決断は「天使のように大胆に、悪魔のように繊細に」 。企業選びは「誰と働くか」で考えよう
CRGホールディングス/キャスティングロード 代表取締役社長 古澤孝さん
Takashi Furusawa・1973年生まれ。高校卒業後に大手電機メーカーに入社するも間もなく退社。その後、CRGグループの前身となった警備保障サービスのジリオンにアルバイトで入社し、能力が認められ1995年に正式入社して営業を担当。1997年、同社の取締役に就任。人材派遣サービスなど新規事業開拓を進め、2013年キャスティングロード代表取締役社長に就任し、現職。2017年に商号変更した持ち株会社のCRGグループホールディングスの代表取締役社長も務める
小学生で大企業の社長になる夢を描く
小学生時代から大きな会社を率いる社長になる夢を思い描いていました。卒業文集にも「夢は大企業の社長」と書いた覚えがあります。しかも若い社長でなければ格好良くないと思っていたので30歳までに社長になろうと決めていました。
一貫してそんな目標は抱いていましたが、社会人になってからも、そこへ至るキャリアのプロセスはまったく考えておらず、「思い」だけで突き進んできました。
結果的にはアルバイトで入った会社で認められ社長に就任。「30歳まで」という目標には間に合いませんでしたが、その後、会社の上場も果たし「大企業の社長」という夢を実現しました。
しかし企業選びは深く考えていなかったのが正直なところです。最初の就職先は周りに勧められた富士通で、技術系の仕事に就きましたがすぐに「一流大学卒でなければここで社長にはなれない」と気付き会社を辞めました。
しばらくして日本一周を思い立ち、資金稼ぎのために始めたアルバイト先が当時、警備保障サービスを提供していたジリオンでした。この会社の社長で、現在は当社の会長を務める井上弘との出会いが私のターニングポイントでした。
尊敬する経営者や営業職との出会いがターニングポイントに
アルバイトを始めた当初は会社ができたばかりで仕事も少なく、これでは日本一周資金が貯まりそうにないため社長に退職を申し出ると「社員になって仕事を獲得する営業をやってほしい」と引き止められ、営業職に就くことになりました。
成り行きで始めた営業職でしたが、結果的にこの仕事に向いている自分を発見できたわけです。
営業するうえで必要な要素、つまり事業のポイントや営業ノウハウ、顧客の地域特性などを理解できるようになると、仕事がより面白くなり成果も上がりました。
大量のテレアポと飛び込み営業を続けくたくたでしたが、営業を始めて4カ月目には40件もの仕事を受注。当時としては驚異的な成績でした。
どんどん警備の仕事が増え、現場に回す人手が不足。こうなると営業して仕事を増やすだけでなく、組織を大きくする必要も生じます。
営業で仕事を獲得し、ブランドを広め、さらなる事業成長と組織拡大を図る。このサイクルの中に自分の目標を見つけ、目指すものが明確になり、やる気とエネルギーがいくらでも湧いてきました。
社長とは週に3日は飲みに行き、彼が語る将来の夢、事業のビジョンを知ることでますますモチベーションが向上。人生やビジネスに関しても多くを学ばせてもらいました。
当時の拠点は本社しかありませんでしたが、社長は日本地図を広げ全国に支店を作ると意気込み、自分も共感。根拠はありませんでしたが、絶対に実現できる、しなくてはならないと思いさらに仕事に集中しました。
会社の成長を自分事として楽しめた
自分も社長も新しいことに挑戦するのが大好きで、失敗例も含め多くの新規事業に取り組みました。警備の仕事だけでなく、工場や倉庫などへの人材派遣も手掛けブルーカラー(※)全般の人材派遣にビジネスを拡大しました。
当然、多忙を極めましたがまったく気にならず、それよりも仕事で結果が出て会社が大きくなっていくのが嬉しくて、毎日が楽しくて仕方ありませんでした。
この時期は、社長になる夢も忘れ出世やキャリアアップもまったく頭にはなく、ひたすら目の前の仕事に没頭しました。当時は警備保障サービスの提供を通じて人手不足を痛感しており、人材派遣ビジネスに可能性を感じたのは社長も同じ。
それで新たにブルーカラーの人材派遣ビジネスを立ち上げ、プロジェクトを任されました。その後も人材派遣ビジネスをブルーカラーからホワイトカラー(※)にも広げるなど、組織が大きくなり仲間も増えていくのが本当に楽しく感じられました。
現在はこれに使命感が加わっています。ホワイトカラーの人材派遣はコールセンターからスタートし、これに専門特化した部門を作り現在のキャスティングロードにつながっていくのですが、その段階で新たな夢を描きました。
それは、人の価値を高めキャリアアップを後押しすること。それまで作業系のフリーターとして働き定職に就くことを諦めていた人たちに、コールセンターの仕事をきかっけにキャリアアップしてもらい、最終的に正規の就職につなげたかったのです。
フリーターがあふれ次のビジョンやキャリア形成が見えない者も多い時代ですが、そこを変えたい。警備の仕事は、警察の認可を得ておこなっている事業にも関わらず、社会的には「しょせん棒振りだろ」と思われている側面もあります。
社会を支える仕事に就いている人たちが、キャリア形成の道筋から外れてしまっている状況を何とかしたい。それが自分の使命だと感じました。
※ブルーカラーとは、主として作業系や技能系の現場で働く者の総称。ホワイトカラーとは、主として事務的能力や専門知識を活かしてオフィスで働く者の総称。
決断は「天使のように大胆に、悪魔のように繊細に」
人生や仕事において大きな決断を下す際に必ず思い返してきたのは、現会長の井上からかつて聞いた「天使のように大胆に、悪魔のように繊細に」という言葉です。
決める時は決める勇気が必要だが、そこに至るまでに十分な情報収集をおこない細かく入念に調べ上げておくことが大切だという意味に受け取っています。
人が決断できない理由は、無知による決めつけや思い込みが邪魔したり、失敗への不安や情報量の少なさが原因で足を引っ張られるからだと思います。
最終的には直感で決めることも少なくありませんが、決断に至るまでには極力多くの情報を集め判断材料を増やし、人の意見やアドバイスも積極的に求めます。現在は社員や会長、同業者、異業種の経営者などにも進んで相談しています。
その上で失敗を恐れず大胆に決断する。失敗はむしろ自分を強くしてくれます。失敗は次に進む糧になり新たなビジネスにつながることも少なくありません。特に新しいことに取り組む際は思い切った決断をしなければ始まりません。
視点を変えれば壁を乗り越える方法が見つかる
壁にぶつかった時は、必ずしも正面から乗り越えなくてもいいというのが私の考えです。むしろ柔軟に視点を変えてみる。そうすれば巨大な壁のどこかに通り抜けられる穴が開いていると気付けたり、壁を迂回する道が発見できたりします。
悩み続けるうちに、本来の悩みが別のものとすり替わり、ねじ曲がっていることもあります。だから視点や思考方法を変え、もう一度悩みの原点を振り返ってみるだけで意外と簡単に壁を解消できるのです。
視点を変える、思考法を変えると言えば難しく感じるかもしれません。でも、たとえば異性の気を引こうとする場面を考えてみてください。
最初は正攻法で食事に誘う。断られる。次は笑いを取って気を引いてみる。相手が興味を持つ事柄を探して次々にぶつけて関心を引く。そんな風にして視点を変え、思考法を変えてチャレンジするはずです。それと同じです。
私は悩んだ時に悩み事を書き出し文字や図で記録しておきます。これを後から見返すと、その悩みがいかに小さく無意味なものだったかと気づくこともあります。
また解決した内容も記録しておくことを勧めます。人は同じようなポイントで躓きがちなので、記録を見返すことが課題克服につながることは多いです。
人に相談することも有効ですが、相談相手は選ぶこと。壁を乗り越えてきた経験がありポジティブに判断できる人を選ばないと、良きアドバイスを得られないからです。
古澤さんが実践する悩み解消法
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悩みごとは必ず文字や図で記録しておく
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時間をあけて記録を読み返して課題の本質を見る
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同種の悩みごとに直面したら記録を見返す
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同じ壁を乗り越えた経験がある人に相談する
企業選びの最重要ポイントは「人」
就職先の企業を選ぶ前に、自分はどうありたいのか、何をしたいのかを明確にしておくのはとても大事です。自分で見極めるだけでなく、自分の向き不向きについて家族や友人に聞いてもいいでしょう。
そのうえで企業選びにおいて留意すべき点は、企業で働く「人」だと思います。この人たちと働きたいと思える企業が一番です。誰と働くかによって自分の成長度合いも変わります。
興味を持った企業の経営者や社員と直接会えなくても手掛かりはあるはず。公開されているトップのメッセージや役職者のコメントなどを読むだけでも企業の色合いや雰囲気は想像できます。
ビジョンに共感できることも大切です。トップや幹部でなくとも、営業マンや人事担当者でもいい。社員には必ずその会社の環境や特色が反映されるものです。
人が職場を辞める理由で最も多いのが人間関係。だから誰と働くかはとても重要です。企業のブランドや給料額、福利厚生はもちろん良いに越したことはありません。ただそれ以上に大切なのは誰と働くか。そこだと思います。
働く意味は人それぞれでいい。目標達成が楽しい人もいるし、お金を稼ぎたいのも結構、好きな異性と同じ職場で働けることに喜びを感じる者もいるのかもしれない。
でも一番重視すべき点は、仕事の成果を正当に評価してくれる会社があって、成果を一緒になって祝ってくれる仲間がいることだと思います。
人を大切にできない企業は衰退します。結局のところ企業は人でできているからです。
会社の仲間同士がきちんとコミュニケーションを取り合い承認し合える環境のもとで、共に企業文化を育て、組織へのエンゲージメントを高めていく。そうあるべきです。
自分の中で人とのコミュニケーションは最重要な要素の一つです。かつて人との関係性で悩んでいたときに井上現会長に言われた言葉を今も胸に刻んでいます。
「お前なあ、人を信頼しなけりゃ信頼されないぞ」という言葉は目からうろこでした。ですから私は相手を信頼することをコミュニケーションの基本としています。
もう一つコミュニケーションについて言えば、自らアクションしなければコミュニケーションは始まらないということ。何もしなければ人は振り向いてくれません。
だから自分から進んで声をかける、挨拶をするように決めています。社長と社員、上司と部下でもそれは変わりません。
この人と働きたい、共感できると思える仲間に出会えれば、たとえ仕事が多少きつくても何とかなります。さらに自分がそのように思われる人間になれたらこんなに格好良いことはないでしょう。
古澤さんがアドバイスする職場における人間関係の捉え方
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コミュニケーションは相手を信頼することから
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アクションなくしてコミュニケーションは始まらない
今後求められるのは自ら生み出せる人。興味の対象を広げることが第一歩
これからの時代に活躍する人材の条件は、何かを生み出せる者であること。自ら何も生み出せず命じられた内容をこなすだけでは活躍できません。
その何かを生み出すのに重要なのが主体性と思考力です。自ら主体的に物事を考え、それについて思考を高めていく姿勢が不可欠です。
そんな力を高めるため自分自身が心掛けているのは、興味の対象を広げることです。自分が知らなかったことや目新しい物事があれば、積極的に飛びつき自分から情報を集め人の話を聞いたり尋ねたりします。
頭の中に情報が増えれば興味や関心はさらに高まり、新たな疑問も生まれます。このサイクルを繰り返し体験することで、誰かに命じられたりテーマを与えられるのではなく、自ら主体的に思考できる頭を鍛えることができるからです。
就活生には、「あなたがいま直面している全ての経験は無駄ではないよ」と言いたい。
就活がうまくいくことも、いかないこともあるでしょう。悩みや迷いも生じます。でもその経験は成長につながります。ですから悔いのない就活をして自分が成長できる就職先を見つけて欲しいですね。
取材・執筆:高岸洋行