キャリアの「正解」は自分で創れる|企業は人を大切にしているかで見極めよう
ブックオフグループホールディングス 取締役 森 葉子さん
Yoko Mori・1968年生まれ。1991年大学時代のアルバイト先だった日本マクドナルドに入社。2008年ロッテリアに転職し2011年から同社人事部長。2012年レックス・ホールディングス入社。2016年に親会社のコロワイドへ転籍し、翌17年より同社取締役。2019年にブックオフコーポレーション取締役となり、2020年6月にブックオフグループホールディングス取締役就任
自分との相性を考えキャリアの「正解」をつかむ
これまでのキャリアで何社も経験してきましたが、一貫しているのは、会社の風土や文化や仕事内容が「自分にあっている」ということです。
ファーストキャリアとしては、大学時代からアルバイトをしていたマクドナルドを選びました。私が社会人になる頃はバブル崩壊直前で、まだ好景気に沸いていた時代。就職環境は完全な売り手市場で、就職を本格的に考えるときにはすでに大手日用品メーカーの秘書として内定をもらっていました。
しかし決まった時間に出社して決まったルーティンを繰り返す仕事に、どうしても魅力が感じられませんでした。それにメーカーや商社の仕事は個人戦の印象があり、もっとチームで戦える仕事に就きたいという思いもありました。
そんな自分は大手メーカーの秘書よりも、接客を通じてさまざまな人と触れ合う仕事の方が性に合うのではないか。そう考えてマクドナルドの正社員になる道を選択したのです。
店頭の接客担当から始めて、店長、エリアマネージャーとステップアップしていく中で、優秀マネージャーとしての表彰も受けることができました。やはりこの道が自分には合っていたのだと確認できてうれしかったですね。
いま思えばもともと人を育てたり人をまとめたりすることが向いていたのでしょう。中学・高校ではソフトボール部のキャプテンを務め、チーム一丸となって目標を達成するのが好きだし得意だったからです。
当時はそこまで解像度高く考えられていなかったかもしれませんが、会社の規模だけではなく素直に魅力を感じた方を選択したことは、キャリアにおいて「自分にとっての正解」だったかなと思います。
マクドナルドでは、その後のキャリアを左右するターニングポイントがありました。25歳の頃です。人生哲学・成功哲学のための本でスティーブン・R・コヴィー博士の著作『7つの習慣』を題材にした会社主催のセミナーに出席したことがありました。
そこで自分のミッションステートメントを作ったのです。具体的には「将来なりたい自分の姿」を5項目明記したのですが、その1つが「上場企業の役員を目指す」というものでした。その理由は、社会に対して貢献する自分でありたかったから。もちろん個人でも社会貢献はできますが、大きな会社の影響力を駆使する方が、より大きな貢献ができると考えたわけです。
「上場会社の役員になる」というステートメントは、転職した先のコロワイドで取締役になり実現できました。また現在はブックオフグループホールディングス取締役として、「事業活動を通じての社会への貢献」「全従業員の物心両面の幸福の追求」という経営理念に基づき、ESG方針策定、SDGs活動推進に取り組んでいます。
そもそもブックオフの事業自体がリユースという社会・環境問題の解決に寄与する内容である点においても、自分が目指してきた社会に貢献できるキャリアを歩んでいるという満足感を得られています。
社員と積極的にかかわることで、人を大切にする会社かが見えてくる
マクドナルドで社会人のスタートを切って以降、転職も何度か経験していますが、会社選びでは、人を大切にしている会社であるかを見るようにしています。複数回の転職のきっかけも、経営陣の交代などによって会社の人に対する姿勢が変化し納得できなくなったのがきっかけでした。
現在のブックオフに入社したのも、たまたま経営トップとお話をする機会を得た際に、人に対する姿勢や見識に感銘を受けたから。その魅力に惹かれ、「ぜひ働かせてほしい」と自らアプローチするくらいでしたね。
とはいえ学生が、人に対する企業の姿勢や経営トップの思いをどうすれば知れるのか。簡単ではないと思います。できることは企業理念やビジョンで語られる言葉から、経営トップが人に対してどのような思いを抱いているかを考えてみること。福利厚生のあり方からも人に対する考え方が見て取れることもあります。
そして何より、その会社の人と会話を交わす機会を最大限に活用すること。人事担当者やメンターの方々を通じて会社の文化や雰囲気を知れますし、面談が進めば経営陣や経営トップに会える機会もあるはずです。
そうした場では、会社が自分を選ぶだけでなく自分が会社を選ぶ立場でもある点を意識すべきです。そうして対面する相手をよく見て観察し、なるべく多くの情報を収集しましょう。
対面の場では自分が質問をするチャンスも必ずあるはず。「質問はありません」ではもったいない。自分がその会社に合っているのかどうなのか、そこを知るための質問を真剣に考えてぶつければ、その回答は企業選びの大切な材料になり得ます。
会社選びをする際の心得
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企業理念やビジョンの経営トップの言葉を読み込む
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会社の関係者との面談の機会をなるべく多く得る
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面接時は自分が選ぶ側でもあることを意識して観察する
仕事選び・会社選びのもう1つの軸は、自分がわくわくできる仕事に携われること。私はマクドナルド時代にそれを見つけることができました。
店舗運営を任される立場となり、数値管理、店舗を上手く回すための人や環境の整備、人材育成など多岐にわたる仕事を経験したなかで、人の育成に大きな喜びを感じ、時間を忘れて仕事に没頭できる自分を発見できたのです。そのため、転職は常に人事関連や人材育成の仕事に就けることを前提条件としました。
人が成長できる環境を作るには、まず人を大切にしてくれる環境がないといけません。これも含めて、「人を大切にしている会社」は重要な要素の1つといえますね。
壁を前にしたら自分に考えるスキを与えず動き続けよう
さまざまな業界・業種を経験するなかで、もちろん壁が立ちはだかったときもありましたが「これを乗り越えれば次のステップへ成長できる機会を得ることができる」と意外と前向きに考えることができていました。その気持ちを持ったうえで、乗り越えるためにもがきます。
そのもがき方は、どうしたら乗り越えられるかの方法を考えるのではなく、自分にいま何ができるか、目の前のことだけを考えて一生懸命にやる。やるのはそのときできる内容で良いのです。
たとえば「自分には元気だけはある」と思えば、毎日挨拶だけは元気いっぱいに交わすようにしてみる。それがいつしか職場に挨拶習慣を浸透させることにつながり、職場の空気を明るくし、結果的に会社に貢献するかもしれません。
小さなこと、自分の得意とすることで構いません。何でも良いから会社への貢献につなげようと一生懸命に取り組めば、誰かが見ていてくれるもの。そうやって頑張っているうちに、気付けば壁を乗り越えている。その繰り返しで良いのです。
考え過ぎないことも大切です。考えたり悩んだりすればするほど人間は動けなくなります。だから考えるスキを自分に与えないのがコツ。現実に食らいついてがむしゃらに手足を動かすことが、若い頃にはとても重要な心構えだと思います。
仕事や人生の壁を乗り越える方法
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壁を乗り越えた先の成長に希望を見出す
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小さくてもできることを精一杯やってみる
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考え過ぎず悩まないで手足を動かす
環境が激変する状況にあっても、途中で目的を見失わない人材が必要
これからの時代は、ゆっくりと考える時間が与えられない世界が当たり前になっていくでしょう。従来は考えられなかったような事態が発生し、突如として前提条件が変わり、それまでの考え方が通用しなくなる。考えている間に事態が変わってしまうわけです。
そんな時代にもとめられるのは、状況変化に即応してやり方を微修正しながら行動する能力だと思います。ゆっくりプランを練っている時間はないし、練っている間に刻々と状況は変わってしまうでしょう。
ですからビジネスの世界では、PDCA(計画・実行・検証・改善)に代わる考え方として、OODA(ウーダ)ループが注目されています。OODA(ウーダ)ループとは、情報収集(Observe)、方向性判断(Orient)、施策の決定(Decide)、行動(Act)のこと。つまり、行動しながら考える能力が必須になるということです。
また刻々と変化する状況の下でも、進むべき道を誤らない能力がもとめられると思います。言葉を換えると「これは何のためにやっていることなのか」という目的を動きながらも途中で見失うことなく、ずれてしまった場合は立ち戻れる力です。目的を定めて行動ができると、頑張っていることが評価に値する行動になっていきます。
挑戦を恐れず失敗を怖がるな
こういう能力を養ううえで1番大切なことは、行動や新たな挑戦を恐れず失敗を怖がらないことです。そうは言っても、誰しも失敗はしたくないし怖いもの。一歩踏み出すには勇気が必要です。それでも踏み出すしかありません。
失敗への耐性は人それぞれですから、耐性が弱いと自覚している人は、まずは自分が耐えられる一定の範囲を定めてみてください。その枠内では失敗しても大丈夫だと言い聞かせつつ、できる限り挑戦してみましょう。
新しいことや突拍子もないことに取り組むだけが挑戦ではありません。自分なりの挑戦があって良いですし、その積み重ねで少しずつ枠を広げていく姿勢が重要です。
とはいえ仕事の現場では、どういう上司のもとで仕事をするか、運にも左右されます。失敗を許さず型の中での仕事をもとめる上司の場合は、まずはその型の枠内で自分がどこまでやれるかに挑戦してみるのが良いでしょう。
どんな上司のもとで働くかは自分では選べないこと。自分が関与できない事柄で悩むより、可能な範囲で自分を試し、少しずつでも関与できる枠を広げていくべきです。もちろん、どうしても難しければ飛び出す選択もありというのが前提です。
挑戦するマインドを得るための心構え
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挑戦につきものの失敗を恐れない
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失敗の耐性が弱ければ一定の枠内で挑戦
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可能な範囲で少しずつ枠を拡大していく
仕事を通じて自分も知らない可能性を引き出せる
希望をもって就職したのは良いけれど、与えられた仕事が思っていた内容と違う、あるいはギャップがあると感じて、すぐに方向転換を考える人もいるでしょう。ですが私は方向転換を考える前に、まずは与えられた仕事をやってみることを断然おすすめします。
なぜなら、やってみたら意外に自分に合っている側面を発見したり、自分の新たな適性や能力に気付いたりすることが往々にしてあるからです。
私自身、初めてマクドナルドの店舗運営を任された際には、学生時代、数学が苦手だったため、数値管理が自分にできるか大いに不安でした。ところが数値管理とは収支に基づき儲けを管理することだと理解できた時点から、収益を考える面白さに目覚め苦手意識はどこかへ消えてしまいました。
たかだか二十数年ばかり生きただけの経験では分からない仕事の面白さがたくさんあることを知った体験でした。だからこそ、自分に合わないと諦める前に、まずはやってみることをおすすめします。それでも合わなかったら、そこで考えても間に合います。いくらでもやり直せるのは若さの強みですから。
いつだってキャリアはやり直せると理解できれば選択が怖くなくなる
就職やキャリア形成について社会人の先輩としてアドバイスするなら、キャリアはいつでも選択し直せるし、新たなスタートを切ることもできるということ。だからこそ選択を怖がらずに自分の夢や可能性を追求してほしいと思います。
最初は違ったと感じても、選択した道を最終的に自分に合った道に創り変えていくことも可能です。選択を間違えてしまったかもしれないと思った道を自分に合った道に変えてしまうのも、正解の一つの形でしょう。
ためらうことはありません。やってみても駄目なら別のルートを探せば良いだけ。キャリアの形は100人いれば100通り。いつでも自由にキャリアを選択するつもりで会社選びをしてみてください。
そうすれば社会に出るのが憂鬱とか、時間的な自由を失うのは嫌だとか、後ろ向きの発想にばかり囚われることもないでしょう。いつでも今が一番楽しいと感じながら仕事できる環境を自分で選び取って行くことも可能になります。
これまでの人生よりずっと長い時間を仕事とともに生きていくのですから、仕事も社会人生活も楽しまなくては、人生を損してしまうと思いますよ。
取材・執筆:高岸洋行