得意にとことんフォーカスして成長しよう|仕事は困難なもの、だからこそ楽しく

G2 Studios(ジーツースタジオ) 代表取締役社長 桜井 敦さん

Sakurai Atsushi・大学卒業後、建設機械メーカーを経て、人材業界で営業やコンサルティング経験を積み、2012年ベインキャリージャパン(現ギークス)に入社。IT人材事業本部長から、2015年ゲーム事業本部長に抜擢。2018年、ゲーム事業の分社独立という形で、G2 Studios(ジーツースタジオ)を設立した。同社は「アソビ創造集団。」をミッションに掲げ、「アイドリッシュセブン」などの人気ゲームを生み出している

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人材業界での経験を糧に、満を持して起業

明確なビジョンがあったわけではありませんが、いつかは起業し、経営者になりたいと学生時代から考えていました。人に雇われるよりは、同じ志を持った仲間と事業を作っていきたいという気持ちが強かったんだと思います

そんな願望を秘めつつ、大学卒業後は建設機械メーカーで営業を経験し、その後人材業界へ。さまざまな業界の経営層と話ができ、人脈を築くことができ、また、経営の一端を垣間見ることができる人材業界は、起業に向けた絶好の勉強の場だったと感じます。営業、経営、コンサルといった領域における自分のスキルも磨くことができました。

人材業界で経験を積む中で、大きな出会いがありました。当時、ベインキャリージャパン(現ギークス)を設立したばかりの曽根原(ギークス代表取締役CEO)との出会いです。過去に会社を上場させた経験のある社長から学ぶことも多いと感じ、彼の元で働くことを決めました。自分が培ってきた人材業界での経験を、新たなフィールドで生かせるのではないかとも考えましたね。

ギークスはまだ設立されたばかりで、小規模ながら活気がありました。しかし課題は多く、その課題解決に自分の力をぶつけたいと思いました。

そんな気持ちで、ギークスで人材事業を担当していましたが、組織の再編にともなって突如ゲーム事業を率いることになり、事業部として2年間の助走を経て分社独立。「G2 Studios(ジーツースタジオ)」を設立しました。

仕事とは困難なもの、だからこそみんなで楽しく

全く経験のないゲーム事業への抜擢は本当にびっくりしました。曽根原(ギークス代表取締役CEO)は「来月からよろしく」というノリでしたが(苦笑)。私が入社した当初はまだまだゲーム部門は小さかったものの、組織的課題も多く再編が必要な状態でした

突然の畑違いの抜擢で驚きこそしましたが、大変だとは感じませんでした。私はそもそも「仕事とは困難なもの」だと思っています。だからこそ、それを楽しみに変えることが重要だと思うんです。

困難がある仕事をいかに楽しむか。そのためにはルールやテンプレートにおさまらず、柔軟な思考で切り抜けること、そして、成功するまで粘り強く取り組むことが大切だと考えています

その一方で、困難を1人で乗り越えることは到底無理ですから、仲間や組織を活かしていくことももとめられます。目指す方向が近い仲間を集め、それぞれが輝けるように、適性に応じて役割をお願いする。たとえうまくいかなくても、最後まで見捨てない。そうやって、仲間と一緒に組織の中でキャリアは形作られていくと信じています。

先々のキャリアを決めすぎてもナンセンス

起業までのキャリアも、起業後の事業も、全て計画通りに進んだわけではありません。そもそも細かな計画を立てなかったからこそ、ここまで進んでこれたのかもしれません。人に敷かれたレールを歩むのはもちろん、自分で敷いたレールに沿ってキャリアを進めていくというのも、ナンセンスだと思ってしまうんです。

ぼんやりと起業を志していたけれどまずは会社員をやり、人材業界しか知らないのにゲーム事業の舵取りを任され、さらには分社独立し、経営者になった。このキャリアに一貫性はありませんが、目の前のチャンスに柔軟に対応することで、切り開いてきました。人も社会も自分も変化するものですから、そのときどきで最適な道を探ってほしいものです。

実際、事業部の時と会社として独立した後で、事業内容が大幅に変わったわけではないですが、経営者になったことで、今までとは違う視点や難しい判断をすることが数多くあると感じています。これは会社を設立するまで予想できなかったことですから、前もって計画したところでどうにもならないこともある、と割り切っています。それくらいのマインドがちょうど良いと思いますよ。

初めて社会に踏み出そうとするみなさんは、自分が働く業界や企業をどうやって選んだらいいのか、途方に暮れますよね。でも、キャリアの選択は究極的には2つの方向性しかないと思っています。

1つはミッション軸自分がやりたいこと、仕事の内容や役割をキーに選ぶという観点です。その会社が扱う製品やサービスが、自分のやりたい仕事内容につながっているかを考えるのです。

もう1つはカルチャーフィット軸。経営者の考え方、社員の雰囲気、意思決定のスピードや働く環境など、社風が自分にマッチしているかを重視する方向性です。アルバイトやインターンシップ(インターン)ができれば、会社のカルチャーをある程度感じ取れますし、採用担当者に気になることをどんどん聞くのも良いのではないでしょうか。

どちらの軸を自分は大切に考えるのか。それを見つめるだけでも、納得感の高い就職につながると思います。

インターネットとリアルのいいとこ取りを

私が就職活動をしたのは、もう20年以上前なので、今と状況はずいぶん違います。インターネットが普及したことで、やりやすくなった部分も多いでしょうし、さまざまな情報を入手できるようになったために情報に翻弄されるなど、逆に難しくなっていることもあるように思います

公の場に出ている情報は、会社にとって都合の良い情報がほとんどです。しかし、課題のない会社なんて存在しませんし、見方によっては良い面が悪い面に捉えられることもあります。会社のマイナスな部分や課題は、リアルで確認するしかないと思います。

気になる会社や業界があれば、説明会はもちろん、インターン、アルバイトなど接触の機会を作って、実態を知る。その上で、会社の悪い面が自分にとって許容範囲の事柄なのか、見極めると良いのではないでしょうか。インターネット上の情報と、自分の足で探した情報の両方をうまく使って、自分にとってより良い選択をしてほしいです。

若者ならではの新鮮な考え方と行動力に期待

これからの社会はますます年功序列が崩れ、「新卒だから」という言い訳も通用しなくなると思います。これを逆手にとって考えると、経験のない新人であっても挑戦できるし、活躍や抜擢のチャンスが大きくなるということでもあります。何かを成し遂げたい人には、ある意味で今よりトライしやすい世の中になるのではないでしょうか

企業が新人や若者に期待するのは、新しい考え方や行動力です。これまでの常識や業界の慣習からはみ出た考え方こそ、新人にしかもたらせない利益です。

当社の場合ですとゲームを扱っているので、ユーザーに近い若者の意見が特に重要です。自分は経験がないからと尻込みせずに、自分なりの考えをしっかり主張してほしいと思っています。

行動力も若者の特権だと感じますね。スピード感を持って実行に移す集中力や情熱に期待したいです。私は「石の上にも三年」という言葉は、すっかり過去のものになったと思っています。待つ必要はないですし、スピーディーに変化できない人材や会社は淘汰される時代になるでしょう。

そして最後には成功への意欲を見せてほしいです。大きな野望や夢でなくても構いません。何か成し遂げたいことがある人は、どんな状況でも強いです。心に秘めず、その野心を表に出すことで、成功への道も開けていくと思います。

キャリアの壁は、新しい世界への扉

せっかく入社して意欲に燃えて働いていても、いつかは壁にぶつかることもあるでしょう。うまくいかないことがあるのは当たり前です。自分自身のキャリアを振り返っても、思った通りに進まないことは多々ありました。でも、悩んだことはありません。

うまくいかない時には、悩まずに「考える」ようにしてきたからです。自分の中に閉じこもって悲観的な気分にならないよう、まずは目線を外に向け、徹底的に情報を集めて原因を分析します。違う業界の人に会うのも良いですね。客観的に考える足掛かりができます。ときには、ずる賢いくらいになっても良いと思いますよ。

明るいところで、仲間と一緒に考え、さらに上司も巻き込めたら最高です

キャリアの行き詰まりや壁、うまくいかない時には、逃げたくなって当然です。しかし、「嫌だ」とか「逃げたい」と思うと、体や頭が働かなくなってしまうんですよ。本当は解決できる課題も、見誤ってしまいます。ネガティブな感情で自分の動きを封じる前に、悩まずに「考える」方策をとってほしいですね。壁を越えたら、新しい世界に進んでいけると信じて。

会社に全てを託さない、意思決定の遅い会社に見切りを

それでもキャリアの停滞や壁を感じるのであれば、居場所を変えるのも一考です。終身雇用はとっくに崩壊していますから、前向きな転職を考えてほしいですね。転職先を見定めるには、経営者の考え方やカラー、意思決定のスピードに注目してはどうでしょうか

これだけ情報化され、日々移り変わっていく社会で、スピーディーな意思決定はマストです。機会損失を減らすためにも、無駄な時間やタスクが削減されるべきなのは言うまでもありません

でも、いまだに決裁までの時間や手順が長い会社も多いんですよ。一概には言えませんが、業種や業界を問わず、意思決定が遅い企業は衰退しますから、そのような点も見ながら転職先を探すのも良いかと思います。

当社では就職面接時に、少しだけ変化球の質問をすることがあります。準備していなかった答えや会話にこそ、人の本性があらわれると思っているからです。たとえば、「出会ったばかりの私を褒めてください」とお話ししたこともありましたね。話の内容を評価するのではなく、想定外の問題が起こった時にパターン思考から抜け出す様子を見たいんです。

想定外の質問に対して、つい出てしまった「正直な自分」を大切にしてください。自分の人生だから、自分に嘘はつかないでほしい。そして、会社も一人ひとりの正直な本音を聞きたいと思っています。そのスタートの場の一つとして就職面接を活用するのも良いかもしれません。

これからの時代は、一つの会社に一生勤める人が主流ではなくなっていくと思います。自分の専門性を磨くもよし、ゼネラリストとして経験を積むもよし。会社の枠に囚われず、成長の機会をもとめてほしいですね。また、自分の選択がぶれないよう、自身の良い点・得意なことをどんどん伸ばし、「自分が強みにできるところ」を持っておくべきだと思います。

また、欠点のない人なんていません。過去にもダメなところがある人が、必要とされる場所で成功を積み上げてきたのを見てきました。私も欠点を持ちながらも、小さな成功を重ねてきた人間です。だから完璧な新卒就職を目指すのではなく、その後の成長を目指してキャリアを積み上げることにこそ、力を入れてほしいです

あなたの得意が磨かれる場所、仕事、キャリアがきっとあるはずです。

取材・執筆:鈴木満優子

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