無我夢中で楽しんだ経験がキャリアを導く|「信念×学び」で成長しよう

イベント21 代表取締役社長 中野 愛一郎さん

イベント21 代表取締役社長 中野 愛一郎さん

Aiichirou Nakano・大学在学中に世界中を旅して回るが、父親が倒れたことがきっかけで、2006年に会社を承継。事業をイベント運営全般に大きく広げ、全国に25拠点を展開した。さらに経営者や学生に向けた講演活動は140回を超える。過去には、中同協青年部全国連絡会代表や地域のPTA会長を歴任。これまで30ヶ国を超える国を訪れてなお、家族旅行を欠かさない大の旅好き

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自分の世界を広げたことが後々のキャリアの基盤に

私のキャリアにおけるキーワードは、「会社経営」と「世界の旅」。全く共通点がないように思えますが、旅の中で掴んだ人間の本質的なことは、現在に至る会社経営の中でも生かされてきたように思います。

ビジネス経験のない自分が、突然経営者として采配を振るうことができたのも、世界をさすらう中でたくさんの人間を見てきたことが、素地になったと信じています

まず「世界の旅」については、自転車で日本一周したことをきっかけに、もっと自分の世界を広げたくなり、大学時代に世界一周の旅に出たことからはじまりました。世界の各地で「日本の普通は世界の普通ではない」と知り、カルチャーショックを受けましたね。

たとえば、バングラデシュでは首を傾げて“YES”を示します。イスラム教圏では男性は髭を生やしているのが普通。髭剃りがマナーの日本とは違う価値観です。

びっくりするようなことに出会うたびに、人間にとって“表面的なこと”と“本質的なこと”の違いを考えるようになりました。さらに世界を訪ねるうちに、旅行ではなく住んで世界を味わいたいと思うようにもなりました。目指すはニューヨーク。世界最強のおもしろい人が集まる街です。ニューヨークで暮らすための資金を稼ごうと大学も中退しました。とにかくもっともっと世界を見て、知りたかったんです。

信念と美学が決断を後押ししてくれた

ニューヨーク暮らしを夢見て過ごしていたところで、父親が倒れ、突然郷里に呼び戻されました。まさに青天の霹靂で、宣告された余命は1カ月半。ショックでしたね。

父親は、トンネルの貫通式などのイベントをおこなう会社を経営しており、会社をどうするのか、悲しみと混乱の中で判断しなければなりませんでした。それまで父の会社を継ごうと思ったことはなく、もとめられたこともなかったんです。だからそれまで思い切り自由に旅を楽しんでいました。

しかし、母に説得されて心を決めました。そもそもニューヨークに住みたいと思ったのは、かっこいい人間になりたかったから。もしここで、自分の礎を築いてくれた家族を悲しませるような選択をしたら、全くかっこよくない。家族を見捨てて、自分を生み出し支えてくれた家族を残してニューヨークに行っても、かっこ悪いと思いました。

しかもよく考えれば、日本で会社を継承することは、世界一周やニューヨークに住むという夢を諦めることとイコールではありません。会社を大きくしてニューヨーク支店を作れば良いんです(笑)。

人生には何か大きな決断を迫られるときがあります。そんなときに、信念や美学が自分を導いてくれます。かっこよくありたいと言う気持ち、夢を諦める必要はないという思い、そんな強い信念が人生の新たな一歩を後押ししてくれたと思います

中野さんのキャリアの変遷

ゼロから代表として頑張れたのは守りたいものがあったから

楽しい旅暮らしから一転、突然の「会社経営」がはじまりました。

会社を承継したものの、経営経験どころか社会人経験もない自分が、うまくやれるわけがありませんでした。名刺の渡し方や電話の受け方から、財務諸表の見方まで、一気にできるようになる必要があり、毎日必死でしたね。働きすぎて、会社を引き継いで1年の間に5回も救急搬送されたくらいです。

思い返せば父も働き詰めでした。必死に自分の会社を支え、事業を広げてきたのだと思います。しかし会社を継いでみると、その大切な会社やビジネスが、軽んじられていると感じる場面も多くありました。馬鹿にされていると言ったら適切ではありませんが、父が一生をかけて作った仕事が、周囲から尊重されていないと感じることも多かったのです。

そのたびに、「絶対負けない」「勝ってやる」という闘志が湧きました。自分が馬鹿にされようとないがしろにされようと、それほど腹は立ちませんが、大切な人が不当な扱いを受けていたら決して良い気分ではありません。だからこそ、“父そのもの”といってもいいような会社を、もっと大きく立派にしたいと強く思うようになりました。

今だったら、大切な社員や会社がひどい扱いを受けていたら、きっと腹が立つし、それを守るため、跳ね返すためだったらどんな努力もできると思います。きっとどんな人でも、自分にとっての大切な人・場所・モノを思えば、力が湧いてきますよ。

ピンチは面白い。克服できたら伝説になる! と思えば乗り越えられる

イベント21 代表取締役社長 中野 愛一郎さん

どんなキャリアでも必ずピンチは訪れます。当社もコロナ禍で大幅に売上を落としました。これまでに見たことがないような数字だったので、思わず「なにこれ、すご! 」と口をついて出てきたほどです。

でも、ひどい状況の中で湧いてきたのは、おもしろいという感情。そういえば昔から逆境になるほど、おもしろがっていたような気がします(笑)。

たとえば海外にはスラム街のような場所があり、そこはあまり治安が良いとはいえません。でもスラム街に限って美味しい料理屋が多いんですよ。だからリスクを冒しても食べに行きます。

リスクは避けたりコントロールしたりするべきものですが、それ自体を楽しめるようなマインドがあれば、乗り切りやすいのも事実です大変なことこそ克服したら伝説になる! って思いませんか。無駄な経験なんて何一つありません。全ての体験が学びになり、後の糧になります。ピンチこそ、おもしろい。ピンチこそ、学びなのです。

中野さんからのメッセージ

やりたいことがないという若い人も多いと聞きます。自分は何をしたいのか、どう生きたいのか、それは座学では見えてきません。無我夢中で体験しておもしろがってやってみる中で、初めて自分がやりたいと思えることが見えてくるはずです。本気で時間を費やし、全力で語れるような、そんな経験が必要なのです。

そしてそこで見つけたやりたいこと、方向性、こだわりが一致する業界や企業を就職先に選びましょう。このマッチングは結婚に似ていると思います。自分と合うものがあって結婚し、合わなかったら別れることもある。それでも長く楽しく一緒にいられる選択をしたいですよね。

夢中になってやりたいこと、面白いことを見つけたという経験は、社会に出た後も活かせるスキルになります。仕事は待っていても面白くなりません。自分からおもしろさを見つけて、自分から楽しんでいく。そうすることで自分ごととなり、成長にもつながります。

当社でも若手社員が活躍していますが、もっと自由にやってもいいのにと思っています。真面目で一生懸命な人材が多く、本当に素晴らしいのですが、自分から貪欲に楽しみに行く姿勢があればもっと良いですよね。

「信念×柔軟な学び」で成長を

若手社員の話が出ましたが、成長には学びが欠かせません。自分が決めた道を信じて信念を貫く一方で、柔軟に学び続けられる人が必要とされていると感じます。自分の信念を守り通して形にするために、新たな知見をどんどん足していくというイメージです。

中野さんが考える、成長するためのお方法

講演会やワークショップなどで登壇することも多いのですが、参加者が100人いたとして、講演からの学びを生かせる人は正直1人くらいしかいないと思います。だからこそ、自分のスタンスを大切にして、そのカスタマイズとして学び続けてほしいと願うのです。

信念やスタンスが定まらないと、一貫性がなく、成長の軸ができません。しかし、頑固で頑なになってしまうと、学びの余地がなく成長できません。自分の思いを実現するために、学んで広げていくことを恐れないでほしいです。

「働くって面白い! 」を体現していきたい

世界を旅していた自分は、父の死というきっかけで日本で経営者になりました。ビジネスを動かしてきた日々は本当に楽しくて、働くって本来楽しいことなんだと実感しています。だから、若い世代に働く楽しさを感じてもらえる取り組みもおこなっています。

企業の経営者としてできるのは、入社してきた社員の教育ですが、それでは遅いのではないかと思っています。もっと若いうちから、実際に社会に出る前から、働くことをおもしろいと思える投げかけをしたいな、と。

たとえば社内の勉強会を地域の方に公開したり、さまざまな場所で講演をしたり。小学校や中学校と連携して、キャリア教育もやりたいと思っています。親と先生以外の、フラットな関係を築ける大人と、たくさん触れ合う機会があると良いですよね。ボーイスカウトや地域のボランティアは、働く大人や大人の社会に触れるとても良いきっかけになる気がします。

自分自身の目標は変わっていません。世界一周し、ニューヨークにも住みたい! 今はちょっと長めのトランジットだと思ってるんですよ(笑)。そのためには会社の理念を体現できる後継者を何人も育てて、日本中に拠点を作りたい。そして世界に旅立った自分は、世界各地にもリーダーを育てていきたい。そんな夢を見ています。自分の人生を作り、自分の夢を叶えられるのは自分だけですからね。

中野さんが贈るキャリア指針

取材・執筆:鈴木満優子

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