自分がバリューを出せる土俵は「根源的な欲求」で見つける。好奇心とチャレンジする姿勢で自分の解像度を高めよう

MOSH(モッシュ)代表取締役社長 籔和弥さん

MOSH(モッシュ)代表取締役社長 籔 和弥さん

KazuyaYabu・福井県出身。学生時代に自分でサービスを始める。2014年に新卒でRetty(レッティ)に入社し、Rettyアプリのリーダーや組織づくりなどを担当。2017年に退職し起業準備も兼ねてアジア・インド・アフリカなど世界一周。同年MOSHを設立し以降、現職

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ビジネスを立ち上げる面白さを実感。学生起業の経験がその後のキャリアをつくった

キャリアにおける最初のターニングポイントは学生起業をしたことです。

最初から起業を意識していたわけではないのですが、塾のアルバイトをしているなかで、もっと効率化できるのではないか? と思い、在学中に英語の家庭教師をマッチングするWebサービスを立ち上げました。マッチングサービスは好調で、なんと約150人の塾講師が登録。この経験を通じて自分でビジネスを動かす面白さを感じることができましたね

ただ、お客様から問い合わせや申し込みの電話がくるたびにドキドキしている自分もいました。なぜなら、社会人としての経験がなく、電話対応の仕方などの経験やマナーがわからなかったからです。自分で事業をおこなうことにやりがいは感じていましたが、まずは社会人としての経験を積もうと決めました。

リスクに“鈍感”だからこそ戦えた。自分の価値を見出せる土俵を探そう

その後海外留学の経験からグローバルなビジネスができるベンチャーに就職しようと考え、規模の大きなベンチャー企業から内定をいただきました。内定式には100人ほどの内定者が参加し皆優秀そうに見えましたね。その瞬間、「自分がここにいなくて良いのでは」と思ったのです。経歴や立居振る舞いで彼らが優秀な人材だとわかり、大きな企業で競い合っていくのを考えた時、自分がそこで勝てるとは到底思えなかったんです。

一方で、彼らが絶対に取らないリスクを取ることはできる、とも思いました。「リスクに鈍感」という自分の特性が活きてくるのは、この企業ではないと直観したのです。決まったレールを人より速く走るのは無理でも、レールのないところを走るのは得意。自分はそちらの道の方が、会社や社会に対してバリューを出せると思いました。

ここでは勝てない、うまくやっていけない、価値を見出せないと思ったら、同じ土俵で戦う必要はないんです。自分が勝てそうな土俵は、視点をずらすと案外近くにあると思いますよ。

バリューを出せる土俵を選ぶ

感情が動くのは本質を突かれているから。“イラッ”とした言葉にこそ本音が含まれている

結局内定をもらっていたベンチャー企業には入社せず、食に関するアプリを展開するRettyに参画。当時社員数がまだ一桁のタイミングで、ここでなら自分の価値を発揮できると思ったのです

マンションの一室で立ち上げられたばかりの会社は、まさに自分がイメージするスタートアップ企業という感じでワクワクしましたね。ものすごい速さで成長する会社で、アプリ制作のリーダーから組織作りまでたくさんの挑戦をし、貢献もできたと思います。事業規模が大きくなり、人も増えていく中で、ビジネスの面白みも感じることができました。

起業したいという思いもあり、入社時に「3年半したら自分の事業を立ち上げたい」と宣言もしていたのですが事業を拡大させていくことが面白く、気が付くと宣言した3年半が経っていました。これからどうするか迷っている時、今のキャリアにつながる出来事が起こりました。

ある日社長から「籔くん、まだ本気出してないよね」と言われたのです。自分では一生懸命やっていたつもりでしたし、成果も出していたので、聞いた瞬間はイラッとしましたね(笑)。でも、今思うと本質を突かれていたので、それを指摘され感情が動いたのだと思います

たしかに、全力以上の力をぶつけて事業に向き合っている経営陣と比べると、自分は事業にそこまで“体重を乗せて”いませんでした。社長の言葉を聞いて、事業に全てを賭けている彼らがうらやましいとも思ったのです。では、自分も“全体重を乗せられる”ようにするにはどうしたら良いか考えてみたら、やっぱり自分の事業をやるしかないと思い、起業の道を選びました。

イラッとした時って、実は本質を見極めるチャンスかもしれません。なぜ怒りが湧いてきたのか、自分もそう思っていたからではないか、思いもしなかった本質を指摘されたからか、コンプレックスを刺激されたからかーー。少し冷静に分析してみると、自分の本当の気持ちや、事態の本質をつかめると思いますよ。

籔さんが思う本質に気づくチャンスとは

個人化する時代には好奇心が必須。人に依存しない自分軸の確立を目指そう

事業をやるにあたって考えたのは、3つ。時代にもとめられているか、経済性はあるか、そして自分の好奇心を満たしてくれるかです。これらがすべて完璧に揃えば、素晴らしい事業になることは間違いないですが、なかなか難しいですよね。

私はずっと食事=栄養摂取ぐらいに思っていたのですが、Rettyで仕事をしたことで食に関心を持つようになりました。事業を通して人生が豊かになったんですよね。こんなふうに、まずは自分が楽しいと思える、自分の人生が豊かになる事業を考えたいと思いました

そして創業したのがMOSH。さまざまなクリエイターと繋がる機会があり、本当に楽しいです。もちろん事業をより良く、より大きくしていきたい思いは強いですが、自分の心の根っこのところでは「この楽しい感じを続けられればいいな」というくらいのスタンスです。

時代性と経済性を過度に重視していないので、コロナ禍での事業の停滞や資金のショートといった危機にも、比較的冷静に対応できました。追い詰められることはなかったですね。もし会社がダメになっても、バイトすればいいやと(笑)。結果、会社がダメになることはなく、コロナ禍で偶発的に生まれたオンラインの需要に活路を見出し、今も事業を続けられています。

皆さんも自分で起業することはないとしても、時代性、経済性、好奇心の3点からビジネスを眺めてみると、魅力的な業界・業種・企業も見えてくるかもしれません

籔さんからのメッセージ

コロナ禍を経て、さまざまなことが「個人化」したと思います。リモート出勤が一般化している会社であれば、新入社員も手取り足取り教えてもらえない環境かもしれません。

またコミュニケーションの形も変わってきています。パワハラやセクハラが問われる時代には、上司と新人の間に必要以上の密接なコミットは無くなっているかもしれません。そういった人間関係の中では、若手社員も「上司に怒られるから」「先輩を慕っているから」という理由で頑張ることはないのではないでしょうか。人を理由にモチベーションを高めることは難しそうです。

良くも悪くも個人化した現代では、個人が自律して行動することがより強くもとめられます。自分で考え、自分で物事を動かしていける人しか、活躍のチャンスがないと言えるでしょう。では、どうすれば自分から動けるのか。そこには好奇心が必要不可欠だと思います。

自分を突き動かすものはなにか? 根源的な欲求を分析しよう

MOSH(モッシュ)代表取締役社長 籔和弥さん

好奇心というと表面的な興味関心のことを思い浮かべるかもしれませんが、私が想定しているのは、「根源的な欲求」のこと。自分が本当は何をもとめているのかをしっかりとつかめていれば、どこでも自律的に行動できると思います

就職活動では自己分析をおこなうことが多いですが、職種に紐づいた形式のものが多いように感じます。そうした何かに比較対照するような形ではなく、自分はどんな特徴を持ち、どんなことに居心地の良さを感じ、どんなものがモチベーションの根源になるのかを見極めるやり方のほうがミスマッチも少なく、やりがいをもって働けると思うんです。

私を例にとれば、リスクに鈍感で、むしろリスクの手触りにやりがいや満足感を見出すタイプであることに気づいたことで、まだ立ち上がったばかりのベンチャーに狙いを定めることができました。

自分とはどんな人間なのか。これは本当に難しい問いで、一朝一夕にはつかめないものです。しかし、周りと対話を重ねたり、人間に対する解像度の高い人と話し合ったりすることで、少し見えてくるかもしれません。また、私が「本気出してない」という言葉に感情が動いたように、コンプレックスの裏側に願望や理想像が潜んでいるかもしれません。自分の行動を支えているものはなんなのか、少し考えてみませんか。

籔さん流 自分の内側を見つめる自己分析とは

「アンコンフォータブル」な環境は若い人の特権。自分の解像度を上げるために“あえて”チャレンジする道もある

自分の根源を見つめて、居心地よくいられる場所に身を置けたら、幸せなキャリアのスタートになるでしょう。一方で覚えておいてほしいのは、自分の特性や、快適な場所や、心地よく動ける条件を知ったうえで、あえてそうでない場所に身を置くという選択があるということです

たとえば、金銭的には非常に厳しいけど、魅力的な職場とか。生活環境が激変する海外とか。アンコンフォータブル(楽ではない)な環境や条件で挑戦できるのは、若いうちの特権だと思います。その中で許せること/許せないこと、我慢できること/できないことを体感したり、意外とアンコンフォータブルでないことを見出したり、自分に対する解像度が上がっていくのではないでしょうか。

私が内定式で感じた違和感をもとに自分の欲求にマッチした場所へと動き出したように、皆さんにも自己理解をベースに自律したキャリアが築かれるよう願っています。そしてちょっとだけ無理を経験してみることも、アリだと思います。

籔さんが贈るキャリアの指針

取材・執筆:鈴木満優子

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