ルールに縛られて「本質」を見失うな|失敗から得る気づきを積み上げて変化を起こしていこう

Jストリーム 代表取締役社長 石松俊雄さん

Toshio Ishimatsu・1986年にリクルートへ入社し、求人情報誌や旅行情報誌の営業を経験。1999年に企業向け動画配信プラットフォームを手がけるJストリームに入社し、2000年に取締役営業部長に就任。2003年に取締役ストリーミング・プロデュース部担当、メディア開発部担当、コミュニケーション開発部担当、パートナー開発部担当、営業統括室長に就任。2008年に代表取締役副社長、2014年に代表取締役社長となり、以降現職

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ときにはルールを変えながら「本当に大切なもの」を見極めてきた

私はこれまで36年余のキャリアのなかで、何度も「ルールを変えよう」と試みた経験があり、その一つひとつがターニングポイントと言えるかもしれません。

たとえば、1社目となるリクルートでは「3ヶ月以上先輩がコンタクトを取っていない営業先には後輩もアプローチをしていい」という新しいルールを提案しました。

同社では、新入社員全員が新規開拓活動に専念します。しかし配属先の営業所では「先輩が訪問した営業先リストにアプローチしてはいけない」という暗黙の了解があり、思い当たる営業先はほとんど先輩たちが一度以上アプローチしている状況がありました。これではどこにもアプローチできないと感じ、上司に上記の提案をしてみたのです。

当然のように、多くの先輩たちから猛反発を受けました。しかしそこで諦めることなく「3ヶ月以上も連絡を取っていないのは、お客様にとっても有益ではないはずだ」「担当者が変われば、お客様の気分や意向が変わる可能性もあるのでは」といった説得材料を持ってあちこちを説得して回った結果、なんとか許可をいただけることになりました。

このルール変更の結果、多くの新人の中で年間ランキングのトップ3に入ることができました。成功体験につなげられたことで、「既存のルールが不条理ならルールを変えればいい」という信念が確固たるものとなりましたし、ルールに縛られず「お客様にとって何が本当に大切なのか」を見極めながら、本質的な仕事をするべきだという確信も得ました

とはいえ、私はすべてのルールが無意味だと思っているわけではありません。自分のやり方だけにこだわる頑固な人間でもありませんが、人の意見に流されにくい性分ではあるようです。

最近、小学校の恩師に会った際「あなたは10人中10人が同じ意見でも、ひとりだけ『それは違うと思う』とこだわりを持って主張する子供だった」と言われました。

自分でこうだと思うと、やり遂げる意思も強いタイプなので、集団で方向性を決める際に頼りにされることが多く、部活の主将や学祭の実行委員などもよく任されていました。

人それぞれに役割や性分があるので、皆がそうあるべきという話ではありません。ただどんな人でも、これから社会人として仕事をしていくなかでは「ルールに縛られて本質を見失っていないか?」と疑う視点を持っておいて損はないと思います

インターネットの世界への興味が勝り、安定を捨てて転職を決意

リクルートには13年間在籍しましたが、後半は旅行誌『じゃらん』の営業となり、新規事業である自治体の観光課や地元の観光協会などへの営業活動をおこなっていました。

この部門でも、お客様の課題解決の目線は徹底させていました。たとえば、旅先に足を運んでみると、あちこちで良い情報が詰まった観光協会作成のパンフレットが並んでいるのに、それらは東京で入手できません。

「旅行に行ってからパンフレットが手に入るのでは意味がない、行く前に知りたい情報ではないか」と感じたことから、じゃらんの雑誌の中にパンフレットを綴じ込むBOOK IN BOOKという形でパンフレットの掲載を提案。

観光地にとって関東地域の読者に向けた巨大メディアに掲載できることはお客様にとっても願ったり叶ったりということで、続々と受注をいただきました。

インターネットが普及していなかった時代の企画でありますが、「せっかく作ったパンフレットが埋もれている」というお客様の課題解決に貢献することができたやりがいは大きかったです。このアイデアで、売上を3倍に伸ばすことができました。

このように、やりたいことをやらせてもらって楽しく働いていたのに、なぜ当社への転職を決めたのかといえば、ひとえに「インターネットの世界に著しい可能性を感じたから」です。

当時はまだ黎明期で混沌としていましたが、ノートPCを持って全国各地を営業するなかで、インターネットの世界や動画に大きな可能性を見出していました

今でこそ664名を超える企業になりましたが、当時のJストリームはまだ社員たった6人の小さな会社。大企業の安定を捨てて創業まもないベンチャーに飛び込むことに、多少の迷いはありました。

それでも「インターネットは本当に面白いな、この世界に飛び込むなら今がベストタイミングだ」「失敗だとしても飛び込んでみたい」という興味が勝っていましたね。

私は大きな意思決定をする際、プランA、B、Cといろいろなパターンでシミュレーションをします。このときも「リクルートに残った場合」「Jストリームに転職した場合」「リクルートに残って、インターネットの仕事を手がけた場合」などを想定し、それぞれうまくいったとき、ダメだったとき両方の想定をしながら検討しました。

その結果「仮にJストリームへ行ってうまくいかなかったとしても、リカバリーできるだろう」と思えたことが、決断の後押しになりました。リクルート時代に積み上げてきたものが、その自信の裏付けになったのかなと思います。

この経験から、学生の方々にも「面白そうだな、楽しそうだな」と思えることを軸に就職活動をおこなうことを勧めたいです。

私が学生の頃は終身雇用が当たり前でしたので「30年後の会社と自分の成長を重ねた姿」を考えながら就職活動をしましたが、今は社会の変化のスピードもどんどん速くなっているので、今の会社の価値が10年後に同じである保証はどこにもありません。

それなら「面白そうだな」と自分が興味を惹かれるところに行ったほうが、楽しく仕事ができるのではないでしょうか

私自身、前向きな興味から転職をしたことは、とても良かったと感じています。創業期ということもあり、しばらくは昼夜を問わず仕事をしました。社員同士で寝袋をプレゼントしあったこともあります(笑)。

それでも「好きなことだから楽しくて仕方ない」という感覚でした。

そのうえで1社目にリクルートを経験できたことも良かったと思っています。「入社3年間で培われたノウハウは、その後一生ついて回るのだな」という実感があり、その意味でいうとファーストキャリアはやはり重要かと思います。

リクルートは「一人ひとりが個人商店であれ」という考え方の会社で、新人も先輩も同じ土俵で戦える風土だったので、1年目から常に「どうすればお客様に響くか」ということを考える習慣が身に付きました。

優秀な先輩もたくさんいたので、新人時代は先輩たちを見て「良いな」と思ったことはガンガン盗ませてもらっていましたね。すごいなと思ったら何も考えず、とりあえず1回真似してみる。そこから自分の営業スタイルを確立していきました。

「WIN-WIN-WINのトライアングル」を判断基準にして道を選ぶ

当社に来てからは「動画を活用して何ができるか、どのようにマーケットを広げていくか」を試行錯誤する日々がスタートしました。

当時、動画はコンサートの中継や花火大会などのイベントのライブ利用が大半で、一般企業にはまだまだ浸透していませんでした。

そこで、一般企業を中心に動画の活用シーンを想定して、開拓することに注力していきました。その過程で、セミナーや社内教育では動画だけではなくパワーポイントといった資料と一緒に見せることにニーズがあることに手ごたえを感じました。

しかし、動画配信料と制作費用を合わせると高額になってしまいニーズはあるもののなかなか受注にはつながりません。

これでは一向に浸透しないと考え、思いついたのが「時間売りする」というアイデアです。企業がセミナーなどで動画配信を利用するのは、30分から1時間程度。同時視聴者数もイベントのように大規模ではなく、せいぜい100名から200名程度です。

30分の動画を100名程度に流すだけならサーバ容量や流量も小さくて済むので、配信費用を安価で卸すことが出来ます。「30分のセミナーなら全部込みで20万円」という商材を作ってみたところ、これが企業のニーズを捉えて大ヒット。

特にIRとしての決算説明会や外資系の研修会で多く活用いただき、当社は2001年にマザーズ上場を果たすことができました。

そしてこの会社においても、「既存のルールに縛られないやり方」は浸透させています。

たとえば創業当時、株主でもあったリアルネットワークス社の主要プラットフォームとして普及していたReal Playerという動画プレーヤーで、「プレイヤーをダウンロードして再生する」という方式を採用していました。

一方で、Macを買えばQuickTime、Windowsを買えばWindows Media Playerが付いてくる競合商品が続々と出てくる状況がありました。

それぞれがシェアを競い合うなかで、「特定のフォーマットにしか対応できなければ、いずれ乗り遅れる」と感じたことから、どのフォーマットでも取り扱いが出来るように働きかけ実現したことで、お客様から非常に喜ばれました。

また、動画の会社でありながらWeb制作事業をスタートさせたのも「そこにお客様のニーズがあったから」です

WEB制作は、外注になるので当社の利益は期待できず、社内からは「赤字になるから手を出すべきではない」という声もありました。

しかし私は「どうせ他社の制作会社を紹介するのであれば、お客さんはそれぞれに打合せが発生して手間がかかるだろうな、だったら、自分たちが責任を持ってかかわったほうがいい」と考えたのです。

その後は制作会社のディレクターさんに常駐してもらう形からスタートして、受注が増えるに従って制作チームも立ち上がり、私もその部署に異動。

「動画もWebもワンストップでやれる」ということが次第に他社と差別化できる強みとなっていき、最終的には、利益を出せる形を作り上げることができました。

そうして現在は、動画配信のネットワーク提供・運用、コンテンツ企画・制作、配信のインフラ提供から映像制作まで、幅広く手がける企業へと成長を遂げています。 

このように行動することができてきたのは、「お客様」「会社」そして「自分」という3者すべてに利益を提供できるものは何かを常に考えていたからです。それに、この考えがもとになった提案ならば、必ずみんなから共感を得ることができると私は信じています。

また、提案をする際には「多くのお客様が抱えている共通のニーズや課題である」という普遍性を示すようにしています。「特定のお客様が困っているから」ではなく、多くのお客様に広がりを出せる計画なのだ、ということを提示することで、多くの壁を突破してきました。

この「三方よし」な「WIN-WIN-WINのトライアングル」を満たす提案をしても通らないときは、社内の違う力学で判断されている可能性が大です。

大げさかもしれませんが、正しい意見を言っても通らない組織には、見切りをつけることも考えたほうがいいかもしれません。

就職活動では、まず「自分」と「会社」という2者の関係から始まりますが、お互いに利益を与えあえる関係になれたら、ハッピーに仕事ができるはず

面接にも「この会社に入ることで、会社も自分もハッピーになるだろうか?」という目線を持って臨んでみると良いと思います。

失敗や経験から判断力は磨かれる。小さな気づきから変化を起こしていこう

最後に、これから社会に出る学生の方々には「無駄な経験はひとつもないよ」というメッセージを贈りたいです。

これまで大変な局面もいろいろとありましたが、振り返ってみれば「のちのち役立ったな」と思えることばかり。失敗をすると「次はそれをしない」という選択ができるようになっていくので、失敗や間違いも大いにしておくべきだと思いますね

若い頃に失敗や経験をたくさんしておくと、判断力が磨かれます。「こうするとどうなるか」という想像が付くようになるので、年齢を重ねてから、いろいろな判断が楽になります。

また失敗をすると「諦めを付けられる」というメリットもあります。挑戦もせず、失敗もしないまま年齢を重ねていくと「こうありたい自分」と「今の自分」にギャップがあるという状態になりやすく、そのほうがつらいと私は思いますね。

失敗を含めた経験値が増えれば増えるほど、共感をもっていろいろな人の話を聞けるようにもなるので、相手も心を開いて話してくれるようになり、深みのある交流ができるようになる実感もあります。

人は失敗をしながら成長していくので、社会に出てやりたいことができるようになるまでには少し時間がかかるかもしれません。まずは「小さく乗り越える」ことから始めてみてください。

最初から大きな壁を突破しようと思わず、まずは目の前の小さな気づきから変化を起こしていく。それがうまくいけば自信につながり、次の大きな挑戦ができるようになっていきます。

やりたいことを実現させていくには経験値やスキルが必要ですが、今の学生の方々は動画ネイティブの世代。だからこその視点やアイデアをどんどん発信していけば、存在感は大いに発揮できるはず

それらをいかに吸い上げ、形にする仕組みや環境を作ってあげられるかは、我々のような上の世代の仕事だとも思っています。

ここ数年は後進の育成に最注力しつつ、常に「5年後、10年後の社会で、どのように動画が使われているだろうか?」といったことを頭の中でイメージしながら仕事をしています。

動画に置き換わっていない部分はまだまだたくさん見受けられるので、今のこの変化は序の口だと考えています。動画は社会や企業のなかにもっと深く入り込んでいき、今以上に活用される時代になっていくことでしょう。

世の中の変化に寄り添いながら、これからも日本の動画プラットフォームとしてお客様に求められるサービスを形にし続けていくことが、私のビジョンです。

取材・執筆:外山ゆひら

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