大変な仕事にこそ“面白くなるヒント”が隠れている|「もっとこうできるかも」を常に考えよう

ビヨンド 代表取締役 原岡 昌寛さん

ビヨンド 代表取締役 原岡 昌寛さん

Masahiro Haraoka・大学卒業後、2001年に教育サービス事業を手がける企業へ入社。営業を経験後、インフラエンジニアとして経験を積む。2005年、同僚と一緒にWebサイトで書籍を販売するサービスを立ち上げ起業。2007年4月、ビヨンドの会社設立に創立メンバーとして参画し、以降現職

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苦労した新人時代。腐らず常に上を向いていたことがキャリアの財産に

キャリアについて最初に考えたのは、学生時代のとき。アウトドアサークルを自分で立ち上げたり、中高でハンドボール部のキャプテンを務めてきたりした経験から、自分の手で何かを始めるのが好きな性分に気づき、「社会に出たら自分でビジネスを立ち上げてみたい」というビジョンを持つようになりました。

将来的に自分でビジネスをするにあたり、ファーストキャリアを選ぶ際には「あえてハードな会社に進もう」と決意。若手が切磋琢磨しあっているような成長できる環境で経験を積んだほうが将来、自分の役に立つだろうと考えたのです。そして当時大きく業績を伸ばしていた教育サービスを手がける会社への入社を決めました。

総合職として入社し、最初は関西拠点の営業の部署に配属されました。しかし1年目はあまりにも成果を出せず、北陸の拠点に異動することに。それなりに仕事はできると思っていたので挫折感もあり、「仕事って大変なのだな」と痛感したことを覚えています。今となれば、当時の自分は仕事への姿勢がまったくできていなかったなと思います(笑)。

北陸に異動して3〜4カ月でようやく営業のコツを掴み、成果が出始めたと思ったら、今度はシステム開発の部署に異動することに。私は経済学部出身で、それまでプログラミングを触った経験は一切ありませんが、なんとなく「かっこ良さそう」と思い入社時の配属先希望の1つに入れていたので、それを見てのアサインだったのだろうと思います。

異動後はオラクルのデータベースの管理をする仕事を任されました。24時間365日止めてはいけないものだったので、大きな障害があれば土日も夜中も関係なく呼び出しを受け、泊まり込みで対応をする日々が続きました。ハードな生活ではありましたが、良い上司や同僚に恵まれ、仕事を任されること自体にはやりがいを見出すことができていましたね。ここでエンジニアとしての基礎や、仕事の基本となる姿勢を養うことができました。

新人時代は特に思うようにいかないことが山ほどあるかと思いますが、とにかくあきらめないこと、コツコツ続けてみることが大切です。同期社員が900名もいるような会社で、若くて前向きな人が多い環境だったので、周りからの刺激も多く、ここで成長意欲を発揮しながら頑張れたことは、キャリアを振り返っても非常に良かったと感じています。

学生のうちは「なんにでもなれる」。自由度が高いからこそ「何になりたいか」を調べつくそう

ビヨンド 代表取締役 原岡 昌寛さん

自分の経験からも思うことですが、ファーストキャリアは自分の仕事観に大きな影響を与える場所です。だからこそ、就職活動では自分と価値観の合う会社を探すことにこだわってみてください。その会社が大事にしている考えや、経営者の発言を聞いて「この考え方好きだな」と賛同できるかどうかを確かめてみると良いと思います

「今ならなんにでもなれる」という自分の可能性を、ぜひポジティブに捉えてほしいですね。学生時代は人生で一番、職業の選択肢がある時期です。転職しやすい時代になったとはいえ、一度就職をしてしまうと職業の選択肢は一気に狭まります。前の経験や実績次第で、次が決まってきてしまうからです。

一番自由度の高い就職活動だと考え、自分のことや価値観はしっかり掘り下げてみてください。広く浅く情報を集めていき、方向性が決まったら、志望業界や興味を持った企業を“調べつくす”ことをおすすめします。

また、入りたいと思った会社で必要な技術や知識は、早めに勉強しておくに越したことはありません。私も文系からエンジニアになったので、システム部門に配属されて数年間は相当苦労しました。先に勉強をしている人たちに後から追いつくことは可能ですが、スタート地点が違うので、追いつく努力は必要になります。スキル向上のための勉強や情報のキャッチアップをする努力が、自分のキャリアを開いていってくれるはずです。

また、大企業かベンチャーかという軸で言えば、それぞれに良いところがあると思います。大企業は教育や制度がしっかりしていますし、スケールの大きな仕事を間近で見ることができ、勉強ができる優秀な人も多いです。

一方、ベンチャー企業は、いきなり実践の場に立たせてもらえる機会がたくさんあります。経験できる仕事の幅も広いので「裁量を任せてもらって成長したい」という人は、こちらがマッチすると思います。私もどちらかといえばベンチャー企業の環境が好きです。

面接の際には作り込みすぎず、でも過去の決断の背景はしっかり考えたうえで臨むのがおすすめですね。会社側は学生がどんな人なのかということを一番知りたがっているはずなので、履歴書を見て「なぜこの分野を勉強したの? 」「なぜこの場所に留学をしようと思ったの? 」など、いろいろな質問をしてくると思います。

そのときに「なんとなく決めた」「周りがそうしていたから」「なぜそうしたか忘れた」などと答えてしまえば、自分のことを伝えるチャンスを逃してしまいます。背伸びをする必要はないですが、これまでの人生の節目節目の選択や決断の背景についてはしっかり話せるようにしておくと役立つと思います。

原岡さんからのアドバイス

「もっとこうできるかも」で見方は変わる。発想の転換で困難も乗り切ろう

退社を決めたのは、1社目の同期だった森田(ビヨンド 現取締役)と「何か一緒にビジネスをやろう」という話になったのがきっかけです。半年前からどんなビジネスをやるかについて話し合いを重ね、入社4年目の半ば、28歳の折に退社を決意。ここがキャリアにおける1番のターニングポイントです。

もともと読書好きだったこともあり、すぐに稼げる事業として着手したのが、古本屋のビジネスです。仕入れてネットで売るという簡単なビジネスで、目論見どおり、それなりに利益を上げられる状況は作れたのですが、1年ほどしてモバイルコンテンツ提供会社で働いている後輩の知人から「グループ内でインフラ系の事業を立ち上げるので一緒にやらないか」と誘いを受けたのです。

当時はまだガラケーが主流でしたが、その会社は月間80億以上のPV数(サイトへのアクセス数)を誇るような大ヒットコンテンツを手がけている会社で、おもしろそうだなと興味を持ちました。1社目の経験から、インフラエンジニアの仕事の大変さは知っていましたが、だからこそのやりがいも感じていたので、やはりインフラの道でやっていこうと決意。その会社の子会社として、当社ビヨンドの立ち上げに参画することにしました。

当時、森田とは「どちらが社長をやるか」という話をしたことも覚えています。森田は短期的な勝負に強いタイプで、私はどちらかと言えば長距離ランナーのタイプ。粘り強いというと聞こえがいいですが、諦めの悪い性格だったので(笑)、長期的なスパンを持ってコツコツとやれる私のほうが向いていると薦めてもらい、代表を務めることになりました。

今の経営陣は私を除く全員が長男で、しっかり者の集団です。唯一の末っ子の私は皆に頼りまくっているのですが(笑)、独断で決めることは絶対になく、仲間と相談しながらやっていくスタンスです。「チームでやっていこう」という当社の社風は、こういったところからも生まれている気がします。強いリーダーシップを発揮するタイプではなくてもトップを担えるということは、学生にも伝えられる部分かと思います。

原岡さんのキャリアにおけるターニングポイント

私のキャリアの意思決定における基準は「おもしろそうか、ワクワクするか」。ただし、おもしろそうだなと思うのは大抵、大変なほうの選択肢であることが多いです(笑)。

カナダ拠点を出したことも、そのような意思決定でした。サーバの運用・保守の仕事は24時間365日の仕事で、どうシフトを組んでも週末や夜間の業務が発生します。泥くさい部分もあるITの裏側の仕事ですが、当社はそこにプライドを持ってやっているので、「夜間の仕事は大変だな〜」とぶつくさ言いながらやるよりも、前向きにやれる良い方法はないかと考えてみたのです

そして「時差をうまく利用すれば良いんじゃないか? 」と閃き、調べてみたところ、カナダ・トロントの時差がちょうど良さそうだなとわかりました。そこで何のツテもないところから、現地拠点を立ち上げてみることに。日本からは2名の出向をおこない、残りは現地採用でメンバーを集めて、時差による遠隔分業体制をスタートさせました。

軌道に乗せるまでは思ったより大変でしたが、3年経ち、今は非常にうまく回っている状況です。何より発想の転換で課題を解決できたことが、大きな手応えになりました。

この例のように、仕事は「もっとこうできるかも? 」と考えたり、工夫したりするほどおもしろくなっていきます。仕事とプライベートの境目はあまりなく、常に「もっと何かできないかな」ということを考えていますね。オフの時間に、アッとひらめいてメモを取っておくことも多いです。

はたから見てどうであれ、仕事の大変さは自分がどう捉えるか次第。就職活動も「大変そうだな、嫌だな」というムードにならず、「大変だけど、おもしろくならないか工夫してみよう! 」という姿勢で臨んでみると、結果も変わってくるように思います

仕事に対するこうした考え方は、これまで読んできた本にも影響を受けています。『USJのジェットコースターはなぜ後ろ向きに走ったのか?  』(森岡 毅著)や『7つの習慣』(スティーブン・R・コヴィー著)といった書籍は、学生が読んでも得られるものがあると思うので、良ければぜひ目を通してみてください。

原岡さんからのメッセージ

変化を恐れず適応していくこと。一段上のステージに行くには“+α”も大事

当社を立ち上げてからの最大のターニングポイントは、物理サーバのサービスからクラウドサービスへの完全移行を決めたことです。

創業後は試行錯誤がありつつ、少しずつメンバーを増やしながら20名くらいの規模までは順調に事業を伸ばすことができました。しかし創業7年目に一旦成長が止まり、踊り場に入ったような状態に。そしてそこから3年間、毎年少しずつ売上が下がっていき、4年目にガクンと落ちてしまったのです。

この背景には、ガラケーからスマートフォンへ、そして物理サーバからクラウドへ、世の中で主流とされる技術やデバイスが丸ごと切り替わっていく流れがあったことが挙げられます。

ガラケーも物理サーバもいずれなくなると言われていたものの、既存のクライアントもいるなかで、なかなか方向性を切り替えられずにいました。しかしようやく「このままではいけない」と感じ、このタイミングでクラウドサービスの会社にしようと決めました。ここで大きく方向転換をしたことで、今の当社があることは確かです。

会社が強みとしている技術を根本から切り替えるのは、そう簡単ではありません。それまで培ってきた知識や考え方は応用できますが、新しい技術を使いこなすにはまた一から勉強しなければならないからです。私も当時はまだ現場の仕事をやっていたので、一からクラウドを勉強し直しました。

エンジニア志望の人は最低限、技術力やそれを磨く意識が必要です。しかし、これからは今まで以上に「技術力+α」のスキルがもとめられる時代になると思います。AIもかなり進歩してきていますし、プログラミングを書ける“だけ”しか強みがない状態だと、需要が少なくなる可能性を感じます

実際に仕事をしていると、エンジニアには国語力やコミュニケーション力、そしてそれを使ってお客様のフロントに立つことができる能力も必要だと感じます。誰かのニーズを満たすものを提供することが仕事だと定義するならば、エンジニアに限らず、相手の意図するものを汲み取る力、人の話を聞く姿勢は学生のうちから身につけておいて損はないと思います。

仕事の評価や顧客満足を左右するものとは?

また当社では、社員たちに「挨拶をしよう」ということを口酸っぱく伝えています。用事を伝える言葉でもないのに、あらゆる言語に挨拶の言葉があるのはなぜなのかについて、自分なりに考えてみたこともあります。おそらく、コミュニケーションの最初の一歩として「あなたを人間として認めていますよ」ということを伝える言葉として重要だからではないか……という持論を見出しています。

何も言わずに素通りすれば、相手を無視している、コミュニケーションする気がないのかなと思わせてしまいますよね。挨拶は、相手に向き合う姿勢を伝えるきっかけの言葉です。今すぐ、しかも簡単にできることなので、ぜひ意識してみてください。

キャリアは「積み重ね」で広がっていく。仲間とともに世界で戦えるものを生み出したい

これからのキャリアにおける目標は、世界で通用するサービスを作ること。トロントにはAIを使える技術者たちも集まっていますし、NYにも近いエリアなので、せっかくなら北米でも自社サービスを売っていけないかと考えています。ニッチなサービスでも構わないので、何かしら世界で使えるものを作り出せないか、試行錯誤を重ねてパッケージ化し、商品にしていきたいです

仲間を作りたくて仕事をしているようなところもありますし、「ひとりでできないことを皆にやってもらっている」という気持ちが強いので、社員のために努力し、より働きやすい会社を作っていくことも今後のビジョンのひとつです。

私が思う良い会社とは、行動ができる会社。そして、社内で双方向のコミュニケーションが取れていて、働きがいがあり、きちんと給料が上がっていく会社です。そうした会社を作っていきたいです。

キャリアを振り返ってみると、今が一番楽しく働けている実感があります。やりたいことができて、仲間とともに成長を目指せている今の状態に充実感を覚えていますし、目標を持ちながら仕事をさせてもらえて、本当に幸せだなと思います。

自分の仕事のスキルも成長してきていますし、何かチャレンジしたいと思ったときに、それを可能にするだけの資本もある。社内のメンバーもパートナー企業も増えて、会社としてできることも飛躍的に増えました。そういった意味で、キャリアは積み重ねで広がっていくものなのだなと実感しています。

原岡さんが贈るキャリアの指針

取材・執筆:外山ゆひら

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