「社会人としての血液」が注入されるのがファーストキャリア|直感は嘘をつかない。企業選びは「何となく」も信じて

オトバンク 代表取締役社長 久保田 裕也さん

Yuya Kubota・1983年神奈川生まれ。大学在学中に外資系コンサルに就職内定するも辞退。大学のゼミが同じだった現代表取締役会長の上田渉氏が創業したオトバンクに設立当初から参加しており、大学卒業の2006年に新卒入社。オーディオブック配信サービスの立ち上げなどを担い、2007年1月に執行役員、同2月に取締役就任。2009年取締役副社長、2011年代表取締役副社長を経て2012年より現職

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悩んで悩みぬいて進んできたキャリア

大学生時代の私は人並みに就職活動をしながらも、自分が本当に何をしたいのかが明確ではありませんでした。就活中に各社で志望動機を尋ねられれば、もちろんそれなりの理由を挙げることはできましたが、同じ質問を自分に問い続けたら、最終的には「実はどの会社でもいいや」という自分の本音が顔をのぞかせてしまいそうでした。

就活では外資系のコンサル企業を目指しましたが、志望動機は何となく有名企業だし給料も良いからという程度のあやふやなもの。それでも外資系企業を目指す、熱意にあふれた外資系就活ファイターたちと競い合いながら目標達成を目指しました。

選考はとても難易度の高いもので、筆記試験、集団面接、ケース面接、会社によっては英語面接などを通過し、そのうえでジョブというセッションでオフィスに滞在しながら課題を解き、先輩社員たちが「この新人とならば一緒に働きたい」と推してくれて初めて最終面接に進めます。最終的にこれらの関門を潜り抜け内定を得ることができました。

仕事も自分が思っていたよりもずっと面白そうだったのですが、「これからの人生を捧げて深くかかわっていきたい仕事なのか」と自問すると、そこまでの思いではないと答える自分がいる。そもそもなぜ自分は仕事に就くのか、働く理由が分からなくなり、就活に対して悩み始めてしまったのです。

それで大学4年生の1年間は、社員と同様に1人の働き手として扱ってくれる企業で働いてまずは経験を積もうと考えるように。知り合いのつてをたどったりして普通に働ける会社を探しましたが、そのときに出会ったのがオトバンクでした。

というのも、たまたま大学の同じゼミだった上田渉(現 オトバンク代表取締役会長)がオトバンクを学生起業していて、彼に頼まれたこともありオトバンクで仕事を手伝うことになったんです。

ただ、当時の自分としてはあくまでも手伝いで、就職するつもりはなかったのが本音です。自身がそもそも公務員家庭の保守的な環境で育った影響もありますが、ちょうどその頃は有名なベンチャー企業の経営者のスキャンダルなどもあり、周りの大人たちもベンチャーのことを良く言わなかったことも強く影響し、なんとなくベンチャー企業に良いイメージを持てませんでした。

そんな私が結果的にベンチャー企業であるオトバンクに就職したので、周りはとても驚いていましたね。外資系コンサルに内定した際には「すごいね」「良かったね」と喜んでくれた友人、知人、家族たちは戸惑い、大学の恩師は随分と心配してくれました。

でも、自分の人生ですから、他の誰かが責任を取ってくれるわけではありません。だからこそ、妥協はしたくない。自分で考えて決断し、自分で責任を取るしかないわけで、周りの声に左右されることはありませんでした。

内定辞退からベンチャー新卒入社への歩み

世界で通用する力が欲しい。ゼロ・イチ体験を求めて飛び込んだ

オトバンクはいまでこそ、日本最大規模の会員数250万人を擁するオーディオブック配信サービス「audiobook.jp」の運営企業として知られていますが、私が入社した2006年当時は創業間もないベンチャー企業。

大学卒業後、周囲の心配を振り切ってそういったベンチャー企業に新卒入社したのは、自分が成長して自分の強みを生み出せるようになる、そんな環境をもとめていたからです

ここでなら何もない0から1を立ち上げ、さらに1を100に育てる体験ができるかもしれない。経営者の立場になった現在は、当時とは異なる思いで会社と仕事に向き合っていますが、入社当初はそのような考えでした。

こういった考え方をもてるようになったのは、海外での経験も関係しています。大学生時代にバックパッカーとしてヨーロッパを放浪した際に、多言語を操る優秀な人たちと知り合いました。世界には気が利いて、一生懸命働き、語学も堪能な人材がたくさんいる。その事実を海外で目の当たりにしたんです。

そんな彼らと対等かそれ以上にわたりあっていくには、世界中で通用するようなレベルの、汎用性があるスキルセットが必要だと強く感じ、何を身に付けたら良いのか考えました。その結果、ゼロから何かを立ち上げて組織を大きくしていく経験を積んでいけば、あらゆる活動において汎用性ある能力を身に付けられると考えたわけです

ゼロからイチを作り上げる、立ち上げるといったことは誰もが経験できることではなく、そんな経験体験ができるチャンスがあるのはごく一部の人間で、そこで身に付くスキルセットは希少性という観点からも価値があります。

だからこそ、生まれたてのベンチャー企業で、ゼロから物事に取り組めるチャンスにあふれたオトバンクへ就職することに意味があると考えたのです。

ベンチャーを選んだ理由

  • 自分を成長させる環境を望んでいた

  • 世界に通用するスキルセットをもとめていた

  • ゼロからイチを創造する力に価値を見出した

オトバンクに入社した当時でいえば、オーディオブックなどはまだ社会的認知もまったくない状態だったので、正面からアポイントを取りビジネスとして話を聞いてもらうなど無理な願い。先輩や友人のつてでようやくアポが取れた相手も、オフィスではなく喫茶店でちょっと話を聞いてくれるくらいの状況でした。

でも、そんな状況から始めるのはむしろ望むところ。ゲームの「三国志」や「信長の野望」をよくやりましたが、いつもあえて弱い君主や武将を選び、一番下から全国統一を目指すパターンが好きで(笑)。こういった状況を望んで飛び込んでいたからこそ、むしろさらにやる気をもって仕事に打ち込んだことは今でも覚えています。 

「社会人としての血液」が注入されるファーストキャリア

オトバンク 代表取締役社長 久保田裕也さん

就活を通じてさまざまな体験をして分かったのは、ファーストキャリアの大切さです。

仕事が流動化し転職が珍しくない現在は、別のキャリアへ踏み出すことも当然可能ですから、その意味ではファーストキャリアにこだわりすぎる必要はないと思います。

しかし、ファーストキャリアが社会人としての自分のカルチャーを形作る点は見逃せません「社会人としての血液」が注入されるのがファーストキャリアだと言えるかもしれませんね。コミュニケーションの取り方や仕事の進め方など、ファーストキャリアで覚えた基礎の部分はその後も変わらないのです。

企業でインターンをしていたときも、雰囲気が周りと違う印象の社員にプロパーかどうかを尋ねると、たいていは転職組でした。つまりどこへ行ってもファーストキャリアで身に付けたものは変わらない。だからこそファーストキャリアは慎重に選ばねばならないし、妥協できないと思ったのです。

成長をもとめるならリスクのある選択も視野に入れて

就職先にベンチャー企業を選んだのは、ひと皮もふた皮もむけて大きく成長するためですが、さらに補足すると、いったん外資系コンサル企業に就職したうえで、ゼロからイチの体験をするために30代で独立起業したりベンチャーへ転職するなど自分には怖くてできないだろうと思ったのも理由です。

それなら最初からベンチャー企業に身を置いて経験を積んだ方がいい。それにベンチャー企業としてのオトバンクは当初まったくお金もない会社でしたから、もしも駄目になってしまうことがあるとすれば、もって2年程度だろうと考えていましたし、そこからぎりぎり第2新卒という道もある。正直なところ、そんな甘い考えもありました。

それにベンチャーとしてのオトバンクがどうなっていくのか、成長するのか駄目になるのかは自分次第だという思いもありました。もちろん周りの仲間と力を合わせるのですが、自分も含めて全員が力を発揮しなければオトバンクの未来を切り拓けないわけで、そういう意味で自分の力を試せる環境にも魅力を感じていました。

就活時に競い合った、タフな外資系就活ファイターたちとは、その後も連絡を取り合う仲です。内定を辞退してベンチャーを選んだ私の決断に当時は驚いていた彼らでしたが、その後起業したり有力ベンチャーに転職した者も少なくありません。一足先にベンチャー業界に身を置いてきたので彼らに相談されることも多く、ときどき会って情報交換もしています。

自分の成長を目指すうえでは、未来が定まらずリスクの大きい起業やベンチャー企業に挑戦するのも1つの方法だと思います

久保田さんからのメッセージ

「何となく」を軽視しない。企業選びには直感も重視すべき

就活での企業選びについてアドバイスするなら、もしも本当に好きなものがある人は、その世界の企業に飛び込んでみたらいいと思います。ただ自身もそうでしたが、そのような明確な思いを持てずにいる就活生も多いと思います。

ですから、就活を通じて多くの企業の話を聞き、企業で働く人と言葉を交わし、自分の進むべき道を模索することになります。そこで頼りにしてほしいのが自分の直感です。

いろいろな企業の人に会って話す機会があると思いますが「話が何となく合わない」「どこかは分からないが気がかりな感じがする」「何か引っかかる部分がある」。そんなネガティブな感じを受けたら、その直感を重視すべきです。

長い時間を捧げることになる就職先ですから、肌感が合わない会社は避けた方が良いでしょう。直感は言語化できないから直感であり、言語化できないからこそ自分に嘘をつけません。言語化できるとはつまり、頭が回って理屈が働くことです。だから自分に対して嘘もつけます。

だからこそ、「何か違うな」という直感は当たっていることが多い。逆に「何となく話が合う」「興味をそそられる」という感じを受けたら、その会社を選ぶべき理由になると思います

就職してからは壁にぶつかることもあるはずです。そういった場面を乗り切っていくために大切なのは、周りの仲間の存在です。先輩、同僚、後輩、相手との関係性にかかわらず、どんなときも自分と一緒に走ってくれる人がいるなら頑張れると思います。

そういった、壁を乗り越えるために自分の精神を支えてくれる仲間がいそうかどうかも、企業選びの観点ではとても重要なポイントになることをぜひ覚えておいてほしいです。

部署が違ったり仕事が違っても相談できる仲間、自分を見ていてくれる人たちがいる職場なら、支えてもらえます。逆にそういう仲間を見つけられない職場なら辞めるのも選択肢に上げていいと思いますね。

直感の価値

  • 言葉は自分に嘘をつくが直感は嘘をつかない

  • 「何か引っかかる」直感ありなら要注意

  • 「何となく話が合う」直感ありならGOサイン

時代がもとめるのは「自分に正直な人材」。打席に立ち続けていこう

求められる人材は今も昔も同じ。自走できる人が求められています。これからの世の中で求められる人材を挙げるとすれば、自分に正直な人でしょう。成長のため、ときには自分を抑えて頑張ることは必要ですが、理由のない我慢は受け入れずに自分に対して正直に行動できることも重要です

なぜなら「自分はこうしたい」というものが明確な人、それを持ち続けられる人の方が、周りからは「その人のどの部分に期待したらいいのか」が分かりやすいため、結果的に周りからチャンスを与えられます。このチャンスを得やすいという点が大切です。

野球では打率3割打てばバッターとして一流とされますが、ビジネスや仕事においても4割も5割も安打は打てません。ですから大切になるのは、まずは打席に立つこと。打席が多ければ多いほど安打も増えるからです。

打席に立つことの重要性

世の中も会社も、打席に立った人が物事を決め動かしていきます。打席に立たないことには何も動かせないし始まりません。とくに若い人にとっては、まずは打席に立つこと、それがすべてと言ってもいいほどです。だから自分に正直になって、自分の力を発揮する打席を得られるようにする。自分の思いを周りに正直に伝えることが大切だと思います。

久保田さんが贈るキャリア指針

取材・執筆:高岸洋行

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