不変の仕事の本質は、コミュニケーション|就活は自分の思いややりがいを最優先に
マクシスエンジニアリング 執行役員(人事開発部 部長) 志田 泰重さん
Yashushige Shida・新卒で金融機関に就職後、会社の経営破綻によって退職。その後、ホーチミンにある研修生送り出し機関に携わったことを機に、人材ビジネスに関心を持つ。帰国後、製造系人材ビジネスに身を投じる。その後、マクシスエンジニアリングに入社し、現職
ベトナム人の仕事への熱量に圧倒され、人材ビジネスの面白さを知る
新卒で金融機関に就職しましたが、不況によって会社が経営破綻し、退職することになりました。退職後はすぐには就職せず、父の友人が手掛けるビジネスを手伝うことに。ホーチミンにある研修生送り出し機関で、ベトナム人の日本就業をサポートしました。
そこで衝撃を受けたのは、ベトナム人の仕事に対する熱意です。日本は仕事を選ばなければ、いくらでも仕事がありますが、ベトナムでは一つの仕事を勝ち取るのも精一杯。自分や家族の人生を背負って就活をするので、面接官に対しても、「なぜこの質問をしたのか」「どうして私を選考に落としたのか」「私の前に面接をした人との違いは何なんだ」などと、食ってかかってくるのです。
そうしたエネルギーの強さに触れたことで、求職者が輝ける仕事を提供する人材ビジネスに強く関心をもちました。
帰国後、エージェントに紹介された製造系の派遣会社に就職。小さなベンチャー企業でしたが、大手企業にはない活気がありました。
入社して3年〜4年後には役員に就任し、経営に関して提言する立場になりました。その際に、株式上場を経験したんです。
製造系の派遣会社の中で初めての上場だったので、世間から注目を集めました。それを経営の中心にいるときに経験したので、上場までの会社全体の士気が一気に上がる感じや、社員みんなが一枚岩となって取り組む雰囲気など、今まで味わったことのないような感覚を味わったのです。
たとえば、今まで愚痴や不満ばかり言っていた社員が、上場という目標を実現するために、「こうしたら良いんじゃないですか」と意見を述べるようになったり。社員のモチベーションが上がると、家族にもそれが伝わり、仕事に対する理解を示してくれるようにもなりました。
さらに、従業員持株会で社員が会社の株主になっていたので、給料以外のキャピタルゲインも得るようになり、金銭的にも豊かになりました。
最終的には、私の入社時の売上約45億円から、10年間で470億円に。社員数も700名から7,500名に増員しました。
このように、通常は考えられないような大きな結果を収められたのは、社員みんなが一つの目標や夢に向かって、一体となって取り組んだから。この姿勢が、さまざまな領域に大きな影響を与えるのだと学びました。
仕事のポイントは、チャレンジ精神とお客様の喜び
私が仕事において大切にしているのは、新しい領域へチャレンジすることです。製造系の派遣会社では、主に半導体や電気業界を担当していましたが、医薬品業界やIT業界にも幅を広げていました。その中で自分自身の知見やネットワークが広がり、周りの社員も成長していったのです。仕事に対して受け身ではなく、積極的に自分から取り組むことで、自分や会社が成長していくことを体感しました。
その経験をもとに、当社に入社してからは、エンジニア派遣事業において、エンジニアの個性を発揮するための育成をおこなっています。それを実現するためには、何よりも社員とのコミュニケーションを取ることが欠かせないと考えています。
ここ数年の情勢によって、社員と関わる機会をあまり作れていませんでしたが、少しずつ対話する機会を設けるようになりました。お互いの思いや考えを共有し、分かり合うことで、社員も会社にコミットしやすくなると思うのです。まずは今の社員との信頼関係が育まれていないと、チームワークを発揮できませんから。
また、将来を見据えて、新卒採用にも力を入れています。3年後、5年後まで引っ張っていってくれるようなエンジニアを続々と迎えています。会社としても、エンジニアの派遣事業だけでなく、製造業やソフトウェア開発などの領域にも広がり、足を止めずに成長し続けています。
そして、もう一つ大切にしているのが、お客様に喜んでいただくことです。
最近では、あるプロジェクトを完遂した際に、お客様から「厳しいことも言ったけど、マクシスさんに頼んで良かった。結果を出してくれてありがとう」といった言葉をいただきました。平坦な道のりではありませんでしたが、最終的にはプロジェクトをやり遂げて、お客様にも喜んでいただけて達成感がありましたね。
ゆくゆくは、前職で経験した株式上場のときのような、会社全体が一つになるような雰囲気の中で、お客様に価値提供をしていくのが理想ですね。
会社からもとめられるのは、自分の思いを伝えられる人
私は今年度、役員面接を100人近く担当する中で、会社にもとめられやすい学生のポイントが見えてきました。それは、自分の思いややりがいを重視して、業界や会社を選択している点です。
中には、自宅から近いこと、給与が高いことなど、条件面を最優先にして選んでいる学生さんもいます。それらを判断材料の一つにするのは良いと思うのですが、一番大切にするのは、ご自身の思いややりがいにするのを推奨します。
というのも、「自分がどうしたいのか」を明確にしないまま就活をすると、入社後も自分の気持ちが分からず、仕事に対するモチベーションが上がらないと思うのです。
「キャリアアップを重視したい」「自分のペースで成長していきたい」など、どのような軸でも構わないので、自分の方向性を定めてから、それを面接で話せると、面接官からの印象も良くなると思います。
とはいえ、今の学生さんは、大学時代に思うように経験値を上げられず、自分軸を確立する機会も少なかったと思います。基本的に在宅での授業で、友人ともあまり遊べず、サークル活動や留学、海外旅行などもできなかったはずですから。
本来、自分を知る過程で必要なのは、いろいろな人と接して反対意見をもらったり、自分とは違う知見や考えに触れたりして、価値観を形成していくことです。直接多くの人と会うのが難しい場合は、オンラインでも誰かと接する機会を作り、自己分析を進めながら、就活をしていくと良いかと思います。
ファーストキャリアは、仕事だけでなく社会を学ぶ場所
特にファーストキャリアは、仕事だけでなく社会についても学ぶ場所になります。私自身も、新卒で入社した会社では、社会人としての在り方や、基礎的なルールを教わりました。
仕事以外でも、先輩や同僚と一緒に食事をしたり、お酒を酌み交わしたりしながら、お互いに悩みや思いを伝え合うことで、関係性を築いていましたね。どのような仕事に就いたとしても、社会人として成長していこう、社会を学ばせてもらおう、といった視点をもっておくと、人間的にも成長できるのではないでしょうか。
ときには、理不尽に感じる指示や、厳しい言葉を言われることもあると思いますが、そのときには分からなくても、数年後にはその意味や意図を理解できることもよくあります。
今どきではない考えかもしれませんが、私としては、最初の3年は、多少辛いことがあっても身を置くことで、吸収できることがあると思います。そうやって長く働きたいと思えるような、温かく迎えてくれる会社や、誠実に育成してくれる会社を選ぶことも大切ですね。
どの時代にも共通するのは、コミュニケーションの重要性
社会人になって活躍できるのは、当社の社長が入社式で話していた言葉を借りると、「真摯な態度で物事に取り組んで、新しい技術や新しい知識を吸収していこうという意欲がある人物」です。
そして、それを体現するためには、周りの人とのコミュニケーションを取ることが必要です。お客様や先輩に可愛がってもらったり、同僚から信頼を得たりして、関係性を構築することで、相手から吸収できることが増えるからです。これは、どの時代にも共有する本質的な部分だと思います。
たとえ仕事ができなくても、なかなか成果が出なくても、素直に分からないことを聞く姿や、一生懸命仕事に取り組む姿によって、相手の心が動くこともあります。一人で殻に閉じこもっているよりも、心をオープンにして、周りの人との関わりを大切にしてくださいね。私たち先輩や上司からも、若手に積極的に声を掛けて、お互いに歩み寄る姿勢をもち続けられたらと思います。
取材・執筆:志摩若奈