを学ばせていただきました。「盛和塾」は各県にありますが、世界から認められていた稲盛さんは私のような若者に対しても優しく、私はその人柄に深く感化されました。また、稲盛さんは「アメーバ経営」という、全社員が経営に参加する仕組みを提唱しており、それぞれの部門ごとに生産性を意識する重要性を学びました。
このように、さまざまな人と出会えたことで、少しずつ価値観も変わってきたかと思います。
そして、37歳で社長に就任し、経営を担うようになってからも、「人のため、地域のため、会社のために行動をする」というお二人からの教えは活かされています。たとえば、2002年から必ず月に1回、会社近くの地下道の清掃活動を続けたり、子ども向けイベントの開催や、チャリティー活動で集まったお金の寄付などをしてきました。小さなことですが、継続して実行することも大切だと思っています。
継続力の根底には「思い」がある。幸せはいつも自分の心が決める
企業理念においても、「科学性」「社会性」「人間性」を掲げており、企業ホームページの「科学性」の部分には、「技術と安全と創意工夫で、地球環境と調和のとれた、快適空間創りを目指します」と記載しています。
どうしても建築産業では、自然環境の一部を利用してモノづくりをするという面がありますよね。そのため、少しでも環境保全に貢献できればと思い、当社の保養所のとなりに位置する野内川に、イワナを年間5万匹放流する活動を21年間続けてまいりました。
また、青森県の陸奥湾は、「アマモ」という海草が密集した「アマモ場」が日本最大の面積を有する場所ですが、一方で、最も消失している場所でもあります。その課題に目を向け、アマモ場の繁殖活動にも力を入れています。そのためにコンクリート二次製品で漁礁の開発(特許取得)し、合同会社を立ち上げ販売をしております。
環境保全活動や、会社経営を何十年と継続し続けられる根底にあるのは、「皆さんが困っていることを解決したい」という思いです。誰かが困っていることは、もとめられていることでもあり、それは仕事という形にもなります。
私自身が最も使命を感じているのは環境保全活動ですが、人によっては他のビジネスやボランティアになるでしょう。困っているところに手を差し伸べたい、助けたいという思いによって、仕事に一生懸命になれたり、物事を継続できたりすると考えます。
私が大切にしている考え方の一つは、「幸せはいつも自分の心が決める」ということです。何かが起きた時、社会や景気、会社、上司のせいにすることは簡単で、自分自身も楽かもしれません。しかし、自分を幸せにできるのは自分だけです。この考え方は人生の土台にもなっています。
また、若手時代の話でもありましたが、人とのご縁やお付き合いも大切にしています。社長に就任したばかりの頃、なかなか売上が立たない時期がありましたが、それでも付いてきてくれた社員や、問題を解決するために力を貸してくれた人など、周りに助けられながら乗り越えてきました。
今でも業界や年齢などを問わず、色々な方と関わりを持つようにしていて、考え方や価値観を勉強させてもらっているなと感じています。新しい業界のことを知ったり、新しい取り組みをおこなうことで、会社としても事業の幅を広げられていると、振り返ると思いますね。
就活中は「資格取得」を。社会人では「自分の意見」を大切に
就活におけるポイントは、学生のうちに、興味のある仕事に役立つ資格を取得することです。就活中でも、内定から入社までの期間でも構いませんが、入社までに資格取得をしておくことで、仕事に役立つのはもちろん、面接官や上司から一目置かれる存在になるはずですよ。
企業選びの際は、社長の方針や経営理念をチェックすることをおすすめします。入社しようとしている会社が、どのような方向性に進んでいくのかを知っておきましょう。
入社後のことも少しお話しすると、社会人として活躍するために大切なことは、先輩や上司とのコミュニケーションの仕方です。例えば、先輩に相談するときに、とりあえずわからないから相談しよう! とそのまま相談してしまう人が多いと思います。
でもそうではなく、自分で考える前に、まずは自分なりの意見や考えを持ってから質問や相談するようにしましょう。
これ以外にも、自分の思いや考えを包み隠さず、オープンにする意識も持っておいてほしいです。上司、部下、双方にとって、何を考えているのか分からないというのは、不信感を生んでしまいます。周りの人と信頼関係を築いていくためにも、自分の意見は怖がらずアピールして大丈夫ですよ。
若手の頃は分からないことがあって当たり前です。今感じていることや、考えていることを、臆せず周りに伝えることで、お互いに気持ちの良いコミュニケーションが取れるのではないでしょうか。
社会人になると、仕事において課題に直面するときもあります。それに対して、ただ辛いことが起きたという見方ではなく、キャリアの分岐点だと捉えて真剣に向き合うことで、自分の糧にすることができるでしょう。
困ったときに逃げることもできますが、結局は自分の前に立ちはだかっているもので、自分に関係していることです。しっかり向き合うかどうかによって、その先のキャリアにも影響していきます。ぜひ問題から逃げるのではなく、真剣に向き合ってみてくださいね。
取材・執筆:志摩若奈