やりたい仕事への熱意を伝えたいなら「行動」を伴わせよう|環境の変化が成長を促す

セガ エックスディー 代表取締役社長 執行役員CEO 谷 英高さん

Hidetaka Tani・大学卒業後、セガに入社。ソーシャルゲーム事業の立ち上げにリードエンジニアとして従事。開発責任者として複数の新規事業の立ち上げや、スマートフォンゲームの分析基盤の構築・クラウド導入を始めとした社内DX推進に携わる。2016年より、グループ会社であるセガ エックスディー(旧クロシードデジタル)に移り、2021年11月より現職。現在はマーケティングソリューション事業・マンガソリューション事業を管掌

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なんでも手軽にチャレンジできる時代。行動を伴わない熱意では自分をアピールできない

キャリアにおける最初のターニングポイントは、2001年にセガがハードウェア事業からの撤退を決めたことです。当時は学生でしたが、「Dreamcast(ドリームキャスト)というゲーム機の製造を終了し、ソフトウェア事業に完全移行する」という同社の方針転換が、進路選択に大きな影響を与えました。

私は、ファミコンなどの家庭用ゲーム機が続々と登場した1980年〜1990年代に幼少期を過ごした世代です。子どもの頃からさまざまなゲームを楽しみ、Dreamcastも当然のようにユーザーとして遊んでいました。製造打ち切りというニュースは業界全体に衝撃が走り、大きく報じられていたので、私もいろいろな雑誌の記事を読み漁りました。

すると「セガはハードからは撤退するが、これまで以上にソフトウェアの領域に注ぎ込んでいく」とのこと。必ずしもネガティブな方針転換ではないのだなという印象を抱き、同時にセガのゲームづくりに対する情熱を感じました

さらに東京ゲームショウに参加した際、ゲーム業界の会社はライバルでありつつも、お互いのサービスやゲームが好きで、リスペクトをしあっている姿を目にしました。

そのときの姿が強く印象に残り、就職先としてゲーム業界を強く意識するようになりました。就職活動が始まる頃、最初に「入りたい」と頭に浮かんだセガから内定をいただけたことから、迷うことなく入社を決めました。

谷さんのキャリアにおけるターニングポイント

当時は今ほどアプリやツールが充実していなかったので、熱意だけで採用面接を突破してくる同期社員もいて、入社時点では個々のスキルにかなりばらつきがありました。私は学生時代に自分で簡単なアプリやサイトを作っていたので、多少は理解しているつもりでしたが、お客様に届けられるレベルに達するまでには、新たに勉強が必要でした。

しかし今の時代、ゲーム業界に入ろうと思ったら「やってみたい気持ちはありますが、やったことはありません」という熱意だけでは、就職活動を突破するのはなかなか難しい気がします。Unity(ユニティ)など無料でゲームプログラミングができるツールも開放されていますし、誰でもが簡単にゲームづくりにトライできる時代になっているためです。

採用側から見ても、学生のうちから主体的にゲームづくりをしている人は、行動をしている点で、やはり目を引きます。ゲームに限りませんが、志望する業界や企業がある人は、ぜひ「熱意」「行動」の2点を意識してみてください。

また最近は会社のミッションやパーパスへの共感性を重視しているところも多いので、インターンシップに参加して、その会社への共感姿勢やスキルの伸びしろを示しておくことは、アピールとして有効だと思います。

入りたい企業には「熱意+行動」を示そう!

新人時代は「質より量」ゴールまでの試行錯誤に時間を費やそう 

入社後はプログラマーとしてモバイルの部署に配属され、さまざまなゲームの開発・運営に従事。世の中がガラケーからスマートフォンに移行し始め、プラットフォームもどんどん変わるなかで、新規事業の立ち上げにかかわったり、ゲーム以外のシステム開発を手がけたりと、さまざまな経験ができました。

新人時代はゲームやサービスの開発過程において、かなり時間をかけて試行錯誤をしていました。3時間でできることでも、6時間かけてトライアンドエラーを繰り返してから完成させる、という感じでしたね。アウトプットやたどり着く場所は同じだったとしても、周り道をして、あれこれ試してみないと「こっちで良さそうだな」という判断ができなかったのが理由です。

この経験から、新人時代の5年間くらいは「質より量」を心がけて仕事をすることをおすすめしたいです。仕事はある程度、量をやってみないとわからないことが多いですし、最初から質を追求しようとしても、低いレベルで収まってしまうからです。

経験値が増えると、遠回りをしなくても判断ができるようになってくるので、成果物の質の追求にも時間を使えるようになります。試行錯誤した経験も、無駄にはなりません。その経験をフレームワークにして後輩たちに共有するなど、マネジメント面でも大いに役立っています。

また時間的な量だけでなく、機会量もなるべく多く持ってください。「チャンスはなんでも受ける」くらいの心構えで、できるだけ多くの経験をするのがおすすめです。若い頃ならば、仮にミスをしてもリスクは少ないですし、失敗も意義ある経験値になるしょう。無茶だと思うような仕事を振られても、いざやってみると「貴重な経験になったな」と思えることは少なくないと思います。

谷さんからのメッセージ

入社7年目には、当時の子会社であったセガネットワークスへの出向を経験。年齢の近い役員の直下で仕事ができ、その背中を見ながら、それまで知らなかった経営やマネジメントのスキルを直に学ぶことができました。

当時は、スキルを突き詰めている社内のスーパープログラマーたちの姿を見るなかで、「自分はこうはなれない」と思い始めていた時期でしたね。

やっているとマネジメントに興味や適性を見出せたので、自分は幅広いスキルを持ってやっていくほうが合っているかもしれない、と思うように。そこから「自分はスペシャリストではなく、ゼネラリストの道を行こう」と決心できたので、この経験はキャリアにおける2つ目のターニングポイントと言えるかと思います。

常に「環境変化はチャンス」と捉えてきたからこそ、今のキャリアがある

キャリアにおける意思決定では、「環境の変化をチャンスと捉える」「自分の枠の少し外を目指して歩く」という2点を大切にしています

もともと変化をチャンスと捉えるタイプの人間ですが、セガネットワークスが掲げていたスローガンにも影響を受けています。その頃に「進み続けよう」「変わり続けよう」という社内のメッセージを見てきたので、キャリアにおける環境変化はないよりあったほうがいい、という価値観が醸成されました。

違う部署に行ってみよう、エンジニアだけではなく経営もやってみよう、と前向きにチャレンジができてきたのは、この価値観に依るところが大きいです。かなり多くの部署を経験してきましたが、異動の話が来ると「またいろいろ吸収できそうだな」とポジティブに受け止めてきました。

「自分の枠の少し外を目指して歩く」というのは、スペシャリストではないからこその指針かもしれません。今の時点で自分が網羅している範囲の枠よりも、少しだけ広い部分にアンテナを立てておこう、いざ話が来たときにチャレンジできるようプラスαの準備をしておこう、といったことを意識しています。

「自分の仕事」を作るには

私にとって充実したキャリアの状態とは、お客様、同僚、家族など「周りの誰かの助けになっている」と感じられる瞬間です。振り返ってみれば、生徒会で書記・会計という生徒会長を支える立場を担ったり、部活動でも副キャプテンを務めたりと、先頭に立つ存在というよりは、誰かを助けたり役立ったり、というポジションに適性を見出していました。

今は社長という役割を任せてもらっていますが、親会社を支える立場であるグループ会社の代表というのは、自分に向いている気がしています。ガンガン引っ張っていくタイプのリーダーではないので、スタートアップの起業家などは向いていなかったと思いますね(笑)。役員や社員たちと一緒に考えて進んでいく、というのが私の持ち味かなと思っています。

これからのキャリアでは「より多くの人にエンタテインメントを届ける、エンタテインメントの可能性を広げる」ということに取り組んでいきたいです。セガグループの目標設定シートに「大志」という項目があるのですが、今はこの内容を大志として掲げています。

ゲーム業界に入るときにも「たくさんの人にゲームを届けたい」と考えていましたが、ここ数年、ゲームの枠を超えたエンタテインメント関係の仕事が増えてくる中で、より目指したいことの範囲が広がった形です。仮に会社の外に出ることがあっても、この大志は追い続けていきたいと思っています。

共感を持てる企業のほうが意欲的に成長できる。未来に向けた動きをしているかも見定めよう

ファーストキャリアを検討する際には、子どもの頃になりたいと思っていたもの、憧れていたものを、ぜひ一度、振り返ってみてください。それらの原体験には、「自分が何を大事にしたい人間なのか」「どんなことに共感を覚えるのか」についてのヒントが隠れていることが多いです。社会や価値観が多様化している時代なので、自分が大切にするものは知っておいたほうが就職活動に臨みやすいです。

そのうえで、自分が共感するもの、大切だと思うものが少しでも存在する会社を選ぶことが、良いファーストキャリアにつながると思います。大手企業か、ベンチャーやスタートアップの企業か、といった要素は、個人的にはあまり気にしなくていいと思いますね。待遇や制度にあまり差がなくなってきているからです。

それよりも、自分との相性が良さそうな業界、パーパスやビジョンに共感できる会社があれば、そちらを有力な候補にしたほうが良いと思います。その業界が取り組んでいること、会社がやろうとしていることに共感を覚えているほうが、自分も意欲的に取り組むことができ、成長しやすいのは確かです。

また、学生の人は「今」という視点で企業を見がちですが、意識的に「これから先」を見る視点も持ってみてください。具体的には「将来への投資をしっかりして、事業を拡大しているか、しようとしているか」といった視点を持つのがおすすめです。

売上高に対する研究開発費の割合が大きい企業、海外売上が拡大している企業、若い人にもきちんと報酬を出している企業などは、先を見ている将来性ある企業の特徴だと思います。そうした会社では必然的に成長機会も多くなるので、ぜひ注目してみてください。

併せて、会社のやっている事業が社会課題の解決につながるか、といった観点も見ておくといいかもしれません。世界的に見ても「課題先進国」と言われている今の日本においては、単にお金儲けではなく、何かしら社会課題を解決できると感じられる事業のほうが、やりがいをもって取り組めると個人的には思います。

企業研究で見るべき3つのポイント

  • 会社が向いている方向に共感できるか

  • 将来への投資(研究開発、海外進出、若手の待遇改善など)をしているか

  • 社会問題の解決に貢献できる事業内容か

エンタテインメント業界も、さまざまな形で社会貢献ができる業界だと感じています。海外では「ゲームはうつ病などのメンタルヘルスを改善につながる」といった研究結果も出ていますし、コロナ禍という世の中が大変な時期にも、多くの人の癒しや精神的な救いになっていました。

ドラマや映画、アニメや漫画などを見て「自分もこういう人生を送りたい」「こういう仕事をしてみたい」といったキャリア観を養う人も多く、将来を決めるうえでも、かなり人の役に立っている業界である気がしますね。他の人の人生を擬似体験できることは、エンタテインメントが持つ素晴らしい側面だと思います

複数の軸を持つと「希少な人材」になれる。言語化のスキルは身に付けておいて損はない

キャリアの選択肢には「ひとつのことでNo.1を目指す」という道もありますが、どんな世界にも上には上がいるので、特定の分野のスペシャリストとしてキャリアを貫ける人は、実際にはそう多くありません。

私のように「自分の持ち味を生かせる軸を複数持つことで希少性を高める」という方法論もあることはぜひ知っておいてください。複数の軸を持つためには、積極的に行動して経験を増やす意識が有効です。

また、AI技術は日々進歩しており「物事の根本的な部分を考えられる人」は需要が高まるでしょう。また、先に挙げたように、今の日本や組織には課題が多いので、「課題解決ができる人」も重宝されると思います。課題に敏感になるためには、常に「なぜこうなんだろう」という目線を持って日常を過ごしてみることが有効です。

たとえば好きな有名人がいたら「自分や他の人は、なぜこの有名人に好感を持つのか」について考えてみる、といったところから習慣づけていくといいと思います。自分の考えや疑問に向き合い、言語化していると、物事をより深く理解できますし、人ともコミュニケーションが取りやすくなります。

自分の考えを言語化する習慣は、壁にぶつかったときも役立ちます。私はキャリアアップのスピードが割と速かったので、悩んだときは、家族やメンターの方など第三者によく相談をしていました。人に相談をする際には自分の考えを言語化するので、その過程で考えを整理できていたように思います。

自分ひとりで考えていると余計なことまで考え及び、ネガティブな気分に陥ってしまうことも多かったので、「いろんな人の力を借りて解決したほうがいい」と思うようになりました。いざというとき、人に助けてもらえるような人間であれるよう、日々感謝を忘れずに過ごすことも心がけています。

ここ数年はリモートワークが中心になり、チャットなど文章でやりとりをする機会がどんどん増えていますが、うまく言語化できないと「伝わった感」だけのコミュニケーションになりやすい実感があります。業界にもよりますが、これからのビジネスはそうしたコミュニケーションが中心になってくると思うので、自分の考えを言語化して簡潔に相手に伝えるスキルは、学生時代のうちから磨いておいて損はないと思います

谷さんが贈るキャリアの指針

取材・執筆:外山ゆひら 

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