悩むのも落ち込むのも一瞬だけでいい|「努力と熱量」の継続こそがキャリアを切り開く源泉となる

フェローズ 代表取締役社長 野儀健太郎さん

フェローズ 代表取締役社長 野儀 健太郎さん

Knetaro Nogi・1968年東京生まれ。1991年の大学卒業後、リクルートに入社。約2年間の在籍期間中は求人広告営業を担当。その後、クリエイティブ人材会社に創業メンバーとして参画し、執行役員など幹部職を10年間にわたって務める。2003年に独立してクリエイターのためのマネージメントサービスを行うフェローズを設立。同年より現職。グループ会社のディグ&フェローズを通じて映画制作も手掛ける

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超人気大手企業よりもワクワク感を優先したファーストキャリア選択

ファーストキャリアにリクルートを選んだのは、この人たちと仕事をしたいと思える先輩たちがいたことや、エネルギーとやる気に満ちた企業風土に好ましさを感じたからです。

就活をしていた時期はバブル崩壊前の完全な売り手市場で引く手あまた。望めば大手証券や損保・生保も望み次第の状況でした。それでも日本を代表するような大手企業の社風はいま以上に保守的で、どんな美辞麗句を並べられても心は躍りませんでした。

ある大手損保の面接で幹部に、福利厚生についてどう考えているか尋ねられたので、あまり関心はないと答えると「若いうちは分からないだろうが大切なことだよ」と諭されました。人生の先輩としての親心だったのでしょうが、私にとってはワクワクが感じられなかった面接の記憶です。

野儀さんのキャリア選択を表す画像

リクルートを選んだのはクリエイティブな仕事にかかわれるとの期待もあったからです。もともとクリエイティブな仕事に携わりたい思いもあって、多くのメディアを手掛けるリクルートなら、その可能性があると思えたのがポイントでした。

そうして入ったリクルートですが、結果的には2年ほどで辞めました。入社にあたってクリエイティブ系の仕事を希望しましたが、配属されたのは求人広告の営業担当。会社自体は気に入っていたし、営業で成果も上げ続けました。それでも求人広告の営業は、掲載しても採用できる保証が無い商材のため、営業しながらもモヤモヤ感のつきまとうものでした。もっと自分の動きと成果が直結し、それが直接的に貢献につながる仕事はないものか? と。

それで見つけたのがクリエイターの人材派遣をおこなうベンチャー企業でした。人材のご紹介であれば、自分の頑張り次第で直接貢献できますし、元々クリエイティブに強い関心もあったため、転職を決断しました。

当時はすでに一般的な人材派遣業の会社はたくさんありましたが、クリエイター専門の人材派遣会社はまだ存在せず、見つけたベンチャー企業がその分野におけるパイオニアを目指す会社でした。そこに立ち上げメンバーである7人のうちの1人として入社。

当時7000人の社員がいたリクルートから、社員わずか7人の名もないベンチャー企業への転職でしたが、私にとってはまさに胸躍る転職でした

野儀さんにとっての転職

  • 7000人企業から社員数1000分の1の企業へ

  • モヤモヤ感が残る営業職から、やりがい満点な仕事へ

テレビを中心とするエンターテインメント業界の顧客企業に、ディレクターやカメラマン、編集者などのクリエイターを派遣する仕事は、それまで日本に存在しなかっただけに業界側にもクリエイター側にも喜ばれ、日々やりがいを感じたものです。

創業メンバーとして入社し最終的には執行役員まで務めましたが、少し違う角度からクリエイター支援がしたくなり2003年にフェローズを設立。34歳での独立起業でした。クリエイターにかかわる仕事がしたいという一貫した思いが自分を起業にまで導いてくれたわけです

いま思えば小中高では学級委員や生徒会長を務めたり、大学時代には準体育会のテニス部のキャプテンを務め、300人ほどの部員をまとめ上げるなど、どちらかといえばリーダーシップを取って、みんなで頑張ろうと引っ張る熱血タイプでした。

そんな経験が独立起業をした会社を育て、登録クリエイター5万人、契約者2000人、売上高80億円の企業を率いる現在につながっているのかもしれません。

一生懸命に仕事へ打ち込んだ先に成長が待っている

フェローズ 代表取締役社長 野儀健太郎さん

若い人たちにキャリアと仕事についてアドバイスをするなら、時間を忘れるほど仕事に打ち込む時期は必要だし、それで後悔する要素など何もないということ

そもそもスポーツでも受験勉強でも実力をつけたいなら一生懸命に練習して努力するしか道はないはず。それに、一生懸命でない人の言葉には説得力も生まれず、周りにも相手にされないでしょう。

仕事も同じです。一生懸命に仕事に打ち込んだ先には仕事力を身に付け成長した自分がいます。しかも仕事に打ち込んで失うものは何もありません。仕事の地力を身に付け、人間的に成長し、仕事力向上に伴って収入も上がる。良いことづくめですよね。この通り、得るものしかないんです。

企業選びで気に掛けるべきは企業DNAの存在

フェローズには読書手当の制度があります。社員は毎月1冊本を読んで日々知識をアップデートしていますが、会社から1人2000円までの読書手当てが出ます。読むべき本はクリエイティブ関連の書籍で、クリエイターの方々が対象の仕事ですから常に知識と情報力を磨いておいてほしいからです。

同じような趣旨の文化芸術鑑賞制度も設けており、月に1度、映画や美術館、落語、歌舞伎などを観賞するために会社が最大4,000円の費用を負担します(舞台の場合は最大10,000円)。

こうした制度は社員に大好評です。また、就活生の皆さんにもよく驚かれるユニークな制度でもあります。しかし、もちろんユニークさで目を引くことを目的とした制度ではなく、弊社の制度や取り組みはすべてにおいて「もっとクリエイターの方々やクライアントの力になる為には?」を出発点として取り組んでいるものばかりです。また、そのコンセプトが入っていれば、ときに社員発信から認められる制度や取り組みもあります。まさに会社を「創って」いく。こういったところもベンチャー企業の面白みではないでしょうか。 

ただし採用効果や話題性のアピール目的でユニークな制度を用意する企業がないとは言えません。それを見抜くのは簡単ではないと思いますが、一つの方法は制度を見るのではなく、その制度の裏側に企業の理念や思想、姿勢、在り方、それらがつまった企業DNA的なものの存在が感じられるかどうかを計るること

企業DNAに裏打ちされていない社内制度は、いずれ消えてなくなっても不思議はありません。

ズームスイッチとタイムスイッチを使って壁を乗り越えろ

ずっと順調な道を、キャリアを歩んできたわけではありません。しんどい思いをして眠れない夜ももちろんありました。でもそんなときはこう考えてきたんです。悩んで落ち込んでいても、あるいは前向きな思考をしても同じように時間は過ぎる。だったら前向きに時間を使うべき。「限りある時間なのだから落ち込んでいたらもったいないじゃないか」と。

落ち込むのは一瞬だけにとどめます。落ち込んだって事態は変わらないのだから、それよりもどうすれば良くなるかを考える前向きな思考に時間を充てるべきです

良く言うたとえですが、コップ半分の水を「これだけしかない」とがっかりするのか、「こんなに残っている」と喜ぶのかは捉え方次第。だったらポジティブに捉えた方が良いでしょう。

壁を乗り越えるもう一つの方法は、ズームスイッチとタイムスイッチを意識すること。落ち込んでいるときは、得てして近視眼的に考えて自分の不幸を呪ってしまいがちです。でもスイッチを入れてズームアウトしてみてください。世の中には戦火に苦しむ人もいて、自分よりはるかに厳しい状況に直面している人たちの存在が見えてきます。

あるいはタイムスイッチを入れて70年前に思いをはせてみれば、飛行機で敵に突っ込まざるを得なかった特攻隊の若者たちの存在に気付くことができます。そうすれば、自分の悩みがいかほどのものかがわかるはずです。仕事を頑張るくらいは何でもないことも理解できるでしょう。悩んだって時間がもったいないだけ。だから私は社員に「悩むな、考えろ」とアドバイスします。

ズームスイッチとタイムスイッチの使い方を解説する画像

「継続は力なり」が人生を切り拓く原動力に

学生から社会人になって30年以上。起業してから20年が過ぎましたが、仕事に打ち込んだ歳月を経てつくづく思うのは「継続は力なり」ということ。もちろん努力の継続が重要ですが、同時に熱量の継続も大変重要です

継続することによって、自分のあり方や事業をどう改善すべきか見えてきますし、改善する方法を見出す力は継続してきた時間のなかで培われます。

そして、熱量と情熱をもって発信し続けることも同じくらい重要。たとえば、こうしたインタビューで熱く思いを語ることもできるし、もっとサラリと省エネで軽く流すこともできますが、私は熱量をもって語り続けるタイプです。

そういう一生懸命にやる熱量は人に届きます。届いてそれが自分に跳ね返ってきます。

もともとクリエイティブな世界に興味があり、自ら創作に当たりたいと考えたこともありましたが、クリエイターのこだわりを目の当たりにすると、自分の道はそちらでないと思いました。それよりもクリエイターを支える側に回ろうと考えていまの事業に行き着いたのですが、最近になって映画制作というクリエイティブな仕事にかかわる機会を得ました。

これまでの人脈がつながって、映画制作のディグ&フェローズというグループ会社をもつことになり、役所広司さん主演の『峠 最後のサムライ』や重松清さんのベストセラーを映画化した『とんび』などの制作に携わることができました。

発信し続けてきたクリエイティブに対する熱量が、いまにつながった形です。映画製作は、クリエイターの方々の幸せを願い、情熱をもってかかわり続けたことに対する天からのご褒美なんだろうと感じています。

野儀さんが贈るキャリア指針

取材・執筆:高岸洋行

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