「自分らしくいられる会社」を選び、行動量と学ぶ姿勢をもって拓けたキャリア|前向きな意欲を持って社会に飛び出そう
CHINTAI 取締役副社長/パーソナルCHINTAI 代表取締役社長 山下 悠子さん
Yuko Yamashita・2003年に新卒で、賃貸住宅ニュース社(現、CHINTAI)に入社。情報誌の広告営業を経験後、広報宣伝部を経て、メディアグループにてグループリーダーに就任。Web上で物件提案をおこなう事業を立ち上げ、2017年には子会社となる「パーソナルCHINTAI」を設立し現職に就く。2021年にはCHINTAIの取締役副社長にも就任後、現職
自分らしくいられる会社で「なんでもやってみる姿勢」がキャリアをひらく鍵に
「自分を受け入れて好きになったほうが、良いことがあるのかも」キャリアにおける最初のターニングポイントは、そう気づくことができた就職活動のタイミングです。
読書が好きで、いろいろなことを知りたい気持ちが強かったこともあり、学生時代は新聞記者を目指していました。当時のマスコミ就職は何百倍という倍率の狭き門だったので、Wスクールに通い、時事問題や論文対策も徹底的におこなっていましたね。
面接でも、自分をよく見せるために演じるのが当たり前、という感じだったのですが、それだけやっても成果が出せず、あるとき何気なく受けてみたのが当社でした。
内定の連絡をいただいた際には驚き、電話で理由を聞いてしまったほどです。すると「山下さん、元気だから! 」と。「それだけですか? 」とたずね返してしまいましたが、「元気だから」と念を押されました(笑)。マスコミ受験用に勉強したSPIや論文の知識も役に立ったのだろうとは思いますが、素の自分を受け入れてもらえたようで、とてもうれしかったのを覚えています。
それまでは着飾った自分で面接に臨んでいましたが、当社はかなり肩の力を抜いて臨んでいたからです。「着飾った自分で認めてもらえることは少ないのかも」「ありのままでいられる場所のほうが長続きしそうだ」と思うに至り、当社への入社を決めました。
そのような経緯を経て、新卒で入社した会社で長く働けているので、学生の方にも「素の自分を出せる、自分らしくいられる場所」を選ぶことをすすめたいです。面接をする側になってからもよく思うことですが、「着飾ったところで、どうせ嘘はバレる」くらいに開き直ったほうが、案外良い印象を持ってくれる気がします。
一緒に仕事をしていて楽しいと思える人たちとであれば、どんな仕事でもそれなりに楽しくなってくるもの。逆にどんなに仕事の分野や内容が好きでも、周りの人と合わない環境では持ち堪えられなくなると思うので、就職の際には「この人たちと一緒に働きたいと思えるか」という観点は必ず持っておくことをおすすめします。
やりたい仕事があることは良いことだと思いますが、ある程度「どんな仕事でもどんと来い! 」という気持ちは持っておくといいように思います。
私自身もマスコミの仕事にこだわっていた時期がありましたが、「仕事はやってみないとわからないものだな」と今はしみじみ感じています。
希望の会社に入社できたとしても、希望の配属先にならないこともあるでしょう。やってみる前から「あの仕事は嫌だ、この仕事ならいい」と選り好みするより、「まずはやってみて考えよう」というスタンスでいたほうが、キャリアにおいては幸せをつかめるように思います。
どんな小さな仕事でも「やります」と快く引き受けていると仕事が寄ってくる人になるので、成長やステップアップのチャンスを得られやすいです。「この仕事を誰に任せようか」と考える立場になってからも、気持ちよく「やります! 」と言ってくれるメンバーの顔がまず浮かんできますね。一緒に仕事をする上司や同僚に対して、常に感謝の気持ちを持っていると、自然とそういった姿勢になれるのかなと思います。
行動量でカバーをした新人時代。管理職になり「勉強をする大切さ」に気づいた
キャリアにおける2つ目のターニングポイントは、立場や職種が大きく変わった33歳のタイミングです。
入社後10年ほどは営業や広告宣伝の部署にいて、とにかく行動量でカバーをしていました。当時は「人より多くバットを振ればなんとかなる! 」と思っていたのですが、メディアの部署に移ってきたことで、初めて「この仕事は、バットをたくさん振るだけでは立ち行かない」と痛感しました。
しかも新卒1期生として初の管理職で、何もわからないまま新しい部署に異動したので、メンバーから上司として認めてもらうまでにも苦労がありました。しばらくは悩みましたが、次第に「自分より知識がない上司に付いていけないのは当然だよな」と思い始め、新しい知識を身に付けようと勉強をスタートさせました。
半年くらい経つと周りの人たちの話がわかるようになってきて、自信を持てるように。3年が経つ頃にはすっかりこの分野に詳しくなり、管理職の立場にもなじむことができました。
「常に新しい知識をインプットし続けながら仕事をするほうが楽しいな」と思えるようになり、社会人になっても勉強する大切さに気づけたことは、その後にもいろいろな良い影響を与えてくれたように思います。
この経験からも、「壁にぶつかったときは何かしら行動をしてみるしかない」ということはアドバイスできるかと思います。
それで結果が出なくてもそこから得られることは必ずあるはずなので、「現状より悪くなることはない」と考え、まずはあれこれ動いてみてください。行動の仕方がわからないときは、友人や知人の適当なアドバイスにも気軽に乗ってみるのも悪くないと思います。
「試してみたけど違った」ということを繰り返した先で、ようやく自己決定や取捨選択ができるようになるような気もしますね。行動さえしていれば何かしらの知識や経験値は溜まってくるので、自然に判断力も磨かれていきます。
とはいえ、私も最初からこのような考え方ができていたわけではありません。営業時代は私も失敗をすることが怖かったです。当時は、ひたすら“数打ちゃ当たる”の戦法で新規営業先へアタックしていたのですが、そのなかで誤った営業先に勝手に出向いてしまったことがありました。
直属の上司は上層部から叱られていましたが、上司は私を叱ることはなく「そんな契約の取り方をする人初めて見たよ〜(笑)」と笑い飛ばしてくれたのです。良い上司に恵まれたということもありますが、間違っているなりに一生懸命やっていたことは事実なので、その過程自体を認めてくれていたのかもしれません。
上司側の立場になって思うことですが、「なんだかんだ一生懸命にやっているよね」というメンバーには手を差し伸べたくなります。失敗に強い人間になるためにも、何はなくとも一生懸命やってみる、というのは有効だと思います。
無論、誰でも彼でもが「一生懸命」を売りにする必要はありません。特定分野の才能がある人、やればパッとできるタイプの人は、その限りではないと思います。ただ私はそういった強みを何も持っていなかったので、「誰よりも必死になろう、ならざるを得ない」ということで行動量だけは意識してきました。
誰よりもたくさん電話をかける、誰よりもたくさん店舗を回る、企画を5本あげてくれと言われたら10本出す………という姿勢を続けてくるなかで今に至っています。行動量でカバーできるものは確かにあると思うので、私のようなタイプの方は、よければ参考にしてみてください。
他社から来たメンバーの力を借りながら、子会社の代表として事業の成長に尽力
そしてキャリアにおける最大のターニングポイントは、2017年に子会社の代表を任せていただいたことです。
メディア部門の責任者として2015年に立ち上げた新しいサービスが軌道に乗り、ユーザー対応を行うチームを新たに作りたいから人を採用しよう、人数が増えたのでオフィスを作ろう、それなら責任を持って独立してやりなさい………という流れで会社化することになりました。
そのサービスが現在の「CHINTAIエージェント」です。検索サイトではユーザーに能動的に物件を探してもらうのが一般的ですが、もっと別の価値を提供できないかと考え、生まれました。このサービスは今までと違い、LINEで自分の希望条件を一度登録すれば自動でその人に合う物件を提案してくれます。
現在では、サービスをご利用いただいた方の約半数が気になる物件を見つけ、お店に問い合わせをしていただいているとても好評のサービスに成長を果たしました。
自分が子会社の社長になることは思ってもみない抜擢だったので内心は震えていましたが、メンバーに恵まれて大きなチャンスをもらったな、というポジティブな気持ちも強かったです。最終的には「やります! 」という意欲的な顔で引き受けました(笑)。
私は当社で勤めた経験しかないので、中途のメンバーたちがたくさん入ってくれて、いろいろな知識や経験を教えてもらえることを現在進行形で非常に頼もしく感じています。
学ぶ意欲の高いメンバーも多く、チームとしての相乗効果も感じています。3年半ほど前には、社内で空前の勉強ブームが興りました。宅建や法律系の資格取得に励んでいるメンバーたちに触発され、私も「経営学を学んでみよう」と決意。仕事と並行しての通学は相当に大変でしたが、追い詰められないとやらないタイプなので、皆のおかげで勉強ができて本当に良かったです。
経営を担うようになってからは、意思決定をする機会が以前にも増して多くなりました。
意思決定の際は「これをする目的は、そもそもなんだったか」という本質的なところに立ち返ることを心掛けています。情報や知識に基づいて決断することもありますが、未知の要素が含まれていることもあるので、目的に立ち返ったうえで、半分くらいはフィーリングで決めている気がします。
人は目の前に制約事項が現れると、ついつい本来の目的を忘れたり、焦ってしまったりしがちですが、焦ると判断力が鈍るだけであまり良いことがありません。就職活動でも焦りは禁物と考え、「そもそもなぜこの仕事がしたいと思ったか、この会社で働きたいと思ったか」という本質的なところに何度も立ち返りながら、決断していくといいと思います。
大学は学びの宝庫。学校で吸収できたものやそこから学んだ価値観を聞かせてほしい
自分でお金を払って勉強するようになった今、採用面接でも「学生時代に学業を頑張りました」という話を聞いてみたいな、と思うことがあります。
私もマスコミ受験以外でほぼ勉強していない学生だったので、偉そうなことは言えないのですが(笑)、今は「勉強し放題の学生時代は、なんて素敵な時期だろう」と思っています。大学にはいろいろな学問のプロフェッショナルが集っていますし、自分の興味のあることや好きな事に全力で集中して勉強できる最後の時期。吸収できるものはできるだけ吸収しておくことをおすすめします。
学びの宝庫である大学という場所で、自分が吸収したこと、勉強によって考え直したことについて話してくれると、面接官を含め、大人たちはかなり興味を持つと思いますね。その話を通じて「その人が何に夢中になる人か、どんなことを頑張りたいと思う人なのか」という価値観もしっかり伝わってくる気がします。
アルバイトやサークルの話だとなかなか周りと差別化しづらいこともあるので、自分を印象づけるのに学業は良いテーマだと思います。
また、会社がこれからの時代に欲する人材は「どんな環境に置かれても前に進もうとできる人」だと思います。価値観や流行がどんどん変わっていくので、自分の意見や現状に固執しすぎていると時代に取り残されてしまうことも。良い意味で、時には自分の意見を柔軟に変えていくということも重要かなと思います。
併せて「やろうとする気持ち」や「学ぼうとする気持ち」を持っていることも重要です。知識やスキルは後からいくらでもつけられますが、こうした思いや意欲は、なかなか後から身に付いてこない部分なので、社会に出る前から意識しておくのがベストだと思います。
そして、新人時代には「与えてもらったことのなかで期待値以上の結果を出そう! 」という気持ちを持っておくと、その後のキャリアが広がっていくように思います。
私自身、胸を張って得意だと言えることは何一つありませんでしたが、「どんな場所にいても、そこで一番必要とされる人になりなさい」という親の教えは常に意識してきました。一番を目指しても一番になれないことはもちろんありますが、ひたむきにやっていれば上司や仲間が見守ってくれるし、助けてもくれるという実感があります。
山下さんが考える「活躍する人材」の共通項
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どんな環境に置かれても「前に進もう」と行動できる人
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やろうとする気持ち・学ぼうとする気持ちを持っている人
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与えられた仕事の中で期待値以上の結果を出そう! という気持ちがある人
ユーザーの反応は人や社会に役立った証拠。サービスの質の強化を目指していきたい
ワーク・ライフ・バランスという言葉も最近はよく聞かれますが、以前は、「ワークとライフは明確に切り分けなくてはいけない」と自分の中で決めつけてしまっていたように思います。最近は、良い意味で仕事とプライベートの境界線がなくなってきた実感があります。
仕事が好きなので、家にいても仕事について考える時間は自然と長くなりますが、そういう自分を否定する必要もないのかなと。「朝から晩まで仕事をしちゃう私」と捉えるか、「お金をもらって勉強までできている私」と捉えるかで、感じ方はずいぶん違ってくる気がします。
キャリアが人生になじんできた感覚と言いますか、いろいろな意味で気持ちがラクになり、余裕を持って仕事に臨めるようになってきました。
また、充実感を感じるのは「人や社会の役に立てた」と思える瞬間です。Webメディアは、アクセス数や問合せ数など数字として反応がダイレクトに分かるので、ユーザーからの反応が大きいと手応えにつながります。逆に、打ち出した施策に対してユーザーからの反応がうんともすんとも得られないときは、とても悲しいです…。
前述した「CHINTAIエージェント」は、約5年で10万人のユーザーを獲得し、現在は自動化のノウハウを導入しつつ、いかにサービスの質を上げるかという第2フェーズに入っています。お部屋探しは進学や就職など、その人にとっての人生のターニングポイントや新たなスタートのタイミングであることが多い仕事です。だからこそ、一人ひとりに最適な物件をしっかり提案していきたいですし、その思いに共感いただける人に当社の仲間に加わってほしいと考えています。
サービスを通じて企業の価値観を感じ取り、多くの人に会って視野を広げていこう
CHINTAIは創業時から「お人好し商売」で成長してきた会社で、サービスの設計や内容にも、その企業姿勢がよく表れていると思います。
当社に限らずですが、サービスには企業の考え方が出てくるので、企業研究としてもサービスを使ってみるのは一案です。ユーザー目線に立ったときにサービスや企業側の態度に少しでもネガティブなものを感じたら、その会社は選ばないほうがお互いのためだと思います。
また最終的な1社を決めるにあたっては、面接以外のちょっとしたやり取りも含めた「総合的な企業の印象」を見てみるのがおすすめです。人事担当者がいいなと思ったら、それ以外の先輩社員の印象もぜひ見てみてください。限られた機会で企業を理解するには、自分からガンガン質問をしてみることも有効だと思います。
学生の方のから質問をしてくれると、「うちの会社のことを知ろうとしてくれているのだな」と好印象を抱く企業は多いはず。何かしら情報がないと質問はできないので、質問をするにあたっては企業のことを調べるでしょうし、いろいろと知ったうえで「私はこういうことを考えてきました」とアピールできる人は、かなり面接官の印象に残ると思います。
最後に「インターネットのなかに答えは落ちていないよ」ということも、学生の方にぜひ伝えたいメッセージです。
インターネット上には“答えらしきもの”は載っていますが、“決め手となる答え”は滅多に出会えません。Webと対峙していると自分ひとりで考えることになるので、視点が広がらないのが理由だと思います。視点や興味の幅を広げるのは、人と話すのが一番。社内のメンバーにも「どんどん人に会おうよ」ということをいつも伝えています。
100人の先輩社員に会ってみたら、1名くらいは、心から楽しそうに働いていて「こうなりたい! 」と本気で思える先輩に出会えるはず。そういうひとりを見つけることのほうが、100社をインターネットで調べるよりも、キャリアの決断に役立つように思います。
取材・執筆:外山ゆひら