「周りの人を助けたい」は大それた考え方ではない|自分の想いを大切に「志のマッチング」で企業を選ぼう
ソウルドアウト 取締役 北川 共史さん
Tomofumi Kitagawa・2007年にオプト(現:デジタルホールディングス)へ新卒入社。全社納会でMVPを受賞したのち、かねてより考えていた「中小企業支援」を実現するため、2010年にソウルドアウトの立ち上げに参画。東日本・西日本営業部長・営業本部長を歴任し、2018年より営業執行役員に就任。2023年4月より現職
「人助け」の想いを心の真ん中に
「弱い立場にいる人を助けたい」。この想いを軸に今までキャリアを歩んできました。
この考え方になったきっかけは、母親が営んでいた社会福祉法人から里子を引き取って一緒に暮らすようになったことです。高校生の頃でした。
自閉症だった里子を家庭に受け入れた当時は、もちろん大変だと思うこともありながら、だんだんと彼らがいることが当然の生活になっていったんですよね。
そして生活を重ねていくうちに、彼らを本当の弟や妹だと感じるようになっていきました。愛情を持って接することができるようになったと同時に、彼らが大人になって働ける場所を作ることが自分の夢になっていました。弱い立場の人にも選択肢のある社会を実現させたいと考えていましたね。
それ以来、自分の心の中には人を助けたいという思いが変わらずにあります。心に変わらない理想があれば、さまざまな困難を乗り越える支えになりますし、成長の原動力にもなります。自分を貫き通す強さにもつながるものです。誰にでも小さな理想や夢があるはず。それを大切にし続けてほしいですね。
3年後の起業を宣言して入社
弱い立場の人の居場所を作るためには、まずは自分が市場で成果を出し、市場価値の高い人材にならないといけないと思い、「成長している市場×年齢関係なく責任を持たせてくれるベンチャー企業×私の志に共感してもらえること」の3軸で就職活動をしました。「入社3年で退社して起業します」とバカ正直に夢を語る私に最も共感してくれたのが、1社目のオプトでした。
オプト創業者の鉢嶺社長は、3年で起業すると息巻く私をおもしろいと評価してくれて、「生き方がかっこいい」とさえ言ってくれたんです。「3年という短い期間で何かを成し遂げようという意欲がある人間は、ぼんやりと10年やる人より大きな成果を残せる」と期待もしてくれました。
WEBの分野で拡大を続けるオプトは、私が大切にしていた軸にもぴったり当てはまる会社だったので、内定を頂いた時は即入社を決めました。
オプトに入社して分かったのは、想像以上のベンチャー企業だということ。これも自分にはぴったりでしたね。全社員がこれまでの世の中にない価値を追求することを誇りに思い、会社も成果を出せる人にはどんどん大きな仕事を任せ、地位や待遇も良くしていく。私は1年目から大型の広告主を任され、期待した以上の大きな仕事を経験し、成長させてもらいました。
目に見える成長を望むなら、ビジネス自体が成長期にある業界を選び、さらに実力主義の場所で上を目指すのがおすすめです。できる人をどんどん上に引き上げていくカルチャーのある会社であればなお良いと思いますよ。
理念を信じていたからこそ困難も乗り越えられた
3年で起業と宣言したものの、オプトは素晴らしい環境で成長のチャンスに満ちていたので、「このままこの会社に骨を埋めても良い」とも思いました。しかし一方で、広告ビジネスに課題を感じていたのも事実です。
当時オプトがターゲットとしている広告主は大手企業が中心でした。一方で予算が少ない中小企業は、支援してくれる会社が少なく、効果的な広告を打つことができていなかったんです。これは業界課題だと捉えていました。だとしたら、目の前の中小企業に手を差し伸べることが今の自分にできる「支援」だと思ったんです。
そんな想いを抱えていた矢先、当時のオプト営業役員(ソウルドアウト創業者:荻原)が、ほとんど同じ理念を掲げて独立起業するという情報を耳にします。“渡りに船”というか、そういう素晴らしい一致ってあるんですね。私はすぐにオプトからスピンアウトし、設立されたソウルドアウトに参画することを決めました。
しかし、志高く創業したものの、結果はなかなか伴いませんでした。当初は大企業向けのサービスをそのまま中小企業にもあてはめようとしていたため、中小企業の課題とマッチしないことが多かったのです。中小企業のために必死になって働いているのに、想いとは裏腹にクレームをもらい、解約になってしまう。さすがにこのときは心が折れそうになりました。
ですが、そんな状況でもやめるわけにはいかないと常に心に決めていました。それは自分たちが掲げる理念を信じていたから。
中小企業の活性化、地方企業の支援は、成長の余地が大きい分野です。地域の素晴らしい企業がデジタルを駆使して成長すれば、日本をより活性化できるはず。歴史を見ても、革命はいつだってローカルから起きています。マーケットのポテンシャルも、社会的意義の観点でも、進んでいる道は間違いないと信じていました。だから連日連夜ディスカッションし、健全な自己否定を繰り返しながら、事業・サービスを研磨していきました。
想いをストーリーとして伝えれば共感してくれる仲間が集まる
もう一つ折れずに続けられたのは、仲間がいたから。
オプト・ソウルドアウトのなかはもちろん、これまで私たちの志に共感をしてくれたメディアやサプライヤーパートナーなど、我々には多くの仲間がいました。「やってみたい領域だけど自分達ではすぐにはできない、だから頑張ってほしい! 」と理念に共感し、応援し、期待してくれる仲間たちの後押しがあったから挫けずにやれたのでしょう。
理念を共有し、支え合える仲間がいれば、困難も乗り越えられます。そんな会社に身を置ければ幸せだし、キャリアの中でそのような仲間を得られれば本当に心強いですよ。
人を助けたい、誰かを支えたいという思いは、ずっと変わっていませんね。素晴らしい考え方だと褒めていただくこともありますが、自分ではそうは思っていなくて。実は大それた考えではないんです。
友人、家族、近所の人たち、半径5メートルを幸せにしたいと思うことは、生活者として普通の感覚ですよね。愛情を持って周りを良くしたいと思うことは、誰もが感じる根源的な欲求だと思っています。企業も、社会の誰かを支えたいという理念のもとに成り立っていることが多いです。
だからこそ、自分のことを語っている話より、自分の周りや好きな人、家族、友人の話を聞く方がおもしろいと感じます。採用面接などでも、大切にしたい人やものへの思いを聞いたりしていますね。
面接でもう一つ聞くのが、未来について。過去にどんなことをしてきたのかは経歴を見ればわかりますが、未来についてどう考えているのかはなかなか見えてきません。
バックミラーを見て車の運転をしないように、前進するということは未来を向くということ。相手に未来を伝える手段として、100歳までの未来年表を作ることをおすすめします。60歳になったらハワイのオワフ島で家族4人とペットの犬と毎日楽しく暮らす、55歳には~など、できるだけ具体的に描くことが理想です。
未来年表ができたら、それをストーリーとして整理します。ストーリーには情報の羅列とは違うパワーがあり、聞き手に強い印象を与えるうえに忘れられないものになります。結果、その方の物語に我々の会社がいるんだと点と点が繋がれば、私は一緒に働きたいな! と感じますし、多くの企業でも同じことがいえると思います。
就活やキャリアに行き詰まったら、過去の自分だけでなく自分の未来にも目をやり、その思いをストーリー化してみると、新たな視点で取り組むべきことや結果として就職すべき会社が見えてくるのではないでしょうか。すぐにできるし、新たな気づきが生まれるはずなので、ぜひやってみてくださいね。
リスクを伴う意思決定である「決断」を意識しよう!
近年先行きが不透明な時代になってきているので、今後イノベーションが生まれづらくなるのではと心配しています。だからこそ、決断と実行ができる人材は大きなチャンスをつかめると思います。
決断と判断は違います。リスクを伴う意思決定が決断です。決断をするときには、判断の先のリスクを含んだ実行を見据えているのです。これができれば、ビジネスを動かす力がぐんと大きくなります。
こういうと難しそうに思えるかもしれませんが、それほど難しいことではありません。課題を見つけて解決する練習を繰り返せば良いのです。
自分の周りの小さな違和感や問題点、改善点を意識して解決してみてはどうでしょう。待ちの姿勢ではなく、自分から機会を作って成長をもとめるのです。決断、実行の経験こそが自分の成長を加速し、キャリアを切り開くパワーになるはずです。
就職活動は志のマッチング
日本には約400万の会社があると言われています。就職活動中に、その全ての会社をターゲットにするのは不可能でしょう。だから、就職活動はマッチングだと割り切った方が良いと思います。
ではなんのマッチングなのか。それは「志のマッチング」だと思います。自分の幸せの形はなんなのか、何を叶えていきたいのか、どこへ進んでいきたいのか。妥協せずに伝え、それを受け止めてくれる企業を見極めてほしいです。
目の前の知っている企業に気に入られるために自分を偽っても意味はありません。就職活動は選ばれるだけではなく、こちらも企業を選ぶものだからです。それも含めて、対等に選び合うマッチングだという意識を忘れないでほしいですね。
私は常に志を大切にしてきました。将来的には、「地方・中小企業が咲き誇る」ための広告・マーケティング事業をやり切って後輩へバトンを渡し、社会的弱者を助けるため別の切り口で挑戦してみたいです。これまで同様に掲げた志は譲らずに、人生を歩んでいきます。
取材・執筆:鈴木満優子