ヒットゾーンの見極めが未来を拓く|コミュニケーションのカギは「リスペクト精神×意思を伝える勇気」

ボルテージ 取締役副社長 東 奈々子さん

Nanako Higashi・1992年に津田塾大学数学科を卒業後、博報堂に入社し、メディアマーケティングなどを担当。2000年、ボルテージ創業に参画し、モバイル恋愛ドラマゲームのリーディングカンパニーへと導く。2010年に東証マザーズ、2011年に東証一部上場を果たす。2013年より、米国子会社設立のためにシリコンバレーへ渡米し、帰国後より現職

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大手広告会社からボルテージ起業へ。自らの手で形作ってきたキャリア

高校時代から女性として仕事に邁進していくことに関心があり、化粧品会社の研究職やテレビの科学番組の制作職など理系で女性が活躍できそうな職業を漠然と考えていました。進学先は「変革を担う女性」の育成を掲げる津田塾大学の数学科を選びました。

就活が始まりだす時期になると「スペシャリストであり、ゼネラリストでも在りたい」ということを志すようになり、この2つをキーワードにマスコミ業界を中心に就活を進めました。当時のことを振り返ると、受動的に情報を得るというよりは、セミナーに参加したり、企業に足を運んだりして、自ら動き、実際に話を聞きに行くことを心掛けていたように思います

最終的には縁のあった博報堂に入社し、メディアマーケティングのシステム開発に従事。マスコミという幅広い業界のなかで、専門性の高い職種に就き、就活時の思いを実現することができました。

主な仕事内容は、博報堂のクライアントである広告主とテレビ局の間を取りもち、データを活用してテレビCMのマーケティングを最適化すること。「広告をどの時間帯に入れるのか」「生放送の番組が延長したらどうするのか」といった調整を、アナログからデジタルへの移行を含めておこなっていきました。

1995年頃には日本でもインターネットが形を成し始め、博報堂でもインターネットを活用した新たなビジネスを作るプロジェクトが発足。各部署から何人か集められました。その中には私と、現在の夫であり、ボルテージの代表を務める津谷もいました。その後彼が起業するとのことで、共にボルテージの創業に参画することにしたんです。

博報堂の仕事はとても楽しく刺激的でしたが、40代以降もずっと働いていくイメージがどうしても湧かなくて。それなら自分自身でロールモデルを作ることに挑戦してみようと、ジャンプ台から飛び込むような気持ち起業の道へと進みました

東さんからのメッセージ

創業期は、とにかくがむしゃらに組織づくりや事業の整備に取り組んでいましたね。経験を活かしたビジネスの構築、人材の採用、売り込みや資金調達まで、どんなことも、何でも津谷と自分でやっていました。

しかし、これから頑張っていこうというタイミングで最初に採用した社員から会社を辞めると伝えられたんです。この出来事によって身に染みたのは、当たり前ですが社員は家族ではないということ。お互いの利害が一致してこそ、成り立つ関係性だと痛感しました。

その後もなんとか事業をやりくりしていましたが、少しずつ資金は減っていき、社内はピリピリした雰囲気に。今まではできるだけ自分でやっていましたが、事業の運用やそれにかかわるメンテナンスが増え、社員に任せないと回らない状況になりました。

そこで、自分の手を離しても問題がないように、他の人でも作業ができる仕組みづくりから取り掛かることにしたのです。するとそれがうまく回るようになって、結果的には新卒採用を始められるほどに好転しました。

事業においても、成功事例が増えてきて、それを横展開および大量生産することで急拡大。2010年には東証マザーズ上場を果たし、株主や投資家にも向き合うようになりました。その頃は会社のフェーズ的にも世の中の評判が気になり始めた時期ではありましたが、どんなときも自分のアンテナを信じることを貫きました。後悔しないためには、それしかないと思ったのです。

その後は自らシリコンバレーへ出向き、米国子会社を設立。これはキャリアのなかでも、もっとも大きな転換期となった出来事です。当時小学校と保育園の子どもが3人いたので、一緒に渡米し、子育てと両立しながら海外展開を進めました。もう本当にハードな日々でしたが、ひたすら前だけを見て必死に進んでいましたね。

相手をリスペクトすること、勇気をもって意思を伝えること

異国の地に出向いたことで、文化や働き方の違いという壁にもぶつかりました。たとえばコミュニケーションにおいては、日本人は共感ベースで話を聴く、お互いに分かり合う姿勢をもって対話をするのが主流かと思います。一方でアメリカ人は、それぞれに自分の明確な主張があり、一方が何か提案をしたときには、もう一方からすぐに異論が飛んでくるのが当然の世界です。

慣れないうちは戸惑いもありましたが、あるときからむしろ「分かり合えないのが当然」と考えるようにして、相手の意見をリスペクトし、異論というよりも「1つの意見」として捉えるようにしました。そのうえで、自分の意見を臆せず真っ直ぐ伝えるようにしたんです。すると一気にコミュニケーションの質が変わり、お互いの意見を尊重しながらも、異論があっても議論を恐れずに結論をまとめられるようになりました。

このアメリカでの経験は帰国後もとても役に立っています。何をするにしてもまずは相手をリスペクトする姿勢が大切で、意見が異なっていても「なぜそういう意見を持っているんだろう」「相手は何を大切にしているんだろう」などと思いを巡らせる。そのうえで、自分の中に違う意見が生まれたときはできるだけ論理的に相手に伝えるようにしています。

このコミュニケーション方法で大切なのは、相手との意見交換をするために、まずは明確な自分の意見を持つこと。特に今の時代は対面でのやり取りが少ないからこそ「誰かが考えてくれるはず」「私はやらなくても良いか」などと、人任せにしやすい環境ともいえます。

だからこそ、まずは「自律精神」をもって自分で考える癖を付けて、相手を尊重しながら意見を伝え合うようにしてみてください。その経験、その積み重ねは、将来必ず役に立つはずです。

東さんが語る日本とアメリカのコミュニケーションの違い

事業拡大のため縁もゆかりもないアメリカに飛び出したわけですが、その勇気の源になっていたのは、「お客様に喜んでもらいたい」という想いです。こればかりは日本だろうが海外だろうがどこにいても変わりません。「このゲーム面白いよね」「このキャラ好きなんだよね」、そんな風にお客様が喜んでくれることがやりがいであり、エネルギーになっています。

それと、仕事に取り組むうえでいつも意識にしているのは、「変化を促しながら毎日を楽しむこと」です。

ビジネスというものは継続的に成長させていくことも大切ですが、そのためのプロセスとしては、日々の仕事を面白がって取り組んだ結果としていつの間にか成長していた、というのが理想的だと思います。

そして、仕事を楽しむためには変化を感じることが必要です。だからこそ「仕事がつまらない」と思ったとしても、そこで諦めて終わるのではなく、楽しめるようにするにはどうすればいいかと知恵を巡らせ、工夫をしていくことが大切です

こうして工夫をする意識で仕事に取り組んでいけば、モチベーションも維持しやすいですし、何より自分の考え方や視野が広がるので成長にもつながります。

自身としても、今後も仕事・プライベート両方とも変化を楽しんで人生を充実させたいと思っています。特に最近は今まで試行錯誤してきたことを若い方に向けて伝えていければと考えています。皆さんには仕事もプライベートも気負いしすぎず、楽しみながら、いろいろなことに挑戦して欲しいですね。

東さんからのメッセージ

就活のカギは「業界選び」と「ヒットゾーン」

就活において、特にファーストキャリアを選択するときに重要なのは「どの業界に足を踏み入れるか」ではないでしょうか。ここは就活の中でも特にエネルギーを注ぐべきところだと思います。最初に入る業界では、仕事に取り組む姿勢や考え方、習慣などが身につきます。

社会人としての土台が形成される場所になるからこそ、慎重に、冷静に選ぶべきなのです。その業界ではどのような知識を得られるのか、どのような自分になれそうなのかを、丁寧に考えてみると良いと思います。

そのうえで、企業選びにおいては「仕事が面白そうか」という感覚を大切にしましょう。ある意味では直感がカギを握ると言っても過言ではありません。まずは直感で感じてみて、後から「なぜ面白そうだと思うのか」と理由を深堀りする。すると、自分の就活軸が見えてきます。

自分に合っているからなのか、職場環境が魅力的なのか、企業のミッションやビジョンにワクワクしているのか。直感を通じて得られた自分なりの基準をもとに、他の企業も検討してみるとさらに選択肢が広がります。

ヒットゾーンについて解説する画像

また、自分の強みを知りたいときには「ヒットゾーン」を洗い出してみるのもおすすめです。これは、企業マーケティングの3C理論から来ています。ヒットゾーンとは「自分の強み(Company)」と「企業のニーズ(Customer)」、「他の学生にはないもの(Competitor) 」が重なり合う部分のこと。自分が認識している強みだけでは独りよがりになりがちですし、企業のニーズだけでは自分の思いや意志が反映されません。最後に他の学生にはないという差別化も図ることで、企業に対してアピールできることが分かるのです。

「自分の強み」は自分自身でなかなか思い付かないと思います。ぜひ家族や友人など周りの人に聞いてみてください。自分では当たり前のようにできることが、実は他の人が苦労してやっとできるようなことかもしれない。自分では気づくことができなかった強みが、他人の視点を取り入れたことであっさり見つかったなんてことはよくあります

ヒットゾーンの概念は面接でも効果的です。就活生の面接も担当しますが、ヒットゾーンど真ん中な、その人ならではのアピールポイントを伝えられるとやっぱり印象に残りますね。自分のヒットゾーンを見出して、自身なりの言葉やキーワードに落とし込み、ぜひ面接でアピールしてみてください。

東さん流 就活のポイント

  • 社会人の基礎が作られる「業界選び」に力を入れよう

  • 「面白そう」という直感を深掘りして企業や仕事選びに活かそう

  • 自分の「ヒットゾーン」を知って就活に活かそう

社会人としての意識を持ち、キャリアの好循環を作ろう

今後もとめられる人物像は、「自分で考えて、きちんと伝えられる人」です。入社してすぐは分からないことが多いと思いますが、それをすぐに質問して吸収し、成長していけるかどうかがポイントになります。

また、会社では周りに認められることで、昇給や昇格、キャリアアップにつながります。周りから優秀な人だと認識してもらうためにも、自分の思いや考え、努力を積極的に伝えて、重宝される存在になっていきましょう。

学生から社会人になると、今までのようにお金を払って授業を受ける生活から、お金を頂いて仕事をするという生活に一変しますよね。最初は自覚するのが難しいかもしれませんが、お金を頂いているからこそ、会社への貢献や成果にコミットする意識を持って欲しいです

仕事では嫌なことや退屈なこと、納得いかないことも当然出てくると思います。でも、そこで自分なりのやり方を見つけて一生懸命になることができたら、面白い仕事を任せてもらえたり、自分の提案や意見を聞いてもらいやすくなったりと、その分だけ必ず返ってくるものがあります

工夫をしながらひたむきに仕事に取り組み、成果を出し、周りに評価され、さらに面白い仕事を任されて……。中には失敗することもあると思いますが、それも含めてこの好循環のサイクルの中で、皆さんが前向きに自分のキャリアを作っていけるよう応援しています。

東さんが贈るキャリアの指針

取材・執筆:志摩若菜

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