仕事は人生をかけた長距離マラソン。スタート地点の就活では「よっしゃ走ってやる」と思える企業を探そう

イルグルム 執行役員CSO / MCM事業開発室 室長 吉本 啓顕さん

イルグルム 執行役員CSO / MCM事業開発室 室長 吉本 啓顕さん

Hiroaki Yoshimoto・大学卒業後、2009年にイルグルムに新卒入社。主力製品のエンジニア、プロジェクトマネージャー、営業を経て、マーケティング部の立ち上げ責任者に就任。以降はマーケティングプラットフォーム事業の製品企画とマーケティング、営業の3部門を統括し、2019年10月に執行役員CMO(最高マーケティング責任者)に就任後、現職

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福祉の世界で見出した「自己満足の状態になれる仕事」に就きたいという思い

キャリアにおける最初のターニングポイントは、当社イルグルムへの入社を決めたことです。「働かなアカンのかー」といった学生気分の状態から、「絶対にここだ! 」と思える会社を見つけられたことで、現在まで同じ会社でキャリアを積むことができました。今も日々のさまざまな経験を通して、当社に入る選択をして本当によかったと思えています。

とはいえ就職活動中は、かなり焦っていました。学生時代は与えられた課題をこなすことがもとめられていたのに、就職活動は「どのように働くか」を自分で考えて行動していかなければならない。しかも「やりたいこと」がまったくわからない。とにかく、いろいろな会社を見て、やりたいことを探すところからスタートだと思い、大学3年生の頃から企業研究を始めました。

企業研究においては、「自己満足」できる仕事かどうか、というポイントを重視していました。自己満足は、どちらかというと「身勝手」というようなネガティブな意味で使われることが多い言葉ですが、私は「自身の行動に対して満たされている状態」という意味で使っています。

この感覚は、精神疾患を持つ方々の自立支援施設でボランティアしていたときに見出したものです。利用者さんとコミュニケーションを図るのが難しい状況から、少しずつかかわりが持てるようになっていくなかで、日々「誰かの力になれている」という満足感がありました。「ありがとう」といってもらえたらうれしいけれども、見返りをもとめる気持ちはなく、自分の行為そのものに満たされる感覚があったのです。

福祉施設で働くなかで「仕事とは? 」という問いと向き合った結果、「仕事でも自己満足の状態を作ることができないと長続きしないだろうな」と考えるようになりました

この感覚は今でも重視しており、「自分が満足していなければ他者も満足させられない」という意識を持って動いています。仕事への納得感、自分がやることの意義を見出せるかどうかは、これからのキャリアにおいても大切にしたいポイントです。

粘り強く就職活動を続けて「ここだ」と確信できる1社を見つけた

就職活動では、少しでも気になる要素がある会社はとにかく受けてみようと思い、IT、不動産、福祉業界など幅広い業界の企業にエントリーしました。数十社の面接を受けたと思います。しかしどの会社でも「なぜ当社を受けるのか」を質問され、明確に答えられない、ということが続きました。

そこから「なぜ自分はこの会社が気になったのだろう? 」「それらの共通項はなんだろう? 」と自己分析を深めていきました。各社から聞かれた質問は記憶しておき、回答につまずいた点やギャップを感じる要素が見えてきたときも「ここが自分の腑に落ちない部分なのだな」と要素を抽出して検証しましたね。

そうして、少しずつなりたい自分の解像度を上げていき、モノづくりがしたい、Webサービスを作ってみたい、という志向を見出していきました

周りがどんどん内定を決めていくなかでは焦りもありましたが、今ほど転職が一般的ではなかった時代なので「この決断で人生が決まる、だからこそ妥協したくない」という思いは強かったです。腰を据えて就職活動に取り組み、納得感を持てるところまでやろう、と決めていました。

時間はかかりましたが、時間をかけて深掘りしたからこそ最終的に迷いがなくなり、当社に出会ったときに「ここだ! 」と直感を信じることができました

「モノづくりがしたい、Webサービスを作りたい」と思ったのは、スマートフォンが一気に普及した時期に学生時代を過ごしたことも関係しています。次々に登場するWebサービスを使うなかで感動や面白さを感じる場面が多く、自分でもWebサイトを作ったり、SNSを活用したりしていました。期待感を抱いている業界だったということも、エンジニアという道を選んだ理由の1つです。

当時のイルグルムは社員20名ほどで、現在の10分の1程度のベンチャー企業でしたが、岩田社長から設立の思いを聞いて、いたく共感したことを覚えています。「大阪発で世界へインパクトを与える」を目標に掲げ、ミッションである「IMPACT ON THE WORLD」を目指す姿を見て、「この人たちと働きたい」と本気で感じました。いうなれば会社に惚れた、という感じでしょうか(笑)。

ファーストキャリアでは「同じ志で働ける人がいる」と思えるところを選ぶのは、1つの良い方法だと思います。私自身も業界の将来性がどうか、制度が整っているか、スキルがついて成長できそうか……といったことは一切気にしていませんでした。

条件で就職先を決めるのも1つのやり方ですが、長くいられる会社を選びたいのであれば、マインドに触れる要素で選んでみる、というのはおすすめです。

吉本さんからのメッセージ

キャリアチェンジを通じて、自社の事業をさまざまな角度から見られるように

イルグルム 執行役員CSO / MCM事業開発室 室長 吉本 啓顕さん

入社後はエンジニアとして仕事をスタート。やりがいをもって取り組んでいたのですが、入社4年目に「営業にならないか」と誘われてキャリアチェンジをしたことが、2つ目のターニングポイントとなりました

期待してもらって声がかかったのは素直にうれしかったですし、「営業が向いているかどうかはさておき、フロントに出てみよう」とポジティブに受け止めました。「これまで作ってきたものが、お客さんにどう届いているかを見られるポジションもおもしろそうだ」と興味を感じたことも理由の1つです。

このキャリアチェンジによって、仕事への価値観がガラッと変わりました。それまでは仕事を「職種」で捉えていたのですが、それが単なる役割分担でしかないとわかったからです。

自分の手を動かすことだけがモノづくりなのではなく、「作ったものを届けて、使ってもらって、顧客に価値を提供する」という流れが一巡することで、初めてモノづくりのビジネスといえるのだな、という見方に変わりました

製品を企画して、作って、売って、プロモーションする……という流れはすべて連動しています。「こんな機能があれば、もっとユーザーが振り向いてくれるのでは? 」という意見があってこそ、より良い製品企画ができるわけで、このサイクルが回ってこそ良いサービスを作り出すことができると考えています。

事業を多角的に見られるようになってからは、「自分ならもっとこんなことができる」と各領域により深くコミットするようになり、自ら志願してマーケティングチームを立ち上げることに。自分がかかわる意義や事業を成長させる手応えを実感できるようになりました。

その後はデジタル戦略なども統括し、当社の主力製品「アドエビス」の成長に多少なりとも貢献できたかと思います。携わる領域が広がるほど、事業に対して「ああしたい、こうしたい」というアイデアがどんどん生まれてくるので、それらを実現しようと積極的に動く姿勢を評価いただき、役員にも抜擢いただけたのかなと感じています。

「こうしたい」「ここを変えたい」といった自分の考えを発信することは、キャリアを切り開くためにも大切なことではないかと思います

発言しやすい環境の会社を選ぶことも大切ですが、社会人になってからは、周りが察してくれることに期待せず、積極的に意思表示していくことをぜひ心掛けてみてください。

「その会社が手がけているサービスに愛着を持てるか」「事業やサービスそのものに意義を感じられるか」という観点も、できれば就職活動の段階から見極めておくのがおすすめです。あくまで私見ですが、週に40時間以上も自分の時間を使う以上、事業やサービスにかかわる価値が腑に落ちていないと、なかなか続かないだろうなと思います。

吉本さんのキャリアにおける、ターニングポイントの画像

情報感度を高め「自らが変えられる範囲」のなかで変化を起こす力を磨こう

これからの社会で活躍すると思うのは、「手の届く範囲のなかで1番良い情報を貪欲にインプットして活用するサイクルを速く回せる人」だと思います。

2つの要素に分けて説明しますと、まず1つ目は「情報を取りに行く力、情報感度が高いこと」です。

人が発揮できる力は「スキル×情報」の掛け算で変わってくると思います。仕事をするうえでスキルは必要ですが、今の時代は情報がなければ、それを良い形で生かすことは難しいでしょう。特にマーケティングの世界はトレンドの移り変わりが非常に速いので、常に新しい情報を取って知識をアップデートしておかないと、あっという間に時代に取り残されてしまいます。

情報感度を上げるためには、普段からアンテナを高く持ち、質の高いインプットを得る習慣を身に付けておくのがベストです。メディアやニュースをただ見るのではなく、SNSやコミュニティを活用してできるだけ一次情報に近い、純度の高い情報を取れるよう意識してみてください。

スキルは「自分はこうありたい」という意思を持つことができれば自ずと身に付いてくるので、必ずしも学生時代に習得しておかなくても良いように思いますね。

「このスキルが流行っているから、とりあえず勉強したほうが良いだろう」という動機では、なかなか身に付かないのも事実。顧客や目標が目の前にいて「スキルの必要性」が腑に落ちている状態のほうが、同じ勉強でもインプットの質が違ってくると思います

吉本さんが考える、っ活躍する人材の特徴

2つ目は「変化する心構え」や「変化対応力」を持っていること。

「やったほうが良い」「変えなきゃいけない」と思うことがあっても、それができない人や組織は意外と少なくありません。これまでのやり方を捨てる勇気も必要ですし、誰かのやってきたことを否定することにもなりかねないからです。

そうした向かい風があっても、変化を厭わずにやってみたり、変えてみようと提案したりできるかどうかが重要です

時には、チームメンバーから不満や反対の声が出てくることもあるでしょう。そんなときは「いろいろな価値観の人がいて当然だ、100%の賛成はありえない」という前提に立ち、「やっぱり変えてよかった、と後で思ってもらえるような成果で返していこう」というスタンスでいると良いと思います。お互いに事業を良くしたいと思って主張しているんだ、ということも理解しあえるとベストです。

また、「自分が変化を起こせる範囲」のなかに全神経を集中することも大切です。

学生時代なら、アルバイト先で「こう変えたほうが良くないか」と不満を感じることってよくあると思います。しかし、本社にまで働きかけないと変えられないような大きな課題に不満を持っても、アルバイトの立場ではなかなか変えるのは難しいですよね。

飛躍しすぎず、まずは今、自分が影響を与えられる範囲のなかで改善できるところはないか。そんな視点を身に付けておくと、社会に出てから役に立つと思います。

就職活動はマラソンのスタート地点。ワクワク感を持って走り出せるようにしよう

私がこれからのキャリアで成し遂げたいのは、新しい事業を生み出すことです。これまでの13年間、主力製品に携わり、その成長過程を見てきた経験を活かして、今期から新しい事業づくりにチャレンジしています。

まさに今「当社のアセットや強みを活かして、どのようなサービスを作り上げるのか」という部分を考えている段階ですが、必要なスキルや引き出しが今までと違うので、また新たな学びが必要だと感じています。

今の立場になってより強く思うことですが、会社は決して不変的なものではありません。常に変化していくもので、入社して10年経てば主力事業がまったく違うものにピボットされていたり、働き方がハイブリッドワークに変わっていたり、なんてこともあります。

事業というのは、あくまでその企業の理念を実現するための「手段」であり、採用においては、その事業を加速させていくために必要な人材や職種を募集しています。その意味でも、入社時点で企業理念やパーパス、社風や文化に共感できているかは、重要なポイントだと思いますね。

ベンチャー企業などは特に変化が激しいですが、会社にはいろいろな成長フェーズがあるので、「自分がおもしろいと思えるフェーズにある会社かどうか」は確認してからジョインすることをおすすめします。

ちなみに現在の当社は、既存の事業を拡大しつつ、それだけでは解決できない顧客の課題に対して新しいサービスを提供していこう、というフェーズに入っています。新しい事業に携われる人材をこれから募集していくと思うので、興味がある方には注目いただければうれしいですね。

最後に、私のキャリア観をお話します。

キャリアとは、人生をかけた長い長距離マラソンだと私は考えています。今35歳で、いろいろな経験をさせてもらってきましたが、あと30年働くと考えれば、まだまだ前半戦。ドラマで言えば、3話目くらいの感覚です。

この観点で言えば、マラソンのスタート地点を選ぶのが就職活動です。

いきなり険しい坂道だけど後からラクになりそうなコースがあったり、最初は平坦な道だけど徐々に天候が怪しくなりそうなコースがあったり。どのコースを選んでも、選択の違いというだけで正解も失敗もありません。そう考えれば、面接合否に一喜一憂する必要もないと思えるはず。

ただし「走る」いうことだけは決まっているわけで、「よっしゃ走ったるで! 」という気持ちになれるかどうかは重要だと思いますね。走ることにワクワクする気持ちさえ失わなければ、その後出現するであろう壁や坂道も、必ず乗り越えていけると思います。

吉本さんがオッ来るキャリアの指針

取材・執筆:外山ゆひら

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