細かなステップを踏むことで成功への道が開かれる|できないこと・わからないことに挑戦して「質の成長」を目指そう
CFPコンサルティング 代表取締役 坂牧 毅さん
Tsuyoshi Sakamaki・2002年、早稲田大学卒業後、フェラガモジャパンに入社。 販売・営業を経て、外資系Webマーケティング会社に入社。広告運用・営業として売上を伸ばす。2010年5月に独立し、CFPコンサルティングを設立。 運用型広告を中心とした企業のデジタルマーケティングを支援し、多くの企業の売上拡大に貢献
一般的なルートから外れた就活時代。どんな経験も思わぬきっかけになる
私が大学を卒業したのは、2002年の就職氷河期真っ只中のことでした。しかもあろうことか卒業単位を取りこぼして秋卒業になってしまったので、当然すんなりと就職できずにいました。しかし、そんな私の状況を知って声をかけてくれた人がいました。それがファーストキャリアとなる、フェラガモジャパンの部長でした。
私は学生時代、イベント会社でアルバイトをしており、アルバイトながらお客様の担当窓口をしていました。そのお客様の1人が彼でした。
100人を超えるスタッフをまとめながらイベントを作り上げる私を見て、努力を評価してくれたのでしょうか。働きを認めてもらえて、正社員という形で活躍の場を与えてもらえたことは本当にうれしかったですね。
アルバイトを始めたときは、それが将来のキャリアの入口になるとは思ってもいませんでした。しかし、真摯にお客様に向き合い、学生なりに全力を尽くしていた姿を見てくれた人がいたことは、幸せなことだと思います。このように、そのときは思ってもみなかった形で経験が評価されたり、活かされたりすることがあります。どんなチャレンジも体験も、臆せず踏み出してほしいですね。
自分の思いを叶えるためにもステップを踏もう
1社目では営業として経験を重ねていきました。成績も良かったので順調にキャリアアップしていったのですが、見える世界が広がってくると、やりたいことやビジョンも大きくなっていきます。
「もっと改善したい」「やり方を変えたい」「さらにできることがある」という場面が増えたので、都度意見を口にしてみるのですが、残念ながら周囲は一向に変わりませんでした。
そんな時、上司から「もっと高いステージに立って、良い方へ変えれば良い」とアドバイスをもらったのです。その言葉から、意見を通すために日本法人の中で昇進を続け、ようやくイタリアの本社と話せるような立場にまでなることができました。
このように何か成し遂げたいことがあるなら、ステップを踏む必要があると思います。特に交渉や挑戦を支えてくれる実績や地位が重要です。結果を出したことが、その先へ進む力になるのです。
しかし、このときは結局私の意見は通らず、もっと大きな部分で組織や構造の問題を感じて次のキャリアを選ぶことになったのですが、何かを成し遂げるには段階があるということを知る良い経験になりました。1社目での経験が、キャリアの切り拓き方を教えてくれたように感じます。
人との縁に導かれて新たなキャリアへ
転職先に選んだのは、ITベンチャー。決め手になったのは、営業販売時代の顧客にITベンチャーの経営者が少なからずいて印象に残っていたことでした。
というのも、ラグジュアリーブランドの顧客はそれなりの年齢層の方が多いのですが、若くしてたくさん購入してくださる方の多くがIT業界の人だったんですよ。IT業界なら若くても活躍できるのだと感じ、業界全体の活気のようなものも伝わってきましたね。
そこで急成長を続けるWeb広告の会社に身を置き、ここでも昇進を重ねることに成功しました。しかし、いつからかトップの経営陣と意見を違えることも多くなっていって。今思えば、自分が会社を成長させたという自負が慢心にもつながったのでしょう。結局ここでも、会社のトップと袂を分かつことになりました。
なんのアテもなく会社を飛び出した後は、無為に過ごす日々。そんな日々を支えてくれたのは、たくさんの知人・友人たちでした。前職で大きな事業を牽引していたのでWeb業界に知り合いが多く、当時暇だった私をいろいろなところに誘ってくれました。
しかし誘われた場で無職だということを言いにくくて、「起業準備中です」とごまかしていたんですよ(笑)。
でも不思議なもので、起業準備中だと言ううちに、本当にその気になってきたんですよね(笑)。しかも「やってみたら? 」とアドバイスをくれて応援してくれる人さえ出てきました。
そこで、なんとなく自分の会社をスタートさせました。思い返せば大学時代、友人と一緒にベンチャーイベントに参加したこともあり、いつかは起業しようとおぼろげに考えたこともあります。それでも、仲間に後押しされるような形で、こんな風に起業することになるのは正直意外でした。
人との縁は本当に大切です。どんな場所に身を置き、どんな人と付き合うかで、人生が変わってしまうことさえあります。その素敵なご縁を信じて、前向きに人間関係を構築していきたいですね。
解決後を具体的にイメージすることで最大のピンチも乗り越えられた
成り行きでスタートした会社だったので、実は最初のうちはいつ止めようかといつも及び腰でした。社員が増えるたびに不安だったし、どこまで続けていけるのか、常に逃げ道を探しているような気持ちもありました。
しかし、代理店を挟んだビジネスを4年ほど続けていくと、お客様から新しい会社を紹介してもらえることも増え、名指しでお仕事をいただけるありがたさと責任感が大きくなっていったのです。
加えてその頃、某大手広告媒体社の代理店として表彰されたこともあり、「引き返せないな」とようやく覚悟が決まったのを覚えています。いつかやめるかもしれないという気持ちはすっかりなくなり、社員を率いて成長していくことに、モチベーションを持てるようになりました。
自分の覚悟が決まり、会社が軌道に乗ったのも束の間、次の苦難が襲いかかりました。それが新型コロナウィルス感染症の蔓延です。非常事態宣言が出され、ビジネスは大きく停滞し、多くの顧客が広告の出稿をやめてしまいました。
ちょうど直前に業績不調から立ち直ったところだったので、余計に辛かったですね。社員はリモートワークのため、一人で誰もいないオフィスに出勤し、次々と打ち切られていく案件をみていると、暗澹たる気持ちでした。ひどいときには、真面目に会社の解散も考えましたね。
しかしあるときから状況は少しずつ改善し、徐々に広告を再開してくれるお客様も増えて、業績も回復していきました。2021年からは新分野への進出も成功し、現在も好調を維持できています。
誰しもピンチに陥ることがあると思います。そこから抜け出すには、まず課題解決後のイメージを、細かく具体的に思い描くことが大切です。そして現在の状況と比べて、何をどう変化するべきなのか、要素ごとに分解して考えてみてください。現在の状況と、成功後の状況の違いを一歩一歩埋めていけば、思い望んだ成果にたどり着けるはずですよ。
分析も実行も、細かければ細かいほど良いと思います。精緻な分析は、さまざまな作業や展開の精度を上げることにつながります。私はよく、「几帳面」だとか「細かい」とからかわれることもあるのですが、几帳面って本当は良いことなんです。
1つの仕事を3つに分けるよりも30に分けて考えられる人の方が、再現性も高まりますし、作業の自動化なども進めやすくなります。「細かい人」と言われることを嫌がらず、どんどん言われるような人を目指してみてくださいね。
わからないこと・できないことをやって、質の成長を目指そう
近年の技術の発展は凄まじいものがありますよね。ちょっと前に当たり前だったことが、どんどん進化して時代遅れになっていく。触れたことのない新しい技術がどんどん出てくる。
そんな時代だからこそ、これまでと同じように仕事をしていたら、乗り遅れてしまいます。できなかったことをできるようにする、わからなかったことがわかるようになることこそが、仕事の意義になっていくと思うんです。同じことを繰り返しても、もはや価値を生み出しません。
ベンチャー企業は、営業出身の社長が多くて、成長とはすなわち量の成長だと考える人が多いように感じます。自分も営業出身ではありますが、意見が異なります。
本当の成長は「質の成長」だと思います。これまでにないような商品・サービス・事業を提供し、社会のさまざまな価値を転換することこそが、ビジネスにおける成長です。
だからこれから社会に出る皆さんにも、わからない・できない・やったことがないことに積極的に取り組んでほしいですね。学生時代にできることで言えば、留学なんて良いと思いますよ。身一つで全く違う世界に入ると、最初はできないことばかりです。
できないことに挑戦せざるを得ない経験を積めば、自然に挑戦の経験やマインドが培われるのではないでしょうか。新しい挑戦が、その後の社会人としての仕事にも成長をもたらしてくれるはずですよ。
取材・執筆:鈴木満優子