成果への貪欲さで好きなことを仕事に|就活のキャリア選定ではゴールを見据えて戦略的に決断しよう

インユー 代表取締役社長 松浦 愛さん

インユー 代表取締役社長 松浦 愛さん

Ai matsuura・立命館大学卒業後、ファッション系大手企業に就職。その後、ITベンチャー企業で勤務。私生活を通じて心身の健康について考える機会があり、“オーガニック”や“マクロビオティック”という概念に出会う。その魅力を世の中に発信するために、インユーが法人化するきっかけとなるメディア『IN YOU journal』の先駆けとなるWebメディアを立ち上げる。2016年、インユーを設立した後、国内で最も厳しい基準を目指す「本物が見つかる」オーガニックマーケットプレイスIN YOU MARKET(インユーマーケット)をローンチし、現職に至る

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大企業からベンチャーに転職。働く環境の大切さを実感できた若手時代

今や起業の道一筋に歩んでいますが、実は就活していたときは典型的な安定志向で、ファーストキャリアはファッション系有名大手企業に就職しました。

しかし、環境が自分にはあまり合わず半年で退職することに。なんとか東京での暮らしを続けていかなければならない中、仕事もあっけなく辞めることが決まり「さて、今後何をしよう」とぼんやり思っていました。当時、「ゆくゆくはパソコン1台で場所を問わず自由自在に働けるような、そんな生活を送りたい」と思ったことを記憶しています。もちろん、そのときは夢物語のように思っていましたが……。

その後、運よくアルバイト媒体で「なるべく高い時給で働きたい」と思っていたところ、たまたま出会った(現上場の)ITベンチャー企業に転職することに。最初はアルバイトとして気軽に入社したのですが、1カ月もしないうちに評価をいただいて正社員にさせていただき、結果的に3年半くらいお世話になりました。

そこでは、営業からサービス立ち上げ、マネジメント、採用などを幅広く担当しました。1社目で自分に合わない環境で働くことの辛さを学んだだけに、次こそ心機一転頑張ろうと思っていたので、人生で初めてというほど真剣に本気で働いていましたね

すると、段々と責任のある仕事やマネジメントなども任されるようになったんです。大手企業とベンチャー企業を経験したことで、自分にはどんどん挑戦できて、自由度の高い環境が向いていることに気付きました。そのような環境で働かせてもらったことに今でも感謝しています。

就活では大手志向でしたが、実は学生時代から起業を志す人たちの学生コミュニティに所属しており、起業をはじめ自分で何かを推進していくことに漠然とした興味はありました。だからこそ、ベンチャー企業での経験を経たことで、あらためてそのような道に挑戦していきたいと自然に感じるようになったのかもしれません。

そして、次に何かやるとしたら、プライベートと仕事を完全に分けて割り切るような類のものではなく、あくまでも趣味と仕事の延長線上にある領域、いわゆる「ライフワーク」のような領域をやっていきたいという気持ちが強くなりました。

人生を懸けて“本気で伝えていきたいこと”に出会い、起業の道へ

そんな中で、プライベートである転機が訪れます。周りの友人が若くしてガンになったり、母親の同世代の知人が病気になったりと、健康について考える出来事が立て続けに起こったのです。自分自身、当時までは食生活と健康にこだわりがなかったのですが、将来のことを考えると現状に危機感を覚えました。

そのときに偶然出会ったのが、“オーガニック”や“ヴィーガン”、“マクロビオティック”という考え方。オーガニックは有機栽培という意味で、農薬や化学肥料を使わないことを意味します。もっと広い意味としては「循環」とか「持続可能」とか「本質的」などの意味や要素もあります。マクロビオティックは主食を玄米、副食を野菜や漬物、乾物にするのを基本として、食材や調理法のバランスを考えるという概念です。

独学でこれらを学び、自分の食生活に取り入れるようにしたところ、少しずつ体調が良くなっていきました。風邪を引かなくなったり精神が安定するようになったりと、着実に良い影響があるのを感じていて、この感動をより多くの人に伝えていきたいと思いました。

そんな矢先に、同じように食生活に関心をもっているメンバーとの出会いがあったのです。私を含めて2〜3人でブログを立ち上げようという話になり、オーガニックやマクロビオティックに関する情報発信をはじめました。

徐々にブログからオーガニック系のWebメディアに発展させていきましたが、他のメンバーはそれぞれ別の仕事があり、あくまでも楽しい趣味のような感じだったと思います。でも、私にとってその活動は人生の全てであり、いつしか誇りを感じるまでになっていました

最終的には私だけで運営していくことになり、本格的に独立や起業を視野に入れるようになりました。まずは準備期間として、知人から紹介してもらったとあるグローバル企業に短期間勤めて、自分の経験やスキルを活かしながら、起業にも役立つような仕事のお手伝いをさせてもらいました。

そして、準備期間を経て、2016年にインユーを起業しました。Webメディアを『IN YOU journal』と称し、現在では多くの方に閲覧される代表的なオーガニック系のメディアになっています。

柔軟な働き方ができるようになったからこそプロフェッショナルな人材がもとめられる

仕事を通してやりがいを感じるのは、何よりも読者さんから感想をもらったときですね。「メディアのおかげで食生活や人生が変わりました! 」といった喜びの声が届くと、少しでも影響を与えられているんだなと嬉しい気持ちになります。

あとは、私一人だけのフリーランスでやっていくのではなく、あえて起業してメンバーを持ち、組織化するという選択をしたことで、色々なことが変わりましたね。人を抱えるということはすなわち責任が重くなることを意味するので一層大変なことや辛いことも増えましたが、一方では私自身が学ばせてもらえるような優秀で貴重なメンバーとの出会いもあり、それはとても喜ばしいことだなと思っています。

今後のキャリアにおいては、主軸事業であるオーガニックサイト『IN YOU MARKET』とオーガニックブランド『Minery(ミネリー)』を守りながら、着実に伸ばしていけたらと思っています。

加えて、時代に合わせた柔軟で生産性の高いチーム作りもしていきたいですね。働き方の1つとしてリモートワークが確立されつつありますが、当社も去年からフルリモートワークの体制を取り入れました。

この働き方に慣れると、スキルを持つプロフェッショナルな人材はより活躍しやすくなります。家庭がある人は家庭と仕事の両立もより簡単になりますし、仮に家事など仕事以外のタスクがあっても要領よくどちらもこなせます。もちろんやる気があれば、時間を問わず働きたければとことん働くことも可能になります。

「女性だから/男性だから」「何歳だから」「家庭があるから」などの理由で不本意に仕事を辞めたりセーブしたりして、仕事もプライベートも中途半端になるという事態を防げるのは、フルリモートワークの良い点だと感じます。「家庭だけの人生」や「仕事だけの人生」ではなく、あくまでも「仕事もプライベートも諦めずにどちらも頑張る、自分だけのオリジナルな人生」を生きれるようになるのです

従来の働き方と今の時代の働き方の違い

ただし、繰り返しになりますがフルリモートであっても常に高い成果を出せるようなプロフェッショナルな人ではないと、そもそもいずれそういう環境で働くこと自体が困難になるという厳しい側面もあります。

実際、これからはどのような領域でも「プロフェッショナル」が選ばれていく時代になると思います

普段からなんとなく仕事をこなすのではなく、必ず成果を出すという意欲をもっている人や、最後までやり切ろうという熱意のある人がもとめられるようになるでしょう。あとは、会社員でも経営者のような視点をもって、仕事への向き合い方や立ち回りを考えられる人は周りから重宝されると思います。

なぜ目の前の仕事が存在するのかを根本的に考えてみたり、「なぜ上の人はこんな指摘をしたのか?」の理由を考えたり、誰から言われなくとも先回りしてやっておいたほうが良いと思うことを自分で進めてみたり。「そもそも会社ってどんな仕組みだろう」「どういう流れで利益が出ているのだろう」などと、会社という組織について知っておくことも大事ですね。

そもそも主体的に努力し成果を出す人は全体的に見れば、本当に少数派です。だからこそインターネットや本など身近なツールを活用して学んでそれを実践するだけでも、周りから一歩リードできるはず。

「上司、社長は何を考えてこの指示をしたのか」「なぜお客様はこういう反応をしたのか」など相手の目線に立ち、想像力を働かせて仕事に向き合い、改善を繰り返すだけでも、どの会社でもどんな職種でも通用する人材になっていくと思います。

キャリアは「ゴールからの逆算思考」で戦略的に描こう

インユー 代表取締役社長 松浦 愛さん

就活において大切にしてほしいのは、「最終的にどうなりたいのか」というゴール設定です。「世間からどう思われるか」という視点や、表面的なイメージ、ブランド力、身内の意見だけで仕事を決めるとおそらく途中で後悔します。

それよりも自分の長い人生において、10年先、20年先に仕事でもプライベートでもどういう生活をしていたいのかを考えて、それに向かっていくための企業選びをするのが良いと思います。

たとえば、将来的に起業したいのであれば、それに役立つ経験やスキルが身に付く環境を選んで、会社員時代はその夢に向かうための準備期間だと捉える。

というのも、会社員はオフィスや備品が用意されていて、仕事も教えてもらえる絶好のチャンス。まずはそのように恵まれた環境で、会社員として最大の成果を出せるようになる。そのプロセスを経てこそ、起業してからも上手くいく可能性が高まると思います。

一方で、自分でゼロベースで何かを作り上げていくことや、泥臭いことが苦手で、できるだけ高い年収を得るなどして堅実に生きていきたいのであれば、年収の高い有名企業や大手外資系企業を選び、社内で着実に成長し、ポジションを上げていくというのも一つだと思います。

しかし、ベンチャーで働くのも起業するのも大手や外資で働くのも、全て一長一短。あらゆる業界で働く人とお話ししてきましたが、結局、全てにメリットとデメリットがあり「良いことしかない環境」など、ほぼ確実にありません。だからこそ、自分にとって何が合うのか、比較することも忘れないようにしてくださいね。

ゴールから逆算してキャリアを描いていくときに気をつけるべき点は、知識がないと単なる妄想になりがちだということ。

そのため、起業家なら最終的にどういう道を歩む人が多いのか、何が最大のリスクなのか。あるいは会社員なら、この業界、この会社、この職種ではどういうキャリアになっていくのか。フリーランスの場合、どんなスキルが必要で最終的にどういうライフスタイルになるのか、などをしっかり調べておくのが大切です。できるだけシミュレーションしたうえで、自分に合ったキャリアの道筋を描いていきましょう。

松浦さんからのメッセージ

また、今の時代は「好きなことを仕事に」という考え方が広まっていますが、自身の経験を通して思うのは「好きなことだけをしていられる仕事など、ない」ということです

私はオーガニックという自分が好きな領域で、社長というポジションにたまたまいますが、現実には「好きではないこと」もたくさんやっています。

また、本当に成功している人は、華やかなところだけ見えていても、寝る間も惜しんで仕事をしていたり、皆が遊び呆けている時間にさえも、仕事のことを考えていることも少なくありません。時間、趣味、プライベートなど、人生における大事な何かを犠牲にしていることも非常に多いです。つまり、成功している人や皆様がご存じの著名人だって、人が嫌がる泥臭いことをかなりしてきたはずなんです。

だからこそ、仕事選びにおいては安易に憧れなどでは決めずに「本当に自分はそういう人生を送りたいのか」「時間やプライベートを犠牲にしてまでそのポジションに就きたいのか」などまで、あらゆる調査をしたうえで真剣に考えた方が良いと思います

「客観的に見えているキラキラした姿やSNSで見かける姿と本来の姿は違うのだ」ということを念頭に置いて、現実的に仕事選びをしていくのが良いですよ。面白くないことを言って現実を突き付けるようですが、嘘偽りのない仕事選びについて等身大の言葉でお話ししたいので、あえてこのように伝えています。

また、10年先、20年先には大きな軌道修正が効かなくなることもあるので、若いうちからある意味シビアに選択をしておくことで、将来的に後悔することを防げるのではないでしょうか。

松浦さんからのメッセージ

もしいくつかの企業で迷った場合は、幅広い経験ができるかどうかで決めてみてください。

会社というのは、給料をもらいながらあらゆる経験ができる場所。あまりにも仕事が決まりきっていたり、新しいことに挑戦させてもらえないような会社は、せっかくの経験値を高められないのであまりおすすめできません。若手でも優秀な人にはどんどん任せるという社風があってこそ、どこでも生きていけるような人材に成長していけると思いますよ。

ファーストキャリアの選択は、将来に大きく影響するものです。最初に踏み外したら終わりというわけではありませんが、Aの道を選んだらもうCには進めないなど、ある程度キャリアの方向性が決まってしまうもの。だからこそ、実際にインターンをしたり会社の人に話を聞いたりして、リアルな情報を集めてから、慎重に決めていくのをおすすめします。

まずは自身の人生に向き合ってゴール設定をして、それを叶えていくために戦略的にキャリアを練ってみてくださいね。

松浦さんが贈るキャリアの指針

取材・執筆:志摩若奈

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