入社半年で役員に就任|就活から逃げていた学生が切り開いたキャリアとは
FPサテライト 取締役 坪谷 亮さん
Tasuku Tsuboya・大学在学中にファイナンシャルプランナーに興味を持ち、資格取得。2022年大学卒業後、FPサテライトに入社。独立系のファイナンシャルプランナーとして在籍しながら、2022年10月より現職
企業詳細:コーポレートサイト
「就活から逃げたい」から始まった自分探し
私は2022年に大学を卒業し、FPサテライトに入社したばかり。読者の皆さんと近しい年代だと思います。だから就職活動もつい昨日のようで、そのとき考えていたことや経緯も良く覚えています。
とにかく普通の大学生だった私は、就職活動から逃げていました。周りがインターンなどを検討し出す頃にも、動くことができずにいました。ただなんとなく、将来に対して「週5日我慢しながら働く日々を、40年以上続けるのは嫌だ」と考えていましたね。
できるなら楽しみながら、納得した仕事を続けていきたい。でも、能力も経験もない自分に何ができるのか、さっぱりわからなかったんです。そこでアルバイト先の先輩が勧めてきたのが、ファイナンシャルプランナー(FP)の資格取得でした。
資格取得のために勉強をしてみたら、何かやりたいことや、新しい世界が見えるかもしれないと思い、取得を決意しました。就活していない言い訳にもなると思ったんです(笑)。
そうして勉強の甲斐もあり、大学3年次にFP資格を取得。簿記やTOEICなども片っ端から取得しましたが、経済・金融の仕組みは面白く、これを仕事にできたらと考えるようになりました。
金融の分野の中でも、FPは‟目の前の相手を幸せにできる”というわかりやすさが魅力だと思います。教えるという行為も好きだったので、資格取得後はFPとして働きたい気持ちが強まりました。
やりたいことがない、興味のあることもない、働きたくないという気持ちは、学生にとって自然なものだと思います。そんな時こそ自分の気持ちに正直になって、嫌なことはせず何かできそうなことや、他人のアドバイスにフットワーク軽く乗っかってみてはどうでしょうか。まずできそうな一歩を踏み出してみることで、世界がどんどん変わっていきます。
独立? 新卒入社? 理想の働き方を追求した
FPとして働きたいと考えて調べていくと、保険会社などに所属する場合と独立して働く場合があると知りました。自分がFPになりたいのは、人を幸せにしたいから。お客様にさまざまなご提案をするうえで、問題の解決方法が金融商品のみになることは本意ではありませんでした。
しがらみの少ない環境でベストの提案をするには、独立系が良いと考えましたが、新卒のFPが独立して働ける場所はなく、なんの経験もないまま自ら開業するべきか、と悩んでいたんです。
そんな中、たまたまインターネットで独立系のFPを束ねる当社を見つけ、「話を聞かせてもらえないか」と連絡をしたんです。新卒採用はしていなかったので、ダメで元々の精神でしたが、話を聞く機会をもらえることに。
話をしてくれた代表は、大学を卒業してすぐ独立開業しており、その経歴や企業理念は大いに共感できるものでした。代表との話し合いを通じて、なんと新卒ながらFPとして入社が叶いました。
経験も人脈もない中で起業するのは、並大抵のことではありません。起業できたとして、社会に与えるインパクトも知れています。だから新卒では、‟どこかの会社に入る”のが無難なのではないでしょうか。小さな自分でも会社という力を借りて、自分の力以上のことができるからです。
一方で独立したい、起業したいという気持ちがあるのなら、チャンスは常に伺うべきです。環境に流されず、自分の志を貫くのは、かなり大変です。自分の理想を捨てず、それを叶えられる環境をさぐる努力は働き続ける限り、続くのでしょう。
自分はやりたいと思ったことを仕事にしましたが、誰もがうまくいくわけではないと考える人も多いでしょう。「好きだけでは生活できない」と周りから言われることもあると思います。私も父母が士業関連の仕事をしており、独立系FPでは食べていくのは難しいと忠告されました。
しかし私はそう言われると逆に熱くなる性分でした。独立したFPでは自活できないのなら、その業界を丸ごと変えようと思いました。
中立な立場でアドバイスできるFPが評価され、普及し、よりしっかりと糧を得ることができる業界を作りたい。自分の長いキャリアをかけて、次の世代に向けて、変えていこうと考えたのです。好きなこと、やりたいことで生きていけないと言われたら、生きていけるような環境づくりをしていけば良いのです。もちろん簡単なことではないと覚悟しています。
そもそも好きな仕事とは何か、という問題もあります。多くの人が憧れの職業があったり、自己分析をするうちに目指す業界ができたりするでしょう。そのとき、「好き・憧れ」という気持ちの根っこに何があるのかを考えてみると良いと思います。
たとえば野球選手になりたいのは、なぜか。稼げるから? 有名になれるから? 体を動かすのが好きだから? 実力主義だから? 自分の本当の願いさえ見極めれば、野球選手以外の選択肢も見えるはずです。お金を稼げる仕事、有名になれる仕事、体を動かす仕事、実力主義の仕事は、他にもあるからです。
自分がやりたいことの本質を突き詰め、それにあった職業、環境、働き方を徹底して探し続けてほしいと思います。
入社半年で役員に! 立場が人を作ると学んだ
入社時点で代表とは意気投合し、ぜひ1年後には経営サイドに加わってほしいと打診されました。経営どころか、ただの大学生で社会人にすらなっていなかったのでびっくりしましたが、とりあえずできるところまで頑張ろうと入社。
結局、約束より早い入社半年後に取締役に就任しました。経営陣は若者の考えや行動力を取り入れたいと考えて私に白羽の矢を立てたようです。役員の出入りもあり、予定より就任が早まったのでした。
最初のうちは、自分がでしゃばると邪魔になったり、間違ったことをしてしまったりするのではないかと、何もしないでいました。しかし少しずつ会社の状況がわかってくると、自分が何もしないと会社はより悪い方向に行くと確信できたんです。
動かないわけにはいかない、人に頼ってばかりはいられないというか……。役員になったことで初めて生まれた当事者意識でした。
まさか自分が入社半年で、会社の役員になるとは、今でも信じられません。経営や起業に興味があったわけでもなく、リーダーシップも特別な実績もない、普通の大学生だったわけですから。
それでも、役割や地位を与えられたことで、より高い視座から考え動くことができるようになりました。自分から先輩に意見するようにもなりました。反対されても信念と責任があれば、会社にとって良いことを進めていこうという、覚悟が決まったと思います。
立場や状況が人を作ります。だから与えられたチャンスは、トライすべきです。自分はまだ力不足だと感じても、まずはできるところまでチャレンジしてみましょう。いつの間にか、その役割に応じた自分へと成長していることに気づくでしょう。
若くても信頼は獲得できる! 他者の価値観を受け止めることが大切
当社は主に個人事業主の独立したFPを束ね、業務委託で仕事を回しています。所属するFPは全員女性。住む場所も年代もバックグラウンドも、さまざまです。若すぎる自分が経営側として認めてもらうには、どうすれば良いのかわかりませんでした。
わからなかったので、とりあえず彼女らの話に耳を傾けてみたんです。アイドルの話、家族の話、人生の話―。自分とは全く違う価値観を全力で受け止めると、FPの皆さんは心を開いてくれました。そして徐々に信頼を得ていると感じることができたんです。
自分より人生経験があり、異なる趣味や生活がある異性なので、共感はしづらいこともあります。でも否定せず、わかったふりもせず、まっすぐ受け止めて、真摯に耳を傾けることが、最初の一歩になりました。
クライアントを豊かにすることが目標だとしたら、まずはFP自身が豊かになることが重要だと思います。だからFPの皆さんにしっかりと仕事をお任せできるように、まっすぐ向き合ってきました。
そのためにも言葉を大切にし、自分のビジョンを伝えるよう意識しました。経験がなくても、若くても、周りから信頼を得ることは可能です。まずは相手をしっかり受け止め、それから自分の熱意を伝える。これが基本だと思います。
もとめられるのは「考え抜く当事者」
どんな時代、どんな業種でも、よく考える人が強いと実感しています。わからない、できないという人は、もう少しだけ考えたら解決の糸口をつかめることも多いと感じています。わかるまで、納得するまで考え抜く姿勢は、成功のために必須なのではないでしょうか。
しかし、考えるだけでは物事が進みません。みんなが批評家・分析者では、ビジネスは成り立ちません。主体的な行動があってこそ、物事は進んでいきます。
考えに考えた結果を形にすることも大切です。その時必要なのが、当事者意識。誰かがやること、会社がやること、先輩や上司がやることだと思わず、自分がやるべきことだと認識して取り組むと、手応えが変わってきますよ。
私も役員になってから強い当事者意識が生まれました。なんせ役員報酬を自分で決めるので、嫌でも会社の経営状況と自分の価値を考えなければなりません。会社の中で自分はどの程度貢献できているのか、できていなければもっと動こうという良いモチベーションが生まれます。
新入社員であっても同じです。当事者として考え、当事者として動く。会社にとって社員はお客さんではありませんし、どんなポジションでも期待される役割があります。自分ごとで動ける人は、どこでも必要とされるでしょう。
私は一人でも多くの人を豊かにしたいと思っています。その思いがスタッフに伝わり、クライアントを豊かにし、そのクライアントが別の誰かを豊かにすることができたら、社会は少しずつ変わるはずです。幸せが繋がって世界が回っていく、その一端になりたいと思いながら、努力を続けていきます。
取材・執筆:鈴木満優子