全部うまくいくはずがない。だから落ち込むことはない|バッターボックスに立たせてもらえる20代のうちに成長しよう!

大和財託 代表取締役CEO 藤原 正明さん

Masaaki Fujiwara・大学卒業後、2003年に流体制御弁のメーカーに入社。不動産業界に興味を持つようになり、2009年に三井不動産レジデンシャルに入社。新築分譲マンション開発・販売業務に従事したのち、起業準備の一環として収益不動産を扱う中小不動産会社へ。2年間の実務経験を積んだのち、2013年に大和財託を設立後、現職

この記事をシェアする

組織を率いてビジネスがしたい。まずは会社員としての出世を目指した

自分のキャリアについて本格的に考えたのは、大学生のとき。小規模の内装工事業の会社を経営する父の背中を見て育ったこともあり、自分で組織を率いてビジネスがしたいという思いが明確になりました。具体的な手段として考えたのが、「会社員として出世して経営層になる」「自分で起業する」という2つのルートです。

その時点では事業のプランが明確になっていなかったので、まずは会社員コースでいってみようと考えました。

機械が好きで工学部に進学していたので、メーカーに狙いを定め、創業70年超の歴史ある管材のメーカーを1社だけ受け、入社。地元に工場があって昔から知っている企業だったことも決め手の一つでしたが、300〜400人程度の規模の会社だったので、若いうちに出世できそうだと考えたのが一番の理由です。そのほか、就職活動中に「大企業で出世するには実力以上に、運の要素も大きい。中小企業のほうが実力があり成果を出せば出世しやすい」という情報を聞いたことも背景にありましたね。

設計職を担うつもりで入社しましたが、同社では入社後の数年間は全員営業を経験するという育成制度を敷いていました。今でこそ人前で話すことに緊張しなくなりましたが、もともと対人力が高いほうではなかったので、営業としての1年目はかなり苦労しました。キャリアのなかで一番壁に直面していた時期かもしれません。

そのときに身に付けたのが、ベストを尽くしたうえで「なるようになる」と開き直る姿勢です。表現が適切かはわかりませんが、会社員の場合、失敗してミスをしても命を取られることはありません。最終責任を取るのは会社や経営者だからです。

それなのになぜ思い詰める必要があるのか。なるようになるなら、行動あるのみではないか。そんな意識に変わっていき、誠実に仕事に向き合っていった結果、取引先からも可愛がってもらえるようになりました。厳しく指導してくださる上司に恵まれたことも大きかったですね。

1社目の6年間で、仕事量やハードワークをこなす力を身に付けられたことが、その後のキャリアのベースになった実感があります。

併せて、ビジネスにおいては「人間関係」と「信用」がきわめて重要であること、ビジネスは人の営みの結果であり、感情で決まる部分が多くあることも、身をもって学ぶことができました

上っ面の自分は面接官に剥がされる。「自然体で臨む」のが一番の面接対策

次の会社に移ることを決めたのは、28歳の時です。1社目では管材メーカーとして卸営業をしていたので、建設現場の事務所に足を運ぶことがしばしばあり、「自分もマンション全体の仕事がしてみたい、街づくりや都市開発にかかわってみたい」という思いがうっすらと芽生えていました。

そんな折、父がプライベートで不動産投資をしているという話を聞いたことで、自分もやりたいと思うように。すぐに不動産業界への転職を決意しましたが、ゼネコンに入るには建築知識が必要で、施工管理などの資格がなければ転職は難しいことから、発注側のディベロッパーに行くのが最善だろうと考えました。この方向性を見出したことが、2つ目のターニングポイントと言えるかと思います。

転職先として志望したのが、当時創業数年だった三井不動産レジデンシャルです。新しい会社とはいえ超大手の系列会社だったので、応募者1,000名以上に対して4名しか受からないような狭き門でした。

有名大学や大手企業の出身者ばかりのなかで、なぜ私が奇跡的に受かったのかといえば、自然体でひょうひょうとしていた様子が印象に残ったそうです。後日談ですが、人事担当者や役員から見て“只者じゃない感じ”を漂わせていたとのことでした(笑)。

面接をする側になってみると、自然体の応募者に目がいくのは合点がいきます。暗記してきたことや思ってもいないことを話したところで、見透かされている可能性は高いと思いますね。上っ面の面接対策では百戦錬磨の面接担当者に簡単に見透かされてしまいます。企業側はその人の中身を知りたいからです。そういった意味でも、素のままで臨むのが一番ですよ。

ちなみに、私は「当社のことをなぜ志望したのですか」と聞くことがあまり好きではありません。「なぜ俺のこと好きなの? 」と聞いているようでダサいなと思うからです(笑)。この人は良いなと思ったら、自分からラブコールを送りたいです。

「この人を採用したい」と思えば、企業側からアプローチしてくるケースは実際少なくない気がするので、そういった意味でも、必要以上に恐縮する必要はないということは知っておいてください。

藤原さんからのアドバイス

話は戻りますが、そうして私は念願だった大手ディベロッパーに入社することができ、出世して経営層を目指そうと思いました。しかし入社して早々、実現不可能な野望であることが判明しました。“大企業あるある”だと思いますが、経営層までいけるのは基本的に新卒入社のプロパー社員のみ。どんなに成果を上げても「30歳前後で転職してきた自分は営業課長止まりだろう」と将来が見えてしまったのです。

入社3カ月で「ここは長くいる場所ではない」と決めたのですが、1社目では見られなかった大企業の組織運営のしかたを学べたことは、後になって非常に役に立ちました。内部統制や規律が効いている組織の良さを実感しましたし、全体的に意欲的で優秀な人が多いことも大企業の良さだと感じましたね。

文章を書く機会も飛躍的に多かったので、2年半で、それまでとは違うビジネススキルを叩き込んでもらいました。

全部うまくいくわけはない。失敗しても引きずらずに挑戦を続けることが大切

仕事と並行してプライベートでは不動産投資に挑戦。自分がお客様側になってみることで、ますますこの業界に魅力を感じましたし、一方で業界の課題や現状も見えてきましたね。そして「購入だけでなく、管理・運営まで安心して任せられる業者がいたらいいな」と感じた自分の経験を基に、収益不動産を活用した資産運用コンサルティング事業を手掛けたいというビジョンが定まりました。

中小企業、大企業と経験してきて、次はもう独立して自分がやるしかない。そう決めていたので、独立を前提に最低限の起業準備をさせてもらえる企業を探し、見つけたのが関東圏にある収益不動産をあつかう中小不動産会社です。

「御社に多額の利益貢献をするので、修行させてほしい」と社長に直接メールをしてOKをもらい、ここで2年間、不動産の賃貸管理・売買を学ばせてもらいました。そして退社の翌月に立ち上げたのが当社・大和財託です。ここがキャリアにおける一番のターニングポイントと言えるかと思います。

起業後のターニングポイントとしては、まず創業4年目に東証マザーズ市場(現:東証グロース市場)への上場に向けて、組織整備に動き出したことです。

それまでは、いうなれば“藤原商店”という感じの会社だったのですが、証券会社と監査法人と契約し管理部門を作ることで、しっかりとした組織体制を作り上げることができました。最終的には上場しない決断をするのですが、内部統制が効いている状態は維持できています。

大企業、中小企業、ベンチャー企業といろいろな組織形態を見てきた経験も活きており、自分で裁量を持って動けるベンチャーらしい風土と、上場企業並みの組織や制度の両方の良さを併せ持った会社が作れていると自負しています。

藤原さんのキャリアにおけるターニングポイント

次なるターニングポイントは、社内に建築部門を作ったことです。創業してからは1棟アパート・マンションの売買仲介や賃貸管理をサポートする事業を手掛けていましたが、1棟中古物件を買い取り再生して販売する事業にもフィールドを広げ、さらに新築もやりたいと考えて建築部門を立ち上げました。私自身に建築の専門知識や経験がなくとも、自社でも工務店をやろうと決めたのです。

これはかなり大きな決断でした。不動産会社の多くが建築部門を他社に委託しているのは、参入障壁が高いから。しかし、自社にて土地を仕入れ、1棟アパート・マンションを建て、販売、管理請負までおこなうことによって、お客様に高品質で安い収益物件を提供しつつ当社も利益を得られる収益構造を作れると考えてたのです。

そこから設計や施工管理のエキスパート社員を採用し、一から職人や問屋開拓をしました。建築実績ゼロの状態からオペレーションを組み立てていくのは、かなり大変でしたが、この決定によって、高品質・ローコストで利回りの高い1棟アパート・マンション商品を提供できるようになり、建築機能を活かして地主の方への1棟アパート・マンションの建築請負事業にまで発展。当社は不動産業×建設業という独自のビジネスモデルを展開できるようになりました。

今後のビジョンは、当社を“日本を代表する企業”に成長させていくこと。9年後には売上1,000億を達成し、自分が70歳になるまでに売上1兆円を超えることを目指しており、数字の目標は常に意識しています。

目標をクリアできると達成感を覚えますが、それはたった一瞬のことです。5分後にはすぐに切り替えて「次どうしよう? 」と考え始めます。高い目標を追いかけている限り、キャリアの充実感を覚えることはないのかなとも思っていますね。

粘り強くやって、ベストを尽くすのみ。今の自分で超えられない山があったとしても、また別の山に挑戦すればいい。私はそんなふうに考えています。

新規事業に着手するときは撤退ラインを決めておき、失敗したときは深追いせずに潔く諦める。改善点や反省点は抽出しますが、そもそも「全部うまくいくわけない、そんなものだ」と思っているので、あまり落ち込むことはないですね。10個やって2〜3個うまくいけばラッキーくらいの感覚です。

就職活動も同様、「全部の会社に受かるわけはない、ダメなら次」くらいの意識で臨んでみると良いかもしれません

藤原さんからのアドバイス

社会から期待をしてもらえる20代のうちに、プロの仕事ができる人間に成長しよう

これからの時代は、現状把握力課題形成力、そして実行力を持っている人が活躍すると思います。ポジションによって具体的な課題は異なると思いますが、今ある業務の問題を抽出して、ゼロベースで壊して再構築できる人、ルールを自ら作っていける人は、どこの業界でも重宝されると思いますね。仮説を立てたうえで、やり抜く力も重要です。

これまでは記憶力ベースの知識や、事務処理能力なども強みにできていましたが、今後はそうした部分は機械やAIが担ってくれるので、それ以外の能力を伸ばす意識が必要かと思います。

一方で、時代に関係なく今後も必要だろうと思うのが「人間力」です。わかりやすく言えば、人に好かれるかどうか。今の時代に合わないと感じる人もいるかもしれませんが、仕事にかかわる人たちに好かれるかどうかで、キャリアや活躍の幅は大きく変わります。

私は社内の評価制度に関して「好き嫌いで人材登用はしない」と決めていますが、お客様にその論理は通じません。不動産などの高額な商品は特にそうだと思いますが、人は嫌いな相手と取引をしたいとは思わないからです。

当社はプッシュ型の営業ではなく完全反響営業で集客しているため、マーケティングの一環として、創業前から長年、Youtubeやブログで情報発信を続けています。そこで当社や私に対する「信用」の土台ができて、お客様は当社と接点を持ってくださり、さらに営業マンとかかわってみてその信用がしっかりと固まって初めて、お客様は当社のファンになってくださいます。

社内のメンバーには「モチベーションで仕事をしてはいけない」ということも常々伝えています。

プライベートで落ち込むことがあっても、イライラして不機嫌な日でも、それを理由に仕事のパフォーマンスが上がらないのはアマチュアです。厳しいようですが、給料をもらう資格はないと考えたほうが良い。プロとして仕事をする以上、どんな状況でも、成果が左右されることはあってはならないと思います。

人に好かれるための裏技はないので、まずは親や幼稚園で教わった人としての基本的なこと、たとえば遅刻しない挨拶をする嘘をつかないといったことを徹底することをおすすめします。

これからの社会で活躍するために必要な力とは?

最後に、学生の人たちには「20代の時期を無駄遣いせず、有効活用してね」というメッセージを贈りたいです

社会は常に“若手”に期待をかけます。「バッターボックスに立たせてもらえる間に実力をつけておかないと、そのうちバッターボックスに呼ばれなくなる日が来る」という危機感は持っておくべきです。

いち早く一人前に成長するには、自ら成長できる環境に身を置く意識を持っておくことが必要です。そして「どんな環境であれば、人は素早く成長できるのか」を考えると、自分で決断させてくれる環境ということになるかと思います。私がこういう考えなので、当社ではまさにそうした環境を作っています。

ビジネスパーソンとしての道は、30歳くらいまでに決まる。その意識を持っていれば、「若いうちから自分で決断をさせてくれる会社を探そう」という目線になるのではないかなと思います。

藤原さんが贈るキャリアの指針

取材・執筆:外山ゆひら

この記事をシェアする