「平凡な人は誰一人いない」。ダメな部分にこそあなただけの光る個性がある
ミツカリ 代表取締役社長CEO 表 孝憲さん
Takanori Omote・大学卒業後、モルガン・スタンレー証券に入社。債券統括本部の営業職として7年間勤める。2013年に退職し、カリフォルニア大学バークレー校のハースビジネススクールへ留学。2015年5月にミライセルフ(現ミツカリ)を創業し、現職。同年、適性検査とAIによる分析に基づき、近しい価値観をもつ求職者と企業をつなぐ採用支援サービス『ミツカリ』をスタートさせる
敗戦の悔しさが自分を本気にさせた。アメフトで得た起業の原点
キャリアにおける最初のターニングポイントは、アメリカンフットボール(アメフト)というスポーツに出会ったことでした。
高校からはじめたアメフトは、強豪校が限られており、小中学生での経験者がほとんどいない状況。皆が同じスタートラインから始められることを魅力に感じました。
たまたまアメフトが強い高校に入り、先輩に熱心に勧誘してもらったことも理由ですが、特別に興味があったわけではないものの「可能性のあるスポーツ」だと感じられました。
しかし、高校最後の大会では最終的にその大会で優勝する高校と1回戦で当たり、初戦敗退。不完全燃焼で終わってしまいました。それゆえに「大学でも絶対にアメフトを続けたい」という思いが芽生え、アメフトの強い大学に行こう、と決意。このきっかけから、大学受験では京都大学という難関に挑むことになりました。
塾にもあまり行っていなかった私ですが、京都大学を目指すと決めてからは「こんなにも頑張れるのか」と自分でも驚くような自分に出会うことができました。
周囲に宣言してしまった手前もありますが、この目標を立てなければ、あれほどの勉強はできなかったと思います。自分で想像していた以上の集中力で猛勉強し、無事に合格を果たすことができました。
入学後は、計画どおりアメフトに全力投球。しかし4年間目指した目標は、達成できないまま卒業を迎えることになりました。副キャプテンとして「メンバーたちにどう力を発揮してもらうか」を考えられたことは、その後のキャリアでも役立ちましたが、キャプテンと副キャプテンとでは、エベレストと富士山くらい背負うものが違います。
「リーダーをやらせてもらったほうが、良くも悪くも責任を持つ経験ができただろう。思ったことを試すことができ、やり切った手応えを得られたかもしれない」という心残りがあり、これが起業の決断にもつながったように思います。
就活時のバイブルを紹介! ポイントは「徹底的に自己分析に取り組むこと」
そのような状態で就職活動の時期を迎えましたが、「しょげている自分のままでは、どこも採用されない」と奮い立ち、本気の就活をやろうと決意。今でも就活本のバイブルである『絶対内定』(杉村 太郎・藤本 健司 著)という書籍に書かれているワークから取り掛かりました。
同著の100のワークは「全部やる人は読者の3%しかいない」と言われるくらい労力を要するものだったのですが、これを真面目にとことんやりきったことが、3つ目のターニングポイントです。
年末年始の1週間、朝から夜中まで徹底的に取り組みました。自分がこれまで「何に出会い、なぜそういう選択をしたのか」を突き詰めていくこのワークを通じて、過去の経験と、その裏にある動機を整理することができました。
結果、面接でも自分のことをきちんと話すことができ、就職活動はほぼうまくいったので、これから就職活動を始める皆さんにもぜひ今年度版の同著を読んでみることをおすすめしたいです。
採用側になっても思うことですが、面接では華やかなエピソードや経験談がなくても、まったく問題ありません。学生時代に特に何もしなかったのであれば、何もしない決断をした理由を分析し、「自分はこんな人です」ときちんと語ることができれば、面接官にも伝わるものがあると思います。
また、就職活動をしている方には「能力は関係なく、何にでもなれるとしたら、何になりたいか? 」をまず考えてみることをおすすめします。できることや能力から考えていくと思考が狭まってしまうので、その要素は除外して考えてみてください。
次に、そこに含まれる要素を抜き出してみましょう。私の例で紹介するならば、なりたかったのは「アメフトのプロ選手」で、そこには「世の中の人をインスパイアできるプロスポーツである」「戦いの要素が強く、努力して結果を出せば華やかな世界である」といった2つの要素があると見出しました。
そして上記の2つの要素があると注目したのが、 金融業界です。特に外資系のマーケットには勝ち負けの要素がはっきりとあり、共通性があると考えました。
そうしてモルガン・スタンレー証券へ入社するのですが、同社に決めたのは最初に内定をいただいたことも理由です。2社目以降は「モルガンの内定をもらっている表くん」として面接に臨んだので、どうしても面接官の目にフィルターがかかっているように感じたのです。
今となれば、ただの杞憂だったと分かるのですが、当時の自分としては「まだ内定を持っていない自分みたいな人を採用してくれたありがたい会社」だと感じ、入社を決めました。
1社目の働き方がその後のスタンダードになる。まずは「今できること」を考えて動いてみよう
1社目には7年間在籍しましたが、とても良い時間を過ごせました。正しく厳しい会社だったので、ここで社会人としての基礎を叩き込んでもらえた実感があります。
新人時代に学んだことは、大きく分けて3つあります。
まず1つ目は「仕事の質がわからない間は、量をやることが必要」ということ。人生の中で一番体力のある時期でもあり、ハードに仕事をする楽しさや成長の手応えを知りました。若いうちに「このレベルでやるのが当たり前」という高いスタンダードを身につけられたことが、その後のキャリアにも大いに役立ちました。この経験から「最初の山の高さが、その後の基準値を決める」と言えるかと思います。
2つ目は「誰を向いて、仕事をするのか」ということ。新人時代はお客さんに価値を提供できない自分がもどかしかったですが、「新しい金融商品ならば先輩たちと同じ条件でスタートラインに立つことができるのでは」と考え、積極的に新商品を学ぶようにしていました。若輩ながらそれなりに手応えを感じられる機会もありました。
そして3つ目は「未熟でも、自分にできることは必ずある」ということ。売上に直結する仕事ができない新人でも、社内でできることは何かしら必ずあります。
「結果を出せなければ意味がない」と考えがちですが、結果を出している人のサポートをする、といったことでも存在意義を出せるはず。「今自分にできる範囲で、自分がやって意味があることはなんだろう? 」と考えて動くスタンスを意識してみるのがおすすめです。
私自身、新人の頃はなかなか成果の上がらない社員でしたが、上記のような考えで動いているうちに力が付いたのか、その後はベストセールス賞を度々受賞できるように。報酬や評価もしっかりしてくれる風土だったので、週末は採用の面接官としても動くようになり、最終的には全社の採用リーダーも任せてもらいました。
さまざまな出会いに導かれ、留学〜起業へ。しんどくても頑張れる事業領域を選んだ
金融業界を飛び出そうと決めたのは、業界の変化が理由です。2008年のリーマンショック、2010年の欧州ソブリン危機を経て規制がどんどん厳しくなり、漠然と「ここではない業界に行ってみたい」と感じるように。
とはいえ、いきなり起業をするのは怖いな、などと思いながら、ビジネス書を読み漁っていました。特にベンチャーキャピタリストである原丈人さんの『21世紀の国富論』には感銘を受けたのですが、その時期に街中で偶然、原さんに出くわしたのです。思わず声をかけたところ「君、おもしろいね」と話を聞いてくださり、ビジネススクールへの留学を勧めていただきました。
原さんに遭遇していなければ「退職して留学」という選択肢は思い浮かばなかったので、これも4つ目のターニングポイントと言えるかと思います。
そして2013年5月に退職し、アメリカのビジネススクールへ留学。「リーダーシップ論や組織心理学」を中心とした授業をとり、無事に経営学修士(MBA)も取得できました。現地では志の高い学生にたくさん出会いましたし、毎週のようにベンチャーキャピタリストの方々が訪れる学校で、上場を直前に控えた卒業生などのスピーチなども聞くことができました。
さまざまな刺激を受けて「自分でチャレンジしないと、人生後悔しそうだな」と思うようになり、心のABテスト(マーケティング手法の1つ。2つの要素を比較し最適解を導き出す方法)を何度も重ねたうえで、起業の決意を固めることができました。
事業領域として選んだのは、人材採用の業界です。「自分をどういう状況に置いたら力を発揮できるか」を考えた際に、上述したようなアメフト、就職、留学といったターニングポイントが思い浮かびました。いずれにも共通するのが「人と組織の出会い」で、この領域ならばしんどくても楽しいと思いながらやり切れるだろう、と考えました。
留学先で性格診断である「MBTIテスト」のアイデアを学び、「これらとAIを組み合わせることで、社会全体のミスマッチをなくすことができるのではないか」というアイデアを話したところ、モルガン・スタンレー証券在籍時に知り合い、当時海外にいた日本人エンジニアの仲間と「一緒にやろう」と意気投合しました。
とはいえ、当時はまだ「シード(スタートアップ起業の最初期)でお金を出してくれる人なんているのだろうか」と半信半疑の状態でしたが、投資家の方と出会い、思いがけず現地で資金調達ができたことで、本格的に覚悟が決まりました。この出会いも5つ目のターニングポイントになりましたね。
半年間ほどビザを延長し、国内と連携を取りながら当社ミツカリを立ち上げることとなりました。
「新しい可能性にチャレンジし、世の中のスタンダードに育てていくこと」がキャリアビジョン
起業してからは数え切れないほどのターニングポイントがありましたが、事業がなかなか伸びなかった創業初期に学んだことがあります。それは、事業がうまくいくには「思い」と「数字」の両方が必要である、ということです。
事業への思いがあっても、それを裏付けるような数字を提示できないと、なかなかうまくいきません。一方で「これをやったらうまくいくのでは」「利益を出せるからこれをやろう」と数字だけで事業を進めてしまうと、社員たちのモチベーションが上がらず、空回りをしてしまう。
「この2つの要素がきっちりうまく乗るようにしなければ、事業はうまくいかない」という学びを得て、今はどちらかに偏りすぎないよう、両方のバランスを意識しながら経営をしています。
まだまだチャレンジの段階ですが、「少なくとも面白いことやれているよね」という手応えや、アイデアが自然に湧き出るような環境づくりを緻密にやれている実感はあります。これからも、皆が「その領域、おもしろいよね」と思えることをやり続けていきたいです。
私がキャリアにおいて充実を感じるポイントは2つあり、ひとつは「新しいことをはじめて、可能性に満ちあふれている」と感じられるとき。もうひとつは「メンバーの可能性を引き出すことができ、皆がやりがいを持って仕事をしてくれるとき」です。
具体的に成し遂げたいこととしては『ミツカリ』を世の中のスタンダードにしていくことです。社員の定着率にも関係する社風やカルチャーと求職者の相性を可視化するサービスなのですが、転職を考えるときには『ミツカリ』のようなツールを使うのが当たり前だよね、という状況にしていきたいですね。後から振り返ったときに『ミツカリ』の登場以降、ルールが変わった、と言われるようなサービスにしていくことが目標です。
仕事のなかで壁にぶつかったときは「ちゃんと寝る」「小さくて具体的な何かに集中する」ということを心がけています。人は追い込まれると深く眠れなくなるので、寝る環境をしっかり整えることは意外と大事な気がします。
人は大変なとき、どうしても大きな問題に目を向けがちです。たとえば「得意先が倒産しそうだ」なんてとき、その事実ばかり考えて「どうしよう」と悩み続けるより、「新しい取引先になりそうな100社に営業メールをしてみよう」などと考えて具体的に動いたほうが、明らかに有意義ですよね。
問題を小さなパーツに分解し、一つひとつ目の前のことをやっていくことでしか、物事は変わりません。悩みそのものは消えなくとも、何かに集中していれば、意識のなかからは消えたような感覚になることもできます。
就職活動でも応用できる考え方だと思いますが、うまくいかないときは「できる範囲のことでちゃんと行動をする」「一つひとつの行動への集中度を上げる」ということをぜひ心がけてみてください。
学び続けられる人・ワガママに好きなことを突き詰められる人が活躍する時代に
これからの時代に活躍すると思う人材の要素は2つあります。ひとつは「学び続ける人」。日進月歩の変化がある時代なので、ある程度のところで「わかった」と思い込まず、常に新しい情報にキャッチアップしていける人は強いと思います。
もうひとつは「自分が好きなことを突き詰めている人」です。嘘をつかずに自分の欲求をよく理解している人、とも言えるかと思います。
多くのものが自動化されていく時代、事務作業など「やらなければならないこと」は減っていくのが、大枠の流れだと予想します。そのようななかでは、やらなければならないことがきちんとできる人よりも、ワガママに自分の興味があることを突き詰められる人のほうが、価値が出てくる気がしますね。AIでは出てこないような発想ができるでしょうし、単純に魅力的だと思います。
そのような人物になるためには、「ちょっとかじってみる」ではなく「極端にやってみること」が有効だと思います。
たとえば読書が好きなら、月数冊程度ではなく「100冊読んでも楽しいと思えたか」を確かめてみてください。そのように本気のトライをして、ABテストをしていくと、本当に好きなものが何かを自覚できると思います。
「飽き性だから、コレというものがない」という人でも、それを武器にすることは可能です。「一時期、特定のものにめちゃくちゃハマった」という経験を100回繰り返していれば、それは他の人にはない強みや能力に変わります。強みと弱みは常に裏表なので、自分はダメだな、と思う部分にこそ可能性が潜んでいる、という見方をしてみてください。
誤解を恐れず言いますが、人は誰でも特殊です。モルガン・スタンレー時代、1,000人以上の学生と面接しましたが、全員どこかしら変わったところがありました。
「自分は平凡だ」と思い込んでいる人も少なくないですが、それは「何をやったか」にフォーカスしているからかもしれません。
「何をやったか」ではあまり差は出ないですが、「なぜやったか」「なぜ、どういうところが好きなのか」を尋ねてみると、細かく違いが出てきます。
たとえばアメフトが好き、という人でも「応援するのが好き」「作戦を考えるのが好き」「プレーするのが好き」といった違いが出てきます。そのように細かくブレイクダウンしていくと、必ずその人の個性が出てきます。自己分析で周りの人と違いが出ていないようであれば、「まだ深掘りが足りていない」と認識してください。
就職活動において、万人受けは絶対に目指さないこと。普遍的な人物像を見せようとすると、会社側は他の応募者との違いを見いだせず、ピンときにくいです。「絶対に自分にも人と違う要素がある」と信じて、とことん自分の個性を探してみてください。
また文系の学生の方からは「理系学部のほうが明確にスキルがあって就職活動では強い、社会に出たらこの学問は役に立たなそうだ」といった声も聞かれます。
理系の専門性をもとめる企業は確かにあるでしょうが、何らかの学問に取り組み、その分野の知見を身に付けてきた過程には、堂々と自信を持っていてほしいです。その分野を選んだことには、自分なりの考えやチャレンジがあったはずで、そこをちゃんと伝えられさえすれば、文理を問わず、企業側にも自分の魅力や個性がしっかりと伝わると思います。
そして「心理学や社会学部などを学んできた人の知見を活かせる方法を考えている当社のような会社もある」ということはぜひ知っておいてほしいですね。
「MBTIテスト」などの適性検査も、ぜひ活用してみてください。会社に選ばれる立場ではなく、選ぶ立場として、「この会社と自分は合っているのか」を五感だけでなくデータ上でも確認しておくことは、満足して働ける会社を見つけるための手助けになると思います。
取材・執筆:外山ゆひら