活躍するには何かに本気で熱中する体験が不可欠|適材適所を見定めて正しい努力をしよう
NINJAPAN 代表取締役CEO 新井 景介さん
Keisuke Arai・1994年兵庫生まれ。高校時代に留学した米国で野球の才能が開花し、一時はプロを目指すも大学では野球よりビジネスに関心を高める。大学生時代に外資系IT企業でのインターンシップを経て、学生に特化した採用支援を手掛ける会社を起業し実業を経験する。2020年に外資系投資銀行に勤めていた兄と共にインバウンドビジネスのNINJAPANを起業するも直後のコロナ禍で事業を見直し、人材・教育領域に業態転換。Abuild就活というキャリア構築サービスを立ち上げ現在に至る
自責の考え方を持つことで、活躍する人材に近付ける
就活生のみなさんにまず伝えたいことは、責任に向き合わず他の誰かや周りの環境のせいにする、いわゆる他責な人は社会で活躍できるチャンスを逃す、ということです。
こんな偉そうなことを言うのは、自分も学生時代は迷走し、ある時点までは失敗を受け入れずに周りのせいにしてきた過去があるから。その反省を込めて、同じような失敗を避けられるのならば避けてほしいのです。
とはいえ、どうしても周りのせいにしてしまう人もいるでしょう。他責な自分を変える最良の方法は、本気で何かに打ち込んでやり切ることです。決して斜に構えず、学生のうちに何でもいいから熱中してみてください。
たとえば本気でバスケに打ち込んだら、シュートが決まらない原因を他人のせいにはできません。必然的に自分と向き合っていくことになります。対象はスポーツでも勉強でも旅でも何でも構いません。とにかく当事者意識をもって全力で事に当たる経験が必要です。
私が他責から自責に変われたのはビジネスでの大失敗がきっかけでした。大学生時代にイベント企画や企業への採用支援などの学生ビジネスを始め、So-cle(ソークル)という会社を起業しました。当時、個人で手掛ける学生ビジネスの規模としては日本でもおそらく最大級だったと思います。
学生の人脈を広げ、企業の要望に応じて学生を集めるビジネスが主体だったのですが、一声かければすぐに千人単位の動員ができたのでビジネスも順調。それで調子に乗って、ターミナル駅近くに事務所を構え人員も増やしたのが失敗でした。
人を育てる難しさも、人を活かす組織のあり方も何もわからず人数だけを増やして、「これで売上も拡大できる」と勘違いしていました。ビジネスは、箱を大きくすれば売上も増えるという単純なものではありません。
現実は期待ほど売り上げが伸びず、それどころか人の育成や組織の整備に自分の時間を削られて営業が手薄になり、売り上げは減少。にもかかわらず人件費や事務所費の固定費が増えていたので、会社が行き詰ってしまいました。
最終的に会社と事業を手放しましたが、この大失敗で多くのことを学びましたし、自分の至らなさや、自分の責任をようやく受け入れられるようになりました。できれば失敗をしないで自責の大切さを分かるに越したことはないので、皆さんは何か好きなこと、趣味でもなんでも良いので、本気で取り組んでみてくださいね。
自信の源泉だった野球を失い迷走期に
NINJAPANの共同代表である兄の新井翔太は、私が言うのも何ですが大変優秀で、超一流大学を卒業した後は外資系投資銀行に入社するというエリートコースを歩んできた人物です。
そんな兄に対して子供の頃からコンプレックスがあったからだと思いますが、兄とは違う道を歩みたい気持ちがあったので、高校生時代に親から勧められたのをきっかけに1年間米国留学しました。ここで野球に出会いました。
中学まではバレーボールをやっていて野球は素人だったのですが、留学先で野球部のトライアウトに参加したら、まぐれでホームランをかっ飛ばし入部を許されました(笑)。それが全米一に輝いたこともある名門強豪高校で、大リーガーを輩出するような野球部だったんです。そこで1年間プレーできたのはとても貴重な体験になりました。
帰国してから大学に入るまでの半年ほどは、独立リーグの練習に参加していたのですが、プロ野球で投手として名を成した方から「君は10年に1人の逸材だよ」と言われ、野球という隠れた自分の才能を発見して大きな自信になりました。
その後東京六大学の名門野球部がある大学に入りましたが、野球部の練習を見学に行くとあまりに日本的、体育会的で根性論が支配しているような雰囲気。「ここでは自分は活躍できない」と直感して入部しませんでした。
大学在籍中も米国に留学し、こちらの野球でひと暴れしてプロを目指そうかとも夢を描いていたのですが、結局肘を痛めて野球そのものを断念して帰国しました。やっと見つけた得意分野の野球を諦めざるを得ず、完全に目標を失いエネルギーを持て余していました。
しかし迷走していた当時、成功する当てもなく友達とノリと勢いで起業した会社が、たまたま形になったのは幸運でした。
実は4年生になるより前に「起業」というものに対して関心があったんです。大学2年生の頃の講義で、卒業生の起業家が来校して講演する時間があり、それが起業したいと考えるきっかけになりました。そこからスマホのゲームを作る外資系IT企業の日本法人立ち上げ時期でインターンをしたのですが、ここで一緒だったインターン仲間と話し合ううちに、起業するなら早い方が良いというノリで学生起業した形です。
学生時代から変わらない、「もっと日本を良くしたい」という想いから再度起業へ
So-cleから離れてからは雇われ社長をやったり、一時的に不動産系の大企業に籍を置いたこともあります。ただ、もっと違う何かを求めている自分も意識していました。求めていたものは漠然としていましたが、もっと日本を良くする、日本を引っ張り上げるような何かでした。
留学中に経験した、世界における日本の存在感の薄さが思いの背景にはありました。米国では、日本は衰退する国としかみられておらず、中国や韓国と比較しても存在感は薄い。このままでは日本は勝てないし、何かしなくては駄目だとも感じていました。
そんなことを考える中で、日本の優れた観光素材を使って世界を魅了するインバウンドビジネスに可能性を感じ、2020年1月にNINJAPANを立ち上げて京都に観光施設も開業します。しかし、直後にコロナ禍が始まってしまい、すぐにインバウンド事業は頓挫しました。
そこからもがき苦しむなかで、人材・教育領域に着目し、日本の今後を担う人材の育成にかかわっていく事業にシフトすることを決め、現在に至っています。
就活の第一歩は徹底した自己分析から
社会に出て活躍するためには適材適所であることが重要です。大谷選手がフィギュアスケートをやっていたら、羽生選手が野球をやっていたら、世界一にまで昇りつめられたでしょうか。適材が適所を得て死に物狂いで努力して、それで初めて世界で頂点に立てる。そういうことです。
NINJAPANでやっている事業は「就活のRIZAP」と説明すると分かってもらいやすいのですが、いわゆる就活における塾のようなものです。Abuild就活というメソッドで新卒のキャリア構築をしているのですが、最初に就活生に求めるのは、自分の適正と自分にとっての適所を見極めるための自己分析です。
そのために幼少期から現在までを、千単位の膨大な項目に沿って振り返ってもらいます。自分は何をしているときが楽しかったのか、生き生きとしていられたのか、突き詰めて適性を探ります。
自分が輝けるのはプレーヤーとしてなのか、マネジメントの分野で強みを発揮できるのか、起業家として勝負すべきなのか、サラリーマンが向いているのか、そういった見極めも大切です。
例として、私の友人で学生人気が非常に高い超優良企業に就職した人がいるのですが、彼は高給やネームバリューに惹かれて、その会社を志望していました。そして見事に就職できたわけですが、3カ月で鬱になり休職に追い込まれ、結局会社を辞めていまは第2の人生を歩んでいます。
このように選んだ企業や職種が自分に合っていないのは不幸でしかありません。徹底的に自己分析することで、ミスマッチのリスクをなくすことが重要なのです。
自己分析をしっかりできたら、次は自分にとっての適所を探すための企業分析をします。そうして自分の適性と企業の内容をすり合わせて志望企業が決まれば、あとは目標を実現するだけです。
そのために必要なプロセスや現状で足りないものをブレークダウンして、いつまでに何をするかの計画を立て、計画に沿って懸命に努力して自走する。ここまでできれば、きっと就職活動も満足のいく結果になりますよ。
企業情報の収集に欠かせないのは自分なりの仮説を立てて判断すること
企業分析は企業が公開している情報が基になりますが、上場企業ならIR情報を見れば事業の方向性やビジネスモデル、ビジネスの現状、将来のリスクまで詳細に知ることができます。しかも、ビジネスモデルが分かれば、ある程度は自分との相性が分かるのです。
たとえばサブスク型で安定した売り上げを確保している農耕型の企業か、次々に顧客を開拓して規模拡大を続けていく狩猟型の企業か、ビジネスモデルが違うと、働き方も変わりますよね。そのため、対人コミュニケーションが得意でばりばり営業をしたいし、それが得意だというなら、狩猟型の企業を選ぶ方が自分を活かせる確率が高まります。こんな風にビジネスモデルから働き方を想像できるのです。
企業分析の一環で、大学の先輩やOB社員に話を聞いたり、何らかの形で社内の声を直接聞く機会に恵まれることもあります。その際に重要なことは、聞いた話をそのまま鵜吞みにするのではなく、自分のフィルターを通して情報を咀嚼することです。
そのためには、自分なりの仮説を立てたうえで話を聞くことがポイント。同じ会社でも部署や、相手が置かれている状況、ヒアリングのタイミングによって、会社に対する評価は変わります。これから会社で活躍してやろうと意欲満々な若手と定年間近のベテランでは、勤務時間や待遇に対する評価は異なって当然です。
同じ意味で口コミサイトの情報も、口コミを集める構造上、サンプルが偏りがちで企業に対して批判的な情報が集まりやすいという点も踏まえて、自分なりに判断して参考にすべきです。
企業情報を収集するときの注意点
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企業情報は公開情報(IR情報など)でポイントを抑える
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社員に話を聞く前に、自分で仮説を立てて情報分析に役立てる
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口コミサイトは企業批判が集まりやすいことを理解したうえで参考にする
施策に気を取られすぎず、常に本質を捉えよう
就活の最初に自己分析を徹底させて適材適所の選択ができるように勧めるのは、自分が秀でている能力を発揮すべき場所で発揮し、自分が望む将来を築いていくことが就活生の本質的な目標だと考えるからです。
本質的な目標を達成するためには、それぞれの現状に合った施策を考えればいいわけです。ただ、多くの人はまず施策から考えてしまいがち。「これをやったら面白い」「こんなアイデアが思い浮かんだからやろう」で突き進んでしまうことも多く、そもそも何のための施策なのかという「本質を問う視点」が抜けてしまうことがあります。
よく就活ノウハウで、話をするときには「結論ファースト」を意識しようという教えがありますよね。しかし思い出してみてください。iPhoneを初めて発表した際のスティーブ・ジョブスは、結論ファーストの真逆をやりました。電話やインターネットの話を切り出して20分ほど夢を語り、最後の最後にiPhoneを取り出して「iPhone!」とやった。これが伝説的な商品発表会となりました。
極端な例を挙げましたが、このように「結論ファースト」と「人を惹きつける話し方」は完全にイコールで結ばれているわけではありません。いきなりジョブスのように人を惹きつける話をするのは難しいので、なるべく失敗しないで話の内容を伝えるための手段として「結論ファースト」なのです。ぜひ小手先のテクニックだけを意識するのではなく、相手を惹きつけるという本質を意識してみてくださいね。
学生の能力に大きな差はないからこそ、ひたすら努力しよう
社会で活躍する能力に関して、学生の資質に大きな差はありません。語弊があるかもしれませんが、どんぐりの背比べです。正しい方向性で就活を努力すれば、多くの学生が望む結果を得ることは不可能ではありません。
ただしそれは本質的な努力でなければならず、面接での質問への答え方や、エントリーシートの正しい書き方ばかりを覚えることではありません。自明のことですが、企業の採用活動の目的はその会社で活躍できる人材を雇用するためで、面接での受け答えやエントリーシートの書き方がうまい人を探しているわけではないのです。
そのため、やはり自分の本質的な適性や望みを理解して、適職となる企業を見定めることが大切になります。そして、その職業に就職するために必要な計画を立てて、ひたすら努力するのです。この努力量で周りのライバルと差が付くので、「受験勉強より努力した」と言えるくらいやり切ってみてください。
最近Abuild就活という事業をやっていく中で、だんだんと日本を引っ張る人材を産み出していく道筋は見えてきました。ここからは、この事業を起点に目の前のことをやり続け、10年後に1兆円企業を目指すことが目標です。大先輩の経営者に「世の中を動かすなら1兆円からがスタート」と言われたことがあるので、まずはそこを目指しています。
1兆円は大風呂敷と言われるかもしれませんが、まだ若い我々が目指さなくてどうするという思いも持っています。ただ金持ちになるだけならそんな規模は必要ないでしょう。しかし、私たちは本気で日本を良くするつもりでいるし、強い思いと覚悟を持って、企業ビジョンである「次世代に、熱く在れる常識を創り続ける」を成し遂げたいと考えています。
取材・執筆:高岸洋行