自らの信念と想いがキャリアや人生の方向性を示す|働きながら人との関わりを多く持とう
ヒューマンリライトケア 代表取締役 田近 郷さん
Go Tajika・音楽の道を進もうと専門学校に進むも挫折。その後、専門学校で学んだことを生かそうと高齢者施設での音楽療法ボランティアに参加。音楽を通してご高齢の方との関わりに楽しさを知った経験から介護の職種に興味を持ち、より直接的な支援ができる仕事をしてみたいと考え介護の資格を取得。高齢者施設、訪問入浴やデイサービスなど複数の法人に転職した後、求人広告の営業職に。その後、再び介護業界(訪問介護)に転職し、2年後には独立し現職
初めは「なんとなく興味をもった」から始めてもいい、続けることで「貴重な経験」を得られる
ミュージシャンを目指し、長らくフリーター生活を送っていた私が「なんとなく興味をもった」ことから、介護の資格を取得し、実習先の職員に紹介され介護業界に入ったことがきっかけとなり、今では在宅介護の会社の社長となりました。
私が介護の現場にはじめて足を踏み入れたのは、ミュージシャンを目指して音楽の専門学校を卒業した後、しばらく経ってからでした。たまたま見つけた音楽療法士のボランティア活動で、介護施設に週に1度程度、たった1時間交流をする体験をしたのがきっかけです。とても充実した活動で、自分も楽しんで参加できていたのですが、
「この1時間以外の時間に、ここにいるお年寄りはどんな時間を過ごしているのだろうか」
「ここで働くスタッフの方は、どんな意識で仕事に取り組んでいるんだろうか」
「ここにいるお年寄りに、他の時間ではどんなことをしてあげているのだろうか」
百聞は一見にしかずといいますが、介護業界に対して興味・関心が湧き出てきて、実にいろいろなことを考え、介護の仕事について調べ始めたのです。
そこから「資格をとろう」と奮起し、ホームヘルパー2級の資格取得に向けて研修に通い勉強をスタート。実習先でお世話になった介護施設から「うちで働かない? 」と声をかけていただき、人生ではじめて正社員として介護施設で勤務することになりました。
はじめて働かせてもらった介護施設では、3年以上働きました。その間に介護職の国家資格を取得。他の業種で今までと異なる介護の経験を積んでみたいと考え、その後、施設以外の法人でデイサービスや訪問入浴という仕事に転職することに。
一口に介護業界といっても、それぞれの業態で担う役割が異なると同時に特徴があります。全体を俯瞰することで、見えてくるものがあると強く感じました。それぞれの良さ、難しさ、考え方の違いを知ったうえで、私が一番魅力を感じることとなったのは訪問介護でした。
訪問介護の職種で働いてみたいと思い、いざ訪問介護をおこなう会社に転職しようと考えたのですが、当時は「男性が訪問介護をおこなうのはちょっと」と面接で言われ、違う職種を提案され、落ち込んだ記憶があります。当時はまだ男性には少しハードルがある業種だったのかもしれません。提案された職種で働くことになりましたが、やりたい仕事ができないということでやはり葛藤はありました。当時は挫折にも似た、大きな壁を感じたものです。
独立志向の先輩との出会いから、起業を意識するように
しばらく勤務を続けたものの、今すぐに訪問介護の現場で活躍するのが難しいのであれば、キャリアを積むうえでまったく別の分野で働いてみるのも良いのではと考えました。
さまざまな人と接する中で、漠然と「人材関連の仕事」に興味をもっていたので、いったん人材関連の業界で転職活動を始めることを決めました。
ただ、そう簡単にはいかないものです。人材紹介会社に登録し人事、採用などにかかわる仕事を紹介してもらったのですが、ことごとく落ちるという結果に。その後、何とか採用にこぎつけたのが、求人広告の営業でした。落ちてばかりの自分は紹介会社の担当の方に大変申し訳なく思い、「やるしかない」と一念発起し、これまでまったく経験のない営業にチャレンジすることとなりました。
トータル2年間営業の仕事をしましたが、前半1年間は売上も上がらず大きな挫折を経験しました。会社にまったく貢献できず、自分はなんてだめな人間なんだろうと思う日々です。
ところが、異動を機に新たな仲間や上司と出会い、営業のやり方について具体的なアドバイスをもらいながらがむしゃらに取り組んだところ、後半1年間はぐんぐん売上が上がって営業の仕事が一気に楽しくなってきたのです。
さらに、異動後の職場での1人の同僚との出会いが、私にとって人生のターニングポイントだったと思います。営業として頑張っている一方で、独立志向があり、たくさんの経営者と接点をもってビジネス、経営全般について勉強をしている先輩です。
その先輩から刺激を受け、私も経営というものを自分事として捉えるようになったといえます。
「自分の想いを実現できる会社を作ってみたい」と思い始め、起業を意識することとなったのがこのときです。
「介護業界に恩返しをしよう」という想いを見つめなおし、本格的に起業を決意
先輩から刺激を受け起業を考えはじめた私が、「介護の世界で独立しよう」と思い至ったのは、営業先の人事の方の言葉です。
介護の現場から離れていた私に、「資格を持っているのだから、介護の業界で働きなさいよ」と話されました。ちょうど介護職の求人を出しても思うように効果がでなかったこともあり、「自分が働くことで介護業界に貢献できるんだ」とハッとしたのと同時に、自分の根底にあるのはやはり福祉、介護の業界なんだなと気づかされました。
独立するなら介護の業界しかないと強い想いをもったもう一つの理由は、最初に働いた介護施設を退職するときのことです。お別れのご挨拶の際に、入居者の方が泣いて悲しんでくれたのです。あのときの光景は今でも目に焼き付いていて、「いつかお世話になった介護業界に恩返ししよう」という気持ちを心の底にもっていたような気がします。
介護の業界で独立したい、それなら以前、最も魅力を感じていた訪問介護という業種で起業して恩返ししたいと強い想いを抱くこととなりました。
その後、2年間お世話になった営業の仕事を辞め、訪問介護の現場経験を積むために再び転職を決めました。
今までの経験に無駄はない、いつか必ず活かされる
転職した訪問介護の現場でも意外と営業をおこなう場面が多くあり、営業職での経験は確実に活かされたと思います。ありがたいことに副所長という管理職を任され、メンバーをまとめる立場の経験を積むこともできました。
私のように転職を繰り返すのはあまり良いキャリアの積み重ね方とは言えないと思いますが、無駄な経験は一つもなかったと改めて実感します。
今までの経験の中で誤った選択をした、無駄だったということを感じている方もいるかと思いますが、巡り巡って「あの時はこうやっていたな」「あの仕事よりは今の方が楽かな」という瞬間が来ると思いますので、過去の選択を間違えた、失敗したとあまり落ち込まなくてもよいと私は考えます。「将来に活かしていこう」と考え方を変えてみればよいのです。
転職して2年近く経ち、いざ起業しようと考えた時に目指す理想の介護像が生まれました。
それは、介護サービスを利用する方やそのご家族に寄り添い、身近な存在として身の回りのことを支えていくというもの。そして、働く人がこの仕事に魅力をもち、やりがいをもって長く働き続けられる職場を実現させたいと考えるようになりました。
介護される方との何気ない会話の中から、楽しいことやうれしかったことだけでなく、悩みや葛藤まで様々な思いや考えをお聞きし、少しでも気分転換をしてもらえることが、私のやりがいであり、介護職としての意義と捉えていました。そして、そういう関わり方を大切にした会社をつくりたいと考えました。
今では職員も育ってきて、介護サービスを利用する方とのやりとりをたくさん聞かせてくれます。一人ひとりに寄り添ったかかわりをしてくれていることをうれしく感じています。
学生時代はインターンで職場体験を多く積もう。会社を見極める「質問する勇気」が重要
就職活動を行っている学生は今、就職先の企業を調べて、将来のキャリアについても真剣に考えていると想像します。悩みながら大変な思いで毎日を過ごしているのではないでしょうか。そんな皆さんにおすすめしたい「キャリアの見つけ方」についてお伝えしていきたいと思います。
就職活動の中で多くの企業の会社説明会に参加されていると思いますが、経営者や人事担当者の方はどうしても魅力的な話、将来性など良い面を多く伝える傾向にあります。それに惹かれて現場を知らずに入社すると最初のうちは良くても理想と現実のギャップに悩まされ、短期間で退職に至ることが多くあるように思います。
そのため、可能な限りインターンシップ(インターン)などで職場体験を多く積むことをおすすめします。短期間でもいいですから、いろいろな企業、業種を体験してもらうだけでも多くの学びとなるはずです。そして、その機会をさらに充実したものとするために「質問する勇気」が大切になります。
インターンなどで現場の方と会う機会をもつだけでも、率直な話や実際の仕事の内容についてたくさん聞くことができますが、さらに勇気をもって質問を多くすることで仕事や職場について生の声を多く引き出すことができます。加えて、相手にも意欲が伝わることになり、企業側の評価アップにつながるかもしれません。
インターンは現場の方との交流によって就職した後のイメージが具体的につかめますし、入社後のギャップを感じずに仕事に専念していけると思います。
また、業種や業界問わず様々な企業のインターンを経験することで、「世の中にはこういう仕事もあるのか」「意外とこういう仕事も楽しそうだな」と、自分の中で新たな発見、気づきも得られると思います。
就職活動で大切なポイント
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インターンを最大限活用して職場体験を数多く積む
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現場の方と話をし、生の声を聞く
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会社の実態をうまく引き出すためには「質問する勇気」が大切
これからの時代に求められるのは、謙虚で感謝できる人
どのような仕事においても、コミュニケーション能力は必須です。仕事を通して顧客に対してやりとりをおこなうでしょうし、それがなくても同僚との関わりが全くないという職場は少ないでしょう。
コミュニケーション能力とは、表面的な会話ができれば良いという意味でありません。ビジネスの場において上っ面の受け答えは相手に見抜かれ、不信感につながってしまうものです。
また、謙虚な気持ちを持ち、進んで感謝を伝えられる人材は、どのような企業でも活躍できると考えています。
年齢問わず自分から感謝の言葉を口にできる人は案外少ないと思いますし、ミスした際、先に自分の主張や言い訳をして謝ろうとしない方も多いように感じます。
私自身もミスをすることがありますが、部下であろうと顧客であろうと相手に対しては素直に謝ります。ミスや失敗をしたという事象においては立場など関係ありません。
人に教わり、本を読み、行動し続けることで「必ず壁は乗り越えられる」
起業家、経営者というと何でもうまくこなせる器用な方をイメージするかもしれませんが、私の場合は根っから不器用な人間です。うまくやってやろうと思うと何かしら失敗します。
それでも、情熱をもって行動し続けていけば乗り越えられない壁はないという信念をもっています。
私自身、失敗もたくさんしましたし、壁に何度も何度もぶつかってきました。でも壁にぶち当たることで「何とかしないといけない」と悩み、真剣に考えます。
悩んでいるときはストレスを感じますが、少しでも何かできないかと考え、行動することで、打開策が見えてくるように思います。たとえその時はうまくできなかったとしても、そこで行動した経験は自分の中に残るし、後々どこかで必ず生かされます。
壁にぶつかった時は、ぜひ大いに悩み、もがいてほしいです。
ただ、がむしゃらにやっても辛いだけかもしれないので、何らかのヒントを得ることも大切です。私のおすすめは、周りの人に相談し、意見を聞くこと。そして、本を読むことです。
もし他人にちょっと聞きにくいことであれば、まずはネットで調べるのも良いかもしれませんが、得たい情報が見つけられない場合も多いため、本を読んで新たな視点を得るのは良いことです。私も本を読んでたくさんのことを学び、救われました。
皆さんにはこれから多くの壁にぶつかることと思います。ですが、諦めずに行動し続けていれば乗り越えられない壁はないと思っています。私自身もキャリアを築く中、さらには、会社をつくってからも多くの壁にぶつかり、挫折と向き合ってきましたが、少しずつですが乗り越えて、前に進み今に至っています。
私たちの前にある壁はいつか必ず乗り越えることができる。最後にこれを伝えたいと思います。
取材・執筆:小内三奈