目標を「遠くに、高く」おけば成功に近づく|20代でのゴール設定のために今はインプットに励もう
BuySell Technologies(バイセルテクノロジーズ) 代表取締役社長兼CEO 岩田 匡平さん
Kyohei Iwata・東京大学工学部システム創成学科卒。博報堂を経てマーケティングコンサルティング等を提供するOWL(現AViC)を2014年に創業し代表取締役就任。ベンチャー企業を中心とした急成長企業のマーケティング活動を幅広く支援。2016年6月、BuySell Technologies(バイセルテクノロジーズ)のコンサルティングを開始し、2016年10月に取締役として同社に参画。リユース事業全体を管掌し、2017年9月、代表取締役社長兼CEOに就任し、現職。2019年、東証マザーズ上場
スマホを置いて本を読み、どんどん人と交流し会話して世界を広げよう
「スマホゲームをやめよう」。これは、学生を前にすると常々言っていることの1つです。これからのキャリアをどうしようかと悩んだり迷ったりしているのであれば、なおさら伝えたい。
スマホをいじっている暇があったら新聞や本を読む、テレビの報道番組を見てみるなど、とにかく色々なことを吸収してほしいと思います。自分の人生をどう生きるのか、何を成し遂げたいのか、それを知るには大量のインプットが必要です。
人間の脳はインプットされた概念でしか思考できません。どんな業界、職業が自分に向いているのかを本当に知りたいのであれば、外の世界に目を向けること。色々な知識を吸収してウィキペディアみたいになることです。
友達と旅をする、恋をする、家族と会話するなど、人とのコミュニケーションで五感を鍛える時間も大切です。コロナ禍であっても、なんとか人と会う機会をつくる努力はしてほしいです。
インプットの量を増やす方法の例
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新聞・本を読む
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テレビの報道番組を見る
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友達と旅をする
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恋をする
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家族と話をする
何となくスマホを触る、眺めている人も多いと思います。スマホを置いて意識的に世界を広げてみましょう。インプットの量が増えるにしたがって、自分はこの先どう生きていきたいのかがきっと見えてくると思います。
「20代で起業」を目指す。ぼんやり描いていた物理学者の道からの転換
偉そうに言っていますが、自分自身、将来のことはぼんやりとしか考えていませんでした。
高校時代は周囲に比べて数学と物理がとても得意だったので理系学部に進学。東京大学に入学した当初は、漠然と「物理学者になるのかなあ」などと考えていました。でも東大で過ごして少しすると、周りのレベルは驚くほど高いことに気づいたのです。
次第に、物理の世界を極めるのは難しそうだと確信。また、家庭の状況から考えても大学院に進む余裕はなさそうだという現実が見えてきました。就職という道を考えようとはっきりしたのが、大学2年の終わり頃です。
就職活動を前にさまざま考え、迷いに迷いました。結果、「経営者として生きていきたい」との想いから起業を目標に設定しました。
きっかけは、当時世間を騒がせていたヒルズ族の華々しい活躍。その頃のテレビといえば、堀江貴文(ホリエモン)さんを筆頭に、サイバーエージェントの藤田晋さん、楽天の三木谷浩史さん、USENの宇野康秀さんなどのIT長者たちが、これまでの常識を覆していく話題で持ちきりでした。
この先、30代、40代をどのように過ごしたいかと考えたときに「ああ、こんな生き方もあるんだな」「こんな世界もあるんだな」と衝撃でしたし、やはり影響を受けました。
「経営者として生きていきたい」。でも、先立つ資金も人脈もない自分には、いきなり起業はどう考えても無理です。「とにかく一旦民間企業に就職して勉強してから、20代で起業しよう」、そう心が決まりました。
起業に役立つとの視点から、広告、コンサルティング業界を軸に企業探し
民間企業への就職となると、通常、理系の学生の多くはエンジニア職を選びます。でも、あくまでも「起業準備のための就職」という視点で職種や業界を選びました。
どの分野で起業しても必要となるのが、営業とマーケティングスキルです。それを最も習得できそうな広告とコンサルティング業界に絞り込みました。
入社を決めたのは博報堂。当時、博報堂のインターンは結構有名で、インターンに参加するにも実は100倍くらいの倍率だったようです。
大学3年の夏にインターンに参加して、その後面接を何回か受け採用となりました。結局、受けたのはその1社だけ。就職活動らしきことは何もしないまま内定をもらいました。
自らに負荷をかけて追い込むことで、目標ギリギリに起業に踏み切る
起業までの道のりは甘いものではありませんでした。会社では成果を出し良い評価ももらっていましたが、入社4、5年目、20代後半になってくると悩むことが多くなってきました。
起業に向けて焦る気持ちも募り始めたのもこの頃。思いもよらず負のサイクルに陥り、コンディションは悪くなる、仕事のパフォーマンスもどん底状態になるなど、苦しい時期を過ごしました。
一方で、結婚して子どもにも恵まれ、マイホームの購入も決めました。プライベートを着々と前に進めることで、どんどん背負うものが増えていきました。
自分に一気に負荷がかかったことで、「ここまでして、立ち行かなくなったらどうしよう」ではなく、「ここまできたら、やるしかない」と、結果的に自らを追い込むこととなりました。
思い悩んでいる暇はありません。残り時間わずかになって、「覚悟して起業するんだ!」と奮起し這い上がることができました。
サラリーマンを辞める決断をし、コンサルティング会社を起業したのが29歳11ヶ月のとき。リミット直前ギリギリセーフで「20代で起業」の目標を実現することができました。
目標設定の技術を習得しよう。20年後、30年後の目標が決まると、今日明日の迷いがなくなる
起業のタイミングでやったことは、自分自身がこの先何を目指していくのか、ミッションステイトメントをつくることです。ミッションステイトメントとは、自分の命を使ってどのような使命を果たすかという指針のようなもの。
「混迷する日本社会に影響を与えられる存在になる、そのために50歳で個人資産1000億円を達成する」と掲げました。
同時にマイルストーンを設定し、「35歳で個人資産10億、40歳で個人資産100億」という中間目標にブレイクダウンしていきました。
おそらく誰でも、目標は立てていると思います。でも、目標の立て方が下手な人が多いといつも感じています。目標を立てるには技術が必要です。それは「より遠くに、高く」設定することです。
実際、私の数値目標はとてつもなく高いものを設定したのですが、メンタルをずっとハイレベルでキープしておくためにとにかく「高い」目標を置いたわけです。
おかげで、迷いが一切なくなりました。あとは行動あるのみ。どうすれば達成できるかを考えるだけでよいのです。
「今年は○○を頑張る」など、近くに、低い目標を設定する人がほとんど。でも、もっと遠くに、高い目標を立てるべきです。本来、「どうやって棺桶に入るか」という人生のゴールから考えるべきだと考えています。
最終的なゴールからブレイクダウンして、30年先、20年先、10年先、5年先と節目節目の目標を設定。最後に短期的な目標へとブレイクダウンしていくのが正しい方法だと考えています。
直近の目標だけを立てていると、達成できないとわかると途端に路頭に迷うことになります。「あれ、何を頑張るんだっけ?」「これから何を頑張ればいいんだろう?」と、すぐに目標を見失います。
キャリアに迷う時点で、この先どうなりたいかが見えていないといえます。長期的なビジョンや目標がはっきりしていれば迷子にはなることはありません。
キャリアに迷ったら、自分の人生をかけて達成したい夢や目標をもう一度考え直してください。少なくとも、考えようと思考を巡らせることが大切です。
20代の間に人生の目標を描けるように
現実的には、学生時代に「より遠くに、高く」目標を描くのは難しいと思います。私自身、将来ありたい姿を「ミッションステイトメント」として掲げ、マイルストーンごとの数値目標を立てたのは、30歳になる直前でした。
ですから、個人的には、20代の間に目標を描くことができたら十分なのではないかと思っています。
私自身、「35歳で個人資産10億」を計画通り達成できたのはまさにセレンディピティーによるものだったのですが、バイセルテクノロジ-との出会いがあって、M&Aによってバイセルテクノロジーの社長の座に就くことができたからです。
バイセルの社長就任によって、私の人生目標の解像度が一気に上がったと思っています。
でもそもそもは、29歳の時点で「より遠くに、高く」人生目標を設定していなければ、セレンディピティーも運も何も引き寄せられなかったはずです。
現時点で大切なのは、目標は「遠く」から設定した方がよいことを頭に入れておくことです。そして、できるだけ早くゴールとなるミッションステイトメントを見つけるために、情報量を増やして思考を続けることです。
最初の話に戻りますが、新聞や本をよく読み、人と会ってたくさん話をし、自分に大量のインプットを与えてあげてください。
岩田流・自分に合った企業の見極め方は「自分の人生にどれだけプラスになるか」
これからの企業選びは、自分の人生の夢や目標に対してどれだけ糧になるかが大切な要素になってくるはずです。たとえば、入社1年目からどれだけ打席に立てそうかなどの視点で選ぶのも全然ありだと思います。
大手企業であればなかなか仕事を任してもらえない、ということもあり得るので、王道ですがOB、OG訪問をして確かめるのが一番確実です。最近では、企業の社長と学生が直接コミュニケーションをとれるような場も増えているので、実際に中で働く人と何とかコミュニケーションをとってほしいです。
もう一つ別の視点になりますが、「自分が得意な領域にこだわらない」というとらえ方もいいんじゃないかと思っています。
私自身は物理が得意でそれを活かしたいと大学に進みましたが、全然違うところでキャリアを積んでいます。今まで勉強してきたこととまったく違う分野でも、チャレンジすることで可能性は大きく広がるはずです。
そして、新卒入社だからこそ得られるものが、一生の財産となる同期の存在です。社会人としてはじめての任給をもらったとき、同期と一緒にお祝いしたことは今でも忘れられない思い出です。
同期はファーストキャリアならではの宝物です。社会人人生を一緒にはじめる同級生であり、人生最後となる同級生ともいえるので、ぜひ大切にしてもらいたいです。
これから求められるのは、あえて情熱的な人。とにかく感性を磨いてもらいたい
情熱的に生きようとしている人、エネルギッシュな人が好きだし、いつでもそういう人と仕事をしたいと思っています。
世の中自体はオンライン化が進展し、人とのコミュニケーションがどんどん希薄になり、無機質な方向へと進んでいます。でも、人と話をしたりぶつかり合ったりしなければ、豊かな感情って育たない。
人と触れ合うことによって生まれるパワーってものすごい力なので、そういう体験をたくさんした人からでなければ、斬新なアイディアを生み出すことはできないと考えます。
たくさんの人とコミュニケーションをとって五感で感じる体験を重ねることです。家族、友人、恋人と関わり、ぶつかったり共感したりという体験こそが大切です。有機質で情熱的な人こそが、これからの時代に求められる人材であるはずです。
最後に伝えたいのは、就活生はエゴイズムでいいということ。自分でしか生きられないその人生をどう生きたいのか。これを考えることを怠らないでほしいと思います。
取材・執筆:小内三奈