キャリアで大切にしている「ケセラセラ」という考え方とは? 就職活動では理想を追いすぎて思い詰めないようにしよう
ダイオーズジャパン 取締役飲料事業本部事業統括本部長 小泉 直樹さん
Naoki Koizumi・2000年に大学卒業後、ダイオーズに新卒入社。営業部署に配属となり大阪支店を経て福岡に赴任。2003年に福岡支店長。その後も千葉、東京の支店や営業所のマネジメントに携わる。2017年から商品・事業開発の部署を担当し、その後、開発本部本部長に就任。2023年より現職
就活のポイントは思い詰めすぎず、理想を追いすぎず
私が就活していた頃はバブル崩壊後、いわゆる就職氷河期でした。書類選考で落とされ面接に進めなかったこともあります。実際に会って評価を受けるチャンスさえ与えられなかったのは悔しかったですね。
ただし、あまり落ち込むことはありませんでした。まわりには厳しい就職状況を嘆き、就職がうまくいかなければ人生はお終いだと思い詰めるような者もいました。現在の就活生も同じかもしれませんが、自分を追い込みすぎないことが大切です。
ファーストキャリアを選択する際には理想の就職像を思い描きがちですが、それにこだわると選択肢を狭めるだけです。理想より自分の「今」を大切にすること。いずれの選択肢を選んでも後悔しない。その強い意志を持つことで怖いものはなくなります。
社会人としては、入社するときが最も経験値がなく情報量も少ない状態です。そんななかで会社を選ぶのは現実として極めて難しい。おそらく経験を積んだ40代の人たちに「就職活動によって理想の就職を果たせたか」と尋ねるアンケートを取ったら、もしかすると8割ほどが「NO」と回答するのではないでしょうか。
ダイオーズを含む数社の内定をいただけたことには私もほっとしましたが、就職は始まりにすぎません。本当に大切なのは理想に囚われた就活の結果ではなく、そこから社会人としてどのように生きるか。そちらの方です。
就活を失敗しても良いとまでは言いませんが、それで落ち込みすぎることはないと、人生の先輩としてはアドバイスしたいですね
仕事の選び方のおすすめは「好きなものにかかわる仕事」であるかどうか
法人用コーヒーマシンのレンタルをはじめとするオフィスサービス事業を手掛けるダイオーズジャパンを志望した理由は2つ。ひとつは大学時代に専攻したマーケティングの仕事に興味があったこと。もうひとつはコーヒーにかかわる仕事をしたかったから。つまりダイオーズジャパンでなら飲料事業のマーケティングにかかわれると考えたからでした。
企業選びの根拠は将来性や企業風土などいろいろあると思いますが、私は自分が好きなものに携われそうかどうかを重視しました。それが私の場合はコーヒーだったわけです。どんなに有名な大企業でも自分が嫌いなものにかかわり続けるのはつらいですよね。
私は超の付くコーヒー好きだったわけではありませんが、若い頃には、年齢を重ねたら喫茶店のマスターになってコーヒーを生業にしてみたいと思ったこともあります。その理由は単純で、好きだった高校野球アニメ「タッチ」に登場する喫茶店「南風」に憧れていたからです。
そんな理由に導かれた就職でしたが、いま思えばそれが現在のキャリアの出発点になったわけです。私にとって何かの縁があってのファーストキャリアとの出会いでした。
ファーストキャリアとの出会いは偶然にも左右されますが、自分側で準備すべきことがあるとしたら、それは「なるべく自分に正直な未来予想図」を思い描いておくこと。たとえばお金を稼ぎたいのか、偉くなりたいのか、社会に貢献したいのか、中身は人それぞれでいいのですが、誰にも話す必要はないのだから限りなく正直になって描いてください。
私の場合は「管理職になってみたい」と思っていました。偉くなりたいとかではなく組織を動かせる立場になって自分の力を試してみることに興味がありました。
期待と違う配属になることもある。先のキャリアを考えて落胆しない発想を持とう
入社前はマーケティングに興味がありましたが、実際に配属されたのは営業部署でした。ですが、落ち込むことはありませんでした。
大学で学んだからといってすぐに仕事ができるほどのマーケティングの力はないと自覚していましたし、最初は社会の仕組みや会社の組織を学ぶところから始めるのが重要なことも理解できていたため、抵抗はなく受け入れました。営業の仕事はその目的に合うものだと感じたので「マーケティングの仕事がしたくて入ったのに営業か」とは思いませんでしたね。
飛び込み営業から始めましたが、辛い思いをしたり失敗したり、心が折れそうになることもありましたが、弱ったときに元気づけてくれる同僚や話をして楽になれる同期たち、相談に乗ってくれる上司や先輩がいたことで乗り切れました。
そういう意味では職場で自分の居場所がある会社が良い就職先だと言えるかもしれません。学生時代のアルバイトでも、嫌になって辞めてしまった職場もありましたが、理由は人間関係でした。入社前に就職先の人間関係まで見極めるのは困難ですが、会社側の窓口となる人事担当者やリクルーターを観察することで、ある程度感じ取れるものはあるはずです。
東京から大阪へ転勤し、さらに福岡支店へ移り、2年後には福岡支店長になることができました。思いがけず早いタイミングで管理職になったわけですが、嬉しいというより本音は「自分にできるのか」と怖さを感じていたのを覚えています。
それまでは自分が会社や上司を見る立場。これからは自分が見られる立場だと考え、それまで着ていたヨレヨレのスーツを全部買い替え、気合を入れ直して管理職の第一歩を踏み出しました。
しかしそこで思い知らされたのは、自分の力の無さ、至らなさでした。それを経験できたことが自分のキャリアにおけるターニングポイントでした。当時、厳しい指摘をしてくれた上司は真の意味での恩人と言えるかもしれません。
ただし自分の非力さを突き付けられても落ち込まなかったのは、自分の良さだと思います。なぜなら成功体験はその後の参考にならず成長にもつながりませんが、失敗の体験は150%自分のためになるし、そのときこそレベルアップが図れるからです。失敗を自分の糧にできる能力はとても重要だと確信しています。
失敗と成長の繰り返し。それが40歳を超えた頃から自身の能力の礎として仕事を支えてくれるようになります。
ときには正直に「HELP! 」と声を上げることも大切
仕事をしていれば壁にぶつかることは必ずあります。私は無理に壁を乗り越えなくても良いと考えています。少し前に「逃げるは恥だが役に立つ」というTVドラマがありましたが、まさにそのタイトル通り。壁にぶつかって撃沈してしまうくらいなら、逃げても良いし迂回する手もある。
仕事は真剣勝負ですが、思い詰めては絶対に駄目。ときには正直に「HELP! 」と声を上げることも大切だと思います。
逃げても負けても自分の人生です。こうでなくてはならない、なんてない。ただし必要なのは、それを忘れず覚えておくこと。壁に立ち向かったのか、逃げたのか、迂回したのか。その結果を忘れずにいて、後から振り返ってみて経験値として生かせるのならば何だっていいじゃないか。私はそう思います。
経験値を高めることこそ重要で、人から聞いただけの話に囚われたり、間違った先入観で物事を判断してしまう誤りを避けるには、自分の経験値を上げるのが一番有効だからです。
もうひとつ充実したキャリアを歩むために必要なことは高い目標設定、大きなグランドデザインを掲げ、それらを実現できたときの充実感を知ることに尽きます。人生一度きり。その大半を費やす仕事は楽しむべきでしょう。
目標や大きなグランドデザインは会社が与えてくれるものではありません。考えてみてください「会社」という名の人は存在しません。会社とは組織の概念ですから、会社が目標を作って与えてくれるわけではないのです。それは自分が作るべきものです。
たとえば、人によっては自宅にいる時間に負けないくらい長くオフィスで過ごす人もいます。その人たちに心から美味しいと思ってもらえるコーヒーを提供したいと考える。それでほっと一息つく時間を持ってもらいたい。
そういった目標設定は自分の中から出て来るもの。そしてそれをどう実現するか。グランドデザインを描き、それを基に実現するための設計図や道筋を論理的に考える。そうやって苦労の末に思いを達成できた喜びや充実感は何ものにも代えがたいものがあります。
しかも1人ではできないことですから、苦労を共にしたチームの仲間たちと喜びを共有できる。私にとってはそれより楽しい体験はありません。
失敗したときこそ「ケセラセラ」という考え方
私にとって仕事や働くことの意味は年齢とともに変化してきました。20代から30代前半までは、とにかくガムシャラになりふりかまわず猪突猛進でやってきました。実績を上げて出世を目指す。そんな仕事観ですね。
ところが30代半ば以降は変化しました。そろそろ人生の折り返し点を自覚すると、残りの人生で自分が何を残せるかを意識するようになったからです。残り半分で全部やり切ろうと、挑戦意欲が高まりました。
また若い頃は自己顕示欲も強く、自分を守りたいがために自分自身がプライドに振り回されていた時期もありました。いまはそんなかつての自分に対して「それ、カッコ悪いし意味ないよ」と言ってやりたいくらいです。
かつての上司がよく言っていたのが「人間は自分を守るのは大好きだが、自分ができなかったことを振り返るのは嫌いだ」ということ。だから常に自分を振り返り、自分の仕事や行動を見つめ直す。それを習慣づけるようにしてきました。
それで振り返って落ち込むこともあるんですよ。でも、それも笑い飛ばせるくらいの人生ならちょうどいいのかなとも思います。「なるようになる」という意味の「ケセラセラ」。私が好きな言葉で、仕事をおこなううえで大切にしている考え方の一つです。
取材・執筆:高岸洋行