「運が良い人」には共通点がある|会社を良くしたいからこそ決意した、独立という選択肢

インプリム 代表取締役社長 内田 太志さん

インプリム 代表取締役社長 内田 太志さん

Taiji Uchida・1995年ハウスメーカーに入社。情報システム部門での経験を経て、1998年富士通エフサスに転職。SE、PM業務の傍ら、個人でソフトウェア「プリザンター」を開発し、2017年インプリムを設立。「ASPIC IoT・AI・クラウドアワード2018 ASP・SaaS部門 支援業務系分野 ベンチャー大賞」など受賞多数

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成長の方向性を定めることで最適な環境を見つけられる

キャリアにおける最初のターニングポイントは、最初の転職で大きく環境を変えたことです。

キャリアのスタートとして、新卒では地元のハウスメーカーに入社しました。学生時代にIT系の勉強をしていたので、情報系の職種を採用している会社を選んだのですが、当時は中小企業で情報システム部門を持つ会社が少なかった背景もあり、1人で同社内の情報システムの仕事をしていました。いわゆる“1人情シス”という状態で、ひたすら現場の経験を積みながら、スキルアップに努めていました。

しかし入社から3年経ち、先輩のサポートや教育体制があまりない状態では、これ以上成長するのは難しいと感じるようになりました。また、社内のシステムを運用・保守・改善するのではなく、IT自体を事業にしている企業に身を置きたいとも思ったんです。

そのタイミングで地元の求人誌を見ていたら、たまたま「富士通」という名前の付く会社が目に入りました。富士通といえばIT企業の代表格。ぜひ入社したいと思い、転職を決意しました。

入社後は、中途入社にもかかわらず、新人教育として半年間の技術研修を受けさせてもらえました。1社目で“1人情シス”を経験しているからこそ、ここまで時間をかけて教えてもらえるとは思っておらず、非常に感動したのを覚えています。

スキルアップを望んでいるのなら、環境を選び、新たな場所へ漕ぎ出すのも良いと思います。自分がどんな成長をしたいのか、ぼんやりとでも方向が見えれば、自ずと行き先は決まるはずです。人材を育てようという意思のある企業ならなお良いですね。

内田さんが考えるスキルアップの方法

やりたいことを口にすることが「運が良い人」への近道

転職先はプリンターやサーバーなどのハードの保守会社だったのですが、ちょうど入社した頃にインターネットが普及してきて、世間では1人1台パソコンを持つようになってきました。そのため、ハードの保守だけでは生き残っていけないというように、会社も新規事業を立ち上げ始めた時期だったのです。

入社直後はサーバーの修理やプリンターの清掃が主な仕事でした。しかし、もっとプログラミングスキルを活かせる仕事がしたいと思っており、これ幸いと新規事業に手を挙げました。そもそも社内にプログラミングができる人材がほとんどおらず、それに加えて「SE(システムエンジニア)をしたい」と何度も話していたので、当時の上司がサポートしてくれたこともあり新しい部署への異動が叶いました。

最初の配属は往々にしてうまくいかないものですが、転職や異動によって、望んだ環境に近づくことができます。特に大企業の場合は、異動によってキャリアチェンジすることも可能です。そのためには、自分の思いや考えを積極的に口にすることが大切です。当然のことながら、自分から外に発信することで、はじめて周囲は気づいてくれますよ。

運が良い人になるためのサイクル

こうやって自分の望む仕事につけたのは運が良いからだと思います。いつも運だけは良いと自負しているのですが、運が良い人って「自分は運が良い」と常々話していますよね(笑)。

“運が良い人”たちは、やってみたいことや望みを語り、それを手に入れられると信じて「運が良い」と語り、そんなアウトプットの積み重ねでキャリアを切り開いてきたんだと思います。運が良いと言うから運が良くなるように、展望を語るからそこに辿り着くきっかけが生まれると信じています。

「会社をより良くしたい」という想いから、あえて独立を選択

異動先の部門では、富士通の拠点間の情報共有などを進めました。SNSが流行りはじめて、お互いの情報を共有することが自然になりはじめていた頃に、約5,000人が使う情報共有システムを構築できたのは良い経験でした。この経験のなかで、仕事の効率化やマネジメントの快適化に対して課題意識を持ちました。富士通グループを見渡すと不毛な作業も多く、これらをデジタルの力で効率化できないかと考えたのです。

そこで、富士通をより良くしたいという一心で、個人で業務効率化ソフト「プリザンター」を開発してみました。試しにソフトウェア開発のプラットフォームであるGitHub(ギットハブ)で公開してみると、非常に反応が良く、自分の作ったものに価値があるかもしれないとはじめて実感できました。

しかし、このソフトがすぐに富士通内で導入されるかというと、話はそう簡単ではありません。富士通は大規模なBtoBのビジネスをおこなっており、金融や医療、教育など、信頼性が問われる分野も多く手掛けています。長期間情報を保管しなければならない場合もあり、個人で開発したものを組織に導入するには大きなハードルがありました。

そのような状況でも、作ったソフトで会社を良くしたい思いは強く、まずはこのソフトの信頼性を高めることが必要だと感じました。逆説的なのですが、富士通のような大きな組織で導入されるためには、事業として展開して、きちんと世の中で活用され、信頼を得ることがスタートだと感じたんです

そこで、起業をしてプリザンターの信頼性を高めるために実績を積み重ねていこうと決心しました。自分の作ったものによって喜んでくれる人や企業があるのは、本当にやりがいを感じます。ビジネス向けソフトウェアとクラウドサービスのレビューサイトである「ITレビュー」で良い評価を得られたことも自信につながりました。

きっかけは身の回りを良くしたいという思いでしたが、結果的には、それよりも広いところにインパクトを与える起業という道を選べたことがうれしいです。

内田さんのキャリアの変遷

世の中とのつながり、人とのつながりが課題解決のヒントになる

インプリム 代表取締役社長 内田 太志さん

このような経緯で2017年に会社を立ち上げましたが、最初から全てがうまくいったわけではありません。お客さんはゼロなのに自分は営業経験がないので、どうやって集客したら良いのか、頭を抱えました。

そこで、とにかく人に頼ることにしました。富士通の元同僚や上司はもちろん、役員、さらにITコーディネーターや起業時にサポートしてくれた方なども皆、心よく力を貸してくださいました。

こういうご縁でつながれるのも、私は運がいいからと思ってしまうんですよね(笑)。しかも最初のお客様は富士通の子会社。早くも最初の起業の目的に近づけたのです。

私は決してコミュニケーションが得意な人間ではありません。もちろん営業経験はなく、「モノを売り込む」ということがどういうことかさえわかっていませんでした。それでもお客様と出会えて、その輪を広げられているのは、やはり「縁」だと思います。出会った人を信じ、大切にすることで、助けてもらえたり、アドバイスをもらえたり、輪を広げられたりして、乗り越えられるピンチも多いと思います。

先日採用面接をしていたら、びっくりするような転職理由を聞きました。新型コロナウイルス感染症の影響で新卒入社しフルリモートで働いているが、あまりにも人とのコミュニケーションがなくて転職したいと思った、と言うのです。

リモートワークの方がストレスが少ないことを疑いもしなかったので、意外な話でした。とはいえ、入社早々1人で仕事を進めるのは不安でしょうし、リアルなコミュニケーションは人の成長には不可欠なのかもしれない、と再確認できましたね。

これは新人に限った話ではなく、長く働いている人にとっても同様です。優秀なのに会社の中でダメになってしまう人っているんですよね。理由は、世の中とのかかわりが薄れていくからです。

自分の身の回りのことだけに集中し、社会へのアウトプットやコミュニケーションが絶たれてしまうと、人は魅力を失ってしまいます。世の中との接点を持ち続けるためには、小さなアウトプットを続けることが大切です。

現在はSNSなど、いくらでもアウトプットするツールがそろっていますよね。リアルの世界で地域や趣味の活動をしても良いし、ネット上で見聞をシェアしても良い。その豊かなコミュニケーションがあれば、会社の中で腐っていくことはないでしょう。世の中とつながり続けることがキャリアを築いていくための鉄則だと思います。

内田さんからのメッセージ

「基盤となるITスキル+専門性」でスキルアップを目指そう

コミュニケーションやアウトプットを大切にしながら、基盤となるスキルを育むことも忘れないでほしいですね。これからの時代に必要とされるのは、基本的なITスキル。「読み書きIT」なんて言葉もあるように、誰もが基本的なプログラムやネットワークを理解する時代になると思います。

私も生涯プログラマーでありたいという気持ちが強くあります。経営も楽しくやりがいがありますが、学生時代から変わらず、コードを書いている時間が幸せですね。

プログラムのおもしろみは、結果がすぐに出ること。自分が作ったものが目の前ですぐ動くのが楽しいんですよ。ぜひみなさんにもプログラミングのおもしろさを知ってほしいですね。

ITスキルがベースにあるとして、これからの時代はプラスアルファの専門性があるとなお良いと思います。医療、金融、農業、物流……。どんなジャンルのスキルでも、ITと掛け合わせることで大きく伸びる可能性を秘めています。今後はこの掛け算を意識してスキルアップを図るのが良いでしょう。

私自身もITに何かを掛け合わせて、世の中がもっと便利で効率的になるようなソフトを広めていきたいと思っています。日本の製品は、ある分野や作業に特化した製品が多く、エクセルのような汎用性の高いものが少ないと感じます。プリザンターがさまざまな業務システムのプラットフォームとなるよう、努力を続けていきたいです。

内田さんが贈るキャリアの指針

取材・執筆:鈴木満優子

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