仕事のカギは「エンパシー」|就活は未来予測よりも自分軸を優先しよう

ChaCha Children & Co. 理事長 迫田 健太郎さん

ChaCha Children & Co. 理事長 迫田 健太郎さん

Kentaro Sakoda・立教大学経済学部経済学科を卒業後、アンダーセンコンサルティング(現:アクセンチュア)に入社。その後、あすみ福祉会(現:社会福祉法人ChaCha Children & Co.)の常任理事に就任し、全体統括や人材育成をおこなう。当法人のビジョンは「Education is Empathy〜よりよく理解しあうことで、世界は変わる〜」。2013年より理事長に就任し、現職

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公認会計士志望から、外資系コンサルを経て経営者に転身

今までのキャリアを思い返すと、理事長になるために計画的にキャリアを進めていたのではなく、自分のやりたいこと、できることから道を切り開いてきたように思います。

1社目に決めたアンダーセンコンサルティングも、最初からコンサル業界に興味があったわけではありませんでした。実は大学3年生の頃、公認会計士を目指していたんです。経済学部に入ったことで会計に関心を持ち始め、大学1年生から勉強を始めて3年生の頃に試験を受けましたが、結果は不合格。その後も何度も挑戦しましたが、結局合格できませんでした。いわゆる「資格崩れ」のような状態になり、大学卒業後は資格取得のための専門学校にも通いましたが、最終的にはその道を諦めました。

しばらく経ってから第二新卒として就活を始めて、「こんな自分を評価してくれる会社があるなら頑張っていこう」という気持ちで、コンサルティングファームを何社か受けました。その中でも、そんな姿勢で就活をしていた自分を面白がってくれたアンダーセンコンサルティング(現:アクセンチュア)への就職を決めました。

入社後は、クライアントの業務改革やシステム導入、マネジメントなどに従事。外資系の環境に揉まれながら、ビジネスのフレームワークを会得していきました。

そして5〜6年後、想像もしていませんでしたが、母の創業したあすみ福祉会(現:社会福祉法人ChaCha Children & Co.)の経営に参画することに。以前から経営に苦戦しているというのは聞いていましたが、母から力を貸して欲しいと懇願され、今まで培った知見をもとに少しでも課題を解決できればいいなと思って決意しました。

コンサルの仕事をする中で、実際に自分で事業をしてみないと寄り添えない悩みや課題があるということも実感していたので、事業の立て直しを通じて、自分自身も成長できればという気持ちもありました。

保育業界に足を踏み入れて感じたのは、保育士の仕事はとても専門性が高く、クリエイティブだということ。保育士の在り方や子どもへの接し方によって、子どもの精神の安定や心地よさ、主体性など、人生のあらゆる側面に影響を与えるからです。

しかし、現状保育士の地位はあまり高いものではありません。保育の現場からのたたき上げではなく、異業種から入ってきて業界全体を俯瞰できるからこそ、保育業界の課題がたくさん見えてきました。

「保育士」という仕事の意義や重要性を社会に伝え、保育士の社会的地位を向上させていく。彼らが働きやすい社会や組織を作っていく。これが私にとってのライフワークだと、経営に参加してから早い段階で気付きました。

迫田さんの人生ストーリー

社会福祉法人としての在り方を追求。今後役立つのは「エンパシー」という共感性

そして、2013年に理事長に就任。当法人は社会福祉法人なので、営利目的ではなく公益性の高い組織です。サービスの対価だけでなく、国からの補助金や寄付金、すなわち皆さんの税金も財源とさせていただいています。スタッフたちも、当法人のためではなく、社会のために働いているわけです。お金も人も情報も、すべてが社会のものであるという考え方のもと、社会に対してオープンに積極的に発信を続けています。

特に大切にしているのは、当法人のビジョンでもある「エンパシー」という考え方。考え方や価値観が異なっても、相手の立場に立って理解しようとする、感情に対する共感のことを言います。この姿勢によって、いろいろなことに興味や疑問を抱いたり、他者の考え方に目を向けるようになり、みんなで未来を創造していくことができるのです。

保育士と子どもとの関係性にも、エンパシーの考え方を取り入れています。当法人の保育園には「先生」という言葉はなく、さん付けで呼んでもらうようにしています。人対人のお付き合いなので、保育士は子どもに教える側でありながら、教えられる側でもある。お互いを尊重しながら、一緒に成長していくという姿勢があるのです

私自身も、理事長という立場ではありますが、各園のスタッフから教えてもらうこともたくさんあります。自分の主観だけで突き進まず、客観的な視点も取り入れながらみんなで組織を作り上げています。

また、ミッションとして掲げているのは「20年後を創る。」です。個人としても、組織としても究極の目的であり、常に意識しながら判断や行動を重ねています。変化の激しい世の中では、20年後を予測するのはほぼ不可能でしょう。だからこそ、みんなで「創っていく」という姿勢を大切にしているんです。

迫田さんからのメッセージ

業界や企業の未来予測よりも重要なものとは

ChaCha Children & Co. 理事長 迫田 健太郎さん

先ほどもお伝えしたように、現在は未来を予測するのが難しい時代。「今後第一次産業は衰退していく」「この業界はロボットやAIに取って代わられる」など、いろいろな未来予測があるかと思いますが、それを第一優先にするのは避けたほうが良いでしょう

たとえば数十年前を振り返ると、「大手商社はいらなくなる」という人もいましたが、現在大手商社の中には、過去最高収益を出しているところもあります。保育業界も同様に衰退産業と言われていますが、だからこそ多くのチャンスや成長の機会があることを実感しています。

さらに会社単位で考えても、主力事業や規模感、組織風土などあらゆる面で変化が起きていきます。変化をしないと生き残れない時代だからです。このような変わりやすい部分よりも、変わらない部分、すなわちビジョンやミッションなどに目を向けてみましょう。その辺りが自分の心に響いたら、自分に合った企業といえますよ。

理念に共感した企業で迷ったら、最終的には「人」で選ぶことをおすすめします。仕事の基本はコミュニケーションなので、「将来こういう人になりたい」「この人と一緒に働きたい」などと思える人が同じ組織にいたら最高だと思います。

また、ファーストキャリアならではの視点としては「自分が成長している姿が描ける会社」が良いと思います。新社会人は右も左もわからない状態なので、仕事で一人前になるためには一定の成長が求められますよね。それなら、最初から成長が見込める環境に飛び込んだ方が頑張れると思うんです。実際に自身が新卒入社した企業も、当時は辛くて大変なこともありましたが、多くの機会に恵まれていて数年間で大きく成長することができました。

今はワークライフバランスという意味合いでの「働きやすさ」が重視されていますが、自分自身が成長しやすい、頑張りやすいという視点での「働きやすさ」も考えたほうが良いかと思います。

迫田さん流 仕事選びのポイント

  • 未来予測よりも、自分軸を優先しよう

  • ビジョンやミッションの合う企業を選ぼう

  • 「成長しやすさ」「頑張りやすさ」を大切に

「セルフブランディング」と「自分軸」を大切に

これからもとめられるのは、「セルフブランディング」に長けている人です。何か素とは違うキャラクターを演じるようなイメージを持つ人もいるかもしれませんが、自分を偽ったり着飾ったりすることではありません。

「セルフブランディング」とは、ありのままの自分の魅力を俯瞰して客観的に捉えて、それを周りに表現していくこと。自分自身は表現者である、発信者であるという自覚を持つことです。普段から、「自分の表情や発言、行動は周りの人に伝わっている、影響を与えている」という意識を持って過ごしてみましょう。

もしかしたら今の学生は、SNSが普及していることが当たり前の世代なので、自分を発信することに慣れていて、重要性は言うまでもないかもしれません。でも、あらためて自分自身がメディアとなっていて、発信しているつもりはなくてもすべてが「セルフブランディング」につながるということを意識してほしいですね。意識したうえで、発信内容を自分でプロデュースできるような人が優秀な人なんじゃないかと思います

何かを「伝える」というのは、どんな仕事においてもキーワードになり得ます。教える、交渉する、営業する、文章を書く……すべてがそこに集約されているような気がしてならないのです。その根底にある部分の精度を高めることに力を入れてみてくださいね。

セルフブランディングとは

最後に皆さんに伝えたいのは、就活でもなんでも、「自分は何が好きで、何が嫌いなのか」「どういう人生を歩んでいきたいのか」といった自分軸を重視することが大切だということです。

特に若手のうちは、周りからの評価が指針になりやすいですし、仕事をするなかで自分がぶれることもあるでしょう。そんなときに自分軸が助けになってくれるのです。

自分には軸がないと思っている人もいるかもしれませんが、自覚していないだけで必ず持っているはずなんです。「そもそもなんでその仕事を選んだんだっけ? 」「どんな風に成長したいんだっけ? 」というように、ときには自分軸に立ち返り、ご自身の原点を思い出してみてくださいね。

迫田さんが贈るキャリアの指針

取材・執筆:志摩若奈

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