未来を変えるのは、目の前の壁を乗り越える今日の自分|「本気の向上心」はあるか

シンフィールド 代表取締役社長 谷口 晋也さん

シンフィールド 代表取締役 谷口 晋也さん

Shinya Taniguchi・大学卒業後、介護機器の商社に2年間勤める。2006年にシンフィールドを設立後インターネット広告代理店で約1年間の経験を積んだのち、2009年からマンガマーケティング事業をスタートさせる。(※マンガマーケティングはシンフィールドの商標登録名称)

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入社から2年で次のステージへ。社風との相性は必ず確かめておこう

ファーストキャリアにおいては、「どんな志向や価値観を持った人が働いているか」という観点を重視することをおすすめしたいです。どんな人と働くかは自分の価値観形成に影響しますし、入社後の充実感にも大いに関係してくる部分。業界のイメージや仕事内容だけで選ぶのではなく、社風や人の雰囲気もしっかり見ておくと良いと思います

私自身がファーストキャリアに選んだのは、介護業界の企業でした。「世の中に必要とされていて、少子高齢化で介護の市場は大きいのでビジネスチャンスがありそうな業界だ」と感じたことが理由です。学生時代は大阪にいましたが、卒業後は地元である福岡に戻り、介護機器のレンタル卸を手掛ける企業に就職しました。

起業の志を持った時期は高校時代に遡ります。7歳からサッカーに打ち込み、小学校、中学校、高校ではキャプテンも務めていました。皆で切磋琢磨しながら掲げた目標をクリアしていく楽しさを知ったことで、「仕事でもこういうことをやりたい」と将来の起業を考えるようになったわけです。

ただ、新卒で入社した会社を2年で退職したのはその企業のカルチャーや他の社員の方と自分の意識が合わなかった、という部分もあります。サッカーをやっていたときのようにみんなで向上心をもって仕事に取り組み、自身や会社を成長させるということがやりたかったのですが、それができる環境ではなかったんです。

とはいえ入社後担当していた営業の仕事から学んだことはたくさんありました。まだ未開拓の地域を任せられ新規の飛び込み営業する日々。そういった状況でも19ヵ月連続で売上目標の達成を成し遂げられていて、それは「どうすればお客さんからの信用を得られるか」「何を求められているのか」を自身で仮説を立て実行していたから、というのもあります。そうした姿勢で仕事に向き合ううちに次第に営業に必要なことを身につけることができました。やはりどんな環境でも自分の考え方やスタンス次第で学ぶ方法はいくらでもあると思います

谷口さんからのアドバイス

「失敗するなら早いほうがいい」。20代起業を決意

退職後は、当社シンフィールドを設立。1年ほどは介護関連の仕事をしたりホームページ制作などを手掛けていましたが、次第に「ネットの集客ノウハウを身に着けたい」と思うようになり、「上京して経験を積もう」と決意。この点が、キャリアにおける最初のターニングポイントになりました。

経験値を積む先として選んだのは、インターネットの広告代理店です。一次面接でお会いした方がとても魅力的で、その後の面接でも優秀さが伝わってくる社員の方が多かったこと、会社としても大きなことにチャレンジしている印象があり、入社を決めました。

営業力にはある程度の自信を持って入ったのですが、入社後しばらくは「順風満帆」とは言えない時期が続きました。もとめられるレベルもこれまで経験したことがなかったもので、「こうすればうまくいく」と自分なりに見出していた営業手法が通用せず、それまでのやり方を変えざるを得ない状況に。

1社目で好成績を残し、かつ東京での転職活動でも複数の内定をいただいたことで、自分の自信が過信になっていたのではないかと思います。そのため「過去はリセットし、また新人に戻った気持ちでやり直そう」と決意し、まずは上司に言われたことをすべて素直にやってみることにしました

また営業としては自分が提供しているサービスが有形商材か無形商材かの違いも大きかったですね。1社目では有形商材を扱っていたので、機能や便利さなどの商品説明が十分にできれば、売上につなげられていました。

しかし広告という無形商材の場合、形のないものに対する価値や広告を配信した場合の効果をしっかり伝えなければ、なかなか契約にはつながりません。「広告出稿がどのくらいの売上につながっていくのか」「売上以外にどんなベネフィットがもたらされるか」など、広告を配信した後の期待値についてしっかり話ができなければ興味を持っていただけない、ということが徐々にわかってきました。

「周りが売上を上げているのに自分だけが出せない」という状況はかなり辛かったですが、生来の負けず嫌いな性分もあり、必死でやっているうち、入社から5ヵ月ほど経つ頃には少しずつ成果を出せるようになっていきました。

直属の上司は、厳しいながらも親身にアドバイスやフォローをしてくださる良い方で、「この人のもとでなら成長できるだろう」という気持ちも強かったです。もともと辛いことがあっても一晩寝れば引きずらないタイプではありますが、あの時期に会社や上司のせいにして会社を辞めていたら、今の自分はなかっただろうと思います

谷口さんのキャリアにおけるターニングポイント

再び起業を決めたのは、28歳のとき。「失敗するなら早いほうがいい、30〜40代で失敗するより取り返しがつく」という考えから、転職から1年ほどで2社目を飛び出すことにしました。育ててくださった上司には申し訳ない気持ちもありましたが、快く送り出してくれました。

しばらく1人で事業をおこなっていましたが、事業や会社の将来の話ができる仲間がほしいと感じ、以前の会社で同期だった人に声をかけてみることに。彼を誘ったのは、細やかなフォローができるタイプで、自分にない部分を持っている人物だったことが理由です。営業〜受注までを自分が担うとして、彼なら受注後のサービス提供から納品までおこなってくれるだろうと見込んで何度か話をしたところ、当社に来てくれることになりました。

そして彼が入社した翌日に「マンガマーケティング」という当社の大きな事業の方向性が決まったので、この出来事は3つ目のターニングポイントと言えるかと思います。彼が来ていなかったら、違った事業領域を選んでいたかもしれません。

当社くらいの規模の会社の場合、前職で経験したようなインターネット広告を提供するとなると、大きな広告代理店のように「大量に広告枠を購入することによって料金を下げる」といったことがなかなか難しい、という課題を感じていました。

差別化をするには何か特徴的なことをやる必要がある、ということで、以前からマンガ広告には注目をしていました。ただマンガ広告の会社も少数ながらありましたし、マンガ家さんとのつながりもなかったので、アイデア程度にとどめていました。

しかし彼が最初に来社した日に「新しい手法としてマンガとか、どうですかね」と言ってくれたのです。以前から自身も同じアイデアを持っていたことで大いに盛り上がり、本格的に事業として検討することに。調べていくと、Webマーケティングの領域でマンガを活用している企業はどこにもなく、「他社と差別化できるし、No1になれるこの方向性で事業を進めよう」と決定しました。

まずは「得意なこと」で成果を出せば、そこからチャンスが広がっていく

そうして2009年に「企業の商品やサービスをオリジナルのマンガにして集客する」という現在のマンガマーケティング事業をスタートさせましたが、1年ほどはなかなか企業から受注することができませんでした。

最大の問題になっていたのは、当時はまだWeb上でマンガを活用する企業が少なく、市場がなかったことです。今でこそマンガ広告は広く受け入れられていますが、当時はまだ「マンガは子どもが読むもの」「自社のイメージにマンガは合わない」といった見解の方も少なくありませんでした。

そのような状況の中でも、事業の方向を変えるべきかと迷うことはありませんでした。「マンガはわかりやすいし、見やすいし、絶対に良さをわかってもらえる」という信念があったからです。 

そうしてしばらくして大手飲料メーカーへの導入が決まり、それを皮切りに、次々と実績ができました。資生堂、サンスター、本田技研、日清食品、富士フィルムなど多くの大手企業のプロモーションを支援させていただきました。それまでの最初のハードルは高かったですが、その後は順調に事業を広げることができました。

この出来事のように、自分が立てた仮説を実現できたときや「こうなるんじゃないか」と思って進めたことが、まさにその通りになったときが、仕事をしていて一番気持ちが昂る瞬間です。

事業として意思決定をする際には、まず「自分の得意領域かどうか」という目線で考えます。好きなことよりも得意なことのほうが早く成果を出せるからです。得意なことは人から褒められ、嬉しくなって徐々に「好き」になることはできますが、好きなことで評価されない状況が続くと、そのうち嫌いになってしまうこともあると思います。

「得意なこと」を先にやったほうがいい理由

当社はマンガマーケティングやWebマーケティングを事業として手がけていますが、自分が社会に提供できる価値として、得意なこととしてこの領域を選んでいる、という感覚です

私にとっての好きなことはサッカーで、今も社会人リーグで選手として活動をしていますが、「いずれプロの経営者としてJリーグのチームにかかわってみたい」という展望も持っています。

まずは現在おこなっているマーケティング領域で経営者として成果を出してから、スポーツチームの経営にもチャレンジしたいと考えています。

ゴール設定をして、そこから逆算して人生を歩めるならば、それはとても美しいキャリアになると思います。しかし、キャリアは設計したとおりにはなかなかいかないものです。私自身、新卒の頃に今のような自分になるとはまったく想像できませんでした。

「上司やクライアントなど目の前の人の期待に応えることで、チャンスがもらえてやりたいことができる」という感覚で、次々と現れる目の前の壁をクリアしていれば、周囲も応援してくれるし、キャリアは切り拓かれてくるものだ、と感じています

逆に言えば、過去や今の延長線上にしか次のステップは生まれてきません。最近は「将来こうなりたい」というゴールだけを語る人が増えているようにも思いますが、遠い先ばかりを見ていると、自分のことがわからず、具体性のあるアクションを取ることができず、その結果、目指すゴールにいつまでも到達できない……ということもあり得るのではないかなと感じることがあります。

上司や会社からの期待値を超えて、一つずつ次のステップに進んでいく。その大切さはぜひ覚えていてほしいです。

過去を丁寧に振り返り「自分がどういうポジションで活躍できる人間か」を見極めよう

シンフィールド 代表取締役社長 谷口 晋也さん

就職活動においては、「得意なこと・やりたいこと」を可視化しておくことは非常に大切だと思います。もしそれがわからない場合は、過去から今までで自分にできたことを整理していけば、得意とまでは言い切れなくても「得意そうなこと」は何かしら見つかるはず。

自己分析をしっかりやるのは意外と大変なことです。自分のダメな部分とも向き合わざるを得ないので、過去の出来事を掘り下げていく作業も辛いことになるかもしれません。

しかし思いどおりにならなかった経験、他人から見れば取るに足らない出来事ほど、むしろ魅力的な事実になることもあります

たとえば「部活でレギュラーになって活躍しました!」という話よりも、「レギュラーになりたかったのに、なれなかった」という話を始める学生の方がいれば、私はむしろ「それからどう考えて、その後どう動いたの?」と続きを聞きたくなります。

表面的な話ではなく、事象に対して「その時は〇〇と考えて、〇〇とアクションした結果〇〇と気づきました」というところまで掘り下げている人は、採用面接でも話していて楽しいです。

自分を知るためには、幼少期に起きた出来事から現在までの「ライフライン」を作ってみるのもおすすめです。「このときは、こういう感情だったな」「こう考えて、この課題は乗り越えられた」などと一つひとつの出来事を振り返っていくうちに、自分がどのフィールドやポジションでなら力を発揮できる人間なのか、が見えてくると思います。

谷口さんからのメッセージ

成果が出なければ仕事の楽しさは感じづらいので、若手社員に対しては「仕事の楽しさを早く知ってもらって、やりやすい状況を作ってあげたい」と考えています。

マネジメントを大まかに分けるならば「レールを敷くか」「ガードレールを付けるか」という2つの方向性があるかと思います

前者は、まずは先輩たちの勝ちパターンを素直にそのまま真似してみる方法です。当社はこちらの考え方を採用していますが、言われた通りに仕事をしてほしい、ということではありません。

私がイメージしている人材育成は、武道でいうところの『守破離(しゅはり)』の精神に近いかもしれません。最初は忠実に教え(型)を守って、そこからより良いものを取り入れるべく型を破り、さらに新しい型や技を自分で生み出せるようになれば、師匠から離れていく。先々でやりたいことをやるために、まずはレールの上をできるだけ早く進み成果をだそう、というスタンスです。

一方「ガードレールを付ける」というのは、はみ出さないようにフォローはするけれど、大枠は好きなように走って良いよ、というタイプのマネジメント手法です。細かく指示されるよりも、最初から自分で考えて自由にやりたい気持ちが強い人は、こうしたカルチャーの会社を選んだほうがマッチするかもしれません。

停滞は衰退と同義。新しいことにチャレンジしている業界や企業を選ぼう

これからの時代に活躍すると思うのは、4つの「C」を持っている人。クリティカルシンキング・クリエイティブ・コミュニケーション・コラボレーションの4つの要素です

クリティカルシンキングについては、「中立的な立場で論理的に物事を見られる人」というイメージです。有象無象の情報があふれる時代なので、見聞きしたことを鵜呑みにはせず、「本当に正しいの?」「こういう見方もあるのでは?」という視点をもって物事を見られる力は、さまざまな局面で役立つと思います。

クリエイティブについては、新しいものを作る力、アレンジして生み出せる力を持っている人。ゼロからイチを生み出せるのはすごいことですが、世の中における多くの発明は、今までにあったものを組み合わせて再定義したものです。「今あるものをどう活かすか」を考え、新しい見せ方ができるなどのクリエイティビティを持っている人は、世の中からもとめられる人材になれると思います。

さらに大きなことを成し遂げるためには、周りの人とコミュニケーションを取って協力を得る力も不可欠ですし、AI・Web3.0・NFTなど新しい技術を持った人たちとうまくコラボレーションをして今までにない価値を発信していけるような人も、これからの時代に必要とされるように思います。

こらからの時代に活躍する人材の「4つのC」

私は社内でも「停滞は衰退」という言葉をよく口にしますが、世の中が早いスピードで変化している以上、今までどおりのことをやっているだけではうまくいかなくなる、という危機感は常に持っています。あくまで個人的な意見ですが、業界を問わず、チャレンジをしていない業界や企業は、衰退の一途を辿っていく可能性が高いと思っています。

今後もWeb・広告業界で「マンガといえば、シンフィールド」というブランドをもっと確立し、この新しい価値を国内外に広めていくことに積極的にチャレンジをしていきたいと思います。

もとめる人材としては、「素直で、真面目で、本気の向上心がある人」という3つの要素を挙げています。素直さは成長のために必須の要素ですし、組織である以上、ある一定のルールを守れる真面目さは必要だという考えからです。

また向上心に「本気」という言葉を付けたのは、世の中に向上心のない人はいない、ということがわかってきたからです。誰でも承認欲求や今の自分よりもよくなりたい気持ちはあるので、多少の向上心は持っている。しかし「真剣に目指すものを手に入れたい」「自分で定めた期限まで決めたことを実現させよう」というくらいの、本気の強い想いがある人と一緒に仕事がしてみたいと思っています。

谷口さんが贈るキャリアの指針

取材・執筆:外山ゆひら

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