キャリアはいきなりワープできない|一歩ずつの積み重ねでしか遠くへは行けないからこそ、学生時代から経験を積んでおこう

bravesoft(ブレイブソフト) 代表取締役社長 菅澤 英司さん

Eiji Sugasawa・大学時代から学生エンジニアとして活動し、卒業後インターンの仲間たちと共同で起業。2005年にbravesoftを創業し、現職。世界4拠点150名規模のグループに成長させながら、「首相官邸アプリ」「TVer」「ボケて」など話題のアプリ開発を主導。総計1億DLを誇る開発実績を誇り、近年はイベントプラットフォーム「eventos (イベントス)」事業が好調。最強のものづくり集団を目指す

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「敷かれたレール上の人生は歩きたくない」。学生時代から本気で仕事を始めた

最初にキャリアについて考えたのは、高校時代です。推薦で大学附属の高校に入り、当時はほぼ全員が進学できる条件だったので、かなりのびのびとした高校生活を送っていました。

大学生のような高校生というイメージで、誤解を恐れずに言えばイージーモードな雰囲気だったのですが、やりたいことができる自由な生活のなかで、私は特にハマれるものを見つけられず。人生の意味を見出せなくなり。「このままの人生ではおもしろくないな」とぼんやり感じていました。

そんななか、附属の大学に情報処理学部が新設されるというニュースが飛び込んできたのです。ちょうどWindows95が世に出た頃で、世間的にもコンピュータやITの時代が来るのではないかという風潮があり、あっという間に人気学部になりました。

私自身も直感でそこに行きたい!と感じ、その目標に向けて猛勉強を開始。1学年700人のうち5人前後しか入れない狭き門だったためです。高校3年生になる頃には学年トップの成績を取ることができ、第一志望の学部への内部進学がかないました。

進んでみたい領域が見つかったこと、そして「狭き門でも挑戦しよう」「ダラダラと生きるより、人生に対して一生懸命になってみよう」という決意ができたこと、両方の意味でキャリアにおける最初のターニングポイントと言えるかと思います。

菅澤さんのキャリアにおけるターニングポイント

大学1年目は「今しかできないことをしておこう」と思い、デリバリーや引っ越し屋、居酒屋などのアルバイトを渡り歩いていましたが、2年生になる頃には「ITの世界でトップになるぞ」と決意。40名弱の携帯電話のアプリなどを作っているソフトウェア会社に、大学の仲間5人とともにインターンとして入ることにしました。

面接前には1週間で簡単なゲームを作り上げ、社員の方にそれを提示したことを覚えています。「自分のスキルを認められなかったらどうしよう」といった不安は一切なく、「これは作れる」と思った内容を楽しんで作り上げ、アピールしました。

そうして在学中、5人のメンバーと寝る間を惜しんで作り上げたアプリのなかには、月額1,000万円を超えるヒット作品となったものもあり、手応えは非常に大きかったです。

就職活動が始まった時期はそれなりに悩みましたが、「敷かれたレールを行くような人生は嫌だ」と思って今の道を選んだわけで、就活をすれば普通の人生になってしまうと思い、就活をしない選択をしました。ここが2つ目のターニングポイントです。

進路については、家族にも相談していません。親も自営業をしていたので、自力でやっていく生き方について反対されることはなかったです。むしろ母親は起業の出資金を一部援助してくれるなど、応援してくれていましたね。大学2年生の頃から実家を出ていて、アルバイトだけで食べていたので、それなりに信頼もしてくれていたのだろうと思います。

そうして5人のうち3人で一緒に起業しようと決め、大学卒業後、ソフトウェア会社の一角を借りる形で会社をスタートさせました。

キャリアとは積み重ねのこと。いきなりワープや飛躍はできないことを心得ておこう

このような経験をしてきた経緯もあり、エンジニア志望の人には「学生時代から絶対にインターンをやっておいたほうがいい」と伝えています

エンジニアはPC1台で大きな価値を生み出せる仕事で、仕事を始めるためのハードルは低いです。そして年齢に関係なく、どんどん成長していくことができます。10代の終わりから20代前半にかけては、記憶力、頭の回転の速さ、体力など身体的にも多くの武器がある時期なので、大学時代に何もしないのはすごくもったいないです。 たいした給料をもらえないとしても、仕事の経験が身に付くことを何かしらやっておくことをおすすめします。

2020年に開設したYoutubeチャンネル「エンジニア勉強会 – つよつよch」では、業界内のスゴい人たちにインタビューをしているのですが、皆さん高い確率で学生アルバイトやインターンを経験しているので、活躍するエンジニアの共通点だとも思います。

菅澤さんからのメッセージ

できるだけ早く仕事経験を積んだほうがいいと思うのは、キャリアとはイコール、積み重ねのことだからです。5から10を目指し、10から15を目指し、その積み重ねでキャリアはどんどん広がっていきます。5から100に一気にワープはできないので、一歩ずつ階段を登っていく心構えが必要です。少しずつ成功体験を積み重ねていき、そのうちに「気づけば遠くに来ていたな」と感じる瞬間がやってきます。

プロダクトを生み出す我々のような仕事の場合は、実績こそがキャリアであるという実感も強いですね。どこの会社にいたという経歴よりも、何を作ってきたかというプロダクトの実績が何よりの名刺代わりになり、次の仕事につながっていきます。私自身「TVer」や「ボケて」、「首相官邸」のアプリを作ったという実績から広がった仕事がたくさんあります。実績を積み上げるたび、自分の自信も積み上がっていく感覚がありますね。

当社の社名に入れた言葉「brave(勇気)」も、急にワープできないという点では共通だと思います。いきなり大きな勇気は出せないもので、まずはちょっとの勇気を出してみることが、チャレンジの第一歩だと思います。

身近な例で言えば、コミュニケーションが苦手な人が、勇気を出して同僚を誘ってみたら楽しい飲み会になった。すると「今度は別の人も誘ってみようか」などと次の勇気が出てきます。たまには断られることもあるでしょうが、それは時の運であり「別に落ち込む必要はない」ということも学んでいけるはずです。

気合いや精神論ではなく「キャリアも勇気も、成功体験によって少しずつ膨らんでいくものである」ということは、社会に出るにあたって理解しておくと良いと思います。

菅澤さんが考える「キャリア」とは?

1社目を1年で辞め、2社目でもメンバー離散を経験。挫折から多くの学びを得た

私のキャリアの積み重ねのなかには、失敗や挫折の経験もたくさん含まれています。 特に最初の起業後には、一番大きな壁にぶつかった時期と言えるかと思います。

端的に言えば、その会社が1年ほどでうまく行かなくなってしまったのです。学生時代からプログラミングはバリバリやっていましたが、いざ会社をやるとなると営業・経営・マネジメントといった目線も必要で、その領域は誰も経験がなかったので、かなり無茶なやり方をしていました。

序盤は思うように売上が上がらなかったですし、多少売上が出るようになってからも、「会社にお金をどう残して回していくか」といったことが一切わかっていなかったのです。

出たとこ勝負で突っ走っていたので、当然ながら事業はうまくいかなくなっていきましたし、次第に仲間とも意見が割れるように。価値観や方向性のズレが目立つようになり、社内の雰囲気もギスギスしていきました。月400時間労働をしているような状況だったので単純に疲弊しきっていたということもあります。慎重になるべきポイントはたくさんあったのですが、1年程度でその会社を離脱することにしました。

場づくりや職場環境の大切さ、仕事では「誰と組むか」を入念に検討しなければならないことなど、後から振り返れば、たくさんの反省点がありました。何より自信を持って始めた会社を1年で辞めざるを得ない状況にしてしまったことが、とてもショックでした。

それでも、悪くない判断だったと思えています。20歳そこそこの時期に曲がりなりにも全力で仕事をしたからこそ、その後も新しい会社を作る挑戦ができた。しかも、その会社を18年間続けることができているわけです。

いろいろな人と仕事をして、さまざまな失敗と成功をして、その蓄積があったからこそ、以後も良いチャレンジを続けてくることができたと信じています

菅澤さんからのメッセージ

2月に前の会社を辞め、3月には単独で会社を立ち上げることを決意。「このまま受託開発事業を続けよう、ただし今度は全部自分で責任を持ってチャレンジをしよう」と決めました。

1社目の反省から「皆で決める合議制はうまく行かない」という教訓を得ていたので、今回は自分が司令塔であり、リーダーであり、意思決定者であろうと決め、完全自己責任でチャレンジすることに。仕事を依頼してくれるクライアントのツテはそれなりに持っていましたし、世の中的にも開発のニーズはたくさんあったので、自分ひとりくらいなら食べさせていける自信はありました。

しかし、実際には「一緒にやりたい」と内外から5人のメンバーが付いてきて、いきなり6人を食べさせなければいけない状況からのスタートになりました。ハードモードでしたが、初月に200万円の売上が立ち、なんとか順調に漕ぎ出せたものの、1年後再びメンバーが離散する結果になってしまったのです。

ただしこのときは「腹を括ってやる」と決めていたので新しい社員を雇ってすぐに再スタートを切りました。

メンバー全員が若かったこともありますし、コミュニケーションが足りなかったのも原因ですが、社員一人ひとりが事業に思いを持っていなかったことが最大の原因だと分析しています。「なんとなくの人の集まりでは、大変なことがあったときに分裂をしてしまう」と身をもって学びました。この出来事も、ターニングポイントと言えるかと思います。

若くして二度の挫折を経験したことで、私自身も人として大きく考えを改めました。30歳や40歳になって”調子に乗った社長”にならずに済んだのは(笑)、このときの経験と反省があってこそだと思っています。

ワクワクを感じられるか? 大切にしている意思決定の軸とは

その後は「会社とは良いプロダクトを作るための組織であり、挑戦するための組織である」という認識を新たにしたうえで、具体的なチャレンジをスタートさせていきました。創業2年目には中国に子会社を作り、今でいうリモートでのオフショア開発に着手。2013年にはベトナムにも子会社を設立しました。さらに、iPhoneを誰も持っていない時期にiPhoneのアプリ開発に着手したことから、検索で1位を獲るような人気アプリも続々とリリースできるようになっていきました。

AIの領域も長らく掘り下げていましたが、実装するには今が本気で取り組むべきタイミングだと判断して注力しています。ChatGPTが話題になっていますが、AIで大成功しているサービスはまだ実績がないので、それを生み出すことが今現在の目標です。

事業の判断をするうえでは「利益を得られる見込みがあるから」「業界内で目立てそうだから」といった判断軸もあるかと思いますが、私の場合は「未来を感じるものがあれば、勇気を持って決断をしている」というのが実態に近いです

キャリアの意思決定に関しては、2つの軸を意識しています。1つは「自分や会社の成長につながるかどうか」。つながると思えば基本的にGOします。そしてもう1つは「この先に何かおもしろそうなことが待っている気がする」と思えるワクワクするほうの選択肢を選びます。

私が一番ワクワクを感じるのは、社内でおもしろいプロジェクトがたくさん走っているとき。今でもメンバーとして入っているプロジェクトはたくさんありますし、代表作のひとつであるお笑いアプリ『ボケて』などは、世界一おもしろいアプリにしたいので、現在進行形でずっとブラッシュアップを続けています。

最近はテーマパークのアプリ開発なども手掛けていますが、「仮に仕事でなくても、楽しんでやれることができているな」と実感しますね。「アプリを使っていかにお客様に楽しんでもらうか? 」のアイデアをガンガン出しているとき、エンジニアとしてコードを書いているときにも、いまだに充実感があります。

当社は「最強モノづくり集団」を標榜していますが、日本で一番良いソフトウェアを作っている会社として、世に知られる存在にしていくことが、今後のキャリアにおけるビジョンです。上場も目指していますし、世の中をより良くしたい人たちを集めて、ワクワクがあふれている世界観を作っていきたいと本気で考えています

意思決定をする際の判断軸

どんな仕事を「おもしろい」と思うかは千差万別。自分と近い感覚の企業を探そう

これからの時代に活躍すると思うのは、リーダーシップがある人です。

日本の教育は正確にミスなくコツコツやることを重んじますが、そういった類の仕事の大半は、どんどん進化し続ける機械に取って代わられるでしょう。「機械のようにきちんとやれる」だけではバリューを出せなくなってしまうということです

しかし、リーダーシップは機械には担えません。新しい試みを始めていく、勇気を持って前に全身しようとする、課題解決をしながら最適な進め方を考え、そのプロセスを遂行できる……といった姿勢を体現できる人には、周りの人も付いてきて、その組織に必要不可欠な存在になることができると思います。

また当社は毎年新卒採用をしていますが、私が一番大事にしている基準はフィーリングが合うかどうか。もっと言えば「どんな仕事をおもしろいと思えるか」の感覚が近い人たちに仲間になってほしいと考えています。このあたりは人によってかなり違いますし、このやり方で一緒に未来を目指せる優秀な社員たちに出会えています。

「たくさんエントリーして、なるべく有名で、なるべく大きな会社に行こう」というスタンスで就職活動をしている人も少なからず見受けますが、どんなに有名な会社だとしても、その会社の仕事に自分がワクワクするとは限りません。

日本にいると「偏差値の高い学校ほど偉い」という思考になりやすいですが、大学でもいろいろな校風があるように、会社にもそれぞれのカラーがあります。自分がおもしろいと思える仕事ができる会社はどこなのか自分と波長が合う人たちがいるのはどの会社なのかをちゃんと見極めて就職先を決めたほうが、結果的に満足のいく就職ができると思います。

価値観やノリが近い人たちがいる会社かどうかを確かめるには、その会社に足を運んで自分の五感で感じ取るのがベスト。そういった意味でも、学生時代のインターンやアルバイトは有意義な経験になるはずです。

菅澤さんが贈るキャリアの指針

取材・執筆:外山ゆひら

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