働くことは楽しいこと|「本気のチャレンジ」をする。だから失敗できる。だから学べる

YY(ワイワイ) 代表取締役 諏訪 義久さん

YY(ワイワイ) 代表取締役 諏訪 義久さん

Yoshihisa Suwa・大学卒業後、新卒で日本マクドナルドに入社。20年間勤務して円満退社後、経営コンサルティング事業を軸としながら、男性も通える脱毛エステサロン「ブランエミュ」を開店。2017年からは日本仲人協会の仲人士として「結婚相談所フォーマリッジ」をスタートし、男女の縁結びをサポート。2018年にはドライヘッドスパ専門店「天使の眠りソマンジュ」をオープンし、同年より都内公立高校でのキャリア授業などもおこなっている

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経営のリスクを知った大学時代。「それでも経営者になりたい」と決心できた

キャリアにおける最初のターニングポイントは、会社経営のリスクの大きさを知った大学時代です。父は電子工場、祖父は不動産事業を経営する家庭で育ちましたが、私が大学に受かってまもなく、バブルの煽りを受けて2社とも倒産。億単位の負債を抱え、家族にもさまざまな影響がありました。

そうした背景もあり、学生時代はあらゆるアルバイトを必死でしました。学校の勉強をする時間はあまりなかったですが、アルバイトを通じて社会勉強は大いにできましたし、コミュニケーション力もかなり鍛えられました。世の中には時給600円の仕事から1万円の仕事までいろいろあることを知り、「時間の使い方次第でキャリアは決まるのだな」という実感も得ました。

そんな学生時代を過ごしてきたわけですが、大学3年生になると、急に「自分は何のために生きているのだろう」と思い悩むように。アルバイト先には何とか出かけていましたが、プライベートでは友人と会わなくなり、家で鬱々とした日々を過ごしていました。

しかし、このときにアルバイトの仲間や先輩たちが救いの手を差し伸べてくれたのです。この出来事以降、周りの人への感謝の気持ちを持てるようになり、「誰かを喜ばせる仕事をしていれば、生きがいをもって働けるはず。少なくとも人に恨まれることはないだろう」と思うように。「人の役に立てる人間になろう」と決心しました。

そうして元気になってからは「父や祖父のように、やっぱり自分もいつかは経営者になりたい」という思いが、むくむくと芽生えてきました。

この気持ちを固めてから就職活動をスタート。いわゆる就職氷河期の真っ只中だったので、かなり大変な状況でしたが、そのなかでも複数の会社に内定をいただいたことで、自分に自信を持てるように。社会に出て頑張っていこう、という力をもらいました。

内定をいただいた企業のなかからマクドナルドに決めたのは、藤田田(ふじたでん)社長の「経営者を育てる」という育成方針に強く共感を覚えたのが理由です。ファーストフードでのアルバイト経験はなかったのですが、「お金をもらいながら経営の勉強ができるなら一石二鳥だ」と思い、入社を決めました。

ちなみに、当時人気の就職先だった金融機関からも内定をいただいていましたが、その銀行は今や存在していません。周りの意見に流されることなく、「自分がやりたいこと」がきちんと見えた状態で就職活動をしたからこそ、20年間楽しく働ける企業を選ぶことができた気がします

諏訪さんからのアドバイス

この経験から学生の人に伝えられるのは、いろいろな職種でアルバイトをしてみてから就職活動に臨んだほうがいい、ということです。最近はアルバイトでも重要な役割を与えてくれるところが増えているので、働きながら会社の中のことや世の中のことが多少見えてくると思います。

「合わなければ辞めればいい」という辞めやすさも、アルバイトの特権です。転職が当たり前の時代になりましたが、それでもアルバイトほど気軽には会社を渡り歩けません。力仕事、接客の仕事、事務の仕事など、意図的にいろいろな業種・職種を経験してみるのがおすすめです

個人的にこれまで経験したアルバイトのなかで一番手応えを感じていたのは、引越し屋の仕事です。結婚や離婚、転勤など人生のターニングポイントに立ち会えることが多く、お客さんに寄り添って仕事ができることにやりがいを見出していました。

最終的に引越業界は選びませんでしたが、当時は天職だと思っていましたし、私が大切にしている「人を喜ばせる仕事をしよう」という価値観形成にもつながる経験だったと感じています。

こだわるのは、「楽しく働き、好きなことだけをやる」こと

1社目であるマクドナルドでの仕事は、ものすごく楽しかったです。独立しようと思いながらも、毎日が楽しすぎて結果的に5年、10年、15年と居着いてしまったほどです(笑)。年齢的にも「今辞めないともう独立できなくなる」と感じた20年目にようやく決心し、退社をしました

とはいえ、入社当初から順風満帆だった、というわけではありません。アルバイト経験を経て入社する人が多い会社でしたが、私はまったくの未経験者。入社後は高校生のアルバイトクルーに叱られながら、仕事を教わる日々が続きました。「絶対この仕事で上達してやる」「周りに尊敬される社員になろう」と決心し、徹底的にスキルを学んだので、次第に成果も出せるようになり、ベテランクルーやお客様にも認めてもらえるようになりました。

そうした頑張りを本部の人たちも見ていてくれて、人気の高い店舗への異動オファーが舞い込むようにもなり、自分で意図しなくても、どんどんステージを高めていくことができました。目先のことを一生懸命やっていれば、一段上のステージからのオファーが来るということは、経験からお伝えできる部分です。

ファーストキャリアのおかげで「仕事は楽しいもの」という確信も得ることができ、独立後も、働く楽しさを追求し続けています。一度きりの人生を思いきり楽しみたいですし、年齢的にも残りのキャリアが限られているので「嫌なことをするのは時間の無駄、好きなことしかやらない」と決めています。

最近は「仕事はつらいもの、しんどいもの」と考えている若い人が多いように感じますが、自分次第で仕事は楽しくできるし、楽しんで働くことはできるよ、ということはぜひ伝えたいメッセージです。

諏訪さんがすすめる「」仕事を楽しむコツ

楽しく仕事をする秘訣としては、まず「誰かが喜ぶ顔をイメージしてみる」ことをおすすめしたいです。

私は現在、複数の事業を手掛けていますが、たとえばエステ・美容の事業では、きれいになって喜んでいるお客様の様子を見ることが何よりの原動力です。施術後の笑顔を見ると、しんどかったことがすべて吹き飛びますし、ハッピーを返してもらえているような感覚になります。

コンサルティング事業も同様です。悩んでいる経営者の方に対してアドバイスをさせていただいた結果、状況が改善して数字も気持ちも安定したお客様の様子を見ると、私も非常に嬉しいです。感謝の声をいただけることが、次のモチベーションになります。

数年前に結婚相談所の事業を始めたのも、人を幸せにして多くの人に喜ばれる仕事だからです。昔から人と人の縁を結びつけることが大好きで、多くの社内カップルの誕生を陰ながらサポートしてきました。「お見合いおじさん」としての活動は、おじいちゃんになっても続けていきたいです。

また最近は、公立高校の高校生に対してキャリアに関する授業をおこなっていますが、文字どおり、生徒の目の色が変わる瞬間をたくさん見られています。親や先生以外の社会人の話を聞ける機会は珍しく、少なからず学生さんに刺激を与えられているようで、楽しく取り組ませてもらっています。

どの事業においても、お客様の喜びは自身の生きがいであり、「誰かを喜ばせている」と感じられる瞬間に一番の充実感があります。その観点では「誰の役に立っているのか」を意識することも、仕事を楽しむ秘訣と言えるかもしれません。

人を傷つけたり騙したりするような部類の仕事でなければ、仕事の先には必ず「役に立っている相手」がいます。たとえばITの仕事なら、生活の利便性を向上させることで、誰かの役に立っていますよね。仕事がつまらないという人がいたら、まずは「誰かが喜ぶことをやってみよう」という気持ちを心掛けてみると良いんじゃない? とアドバイスしています。

本気でチャレンジするからこそ、失敗もできるし、有意義な学びも得られる

YY(ワイワイ) 代表取締役 諏訪 義久さん

独立後はいろいろな事業を手掛けていますが、すべてが順調だったわけではありません。2社を立ち上げて1社だけが生き残り、昨年からまた新たに1社を立ち上げている状況です。

最初に始めたのはエステ事業です。自分が通っていた脱毛サロンの店長が辞める際にスカウトし、自分でエステサロンを立ち上げました。「コンプレックスを解消できるだけでなく、気持ちまで若返る、素晴らしい事業だ」と感じたことも理由です。

当初は女性のお客様が中心でしたが、現在は男性客が7割という状況になっており、未開拓のニーズがあることにも手応えを感じています。美容の学校も立ち上げ、「美容業界全体を変えていきたい」という志も持っています。

エステ事業も、軌道に乗せるまでには波がありました。特に創業3年目までは苦労続きで、何度も辞めようかと思いましたが、第2子が生まれたタイミングで「父親として頑張らなくては」という思いが踏ん張る力になりました。

コロナ禍で店舗を開けられなかった時期も売上は落ちましたが、結婚相談所とオンラインコンサルの事業が大きく伸び、結果的に収支のバランスが取れました。「捨てる神あれば拾う神あり」のことわざではないですが、人生はうまくできているものだな、としみじみ思いましたね

諏訪さんのキャリアにおけるターニングポイント

エステ事業と同時に友人と立ち上げた「福祉×農業」のビジネスを手放す決断をしたことは、キャリアにおける3つ目のターニングポイントと言えるかもしれません。

人に喜ばれる仕事で非常にやりがいはあったのですが、コロナ禍で国内移動すらできない状況になってしまったので、各地の事業を独立させ、現地の方々に譲ることにしました。

会社が傾くときには必ず原因があるのですが、原因が見つかる時期が遅く、リカバリーするスピードが間に合わなければ「事業を続けない決断」をすることも、経営者としては大切なことだと考えています。コロナ禍は予想以上に長引きましたし、あのまま続けていたら大赤字を出し、多くの人に迷惑をかけてしまったと思います。

そのほかにも失敗はたくさんしてきましたが、キャリアは「壁を乗り越えれば、またちょっと高い壁が出てくる」ことの繰り返し。目の前のことを必死でやっていれば、乗り越えられない壁はない、と思えています。

失敗から学んだことのほうがはるかに多いので、後悔している出来事はひとつもありません。本気で取り組んだからこそ失敗もできるわけで、保険をかけて中途半端に手を出していたら、意味ある学びは得られなかっただろうなと思います。

死なない限り、立ち直れない失敗は絶対にない」というのが私の持論なので、これから社会に出る人にも「どうか失敗を恐れないで! 失敗はいくらでもしたほうがいいよ」と伝えたいですし、ぜひ本気のチャレンジをしてみてほしいなと思います。

失敗を恐れない、気持ちの面でのサバイバル力(生き抜く力)がある人は、これからの時代に活躍できる人材の特徴である気がします。そうした人ほど「雇われる」という概念を捨てて仕事ができるでしょうし、「相手が誰であろうと対等に仕事ができる人」が価値を見出される世の中になっていくように思います

諏訪さんからのメッセージ

企業が掲げている方向性や、それを語る社長のエネルギーに注目してみよう

良いキャリアを歩んでいくために、学生時代のうちにやっておくといいと思うのは「学びをアウトプットする習慣を付ける」ことです。

これはマクドナルドの教育機関・ハンバーガー大学で教わったことなのですが、「自分が教わったことを自分の頭の中だけにとどめないで、記憶の新しいうちに誰かに必ず教える」ということを繰り返していると、実践的な学びに切り替わっていきます。

受け身に話を聞いただけでは知識は定着しませんが、誰かに伝えようと思うと考えが整理されて自分のものにできるので、ぜひ意識的なアウトプットを心掛けてみてください

今の時代はSNSや動画等で気軽に発信ができるので、そうしたツールを活用しない手はないと思います。役立つことを発信していると人にも喜んでもらえるので、それが自信や毎日のモチベーションにもつながっていくはずです。

発信する勇気がない人は、全世界公開にしなくてもOKです。非公開の日記でもなんでもいいので書き出す習慣を付けていると、それだけでも考えが整理されていきますし、なによりそのうち誰かに見せたくなってくると思います。

諏訪さんのアウトプットの勧め

就職先を検討する際には、まず「その会社が見ている方向」を確かめてみるのがおすすめです。

コンサルタントとして多くの企業を見ていますが、良い企業は「どこへ向かっている会社なのか」が明確です。企業が掲げる方向性やビジョンに共感でき、自分もその道を行く一員になりたいと思えたら、その会社は有力な候補になると思います。

併せて、そのビジョンを社長が熱く語っているかどうか、にも注目してみてください。社長の思い入れの強さは事業を成功させる原動力なので、トップの情熱やエネルギーを感じられる企業は良い会社だと個人的に思っています

マクドナルドの藤田田社長は、まさにそういう人物でしたね。採用活動にも積極的に参加され、学生に向けて「自分たちはどういう方向に向かいたい、どういう人間を育てたい」ということを熱心に語ってくれていました。

入社後も、本社に行けば「昼飯食った?」などと気軽に声をかけてくださる方で、週末は必ずどこかの店舗を回って食事をされていました。そうした姿は、経営者として非常に尊敬をしています。

ちなみに、当社が掲げているビジョンは「五方よし」のビジネスをすることです。近江商人が実践していたという「三方よし」(買い手よし・売り手よし・世間よし)の言葉に、当社独自で「つなぎ手よし」「未来よし」の2つを加えました。

人と人をつないで皆の人生を良くしていきたい(つなぎ手よし)、次の社会に良い形でつながっていくようなことをしたい(未来よし)、という思いを込めています。このビジョンのもとで、これからもやりたいことが出てきたら、ワクワクする気持ちを大切に、心から楽しみながら積極的にチャレンジをしていくつもりです。

諏訪さんが贈るキャリアの指針

取材・執筆:外山ゆひら

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