個性を発揮し枠をはみ出すことをためらうな|1回限りの自分の人生を「悠々として急げ」

福永紙工 代表取締役 山田 明良さん

福永紙工 代表取締役 山田 明良さん

Akiyoshi Yamada・1962年愛知県生まれ。二十歳で上京して入社したアパレル商社を経て、1993年に印刷・紙加工を手掛ける福永紙工へ入社。製版部門や営業部門で経験を積み、2006年に新規事業として社外のクリエイターとの協働プロジェクト「かみの工作所」を立ち上げる。「空気の器」「TERADA MOKEI(テラダモケイ)」などヒット商品を生み出し、デザイン経営という新たな経営スタイルを開拓。2008年より現職。2019年より武蔵野美術大学/空間演出デザイン学科の非常勤講師を務める

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広く情報収集すること、選択肢を最初から絞らないこと

 就活生にとって中小企業は志望先になりにくい面があります。福永紙工も中小企業に分類されますが、経営者仲間が集まると決まって話題になるのが採用の難しさです。たしかに大企業の安定性や、ベンチャー企業の華やかさには欠けますが、正直寂しく思うところもあります。

福永紙工には、さまざまなクリエイターとコラボレーションする「かみの工作所」プロジェクトがあります。ここで生み出された商品、たとえば紙に立体的なデザインを施した「空気の器」は世界的に評価され、国内外の著名な美術館のミュージアムショップなどで販売されています。2022年からは東京都立川市の複合施設GREEN SPRINGSにて直営店「SUPER PAPER MARKET」の企画運営もスタート。

そんな話題性もあって福永紙工はメディアに取り上げられる機会も多く、採用の苦労はあまりないのですが、採用に苦労している他の中小企業にも素晴らしい会社はたくさんあります。業績も良く、世界唯一の技術を持っていたり特定分野で圧倒的なシェアを誇っている中小企業だってあるのに、一般的には知られていないというだけで人が集まらないというのは本当に残念なことです。

そしてそれは、中小企業にとってだけでなく就活生にとっても残念なこと。中小企業という選択肢を最初から除くのではなく、少し情報収集の範囲を広げてみるだけで新たな選択肢が見つかるのではないでしょうか

福永紙工の場合は、こだわりを伝えやすい就職情報サイトを選んで採用情報を発信しており、自社サイトでも積極的に発信しています。他の特徴ある中小企業もきちんと情報発信しているはずなので、視野を広く持ち、さまざまな手段を用いてぜひ丹念に情報を収集してみてほしいなと思います。最初から選択肢を狭くもっていては、本当に自分が入りたいと思える企業に出会うチャンスすら得られませんからね

山田さんからのアドバイス

ファッション業界から印刷・紙加工業界へ。一から仕事を学び直した大転換

福永紙工 代表取締役 山田 明良さん

福永紙工に入社したのは30歳を過ぎてからでした。それまでは六本木のアパレル商社で企画営業を担当。社員数人の小さなマンションメーカー時代からたちまち100人規模まで会社は大きくなり、成長を肌で実感できたうえ大好きなファッションの世界で仕事ができてとても充実していました。

もともと愛知県の安城市出身ですが、高校生の頃はしょっちゅう出かけていて、地元にいるより大都会の名古屋にいる時間の方が長かったくらい。わざわざ電車で出かけて行っては都会の賑やかさをおおいに満喫していました。

その頃からファッションと音楽とデザインが大好きで、そういう分野の感度が高い若者が集まる場所にもよく出入りしていて。そういった場所を中心に友人関係がどんどん広がっていきました。

高校卒業後に上京してアパレル商社で働くようになったのも、名古屋時代の仲間に誘われたのがきっかけでした。アパレル商社には10年近く勤務し充実した毎日でしたが、バブル崩壊もあって会社が傾いたのをきっかけに転職を決意。まったく畑違いの印刷・紙加工の業界に飛び込んだわけです

福永紙工はアパレル商社時代の同僚だった妻の実家で、実は前々から「いずれは家業を手伝ってほしい」と言われていました。ちょうど子供が生まれたタイミングでもあり、心機一転、転職することにしました。

ファッション業界から、印刷・紙加工という未知の世界への転身ですから、一から勉強を始め、製版や印刷といった工場の現場作業から、企画、営業、接待ゴルフまで一通りの仕事を経験しました。

ただずっと違和感を感じていたのは、印刷・紙加工の仕事が基本的に「受け身のビジネス」であり、あくまでも発注元ありきの仕事だった点。当時の福永紙工も下請けの仕事しかしていませんでした。

ですから、もっと主体的に仕事をしたい、自分たちが納得できるものづくりをして、それが社会に評価されるような仕事ができないものかと、ずっと考えていたんです

山田さんのキャリアにおけるターニングポイント

それまでの枠を超えて発展させた新規プロジェクトが成功

そんな思いを胸に40代で始めたのが「かみの工作所」プロジェクトでした。グラフィックデザイナーやプロダクトデザイナー、建築家といった社外のクリエイターたちのアイデアと、福永紙工がもっている紙加工の技術を組み合わせて、まったく新しいオリジナルな作品、商品の開発と販売を目指しました。下請けが主体の印刷・紙加工業の枠を超えた取り組みでした。

最初はデザイン感度の高い業界でしか反応が見られませんでしたが、プロジェクトのメンバーには「売れるものを作ろうなどとは考えないでくれ」と言い続けました。自分たちが本当に好きなもの、創りたいものを作り、100人に1人でも心から共感してくれる人がいたら良い。そう考えていたんです。

妥協せず、かつ面白がりながら試行錯誤しているうちに、紙の建築模型を商品化した「TERADA MOKEI(テラダモケイ)」などのヒット商品も生まれるようになりました。また紙加工の精密技術を生かして、1枚の円形の紙が、空気を包み込むような器状の立体に変化する「空気の器」も生まれました。

それらの商品を携えて海外の展示会などにも参加するようになり、それがきっかけで世界の名だたる美術館のミュージアムショップで福永紙工の商品が販売されるようになったことは、最初に説明した通りです。

2008年に代表取締役に就任して以降は、デザインというファクターを取り入れたビジネスの確立にさらに力を入れ、以前からの印刷・紙加工事業と並ぶ会社の柱に育てることができました。 

新規プロジェクト立ち上げの背景

  • 脱下請け仕事への志向

  • 受け身の仕事から主体的な仕事への転換

  • 培ってきた技術を生かせる新規事業を目指す

尖がったままでいい! 人と違うことを恐れないで

そんな一風変わった会社の経営者の考えることですから一般的ではないかも知れませんが、「『活躍できる人材・需要が増す人材』とは思われていない人」にこそ大きな期待を寄せています。

言葉を変えれば世間の風潮や流れに媚びない、流されない、同調しない人こそが、今後求められていく人材だと思うのです。もちろん、福永紙工がクリエイティブ寄りの仕事を手掛けているからという面もありますが、社会全体としても人とは違う発想や行動力を持った人の重要性が今後増していくと感じます。

有名な話ですが、倒産寸前だったアップル社に復帰したスティーブ・ジョブズが展開した広告のスローガンが「Think different」。物事を他の人とはまるで異なる目で見る人こそが、世界を変え前進させるというメッセージでした。大いに共感できる考え方です。

人とは違う発想や思考回路の自分が社会に出て活躍できるのか不安に思っている人。反対に周りには変わり者扱いされ評価されないけれど本人は自信満々な人。いずれも尖ったたままでいてください。

人とは違うこと、枠からはみ出ること、個性的でありすぎることを恐れない、そういうあなたを評価する就職先が必ずあるはずです

山田さんがこれからの人材に期待すること

好きを突き詰めて「直観力」を研ぎ澄ませ! 

自分に合った就職先を見つける、あるいは自分が納得できる企業を発見するために必要なのは、自己分析力を高めることも大事ですが、重要なことは直感を研ぎ澄ますことでしょう。

直感を磨くのに必要なことは、自分の好きや得意を突き詰めること、徹底して楽しみ追求することです。それは音楽でもファッションでも文学でも、何かひとつでもあれば良い。その何かがあることで、その会社の、あるいはその会社で働く人たちの、他社との違いについて、それが微々たる違いであっても気づくチャンスを得られます。

たとえば本が好きで浴びるほど読書していれば、経営者が愛読書としてどんな本を挙げているかを知るだけで何かを感じ取れます。音楽漬けの毎日を送っているような人は、相手の好きな音楽を尋ねればその人物についての理解を深められます。その相手が自分の志望する会社の先輩社員や面談相手なら、企業選びの材料になるでしょう。

好きを突き詰めて尖らせた直感が、小さな信号をキャッチする。そうして見えてくる微妙な違いがあると思います。その違いが企業選びにおいて意外に大切なポイントになってくるのではないでしょうか。

企業選びに関して付け加えれば、企業のたたずまいにも目を凝らしてみるべきだということ。規模や業績や知名度が良いに越したことはないのですが、それよりもたたずまいに美意識が感じられる会社はきっと良い会社であるはずです

「たたずまいの美意識って何だ」と問われると説明が難しいのですが、その会社がどうありたいのか、どんな未来を見据えているのか、といった部分に通ずる話だと思います。会社の事業内容、事業の進め方、掲げている理念や経営者の発言から何を読み取れるのか、自分の能力を総動員して試してみてください。

一度限りの人生を、「悠々として急げ」

情報は就活生の周りにあふれています。情報過多といっても良いかも知れません。そのなかから自分に有用な情報を選び出し、その情報に基づいて進路を見出すためには、最後は勇気をもって決断するしかないですね。

その勇気を手に入れるためには、仮に決断が誤っていても後から軌道修正をする時間が若者には与えられているのだと考えること。そして失敗に過敏になりすぎず、突き進んでみなければ手に入らない貴重な体験があると信じることです。

そもそも人生にはリスクがつきものですし、社会に出れば不条理があふれています。成功してばかりの人なんていません。それはいまも昔も変わらないこと。結局のところ、最後は自分を飛び越えていく勇気があるかないかです。人生は1回限り。思い切り突き抜けてみるしかないでしょう。

座右の銘にしている言葉があります。開高健という芥川賞作家が好んだ「悠々として急げ」という言葉で、同名の対談集も出版されています。目先の事柄にとらわれずに大局的にゆったりと構えたうえで、「限りのある人生の時間を無駄にしないように生きよ」という意味だと私は解釈しています。

その意味と同じくらい言葉の響きの美しさに惹かれます。やはり人も会社も人生も美しくありたいもの。心からそう思っています。

山田さんが贈るキャリアの指針

取材・執筆:高岸洋行

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