経験の分だけ社会に貢献できる|「この理念が好きだ」と思える企業選びを
クリーク・アンド・リバー社 代表取締役社長 黒崎 淳さん
Jun Kurosaki・上智大学経済学部卒業後、新卒で金融機関に入社。支店営業を経て本社へ異動し、企業再生や事業再生などに従事。2005年にクリーク・アンド・リバー社に転職し、取締役に就任後、2023年5月より現職
順調だったキャリアの矢先、取引先の倒産を目の当たりに。経験を糧に企業再生や組織拡大に貢献
私は起業に対して、漠然とした憧れを持っていた学生でした。
大学生の頃、世の中ではベンチャー企業の存在が目立っていて、「ベンチャー企業が世の中に新たな価値を提供している」と話題になることが多かったんです。その影響もあり、起業家の手伝いをするアルバイトをはじめて仕事の様子を間近で見ているうちに、いつの間にか自分もいずれは起業したいという気持ちが湧いてきました。
ただ、なかなかアイデアが固まりきらなかったので、まずはいろいろな企業や事業を学べる仕事をしようと金融機関に入社することを決意。入社後は支店営業を担当し、金融や企業に関して勉強をしてどんどん取引先を開拓し、営業成績を伸ばすことができました。
そんな中で、衝撃的な出来事が起こります。一生懸命向き合い、売上増加のために伴走していたある企業が倒産してしまったのです。順調に売上を伸ばしていると思っていましたが、決算書が粉飾されているなど内情は違ったようで大きなショックを受けました。
どれだけ景気が良くても会社が倒産することはありますし、ほかの支店の取引先が倒産したという話を聞くこともありました。その可能性があることは分かっていたつもりでしたが、実際に自分の取引先がそうなるとは思ってもみなくて。ドラマの世界のようなことが目の前で起きてしまい呆然としました。
改めて企業や経営を甘くみてはいけないと身が引き締まり、企業のことをよく知って判断する難しさや厳しさを痛感しましたね。それ以来、あらゆる角度から企業を知り、今まで以上に確かな情報を得るようにしています。そのときの経験があったからこそ、支店から本部へ異動して企業再生や事業再生に携わることになったあとも、単なる机上の計画ではなく、実現性を常に意識していました。
その後、大きなプロジェクトが一段落したときに、自分のキャリアを振り返る機会がありました。「そもそもどんなことがしたくて、この世界に入ってきたんだっけ」。そう考えたとき、「やっぱり自分で事業をやりたい」という根底にある気持ちを思い出しました。
企業再生や事業再生の仕事をする中で、重要な役割を果たしているという自覚はありましたし、とても大きなやりがいを感じていましたが、最後の最後に実行していくのは企業の方たち。その実行まで、自分で責任を持ってやってみたいと再認識しました。会社には何の不満もなく、いろいろな経験をさせてもらって感謝しかありませんでしたが、チャレンジするなら今だと思い、起業を視野に行動に移していくことにしました。
まずは事業のアイデアを絞り込み、企画書を作り、当時ご縁のあったいろいろな企業の社長に会いに行って自分のプランを見てもらいました。あわよくば出資や投資もしてもらえたらという気持ちもありましたが、もちろんそんなに甘くはなくて(笑)。でもありがたいことに、「こんな人に会ってみたら」と、社長が他の社長を紹介してくれることが多かったのです。そのうちの1人が、クリーク・アンド・リバー社(以下C&R社)の創業者であり社長の井川でした。
事業プランの話を聞いてもらいながらも、井川は会社の事業や理念、ビジョンについて熱く話してくれました。「今は理念をもとにこんな事業をやっている」「この理念を軸にして将来は領域をどんどん広げていきたい」といった話を聞くうちに面白そうだなと思ったんですよね。最後には「最初から起業するのはリスクがあるから、まずは3年くらい一緒に事業をやっていかないか? 」と言ってくれたのです。
井川のイメージしていた事業展開というのは、どんどん表面的に事業を広げていくのではなく、一つひとつの専門領域をしっかり深めながら広げていくというものでした。それは自分が起業した場合に、やってみたかった経営の形でもあり、理念や事業、ビジョンに共感するところも多く、井川と共に頑張っていこうと思い転職を決意しました。
起業志望から事業会社へ入社。「実現したいこと」の方法論は一つではない
入社後は、C&Rグループの拡大に尽力してきました。最初は3年くらいしたら起業するつもりでしたが、いつの間にか20年近く経っていますね(笑)。というのも、当社で事業立ち上げやグループ会社の代表取締役を務めてみると、社内のリソースを活用しながら理念を形にしていく面白さや、社会に与えるインパクトの大きさを実感したのです。
起業したかった理由は「世の中に対して新しい価値を提供すること」でしたが、これを今、組織の一員として実現できていると感じています。自分でやるのか、組織でやるのかという方法論が違うだけで、ゴールは同じだったんですよね。さらに、ここまでダイナミックな活動や影響は自分1人では到底叶えられなかったことなので、形を変えて自分がやりたかったことを実現できていると思っています。
また、当社はあらゆる産業にネットワークを持ち、各プロフェッショナルと企業とをつないでいます。プロの方には最大限に能力を発揮してもらえるように、企業には課題解決に貢献すべく取り組んできました。今ではかかわる人や企業がどんどん増えていき、人から人へ、そして企業から企業へ、ご縁が広がっていくのがやりがいになっています。
最近特に喜びを感じたのは、会計分野に特化したグループ会社の代表から後継者の相談を受け、やる気のある若手をつなぐような役割を担ったこと。こういった事業承継は業界全体の課題でもあるので、目の前の人の役に立つと同時に、少なからず業界の課題に貢献できていることが感慨深いですね。
「理念や事業に共感できる企業」=努力しやすく仕事を楽しみやすい
就活で大切なのは、「企業理念や事業に共感できるか」だと思います。仕事で本当に大切なのは、理念に基づいて「誰のために何をやるのか」を意識しながら働くことです。
最初は関係ないかもしれませんが、経験や知恵がついてくると、社内事情や理屈を優先したくなることも出てきます。企業理念や事業に強い関心や興味をもてる企業であれば、いつでも理念に立ち返りやすく、本質的な努力を重ねやすいと思います。特にファーストキャリアでは共感度を重視してみてください。
私が当社に入社したのも、理念や事業に共感したというのが大きな理由です。共感できる組織だからこそ、努力を重ねていきやすく、自身の存在意義や成長を感じて仕事を楽しめるだと思います。
これからの社会でもとめられるのは、受け身ではなく自分でしっかり考えて行動できる人です。今後さらに単純作業は機械やロボットに置き換えられ、人間が介在する仕事には付加価値がもとめられるので、自分で考えること、行動することが大切です。そのために心掛けたいマインドは、ポジティブ思考や前向きさ、情熱をもつこと。
理念や事業への共感度が高ければ、前向きに努力を重ねることができるはずです。その結果として成功体験を積むことができれば、仕事にやりがいを感じ自らモチベーションを高めることができると思います。
よくワークライフバランスという言葉を耳にしますが、これは単にプライベートを重視するという意味合いではなく、「仕事もプライベートも全力で楽しむ」ということ。すなわち高い領域でバランスを取るということが大事だと思っています。
仕事も遊びも本気でやる。若い頃からこれを意識していたためか、応援してくれる人や助けてくれる人、お客さんを紹介してくれる人……まわりの方々に恵まれてきました。前向きな人には前向きな人が寄ってくるので、仕事でもプライベートでも仲間が増えていき、好循環が生まれていくと思います。
最近では「逃げても良い」というメッセージがよくありますが、個人的には余程のことがない限りは向き合うことをおすすめします。なぜなら何かから逃げるようにストレス解消をしてその瞬間は忘れられたとしても、結局は真正面から向き合わないと根本的な解決にはならないからです。
ただ、それを1人で抱え込まないでください。先輩や上司はいろいろなことを経験しているので、特に若いうちはどんどん頼って、周りの力を借りながら乗り越えていきましょう。そうすることで自信がついて成長にもつながります。
私も今までたくさん失敗をしてきましたし、大変なことも多かったですが、その度に周りにも頼りながら前に進んできました。失敗や悩みも糧にしながら頑張ってほしいです。
取材・執筆:志摩若奈