自他の経験値をうまく使える人ほど、キャリアを大きく広げられる|人脈は後から付いてくると考え、“使える経験”をたくさんしておこう

80&Company(エイティーアンドカンパニー) 代表取締役 堀池 広樹さん

80&Company(エイティーアンドカンパニー) 代表取締役 堀池 広樹さん

Hiroki Horiike・2010年、京都大学薬学部薬科学科4年次に起業し、SAMBARを設立、学習塾の経営を始める。その後、ウェブ受託開発事業などを経てゲーム関連メディア事業を開始し、2016年にはフィリピンに現地法人を設立。2017年、初めての第三者割当増資による資金調達を実行する。 2018年10月に80&Companyを設立、代表取締役に就任

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「起業前提で就職するくらいなら、今起業してみよう」と大学3年で思い立った

「起業したい」というぼんやりとしたビジョンを持ったのは、中高生の頃です。時期は定かではないのですが、卒業文集に「社長になりたい」と書いたことを覚えています。

そう思うようになった理由は、両親の働く姿や環境について思うところがあったからかもしれません。

特に不自由なく生活させてもらっていましたが、両親がブルーワーカーで共働きだったこともあり、当時は幸福感に満たされている感覚があまりなかったように思います。だからこそ親を反面教師のように見て「自分は勉強して良い学歴を得て、将来は稼ぐんだ! 」という思いがあったんですよね。

そして、誰に指図されるでもなく自分で猛勉強をして大学に合格しましたが、進学後はアルバイトや麻雀、飲み会に明け暮れる生活に。就職活動が始まる時期には、あと3年間の留年が決まっていました(苦笑)。

一緒に遊んでいた友人たちが突然就職モードに変わって驚きましたが、正直なところ、私も大学生生活に少し飽きてきていたので「何か仕事をしてみたい」と思い、少しだけ就職活動に参加してみることに。「いつか自分で事業をやる」という前提で、プラスになりそうなコンサル業界などを中心に見ていました。

なかには「大学を辞めてうちに来たら? 」と誘ってくださった企業もありましたが、「今この会社にお世話になったら恩返しをしたくなって、起業したくなっても辞められなくなる」と感じ、だったら今この時点で起業してみようかと思い立ったのです。この決意をしたことが、最初のターニングポイントと言えるかと思います。

堀池さんのキャリアにおけるターニングポイント

何もないところからのスタートでしたが、小中高から付き合いがあった別の大学の友人と一緒にビジネスをやろうと盛り上がり、「今の自分たちにできることはなんだ? 」と考えて選んだのが、教育や学習塾関連の事業です。

大手予備校の対面授業と映像講義が同じ値段であることに違和感を覚えたことから、映像講義をパッケージ化して安く売っていくビジネスから着手し、その後学習塾の経営にも着手しました。

塾業界を見渡してみると「いかに有名大学にたくさん合格させるか」をウリにしているところが大半だったので、それならうちは実績ではなく、「どれだけ偏差値が上がったか」を指標にしようと方向性を決めました。優秀な子を集めて合格させるより、成績を出せない子たちを引き上げて進学に導くような塾を作ったほうが、社会的に意味があると考えたのです

実際に偏差値の低かった高校生を大学合格に導くこともできましたが、友人が身体を壊してしまい、2年ほどで学習塾の事業は手放すことにしました。

その後は、Web受託開発など手当たり次第にいろいろな事業をやってみて、方向性を絞り込んでいきました。当時は5人のメンバーがいたのですが、全員の共通の趣味がゲームだったので、「自分たちの好きなこと、強みのあることで勝負しよう」と話し合い、最後はゲーム関連のメディア運営会社としてやっていくことを決めました。

メディアは海外にも発信していたので、英文ライターを確保するために、2016年にはフィリピンにも拠点を設立。今も現地で4名程度の小さな会社として続いています。

ただ1億円以上の資金調達をしたにもかかわらず、思ったようには事業を伸ばせなかったので、2年弱で事業を縮小することに決めました。「ビジネスは儲けを出せないと幸せな結末にはならない」ということは、1社目で得た学びです

「自分がやるべきだと思える事業をやりたい」その指針はずっと変わらない

ゲーム関連メディアの運営事業に絞ったのは、自分たちが「世の中にもっと知られてもいいのに」と思っている日本のゲーム情報を海外に発信すれば、かかわる人皆を幸せにできるのではないか……と思ったのがきっかけです。ゲームを仕事にしたい人はたくさんいる状況だったので、メディアを作ればゲームライターという仕事も生み出せると考えたのです。

学習塾の事業も今のビジネスもそうですが、私はいつも「これは自分がやるべきことだな」と思えるテーマに着手します。もし同じ事業を当社より上手にやってくれる会社があるなら、別に自分がやらなくていいという気持ちも強いです。

たとえるなら、めちゃくちゃおいしいラーメン屋さんを見つけた、でも誰も紹介していない、それなら自分が知られるように動こう、そのほうが世の中にメリットをもたらせる……といった感じです。もったいない精神にも近いかもしれませんが(笑)、自分ではあまり欲しいものがない人間なので、人が欲しいものを調達したり、届けたりするほうが楽しいのだろうと思います。

堀池さんが事業を考える目線

1社目の開発メンバーたちを連れて、きっとうまくいくだろうと思える新たな座組みで始めたのが、当社80&Companyです。7歳下の大学の後輩で、現取締役である岡本和輝氏と出会えたことも大きかったですね。

1社目の反省を活かして「今度こそしっかり稼げる会社を作る」という志は強かったですが、事業を考えるにあたっては、それまでと同じく「世の中がどうなってほしいか」という目線を起点に考えました

そうして最初に着手したのは、出身校である京都大学のエンジニアを集めて紹介する事業です。GAFAなどもエンジニア中心で生まれてきた会社なので、彼らのポテンシャルを活かして世の中に役立つ事業をやればスケールしていくのではないか。日本発の大きな会社を作れるかもしれないと考えたのです。

いざ始めてみると、ベンチャー企業に興味を持ってくれる京大生にはたくさん出会えました。しかし、いざ就職の時期が来ると大企業を選んでいくメンバーが多く、「学生から未来の企業を作り出すのは難しいかもしれない」と考えるように。

その時期に舞い込んできたのが、百貨店のファッションのサブスクリプションサービスのプロジェクトです。百貨店と大手物流会社と組み、当社はシステム開発を担当したのですが、予想以上に良い成果を出すことができました。

「非ITの事業を手がけている会社がITという武器を手に入れると、大きな価値創造ができるのだな」という手応えを得て、この成功例をもとに事業開発のノウハウを型化し、事業や人に広げていこうとしているのがここ数年です。

具体的には、ゲームセンター運営を手がける企業と一緒に遊びや学びのサービスを考えたり、オンラインスクールと組んでゲームを習い事にするサービスを検討したりと、その領域の専門家の意見も取り入れつつ、事業会社と組んで産業に実装していくビジネスに注力しています。

順調にビジネスが回り始めたと感じられているのは、ここ2〜3年のことです。2010年に1社目を起業しましたが、10年間くらいは「事業を軌道に乗せられている」という感覚はまったくなかったです。今もいろいろとハードではありますが、自分や一緒にやる人たち全員を“食うに困らないレベル”にしていくまでのハードさは、今とは種類の違う大変さがあったように思います。

やりたいことより「成果が出ること」のほうが、将来好きな仕事になる可能性も

私は組織に属したことがないので、社内の組織づくりはまだまだ手探りで、ゼロベースで考えながら進めている状況です。大企業出身者もジョインしてくれているので、いろいろな話を聞きつつやっています。良い組織について考えていくと、ほかの企業と同じ結論に辿り着くことも多いので、良い会社というのは、実はそれほど違いがないのかもしれません

事業においてもそうですが、人材配置においても「その人の価値を最大化する」ということを意識しています。本人がやりたいことも尊重しますが、それよりも“成果が出そうなこと”を任せたほうが、結果的に当人も気持ちよく成長していくケースが多い印象があります。

組織は役割分担で成り立っていて、メンバー全員が同じことをやっていたら効率が悪いですし、ビジネスも回りません。組織で働くうえでは「その仕事をすることで、全体にとってどれだけ影響を与えられるか」「全体の枠組みのなかで、自分のポジションをどこに置くか」を考えられる目線を持っておくことが重要なのかなと思います。

トップとしても、常に全体最適を考え、適切に役割を分散させることをひたすら考えています。経験上、短期的に良いことよりも、世の中を広く見て中長期的に良いことを示さなければ、人は付いてこない実感がありますね。感情的にではなく、しっかりと合理的に社員たちに同じ方向を向いてもらうためにも、より大きな枠組みで考えることを大切にしています。

就職活動でも「その業界や会社の中で、自分の役割をどこに置くか」という目線は持っておくのがおすすめです。得意なことや何かしらの役割を担えて存在感を発揮できる場所のほうが、結果的にやりがいを得られる状況になる可能性が高いということはぜひ知っておいてください。最初はやりたくなかったことでも、成果が出ると段々好きになってくることもあると思います。

ただし、やりたいことがニッチな分野で、その世界で先駆者になれそうなのであれば、得意かどうかはさておき、好きな道にチャレンジしてみるのも良いかもしれません。

たとえば、好きなことが料理なのであれば、ライバルだらけのレッドオーシャンなので、ものすごく得意でなければ辞めたほうが良いでしょう。しかし、もし「花札に関する仕事がしたい」という人であれば、ライバルはかなり少ないでしょうし、うまく場所を探していけば、伝統文化を残そう、海外に発信しようといった特定のマーケットで価値を発揮できる気がします。

堀池さんからのアドバイス

また企業を見るうえでは「ちゃんと儲かっている会社かどうか」も確かめた方が良いと思います。利益を出せなければ、どんなに良い事業をやっていてもサバイブできなくなる可能性があるからです。

利益を大切にしている会社はもちろんですが、世の中には「利益よりもお客様のことを考えているけれど、結果として利益を出せている」というタイプの会社もあります。そういった企業は、マーケット全体のなかで稼げるポジションを獲得できているケースが多いです。古き良き会社だとしても、市場全体を見てポジショニングにアドバンテージを見出せたならば、就職先として良い選択肢になると思います。

大企業かベンチャー企業かという二択で迷うならば、ファーストキャリアでは大企業を選んでみるのも悪くはない選択だと思います。「2社目以降の転職時に有利になるから」という理由もありますが、ベンチャー企業は尖っているところが多い分、当たり外れも大きくなりやすい気がします

自分に合った良いベンチャーに入ることができれば、新卒入社でもしっかり成長できると思いますが、そういった企業は大抵人気が高く、大企業並みの狭き門になっている印象です。

相手の期待に応え、信頼を積み重ねていけば、人脈もキャリアも自然に広がっていく

80&Company(エイティーアンドカンパニー) 代表取締役 堀池 広樹さん

経営者や有名企業勤務といった肩書きがあると、一見“すごい人”に見えるかもしれませんが、所詮同じ人間です。脳みその処理速度に大差はなく、スペック的なものには違いはないと私は理解しています。

では何がキャリアを分けるのかといえば、経験値の違い。もっというならば「自分や周りの経験値をうまく活用できているかどうか」の違いだと思います。

社会に出てから活躍したければ、できるだけ将来につながる“使える経験”をたくさんしておくことをおすすめします。使える経験をたくさんするには、「自分がなぜそれをやっているか」を説明できるような行動をする目線が重要です。

たとえば「〇〇をするために見ておこう」と思いながら旅をするのと、何も考えずに旅をするのでは、得られるものの量や行動が変わるはずです。多少こじつけになる場合もあるでしょうが、「将来のために今はこれをやるんだ」と自分のなかで理屈付けができているならば、将来使える経験値になる可能性を感じます

加えて、自分ひとりで得られる経験値はたかが知れているので、できるだけ多くの人の経験値を活かす目線も持っておくのがおすすめです。

そのためには、積極的に質問や相談をすること。人は自分のなかに答えがないときに悩むのであって、内側に答えがなければ、外側に答えをもとめていくのみです。体調が悪い理由がわからないとき、医者に行って相談をすれば、あっという間に解決することがありますよね。それと同じことです。

学生のうちから使える経験をたくさんしておこう

人脈については、無理して広げようとする必要はないと思います。自分のところにきた依頼や相談を大事にして、できることを全力でやっていれば、結果的に人脈は広がっていくからです。

「人脈を広げる」というと自分目線の行為に聞こえますが、相手からも望まれなければ人脈は生まれません。相手に対していかに価値を提供できるか、その人や世の中のために何ができるかだけを考えていれば、人のつながりは自然に生まれてくるので、その目線だけを意識して仕事をすると良いと思います。

私自身もまさにこの姿勢で動いており、「仕事を獲りに行く」ではなく、相手側からきた相談に対して課題解決を続けていった先に、より大きくて重要なことを相談される存在になる未来があると考えています。

ありとあらゆる重要人物から、いうなれば国や世界から相談される人物になることが、今後のキャリアビジョンです。そのためには、自分でアクセスできる情報や経験をどんどん増やしていく必要があると考えています。

より多くの人に信頼される人間になれば、自ずとキャリアアップできる

同じ理屈から、市場価値の高い人間とは、つまりより多くの人に信頼される人間だと思います。

役職やポジションも、つまるところは「信頼」の証。1つひとつの仕事に誠実に向き合って取引先から信頼を獲得しているから、あるいはチームの信頼を得てメンバー巻き込んで進めていけるから、高いポジションを任されているということだと思います。

「信頼を獲得する」というと大変そうに聞こえますが、まずは最低限、嘘をつく、裏切るなどの自分本位な行動をしなければOKです。人としての基本を守って仕事をしていれば、周りの信頼は、時間とともに獲得していくことができます。

スキルがあまり重視されない新卒採用であればなおさら、人としての基本を身に付けていることが伝われば、企業からも十分評価をもらえると思います。プラスでアピールをしたければ、上述したように「使える経験をたくさんしてきました」ということを伝えてみてください。

学生の側からも、「その会社の人たちが信頼に値するか」については確認しておくことをおすすめします。ベンチャー企業の場合、特に代表者や経営層の人格が、仕事の多くの場面で影響を及ぼすためです。

トップが信頼できそうな人でも、「あまりに良い人で、取引先にギブ(Give)をしすぎて儲けが出ていない」というパターンもありえるので(笑)、その場合はトップの人格だけでなく「優秀な実務部隊がいるかどうか」も見てみてください。私も割とすぐにギブしたくなる性分ですが、当社は副代表がしっかり締めてくれているのでバランスを取れていますね。

採用活動だけで人間性まで判断するのは難しいので、できるだけインターンシップには参加しておくのがベスト。会社のなかで一定期間働いてみると、トップの人格は割と見えてくるはずです。ぜひ経営者層の内面まで分析できるくらい企業を知って、信頼できる人が多い環境を選んでみてください。

堀池さんが贈るキャリアの指針

取材・執筆:外山ゆひら

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