キャリア形成は「脱・完璧主義」で。成り行きや人の縁での進路選択がキャリアの幅を広げる

コパン 専務取締役管理本部長 経営企画室長 市岡 史高さん

コパン 代表取締役社長 市岡 史高さん

Fumitaka Ichioka・岐阜県出身。名古屋大学農学部卒業後、同大学大学院生命農学研究科博士課程に進学。日本学術振興会特別研究員として研究し博士号を取得。在学時にイギリスのカーディフ大学に研究留学。新卒でトヨタ紡織に入社し、技術者としてドイツに赴任。社会人として働きながら、BBT大学大学院に入学し経営管理専攻修士課程を修了。コパンに入社後、マーケティング・プロモーションを担当し、専務取締役管理本部長兼経営企画室長に就任。2023年4月より、現職

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研究志向からビジネス志向へ。偶然の出会いで進路が変わる

昔から研究志向が強かったですが、大学院時代のあるきっかけによって、一転してビジネス志向に変わりました。

子供の頃から生物に興味があり、祖父母が自然豊かな地域に住んでいたこともあって、様々な生き物を捕まえたり化石を掘ったりして遊んでいました。大きくなるにつれそういったことは減ったものの、高校生の頃偶然手にしたバイオホラー小説を読み、バイオテクノロジーに関する専門用語や最新の情報に触れたことがきっかけで、改めて生物学の研究者を目指したいと思うようになりました。

また当時、アメリカではバイオベンチャーの起業が流行していたため、ビジネスとしても興味を持つようになりました。

高校卒業後は名古屋大学農学部に入学し大学院まで進みました。大学院では研究に没頭し、将来的にも研究者として生きていこうと考えていましたが、これも偶然、地元ベンチャー企業のビジネスセミナーに参加した際に大きく考え方が変わりました。講演者である経営コンサルタントの方のプレゼンを見て、ビジネスでは研究開発力や技術力以上に、それまで意識していなかったマーケティング戦略や見せ方が重要だということに気付かされました。それを機に研究志向からビジネス志向へと転換し、マーケティングや組織マネジメントを学ぶようになりました。

その後、教授の勧めでイギリスのウェールズ大学に研究留学。海外に出るつもりなどなく、ほとんど英語が話せない状態での留学だったため、言葉や文化の壁を感じる日々でした。しかし悩んでも何も変わらないため、「何がチームの課題なのか?」「どうしたら成果に貢献できるか?」を考え、自分のアイディアを写真や図でまとめて説明することでコミュニケーションの問題を克服しました。その後、留学先の研究室が発表した論文で筆頭著者の1人に選んでもらえたことは、とても嬉しかったですね。

この経験から、言葉が上手く話せなくても、情熱と誠意をもって向き合えば想いは通じること、できることを少しずつ積み上げれば、自ずと結果は付いてくるということを学びました

新卒では民間企業に就職しようと決めていました。以前からビジネスに興味がありましたし、ベンチャー企業やアカデミックな研究職は、自身の研究成果が商品・サービスとして世に出るまでに10年、20年かかり、場合によっては世に出ないまま終わってしまうこともあります。数年以内に商品として目にすることができる仕事をしたかったため、自分が携わったものが早く世に出る業界に就職しようと思いました。

入りたい企業や業界は決まっていませんでしたが、研究室の後輩からリクルーターの方を紹介してもらったことが縁で、植物由来材料の開発に力を入れていたトヨタ紡織に入社することに。自分が長年続けてきた研究とはまったく関係のない領域でしたが、目新しくて面白かったことは今でも覚えています。

進学、留学、就職と、偶然や人の縁で、自然と進む道が決まっていきました。悪い道でなければ、成り行きに身を任せるというのも良いのではないかと思います。自分がイメージしていなかった選択肢の方が、自分の世界やキャリアの幅を広げてくれますので。

市岡さんからのメッセージ

あえて理想や目標を決めないフラットなキャリア選択

入社後は技術部に配属され、その後、ドイツの子会社に赴任し、開発・生産・営業を繋ぐ業務を担当。帰国後は製品開発の統括部門に異動になりました。

採用から入社までの間にリーマンショックがあったことで、入社後の配属先が、事前に話のあった基礎研究所ではなく、より実務に近い技術部に変更されました。研究者として新たな発見をするのではなく、技術者として製品や製造工程の問題解決のために働くことがもとめられるようになりましたが、それはそれで新たなことに挑戦する良い機会だとは思っていました

数年が経ち、精神的に余裕が出てきたため、あらためてBBT大学大学院に入学しビジネスを学び始めました。独学だと好きな分野に学びが偏りますが、大学院だと苦手な分野も単位が取れるまで頑張らなければなりません。働きながらビジネス全体を学んだことで、普段はあまり接点の無い他部署の業務にも興味を持つようになりました。ドイツの子会社への赴任や、統括部門への異動により、様々な部署と連携して仕事をすることになったので、学んだことを実務の中で活かす機会にも恵まれました。

当時開発を担当していた車種が量産に移行し、次の担当車種の話が出たとき、あらためて自分のやりたいことについて考えるようになりました。自動車産業はグローバルに多くの人とかかわるとても巨大でやりがいのある仕事ですが、自分が頑張ってもどうにもならない部分も大きい。全体の状況を把握でき自分の寄与度がよくわかるスケールのビジネスに従事したいと思い、トヨタ紡織を退職することにしました。

しばらくは無職の自由を満喫し世界を放浪するつもりでしたが、なぜか数か月後には父が経営するコパンに入社していました。明確な理由はわかりませんが、父から会社の話を聞いているうちに色々とアイディアが浮かんできて、つい着手してしまったことがきっかけだと思います。各事業の分析と効率化をおこなう部署を作り、社内外からメンバーを集め、今に至ります。

これからのキャリアという視点でいえば、特に何も決めず、フラットでニュートラルな状態でいたいです。私の場合、理想や目標を決めてしまうと精神の自由度や思考の幅が狭まりパフォーマンスが落ちてしまうような気がして。これまでの人生でも、偶然や周囲の人とのご縁でさまざまなチャンスや行動を変えるきっかけに出会えてきました。これからも自分を取り巻く世界の流れに身を任せながら、そのなかで新たな経験や発見を楽しんでいきたいと考えています。

市岡さんのキャリアを表す画像

「働きやすさ」を最優先に企業選びを。柔軟性を高める意識を大切に

コパン 専務取締役管理本部長 経営企画室長 市岡 史高さん

新卒入社であれば、企業選びのポイントは、自身にとって働きやすいかどうかだと思います。一緒に働く上司や同僚の人間性はもちろん、仕事がハードすぎないことも大切です。

ファーストキャリアは「働く」ということに慣れたり、オンオフの切り替えを身につける時期でもあります。学生から社会人になるというのは、かなり大きな変化です。毎朝早起きして通勤し、残業が無くても1日8時間、週5日は働くようになるわけですから、のんびり学生をしていた方はそれだけでも相当なプレッシャーとストレスを感じるはず。心や身体が追い付かずに早期退職することになってしまわないよう、ある程度長く続けられる仕事を選んだ方が良いと思います。

また、最終的には「自分で選んだ」という意識をもって入社できると良いですね。給与や知名度、商品やサービスなど、何か1つでも好きなところや惹かれたところなど、その企業を選んだ理由を持っておきましょう。会社を辞めたくなったとき、あと少しだけ頑張る支えになってくれるはずです。何年か働いてみて、働くことに慣れてきたら、その企業で長く続けるのか、よりハードだけれど得られるものも大きい企業に転職してチャレンジするのか、考えれば良いのではないでしょうか。

今後の社会で活躍していくのは、思考や行動に柔軟性がある人だと思います。就活時は、「学生時代に学んだことを仕事に活かしたい」という気持ちがあるかもしれませんが、それを重視し過ぎるとキャリア選択の幅が狭くなってしまいます。学校で学んだ時間は、社会に出てから学ぶ時間と比べたら微々たるものですし、採用する企業側も、学生時代の勉強内容より、人間性や企業文化との相性などを重視しているはずです。これまでの経験をもとに業界や職種を選ぶのも良いですが、心機一転してまったく違うキャリアを選択することも、視野に入れてみてはいかがでしょうか

仕事においてもいえることですが、「自分の力だけでやり抜こう」というこだわりは、あまり持たない方が良いと思います。最近はインターネットサービスの発達で、情報や専門家との接点が簡単に得られます。あらゆる外部リソーセスを柔軟に活用し、効率良く結果を出そうと意識することが重要です。

SNSやネットニュースは自分の興味に関連する情報をレコメンドしてくるため、スマホやPCばかり見ていると、多くの情報を得ている気がしても逆に視野は狭まっていきます。友達以外の人と話す機会を作る、団体ではなく個人で海外旅行をする、あえて興味のない店に行き興味のない売り場を歩いてみるなど、少しだけコンフォートゾーンの外に出て動いてみることを意識していると、徐々に思考の柔軟性が高まっていくのではないかと思います。

市岡さんが解説する柔軟性を高めることの重要性

完璧主義を手放そう。ベストな選択ではなく、ベストな結果を目指す

就活はゴールではなく、長いキャリアのスタートです。今は転職しやすい時代になったので、まずは自分のやりたいことや得意なことを活かせる働きやすい企業を選ぶのが良いと思います。

どれだけ頑張って情報を集めても、「完璧な就活をしてベストな企業を選ぶこと」は不可能です。未来は不確定でどの選択肢がベストかはわかりませんが、選んだ後であれば、自分の選択肢を努力でベストな状態にすることができます。大事なのは、ベストな選択をすることではなく、結果をベストにすること

あなたが今大学生なら、高校生や中学生の頃の自分を振り返ってみてください。自分では大人だと思っていたかもしれませんが、親や先生に無意味な反抗をしたり、現実離れしたことを夢見たりと、青臭い過去があったのではないでしょうか。将来の自分から見ると、今の自分もきっとそうです。自信作の志望動機や自己PRも、数年後には、恥ずかしくて読み返せないポエムのように感じるかもしれませんが、それが成長するということです。

就活中も社会人になってからも、壁にぶつかることもあるかもしれませんが、それを自分にとって苦しいこと、辛いことばかりだと悲観的に捉えるのではなく、壁を乗り越えるゲームだと考えてみてください。「どうして自分の邪魔をするのか」と思うと苦しいですが、「どうやったら上手くクリアできるか」と見る角度を少し変えるだけで、大変なこともちょっとだけ面白くなるはずです。

人生は思い通りにはいきません。だからこそ、成り行きを楽しみ、人の縁を大切にし、どこに流れ着くかではなく、流れ着いた先でどんな結果を出すかを重視していけば、自分が想像していたよりも人生の幅は広がり、さまざまなことに柔軟に対応できる人間になっていけるのではないかと思います。

市岡さんが贈るキャリアの指針

取材・執筆:志摩 若奈

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