人気のない業界で人気企業に入る! 自分の存在感を発揮できる企業を見つけよう

日本建築塗装職人の会 会長顧問 / アサヒリフォーム 代表取締役 会長 青木 忠史さん

日本建築塗装職人の会 会長顧問 / アサヒリフォーム 代表取締役 会長 青木 忠史さん

Tadashi Aoki・警察官など数多くの仕事を経験後、父親が経営する塗装工事店・アサヒリフォームへ入社。同社の立て直しや社員の意識改革を通じて、建築業界に特化した独自の経営コンサルティングのノウハウを蓄積し、2006年1月に日本建築塗装職人の会を設立。代表取締役社長を務めたのち2020年に現職。現在は建築業界のコンサルタント育成に力を注いでいる

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キャリアに悩むのは良いこと。「どういう生き方がしたいか」をとことん考え抜こう

人生で初めて「自分はどう生きていくか」を考えたのは、警察官になろうと決め、そこから2年間で退職した20歳の頃です。ここがキャリアにおける最初のターニングポイントでした。

母子家庭で育ち、社会正義感も強い性格だったこともあり、警察官という仕事に適性と希望を見出して就職をしました。しかし事件が起こるまで行動ができない立場であるとわかり、歯痒さを感じる場面も多かったです。そのような経緯から公務員というスタンスも自分の性分に合わないと感じるようになり、「社会の闇を整理する仕事ではなく、光を広げる仕事をしよう」と決意。民間企業に移ることを決めました。

その後はひたすら「自分らしい仕事」「やりがいを感じられる仕事」を探し続けましたね。上場企業から中小企業まで業種・業界もこだわらず、さまざまな世界に飛び込み、実に40回もの転職を繰り返しましたが、確固たるものは見つかりませんでした。

さすがに疲れたなと感じていた頃、塗装屋を営んでいた父から突然「うちの店に来てくれないか」と連絡をもらいました。父とは幼い頃に離れて以来、連絡を取っていませんでしたし、まったく頭にはなかった選択肢です。

しかしこの誘いをもらって初めて、仕事の意味を履き違えていたことに気づかされました。それまではずっと「自分が興味を持てる、働きたいと思える仕事」という視点で探していましたが、初めて「自分と必要としてくれる人や会社があるなら、そこで働こう」と思うことができたのです。当時29歳でしたが、非常に大きな心境の変化でした。

いざ入社してみると、父の会社には負債があることが判明。3日間くらいは「選択を間違えたかもしれない」と後悔しました(笑)。 しかし、次第に「逆にこれ以上、自分を必要としてくれる会社はないかもしれない」と思い始め、この状況を受け入れて会社をなんとかしよう、と気持ちを固めることができました。この決意をしたことは、2つ目のターニングポイントと言えるかと思います。

青木さんのキャリアにおけるターニングポイント

自分がやりたいかやりたくないかではなく、お客様がもとめるものを提供することが商売であり、「お客様が困っていることを提供する」のがあらゆる仕事の基本スタンス。この視点を持てる人かどうかは、採用面接でもよく見ています。

もし就職活動がうまくいっていない人がいたら、この視点を意識するだけで、状況をガラッと変えられるかもしれません。

上記と合わせて重視している要素は、「進路についてちゃんと迷って、悩んでいるか」という点です。

迷いや悩みは、たくさん考えるからこそ生じてくるもの。「自分のキャリアにあまり関心がないから悩まない」という人に比べれば、ちゃんと悩んでいる人のほうが将来有望だと思いますね。 悩むことは少しも悪いことではない、と理解しておいてほしいですし、私はむしろ悩んでいる人が大好きです(笑)。

なぜなら迷いや悩みが明るく晴れたとき、その経験は当社が育てているコンサルタントという仕事で大いに活かすことができるからです。

若いうちにしっかりキャリアについて悩んでおけば、後々もラクになるはず。40〜50代になってから悩み始めると、体力も気力も落ちているので大変だと思います。「自分がどういう生き方がしたいか? 」については、体力も元気もある学生時代のうちにとことん考えてみることをおすすめします。

青木さんからのメッセージ

高い壁を乗り越えられた自信から「将来を賭けたい目標」が見つかった

父の会社に入ってからは、とにかく必死で働く日々が始まりました。現場仕事から営業まであらゆる業務を担いましたが、腕1本で世の中を渡っている職人さんたちは、社長の息子だからといって無条件では認めてくれません。努力や成果を示すことで、少しずつ理解を得ていきました。

3年間は文字通り1日の休みもなく働きましたし、食費以外の収入はすべて負債の返済に充て、皆で鼓舞しあって頑張りました。 キャリアのなかでも一番大きな壁が立ちはだかった時期と言えますが、「1日でも早く返済しよう」と、一緒に頑張れる家族がいたからこそ乗り越えられたと感じています

そうして何十年もかかるかもしれなかった負債をたった3年間で全額返済。その事実が自分なりに大きな自信となりました。後日談だから言えることですが、「1〜2億の負債があったら、もっと自分の器を大きくできたかも? 」なんて思うこともあるほどです(笑)。

経営も塗装業も何ひとつ知らないところからのスタートでしたが、その分、まっさらな状態から会社経営について考えることができました。わからないなりに「原理原則に基づいた経営をしよう」というスタンスになれたことは、今につながる仕事の入り口に立った瞬間だったかと思います。

多額の負債があった状態から健全経営の会社にすることができ、次第に業界全体の課題も見えてきました。職人を育成するためには健全経営の会社であることが必須なのに、それができないから人が育たず、後継者不足が慢性化してしまっている。

この課題を解決することが、私の人生をかけてやるべき仕事だと思い立ち、「業界で唯一、これをやりきれる人間になろう。仲間を集めてやっていこう」と決意したことが、キャリアにおける3つ目のターニングポイントです。

人生目標が見つかれば、ブレない生き方ができる。自分の気持ちに正直に行動してみよう

建築業界に飛び込んでからの10年間は、自社や他社のノウハウを蓄積する時期だったかと思います。10年目以降はそれを形にして提供するフェーズが始まり、累計700社を超える会社に経営コンサルティングを提供。その姿勢が認められ、2012年度には社会文化功労賞などもいただきました。

そして現在は、建設業界に特化したコンサルタントを育てることに力を注いでいます。大手のゼネコンや元請けの「工務店」ではなく、実際の工事を請け負っている「工事店」の大工や監督さんの力になりたい、という思いが非常に強いです。

業界の将来を考えても、職人や技術者の人材育成は急務なのですが、元請け企業は「どこか下請けに投げればいい」という立場なので、人材育成の観点を持っていないところが大半です。だからこそ「うちが育てる」という志を持って動いています。

ひとつ目標を達成できても、また次の目標が出てきて、その都度、迷いも不安も生じますが、その一つひとつの目標や壁を、人生を通して解決していこうと決心しています。

日本も世界も建設業界のノウハウは同じだと思っているので、国内に限らず、広く「建築業界の進歩・発展・大調和」を推進していくことが自分のキャリアにおける使命だと考えています。

「人生を通してこれをやっていこう」というものを見つけたら、後はそれをやり通すことのみ! という、ブレない生き方をすることができます。その点で、これから社会に出る人にも、自分だけの人生目標を探してみることをおすすめしたいです

就職や転職の目標を立てるとき、「こういうことができるようになりたい」といったスキルの目標から入る人は少なくないと思いますが、「人生目標」が決まりさえすれば、スキルはそれに応じて身に付けていけばいいので、スキルを考えるのは後回しで良い気がします。

人生目標を見つけるためには、「自分に正直に生きること」も重要かもしれません。私も長らく自分の道を探し続けていましたが、気持ちに正直に40回も転職をしたからこそ、今の場所にたどり着けたのではないかと思えています。41回目はもうない、と確信できています。

青木さんからのメッセージ

人気のない業界で「人気企業」を探してみよう!

日本建築塗装職人の会 会長顧問 / アサヒリフォーム 代表取締役 会長 青木 忠史さん

多くの企業を見てきたコンサルタントとして、‟就職先としての良い会社”を見極めるポイントを3つ紹介します。

1つ目は、創業者の強みで事業やサービスをやっているかどうか。「売上の追求が事業の目的になっていない会社」とも言えるかと思います。

「これだったら儲かるよね」という理由で事業に取り組んでいる会社は、すべからく売上至上主義になり、お金以外に仕事の楽しみややりがいを見出すことが難しいです。

一方、技術やサービスに何らかの強みがある会社であれば、長くやりがいを持って働いていけると思います。そうした会社には、「目に見えないユーザーのニーズまでかなえていこう」という積極的な姿勢があります。どんなに成長しても、コールセンターやお客様窓口を運営してユーザーの声を熱心に聞いているような会社には、優良企業が多いと感じます。

2つ目は、事業内容に必要な人材育成に注力している会社かどうか。建設業界で言えば、営業マンだけでなく、現場で活躍できる職人や監督を育てているか、といったことになるかと思います。そうした会社は、しっかり未来を見て経営をしている可能性が高いです。

3つ目は少し専門的な話ですが、純資産が年商の50%以上を占めていて、流動資産比率が高い会社です。会社の業績レポートや貸借対照表を読み込まないとわからない部分ですが、コロナ禍や不況になっても潰れない会社の共通点と見ています。「潰れない会社に入りたい」という思いが強い方は、この要素も調べてみるといいかと思います。

また、企業を比較検討するうえでは、「逆張り」の観点も持っておくことをおすすめしたいです。日本人はどうしても「右にならえ」の姿勢になりやすく、皆が行きたがる人気業界の企業を選ぶ人は今でも少なくありません。しかし競争の激しいところで勝負すれば、自ずと負ける確率が高くなります。

そこでおすすめしたいのが、「人気のない業界で人気の企業に入る」という方法です。若い人があまり選ばない業界ほど若手を大事にしてくれますし、そのなかで一番良い会社を選べば、自分の存在感を発揮しながら活躍していけると思います。

不人気の理由も単なるイメージで、実情と離れていることも少なくないので、ぜひ先入観にとらわれず、いろいろな業界を見てみてください。

青木さんが「逆張りの視点」を薦める理由

今の時代はSNSやCMなどで発信力の強い会社がどうしても目立ちますが、あまり知られていなくても、日本には真面目で良いモノづくりの会社がたくさんあります。自著『奇跡の成長を呼ぶのび太くん採用』でも紹介しましたが、そうした会社ほど、素直で真面目な学生と相性が良いと思います。

尖った個性や華々しい経歴をアピールしなければ受からないような企業ばかりを狙うのではなく、ぜひ「地味だけどおもしろい、良い企業」を探してみてください。

自分は平凡だと思っている人は採用面接で無理をしがちですが、そんな自分を恥じる必要も、背伸びをする必要も一切ありません。結婚と同じで、ありのままの自分で臨んで「この会社となら長く一緒にやっていける」と思えるところを見つけるのが就職活動だ、と考えてみてください。

そうした会社を見つけるには、中小企業が集っている合同説明会に出かけてみるのがおすすめです。私にコンタクトを取っていただければ、いくらでも具体的に紹介します。

中小企業の場合、創業者のカラーが会社の雰囲気を作っているので、おもしろいなと思える企業に出会えたら、創業者の理念や生い立ちについても調べてみると良いと思います。その人がやってきた仕事を自分もやりたいと思えたり、理念に共感できたりするならば、その会社がマッチする可能性大。

人事担当者やひとりの先輩社員の印象で「この会社とは合わない」と結論づけるのはもったいないですが、創業者や社長との相性は影響が大きいので、必ず見ておくことをおすすめします。

不安な世の中でも将来に絶望する必要はない。悪いことも良いことも受け入れていこう

私が初めて働く楽しさを知ったのは、12歳の頃。母子家庭で新聞配達のアルバイトをしていたので、社会に出るのは周りの人よりかなり早かったと思います。

子どもだったので、素直に大人の言うことを聞いて仕事を覚えることができ、一緒に働くおじさんの見よう見まねで新規営業などもやっていました。やらされているというより、むしろ「自分も営業をやっていいの!? 」くらいの前向きな感覚で、実際にとてもおもしろかったです。

大人になると、とかく綺麗にお金をもらおうとしがちですし、給料のためとしか思えなくなり、嫌々働くスタンスになってしまうことも少なくありません。そうならないためにも、まっさらな状態で社会を見られる若いうちに、どんな仕事でもガンガンやってみるといいと思います。年齢を重ねるほど人の指示を素直に聞けなくなるので、若い頃のほうがチャレンジしやすいと思います。

私もいろいろな職業にチャレンジしてきましたが、ファーストキャリアに警察官を選んだことにも、なんだかんだ縁を感じています。塗装工事も「地域の皆さんの家の安心を守る」という点では近しい価値観がありますし、当社のシンボルマークは、偶然ですがパトカーと同じ配色です。無意識にインスパイアされている部分があるのかなと思います(笑)。

最後に、これから社会に出る人には「世の中には悪いこともあるけど、良いこともそれ以上にたくさんあるよ」というメッセージを贈りたいです。

近年、悲観論者が増えている気がしますが、歴史を振り返れば、人類はあらゆる大変な状況を乗り越えてきて、現在があるわけです。全人類の何割かしか生き残れないような未曾有の危機も何度かあったはず。それでも私たちは生き残った人類の末裔なわけで、これからの危機も何とかしていける、と信じています。

光と闇は両極にあるもので、闇を消せば、光も消えてしまうもの。闇ばかりを見て将来に絶望することなく、光(良いこと)も闇(悪いこと)も両方を受け入れていこう、というスタンスでいてほしいですね

思うようなキャリアを歩めなくても、素直に前向きに必死に取り組んでいれば、自分から探そうとしなくても、その頑張りを見て引っ張り上げてくれる人が必ず出てきます。世の中そんなに悪いものじゃないよ、ということは、人生の先輩として一番お伝えしたいことです。

青木さんが贈るキャリアの指針

取材・執筆:外山ゆひら

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