マインドセット次第でエネルギー量は変わる|自身の介在価値を見出し仲間とともに築き上げたキャリア

MyRefer(マイリファー) 代表取締役社長 CEO 鈴木 貴史さん

Takafumi Suzuki・大学卒業後、2012年にインテリジェンス(現:パーソルキャリア)入社。2014年にグループ歴代最年少で社内ベンチャー制度を通過し、1億円の社内出資を得てリファラルリクルーティング事業『MyRefer』(マイリファー)を立ち上げる。9カ月で黒字化を実現し、新規事業開発部ゼネラルマネジャーとして同社の新規事業拡大をけん引。2018年には完全独立を果たし、パーソル初となるスピンオフベンチャーとしてMyReferを設立。以降、現職

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「社会を変えるインフラをつくる」目標を定め領域を模索した学生時代

自分は仲間を巻き込んで何かを企てることが好きなんだ。何かを生み出す側に行きたい」キャリアの最初のターニングポイントは、そう決心した子どもの頃にあります。

600年も続くような厳格なお寺で育ち、両親からは「将来は公務員を目指せ」と言われていました。しかしそう言われると、「世の中を変える器がないと思われているのか? ならその見立てを裏切ってやる」と反発心を覚えるような子どもでした(笑)。

ですが、子どもながら、実際に人を巻き込む活動もしていました。友だちと基地を作ったり、軍隊を作ったり、仮想国を作って通貨を発行し、学校で一大ムーブメントを起こしたこともありました。

その思いはずっと変わらず、高校から大学時代にかけては「自分の生きた証として、何か社会のインフラになるものを生み出したい」と思うように。そのときに検討したのが、3つの選択肢でした。

社会のインフラを生み出せる仕事には「国全体のルールを作れる政治家」「ゼロから記憶に残るコンテンツを創るアーティスト」、そして「世の中に必要なサービスを作るビジネスマン」の3つがあり、さてどの道に進もうか? と検証をしました。

政治家は「現状、高齢にならないとルールメイキングができる側に行けない」ということをネックに感じて、自分が行きたい道はこれではないとすぐに判断できました。アーティストについてはかなり悩みましたね。幼少期から音楽をやっており、8年間本気のバンド活動でボーカルを務め、有名グループのボーカルオーディションに応募したこともあります。

ただちょうどその頃、握手券を付けたCDの売り方が流行し始め、「コンテンツの世界は見せ方次第で結果が左右される。良いコンテンツを作れば売れる、というわけではない」という事実を突きつけられたのです。「この分野で本質的なものを作るのは難しそうだ」と判断しました。

そうして注目したのが、サービスとしてインフラを作るビジネスマンとしてのキャリアです。特に参考になったのは、Facebook(フェイスブック)の創業者であるマーク・ザッカーバーグ氏です。学生時代にニューヨークへ短期留学をしたのですが、そのときに現地の学生の間でFacebookが流行り始めており、「めちゃくちゃ若い創業者が、すぐれたインフラを作っている! 」と興奮したことを覚えています。

この領域ならば楽しくインフラづくりに励めて、しかも良いものを作ればちゃんと広められるに違いない。ビジネスの世界には、人生をコミットする意義がある」。

そんな確信を得て、この道を選ぶことに決めました。大学2〜3年生の頃でしたが、この決心をしたことが、キャリアにおける2番目のターニングポイントと言えるかと思います。

起業を大前提に1社目へ。有言実行を果たすにはマインドセットと自己暗示が鍵に

上記の決心をしてからは、すべてのリソースをビジネスにシフトし始めました。帰国後にはすぐに学生団体を作り、学生起業も検討。しかし自分が尊敬する経営者たちのような時価総額の高い企業を作るには、学生起業からいきなりは難しそうだ、と判断しました。

当時は有線ブロードネットワークスの宇野康秀さん、楽天の三木谷浩史さんなどが頭角を表し、脚光を浴びていた時期になりますが、彼らの経歴を見ても「みんな一度は会社に入ってから起業をしているな」とわかったので、私自身も「会社を2年で辞めて起業する」というマイルストーンを描いて就職活動を始めました。

面接でも「2年でいなくなりますが、それでもよければ採ってください! 」とストレートに伝えていましたが、そんな私を広い心で受け入れてくれたのが、ファーストキャリアとなるインテリジェンス(現:パーソルキャリア)です。尊敬するサイバーエージェントの藤田晋さんを輩出し、かつ当時「起業の登竜門」とも言われていた企業でした。

入社時には「営業力とマーケティング力を身に付けて、1年で同期ナンバーワンになり、2年で会社ナンバーワンになったら辞めよう」というプランを立てて入社。ただ敬語も話せない、インターンをやったこともない状態で社会人になったので、最初の売上を立てるまでの数カ月間は結構きつかったです。

しかし「トップの座は既に手に入れたもの」くらいに自己暗示をかけ、「1年後の社内総会で何を話そうか」とまで具体的に想像しながら取り組んでいました。そうして実際に1年目で新人賞、2年目の前期からは大手クライアントを担当して営業MVPもいただくことができました。

「この程度の成果を出せる人間でなくては、インフラなんて作れない」と思っていたこともありますが、入社時からのプランを有言実行できたのは、「起業したい」と口にしている同期の中でも、段違いに本気度が高かったからだと思います。

私のように「社会に出てすぐ成果を出したい、目指すものに最速で辿り着きたい」といった気持ちがある学生さんには、自己暗示をかけてみることをオススメします。「自分が設定するマインドセット次第で、出せるエネルギーは変わってくるよ」ということは経験からお伝えできることです。

2年目中盤には早速独立を考えたのですが、一旦の引き留めに遭ったこともあり、「売る力・売れる仕組みを作る力は身に付けたから、(部下に)売らせる力を付けてから辞めよう」というプランに変更。

成績優秀なメンバーの面倒を見てもマネジメントの力は磨けないと思ったので、あえて「成績が伸びないメンバーの面倒を見たい」と申し出て、5名のチームマネジメントを開始。序盤は気持ちを理解するのに苦労しましたが、徐々にコツを掴み、チームとしても成長を果たすことができました。

そうして満を辞して起業を考え始め、スタートアップで3千万円くらいの資金調達を見込めていました。ただちょうど社内ベンチャー制度「0 to 1」が開催されていたので、今の当社のメインサービスでもある『MyRefer』の事業計画を出してみたところ、数百ある案のなかから審査を勝ち抜くことができたのです。

1億円の資金を得られるうえ、法人への啓蒙活動に必要な2,000人の営業力とdoda(デューダ)ブランドも使えるなら、こちらで起業をしたほうが垂直立ち上げできるだろうと判断し、まずは社内ベンチャーとして事業化を果たしました。起業を決心してから実際に起業するまで、一切のメンタルブレイクなく駆け抜けた、という感覚です。

仲間を集めるには「ビジョン・実現可能性・リターン・介在価値」の4つの観点が重要

入社1〜2年目の土日にはほぼ毎週、自主的にビジネスプランを練るミーティングを開いていました。ひとりでやり続けるのはきついと思ったので、社内の仲間や社外のメンバーなど意識が近い人間を巻き込んで、一緒にさまざまな事業モデルを考えていましたね。

よく起業を志している方から「起業の仲間集めをどうすればいいか? 」と相談いただきます。ビジネスにせよ、スポーツにせよ、音楽にせよ、リーダーとして仲間を集めて何かを成し遂げるためには、4つの要素が必要だと思います。

1つ目は「ビジョン」。わかりやすくバンド活動のメンバー集めで喩えると、「バンドやろうぜ」ではなく、「文化祭で500人の前でライブしようぜ。500人は史上初の快挙で、きっと最高の卒業の思い出になるよ」というのがビジョンです。

2つ目が「本当にそのビジョンが実現できそうか」という「再現性(実現可能性)」です。たとえば私が歌も歌えずギターもベースも下手だったら「こいつとじゃ、文化祭のビジョンをかなえるのは無理そうだ」と思われてしまいますよね。

再現性を見せることができなければ、仲間は集まりません。そういう意味でも、起業をするうえでは、営業力や技術力などの自分固有の誰にも負けない強みはあるべきだと思います

3つ目は「リターン」。これは「文化祭に出たら人気者になれる、貴重な経験値が得られる、報酬をもらえる」といったことが当てはまります。「一緒にやれて嬉しい」といったエモーショナルなリターンではなく、関わることで合理的なリターンもたらせるかどうかが重要だと考えています。

最後に「介在価値」。たとえば「今のリズム隊では演奏が安定しないから、君のベースが必要なんだ! 」といったような、その人が参加することによって生まれる価値について、明確に提示する姿勢です。

「メンバーを集めてリーダーとして物事を進めたい人」はもちろん、「何かをやろうとしているリーダーに声をかけられるようなメンバーになりたい人」も、上記の4つの観点を持っておくと役立つと思います。

自分が介在価値を感じるポイントを理解し「強みを発揮できる場所」を探そう

ファーストキャリアにどんな会社を選ぶかについては、人それぞれの正解があると思います。学生時代からすでに目的意識が明確で、起業などを考えている”尖っている人”は、自分で選んだ意思決定を正解にしていけるので、どんな会社に入っても大差ない気がします。

強いて言うならば、将来的に起業などを視野に入れる人ほど、待遇、環境などが安定しすぎた大企業に入ってしまうと、そこから飛び出す勇気を持ちづらいかもしれないな、とは思いますね(笑)。今で言えば、商社などでしょうか。「失うものがないほうがチャレンジできる」のは確実なので、そういった観点も持って今後自身が成し遂げたいことから逆算して1社目を選ぶと良いかもしれません。

「とにかく1日でも早く社会人として成長したい」という人は、バッターボックスに立てる回数が多い場所を検討するのがベストです。責任と裁量をくれるのがベンチャーの特徴なので、大手でもベンチャースピリッツを持っているところを選ぶことをオススメします。

また自分に合ったキャリアを考えるうえでは、「自分の存在意義、介在価値をどこに感じるタイプなのか」を知っておくことも大切だと思います。

たとえば、「自分が介在することで組織が大きくなっていく様子を見たい」という人であれば、自分がいなくなってもまったく影響が出ない大企業は適さないということになります。

「自分の一撃で会社を救えることもある」というのはベンチャーで働く一番のおもしろさ。最近はベンチャー志向の若者が増えていると聞きますが、おそらくこの部分を感じたいからではないでしょうか。とても良い傾向だと感じています。

社会や仲間たちから「君が必要なんだ」と言われる人材になるためには、信頼される人間であることは前提で、自分ならではの強みを持つことが重要。そのうえで多くの人とつながりを持ち、その強みを他者に認知されている状態をつくることも大事だと思います。

そのためにも、「まずは1社目で圧倒的に活躍する! 」という心構えで飛び込んでみるのは一案です。なんとなく会社に入るのではなく、その会社のなかで具体的に目指すところを決めておきましょう。たとえば「同期トップになる」といった目標基準を設定し、それを積極的に公言してみる。周りからもそういう奴なんだと認知され、その目標を実現するための指導をしてくれるはずです。

1社目で頑張っても活躍できない場合、「まったく違う職種のほうが向いているのかも? 」という観点を持って、自分が強みにできる職種やフィールドを探してみるのもオススメです。営業職でA社の最下層にいるとしたら、B社でも営業トップには絶対になれないと考えたほうが自然です。

競技が代われば活躍できる可能性はあるので、たとえばですが「営業では成果が出せない、そしたらSEやテクニカルの仕事はどうだろうか? 」と考え、自分が強みを出せる場所を1日でも早く探しに出たほうがいいと思います

不可能なことを実現したいなら「根気強く発信すること」が鍵になる

ここまで「やりたいことは、積極的に発信をしたほうがいい」と繰り返し伝えてきましたが、これはコーポレートベンチャーとして創業して、その後MBO(スピンアウト)での独立を果たした経験からも強く言えることです。

私はコーポレートベンチャーとして最初に起業することを決めた瞬間から「いずれはスピンアウトして、より大きな資本を投入して事業を展開するぞ」ということを決めていました。ただこれはサイバーエージェントの藤田さん以来約20年間、前例のない、いわばルールから逸脱したことでした。

そのような状況下でも応援してくれる人がいたのは、私が入社1年目から「ビジョナリーカンパニーを作りたい」と公言して回り、経営陣や創業者の皆さまに温かく見守っていただけていたからだと理解しています。

論理的な説明やプレゼンテーションもおこないましたが、最後はほとんどエモーショルな部分、つまり志の強さで説得した形です。それまでのストーリーや実績、努力のすべてを認識してもらった、という感覚ですね。

ベンチャーキャピタルへの資金調達と並行して実に1年半をかけて、最初は反対だった方々も最後は応援してくれるようになり、2018年5月、現在の「株式会社MyRefer」として船出を果たしました。

一見、不可能にも見えることを実現したいときや、自分がやりたいことを周りからも応援・支援してもらいたいときは、とにかく根気強く発信を続けること。これを試してみてください。

リーダーとして起業するためには、自分ならではの強みに加えて、開発、クリエイティブ、人事、ファイナンスなどあらゆる領域で最低限の知識・スキルは必要です。

「自分が得意なことは自分がやるけれど、自分ができないことは他人に任せたい」というワンピース型のリーダーシップスタイルも大事ですが、それだけではスタートアップの創業期は乗り切れません。

たとえば、人事やファイナンスが分からないと、組織を作ることもできなければ、会社が究極の壁にぶつかったときに立て直すことができないからです。

ただ起業後のステージが進んでいくと、「自分の能力のどこを伸ばすか」という話ではなくなります。今は「組織としてどうならなければならないか」「投資したいと思われるような会社にするには? 」という視点に変わっていきました。

もし自分で起業したいという方がいれば、自分自身の強みを磨きながら、意思決定する立場としての最低限の知識やスキルは若いうちからガンガン身につけ、その強みとビジョンを持って仲間集めをしていくといいと思います。

取材・執筆:外山ゆひら

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