今しかできない「おもしろいこと」に全力で取り組もう|真摯に素直に行動することが目指すキャリアにつながっていく

シノプス 代表取締役社長 南谷 洋志さん

シノプス 代表取締役社長 南谷 洋志さん

Hiroshi Minamitani・関西大学工学部を卒業後、基板商社、部品メーカーを経て独立。1987年シノプスを設立。独自の在庫管理ソフトから、小売・物流向けのシステムを展開する。2018年東証マザーズに上場

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子どもの頃から独立を胸に築いたキャリア

起業をぼんやりと考えはじめたのは、小さい頃に実家の手伝いをし始めた頃からでした。

実家が果物屋を営んでいて、その手伝いをしていくなかでなんとなく「自分はサラリーマンには向いていないんじゃないか」と思ったことがあって。それに自分の性格上、上司に指図される働き方は合わないだろうとも感じていました。

それでも大学を卒業してすぐに起業できるわけもなく、ビジネスを学ぶには商社が良いと思い、部品商社に就職しました

その後、独立したいという思いが大きくなり、1社目の会社は結局入社から3年で退職しました。しかし同時期に結婚もしたので、いきなり路頭に迷うわけにはいきません。起業をして家族を養っていけるかという不安もあったので、独立に踏み切れていませんでした。

そんな迷っていた自分を見てくれている人はいるもので、当時お世話になっていた先輩から入社の誘いを受けました。その会社はメーカーだったのですが、ビジネスの勉強もできると思い、いずれ独立したい旨を正直に伝えて入社しました。

昨今では大学在学中から起業する人もいますが、会社員経験が必須かと問われれば、必ずしも必要だとは思いません。その時々でおもしろいと思う方へ進むのがベストだと思います。私にとって会社員経験は、生きたビジネスを学ぶ場になったし、自分の会社を立ち上げるための大切な人脈を築けた、貴重な時間でした。

誠意を持って行動していれば、見ていてくれる人がいる

2社目のメーカーでは、営業所の立ち上げに関わり、売上の拡大にも貢献。私が入社してから6年後には、売上は約10倍にまで成長しました。会社員としての仕事が忙しく充実する中でも、いつかは起業したいという思いは依然持ち続けていました

すると、あるお客さんが「あなたに1年分の発注をするから、独立しないか」と持ちかけてくださったんです。いつか独立したいということは入社のときに伝えてあったので、会社にもこの件を素直に相談しました。するとさらに驚くことに、会社側も資金を提供するので、ぜひ独立したら良いと後押ししてくれたんです。

普通なら引き止められたり、嫌がらせを受けたりもしかねない場面ですよね。私自身も、会社には伝えずお客さんを奪って独立することだってあり得たかもしれません。

でも、そんなことはしたくなかったし、する必要もなかった。お客様と私がおこなっていた分野がニッチなので、会社としてはお金を出してでも取引を続けたかったということもあるし、元から私が独立宣言をしていたので、気持ちよく送り出してくれたという面もあると思います。きちんと実績を出して会社に貢献したので、今後のビジネスパートナーとしても信頼を得られたという点も少しはあったのかもしれません。

どんなときも、真摯に愚直に誠意を持ってやるのがポリシーです。真面目に全力で取り組んでいれば、きっと見ていてくれる人がいるものです。中途半端は意味がないし、逃げ出したらそこで終わってしまいます。真っ直ぐ正面から向き合って取り組めば、誰かが引っ張り上げてくれる。心の底から、そう思います。

南谷さんのキャリアの変遷

どんな学びも経験も、一生懸命取り組めばいつか花開くときが来る

私は周囲の力添えもあって、とうとう組み立てをおこなうメーカーを立ち上げて、自分のビジネスを形にできました。メーカーとしての仕事に邁進していたある時、お客さんの物流倉庫に大量の在庫が滞留しているのを目にします。適切な在庫管理がなされていない状況でした。

振り返ると私の大学時代の研究テーマは、在庫管理。自分の知識を使えば、より良い在庫管理ができるだろうと思ったんです。そこで気軽にお客さんに提案をしました。「適当なソフトウェアを見つけて、それを使って在庫を管理しましょう」と。しかし、探してみても、その頃は適当なソフトウェアがなかったんです。

そこで自分たちで在庫管理ができるソフトやシステムを開発することにしました。たった一つの会社への提案から始まったこの事業は、いつしか当社の屋台骨を支えるものになりました

大学時代に勉強していたことが、長い時を経て生かされることがあるなんて、びっくりしますよね。自分自身も大学で学んでいたときに、これを本業にしてビジネス展開をしようとはつゆほども思っていませんでしたから、本当に偶然の導きは不思議なものです。

一方でどんな学びも経験も、どこで花開くかわからないものだと感じます。こんな勉強をしても意味がないとか、無駄に時間を費やしてしまったとか、そんな後悔は必要ありません。一生懸命学び取ったものは体に残っているので、いつか思いがけないところで活用されるかもしれませんよ。

南谷さんからのメッセージ

苦労が人生の引き出しを増やしてくれる

独立後から今まで、経営者として少なからず苦労を重ねてきました。長年資金繰りに頭を悩まし、会社が潰れそうになったこともありました。でも、不思議と「もう辞めてしまおう」と思ったことはないんですよね。

困難が訪れるたびに考えていたのは、「どうやってこれを乗り越えるか」ということ。ひたすら目の前の課題に集中して、なんとか解決しようと奮闘してきました。

乗り越えられない試練は与えられないともよく言いますよね。悩んで悩んで悩み抜いて、吹っ切れるところまでいきましょう。「人事を尽くして天命を待つ」というのは、そういうことだと思います。

キャリアの凸凹があってこそ人生の引き出しが増えると思いませんか。苦労して乗り越えた経験は必ず人生の糧になります。辛い、しんどいと思う前に、真正面から挑んでいけばなんとかなるものですよ。

知識は3次元的に得よう

シノプス 代表取締役社長 南谷 洋志さん

私は将来起業したいというビジョンのもと、会社を選びましたが、キャリアのビジョンやイメージが湧かないときには、どんな社長と働きたいかを考えてみましょう。会社には経営者のキャラクターが反映されます。経営者への共感なくして、その会社で働き続けることは難しいのではないでしょうか。

こうした考えから、私自身は「社長と語ろう会」という懇親会を、かなり頻繁に開いてきました。コロナ禍では開催が難しい場面もありましたが、飾らない社長の姿を身近に感じてもらうことは意義があったと思います。

入社前であれば、社長のメッセージやSNSなどをのぞいてみても良いですよね。今はさまざまな情報、しかも生の情報もあふれているので、経営者の考え方を知ることも容易だと思います。

情報をうまく活用するには、3次元的にインプットすることも必要です。Webからの情報はもちろん本も読んでほしいのですが、これだけでは2次元的です。さらに3次元でインプットするには詳しい人に話を聞くことです。

その道のプロや知見が豊富な方に話を聞くと、文書だけではわからないことが理解できます。その意味で、入りたい会社の経営者にも、直接お話ができるような機会があると良いですよね。 

3日、3カ月、3年で適切な判断を

実際に入社した後で、転職を考える場面もあるでしょう。一昔前は、「どんなに辛くても3年は働け」と言う人もいましたが、私は必ずしもそのルールに縛られる必要はないと思っています

3日で本当に合わない会社はわかります。自分の価値観と一致しない、コンプライアンスの問題などですね。そして3カ月あれば、仕事を体験してみて全く自分に適していない場合、辞める判断がつきます。3年やれば多くの仕事は、一人前に近いところまで成長できるでしょう。自分で仕事を回せるようになって、そのうえで仕事を続けるのか考えることができます。

3日、3カ月、3年。各々の期間でわかることがあります。これを念頭に置いておけば、キャリアの転機を見誤ることはないと思いますよ。

南谷さんが考える転職を判断するきっかけ

今しかできないことをおもしろがって選択しよう

私はこれまでいつも、おもしろいと思う方へ歩んできました。人生は一度きりだから、やってみたいことをやるしかないと思うんです。学生であれば、学生にしかできないことをやりきってほしいですね。特にスポーツ、楽器、アートは、体験しておいてほしい。自分の世界を広げるきっかけになります。

外国語の習得も良いですが、まずは日本語力を高めることもおすすめします。日本語をしっかりと理解して思考できるようになれば、どんな場面でも力を発揮できます。

また経験については、団体/個人、野外/室内の4つの象限に、少なくともひとつずつ当てはまるものがあれば、人生の面白みが増すでしょう。今までの経験を当てはめてみて、自分に足りない経験は今のうちに埋めていくと良いかもしれませんね。

南谷さんが考える経験の4象限

仕事は面白くないと続けられません。そして、おもしろくない仕事からおもしろさを見つけ出すのも、社会人に必要なスキルです。おもしろがれるようなマインドやおもしろさを見つけた経験が、社会人生活に大きく活きてきます。個人的に経営者として振り返ると、おもしろいことは誰かのためになり、結果的に儲かるんです(笑)。

今おもしろいと思うことを全力でやり切れば、それがいつかキャリアの中で地力として活きてきます。今だからできることを、躊躇せずトライしてほしいですね。

南谷さんが贈るキャリアの指針

取材・執筆:鈴木満優子

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