自己否定せず「失敗してもええやん」の心持ちで|“苦手の壁”を作らずチャンスに対してポジティブでいよう

サイバーセキュリティクラウド 代表取締役社長 兼 CEO 小池 敏弘さん

Toshihiro Koike・大学卒業後、2006年にリクルートHRマーケティング関西(現リクルート)に入社し、営業、DX推進、事業企画、新規サービス開発等、幅広い業務に従事。その後、2016年に米国AppSocially Inc.のCOOおよび日本子会社の取締役に就任し、日米マーケットにてプロダクト開発や経営全般を管掌。2018年には友人とともにALIVAL(現M&Aナビ)を創業。M&Aプラットフォームを開発し、日本全国に展開。同社を譲渡したのち、2021年にサイバーセキュリティクラウドの代表取締役社長兼CEO、Cyber Security Cloud Inc. (USA) CEOに就任後、現職

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キャリアのベースとなる考え方は、社会人になってからの3年間で決まった

人のせいにしない」「感情を排除して事実だけを見る」。私のキャリアのベースには、この2つの考え方があります。

できるだけ感情を排してやるべきことを着々とやっていこう、という仕事のスタンスを身に付けた社会人3年目までの経験が、キャリアにおける最初のターニングポイントと言えるかと思います。

就職活動には、あまり意欲的に取り組んでいません。周りと比べると動き始めたのも遅かったですし、応募する企業も待遇や社風の違いくらいしか見ていませんでした。

へりくだって人と付き合うのが苦手だったので、カジュアルに仕事ができそうな雰囲気が気に入って、リクルートHRマーケティング関西(現:リクルート)への入社を決めました。ただ、受けている企業のことすらちゃんと調べていなかったので、リクルートが割と人気企業であることも知らなかったくらいでした。

当時は若気の至りもあり「やれば仕事はたぶんできる」「仲が良い先輩もいるし、なんとかなるだろう」といった根拠のない自信と幻想があったのですが、いざ入社してからは、その思い違いに気付かされることとなりました。

同期や先輩が「一緒に頑張ろう! 」なんて励ましてくれても、数字を出せなければ、誰も責任を取ってくれるわけでない。数字を出せば「すごいね」と周りは言ってくれるけれど、明らかに悔しそうな顔をされる。そういった、どこまでも個人の実績で評価される営業の世界だったからです。

この環境下で、いろいろなことを考えさせられました。結果以外の理由を探してしまうと、言い訳はいくらでもできてしまうことにも気づきましたし、悔しさや焦りを表現しても何の役にも立たないとわかり「感情は行動を邪魔するだけ」という結論に至りました。

感情に左右されることなく、起きたことをすべて事実として捉え「そこに対してどう行動するか」だけを考える。これを積み重ねてきた結果、今の自分のキャリアがあるのだろうと思います。

安定した気持ちで仕事に取り組めるようになってからは、数字もコンスタントに出せるようになり、営業以外にも企画やマーケティング、DX推進、新規事業開発などさまざまな仕事を経験させてもらいました。次はスキルを身に付けたい、次はこれをやらせてほしいと積極的にアピールして、チャンスをもらっていた形です。

入社8年目を迎える頃になるとシリコンバレーブームが起こり、私もHR Tech領域の研究のため、現地に何度も視察に行かせていただきました。そのなかでアメリカの小さな会社の創業者と知り合い「一緒にやってみないか」と誘いを受けたのです。

海外事業も経営も未経験でしたが、キャリアを選ぶときの判断基準として、私は「苦手なこと・やったことがないことをやる」「ゴールを決めずに、いつまでも修行の意識を持つ」の2点を大事にしています。

このときも「やったことがないことだからこそ、チャレンジしてみよう」と思うに至り、1社目を退社して転職をすることにしました。ここが2つ目のターニングポイントになります。

小池さんのキャリアにおけるターニングポイント

シリコンバレーで学んだ「失敗してもいい」という価値観

転職後は日本の子会社の取締役を任せていただき、日米マーケットでのプロダクト開発や経営全般を担うことになりました。

シリコンバレーは、世界中からチャレンジに意欲的な人が集まっている場所でした。仮に事業に失敗しても責任云々というシリアスなムードにならず、当たり前に「もう一回、頑張れば良いよね」という雰囲気があるのです。いくらでもやり直せばいいという価値観に触れられたことは、この時期の財産です。私が手がけたサービスもそれ自体は結果的にうまくいかなかったのですが、この環境には大いに刺激を受けましたし“やり続けること”の重要性を学べた2年間でした。

その後は現地で学んできたM&Aのマッチングモデルをベースに、改めて仲間と一緒にスタートアップを始めることにしました。

具体的には、オンラインM&Aを実現させるプラットフォームを作り、ITプロダクトを販売するビジネスです。事業としては順調に軌道に乗せることができ、業績も良かった矢先、コロナ禍に突入。M&Aは成功報酬型で、利益が確定するまでにかなり時間がかかるビジネスモデルです。そのため、市況全体を見たときに「早めに大きな資本のところに渡したほうが良さそうだ」と判断。黒字のうちに社員たちにキャリアの選択肢を持たせてあげたいと考え、3年ほどでこの会社は譲渡することにしました。

やり続けることも大切ですが、事業に関しては社員を巻き込む決断なので、事実を見て現実的な判断をした形です。

そして時期を同じくして、サイバーセキュリティクラウドから経営を任せたいという話をいただき、2021年に現職に就きました。

自分の経験知を社員と分かち合い、社内の皆と一緒に”やったことがないこと”をどんどんやっていくことが、ここから先のビジョンです。

これまでの楽しかったキャリア経験に準えながら「失敗してもええやん、どんどん新しいことをやればええやん」という価値観も伝えていきたいですし、その機会を創出することがトップとしての役目だと思っています。単独でやれることには限りがあるので、仕事自体は皆で分担しながら進めることも心がけています。

当社が未知のチャレンジとしてこの2年間、特に力を入れているのはグローバル展開です。会社全体で、すごくドキドキしながら挑戦をしています。これから社会に出る人たちも、ぜひ自分がワクワクできることにチャレンジするキャリアを歩んでほしいです。もしテクノロジーやグローバルに興味がある人がいれば、当社はありそうでない分野の事業をやっている良い会社だと思うので、一度検討してもらえたら嬉しいですね。

自分から苦手の壁を作らないことが、キャリアのチャンスを仕留める秘訣

この17年間を振り返ってみると、ものすごく良いキャリアを歩めてきたな、節目節目で良いチャンスをいただいてきたなという実感があります。昔から好奇心が強く、飲み会なども断らない人間だったので、チャンスに前のめりなタイプではあるかと思いますが、加えて「自分から先に苦手の壁を作らないこと」は日頃から意識しています。

キャリアのチャンスが舞い込んでくる人間になるためには、普段から「苦手なことを避けない」という姿勢でいることはとても重要だと思います

シリコンバレーのカルチャーに初めて触れた頃、あちらには「営業もできるし、ITもわかっている、MBA(経営学修士)も持っていて経営もわかるよ」なんてマルチスキルな人がゴロゴロいる環境に驚いたことを覚えています。

比べて日本では、営業職の人間が「ITのことはわからないんです」などと堂々と言えてしまう雰囲気があり、この姿勢は良くないと痛感しました。一度苦手だと公言してしまうと、二度と相手はその話をしてくれなくなるからです。

人生において、チャンスはそう何度もやってきません。チャンスが舞い込んできたときに確実に仕留めるには、普段から「何でもできます」という顔でいたほうが、声をかけてもらいやすくなります。

あえて嘘をつく必要はありませんが、苦手だと公言する必要もないですよね。今この時点でその仕事が苦手(嫌い)だとしても、2〜3年も経てば、好きな仕事や得意な仕事が変わっている可能性もあるので、自分で決めつけなくて良いのでは? ということです。

貴重なチャンスをもらって仮に失敗したとしても「失敗してもリカバリできる」という前提に立てば、特段失うものはありません。

チャンスをポジティブに捉えることができ、自ら手を挙げられる人はこれからの時代、大いに活躍できると思います。これができる人は実際のところ、100人中3人くらいしかいない気がしますね。日本社会は現状維持を望む人が多いので、チャンスを前向きに受け止めて挑戦できる姿勢があるというだけで、組織内で価値が出せると思います。

ポジションの数もチャンスも限られているので「自分がそれを掴む、前に行くんだ」というガツガツした意欲は大事だと思いますし、私もそういう人に仕事をお願いしたいと普段から思っています。

とはいえ、私も新人の頃からこのような考え方だったわけではありません。関西入社だったので、東京転勤を命じられたときには「えー行きたくない」と半泣き状態でした(笑)。駄々をこねながらもチャレンジしてみたことで今のキャリアがあるので、身をもって「チャンスにポジティブでいることは大事だよ」と伝えたいですね。

キャリアのチャンスをつかむためには?

「ビクビクしない」だけで人の印象は大きく変わる。心地よく頑張れそうな会社を探してみよう

就職活動については「入りたい会社を見つける」というより「自分に合った雰囲気の会社はどこか」「前向きに修行できそうな場所はどこか」という目線で入社先を探すのが最善のように思います。

どんな会社に入っても、入る前と後で多少なりのギャップは生じますし、マーケットも常に変化しているので、100%思ったとおりの仕事ができるとは限らないからです。

併せて、就職活動は運の要素が大きいこと、皆さんの人生そのものを肯定や否定するものではないことも、しっかり理解しておくと良いと思います。

なぜなら、たった15分の面接や1時間のグループワークで、人を正しく見極めることなど不可能だからです。その日は面接官の体調が悪くて、学生の話が耳に入っていなかった……なんて不運なことも、場合によってはあり得るわけです。

そう考えれば、ある程度は運に任せる気持ちを持ちつつ「短い時間でも、話しながらお互いにビビッとくる瞬間があるかを探れたらいいな」くらいの感覚で臨むのが最善ではないでしょうか。相性を探るためにも面接では一喜一憂せず、肩の力を入れすぎずに自然体でいることも大切だと思います

小池さんからのアドバイス

「学生時代にたいしたことをやってきていないから、エントリーシートに書くことがない」という声もよく聞きますが、たいしたことがないかどうかを判断するのは会社側なので、それを自分で判断する必要はありません。

そのように先んじて自己否定をしないことは、面接を受けるにあたってぜひ意識してみてほしいポイントです

私も若い頃「できない自分を好きでいよう」と決心した時期があるのですが、自分を好きでいて、地に足をつけて生きてさえいれば、身の丈に合った、正しい自信を身に付けた人間に成長することは可能です。ビクビクせず、ハキハキと迷いなく話す姿を見せるだけでも、会社には十分に魅力的な人材に映ると思いますよ。

緊張しがちな性格だという人でも、誰にでもビクビクしているわけではないはず。たとえば、家族の前でビクビクする人は滅多にいないですよね。それなのに、ビクビクしてしまうのはなぜなのか。おそらく、知らない世界やわからないことへの不安・恐怖が原因だと思います。

しかし心配事の大半は、実際には起こりません。数年前に『心配事の9割は起こらない』(枡野俊明著)という本も話題になりましたが、タイトルどおりです。不安になるときは「この心配事は現実にならないから大丈夫、失敗しても命を取られるわけではないから」と何度も自分に言い聞かせてみるのがおすすめですね。

あるいは、期待値を高く持ちすぎていることや、ポジティブな幻想を持ちすぎていることが、不安や緊張の理由であることもあります。そのときには、就活は運の要素が大きいことを思い出し、企業や自分への評価に対して、過度な期待や幻想を持ちすぎないよう努めて自省してみてください。

上述したように、私はビジネスにおいて感情に左右されないことを重視しており、ネガティブな感情に引っ張られそうなときは、冷静にタスクや論点を整理することに意識を向けます。 「感情に振り回されないぞ」と決心するだけでも、効果があると思います。

小池さんからのアドバイス

また企業選びの際には「社内に偉そうにしている人がいないか」という点もぜひ確かめてみてください。学生である自分に対してはもちろん、上司が部下に偉そうに振る舞っていたら、そういうカルチャーなのかなと判断して割と間違いない気がします。

逆も然りで「社長が社員に対して敬意を払っている」と感じられる会社ならば、自分が入社したときも尊重してくれる可能性が高いでしょう。言葉遣いひとつをとっても自分が心地よいと感じられて、自分を尊重してくれる人が多い会社のほうが、その環境で前向きに頑張っていけるはず。

その会社の風土に違和感なく馴染めそうか? 」といった直感や感覚を重視して入社先を決めることは、この点において最善の方法論だと思います。

小池さんが贈るキャリアの指針

取材・執筆:外山ゆひら

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